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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2020年06月29日
  • リハビリ病院の悩み

自立?それとも見守り?下肢骨折後の歩行を見極めるポイント

下肢の骨折後は疼痛や筋力低下などの影響で、受傷前とくらべて大きく歩行能力が低下します。
術後の早期離床が求められるなか、病棟から「1人で歩行しても大丈夫ですか」と聞かれて困ったセラピストも多いでしょう。
術後に安全な歩行を獲得するためにはどうすればいいか、なにが転倒リスクにつながるかについて、臨床的な視点から解説します。

自立?見守り?

骨折後の歩行練習、まずは疼痛のコントロールと不安の改善

骨折後の歩行練習に必要なプログラムといえば、可動域訓練や筋力強化を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、実際には機能改善だけでなく疼痛のコントロールと精神面でのケアが重要になります。

●疼痛のコントロールに失敗するとリハビリの進行が遅れる

疼痛のコントロールに失敗するとリハビリの進行が遅れる

手術後は組織の損傷による急性炎症が起こるため、リハビリを進めるに当たって疼痛のコントロールが課題になります。
腫脹や熱感などの炎症兆候があるなかで、過度な運動は疼痛増強につながるため注意が必要です。
術後早期の疼痛に対して、配慮すべきポイントを以下に挙げてみます。

  • ◯鎮痛剤の服用後にリハビリを行う
  • ◯可動域訓練は、他動運動ではなく自動運動から始める
  • ◯弱い強度の運動を反復して行う
  • ◯疼痛訴えが強い場合、無理にリハビリを進めない

間違っても手術後の患者さんに対して「術後は痛くて当たり前」、「ある程度我慢してください」と言ってはいけません。
後述しますが、一度疼痛によるマイナス感情を持ってしまうと、リハビリのたびに疼痛が増強したり、その後の慢性炎症へとつながったりする可能性があります。
学生時代に学んできた筋力増強や可動域拡大を盲信するのではなく、どうすれば痛みがなくリハビリができるかを考えることが大切です。

●患者さんの性格に応じてプログラムを変更しよう

前述したように、骨折後スムーズに歩行練習に移行するには、いかに疼痛をコントロールするかが重要になります。
ただ、1つ注意しておきたい点として、疼痛は必ずしも組織の損傷だけで感じるものではないということです。
同じ手術後であっても、患者さんごとに疼痛の程度や発生する状況が異なるという経験をしたセラピストも多いでしょう。
一概には言えませんが、怖がりや神経質な場合は疼痛の訴えが強い、楽観的な場合は疼痛の訴えが少ないなど、性格によって疼痛がリハビリ進行に及ぼす影響が異なります。
筆者の場合、「この患者さん、痛みに敏感だな」と思ったときは以下のような対応を取るようにしています。

  • ◯可動域訓練は自動介助運動から始めて、徐々に範囲を拡大する
  • ◯少しでも変化した点があれば褒める
  • ◯疼痛が強い場合、無理をしなくてもいいと笑顔で伝える

上記以外でも、患者さんを安心させるための方法ならなんでもいいでしょう。
要は、患者さんには達成感を感じてもらうこと、痛みに対する意識をほかにそらすことが大切です。
逆に、「この人は痛くするから嫌だな」と思われてしまうと、そのマイナスイメージを払拭するのが難しくなります。

歩行自立の許可を出す際に注意しておくべきポイント

歩行自立の許可を出す際に注意しておくべきポイント

セラピストの判断ミスで患者さんが転倒した場合、患者さんに不利益があるだけでなく、他職種からの信用にもかかわります。
歩行の距離や速度などが改善し、「そろそろ自立かな?」と考えたとき、転倒予防の観点からほかにも注意しておきたい点があります。

●歩行補助具にかかる力を見逃すな!

歩行の安定性を評価する際、フットクリアランスは良好か、1歩ごとの歩幅や歩隔に大きな差がないかなど、足下の評価は重要です。
しかし、転倒リスクを考えた場合、患者さんの足下を評価するだけでは不十分であり、もっと視野を広げる必要があります。
下肢以外の観察ポイントとして、杖や歩行器などの歩行補助具に過剰な力がかかっていないかを見極めることは重要です。
骨折した側の下肢に十分な荷重ができない場合、補助具を把持する手や肩に大きな力が入ることになります。
爪が真っ白になるくらいグリップを握っている、杖にかかる力が大きすぎて荷重時に杖が左右にブレているなど、上肢にも過剰努力のサインがいくつかあります。
上肢に過度な努力を必要とする(=下肢への荷重が不十分)場合、補助具を取るために1〜2歩歩いた際に転倒するなどの事故が起こるかもしれません。
下肢への荷重量が不十分だと感じた場合、歩行自立の許可は延期して、荷重練習やステップ練習などのメニューを行うことをおすすめします。

●リハビリのときはOK、でも早朝や夜間は大丈夫?

「リハビリの時間はできるのに、なんでほかの時間はできないんだろう」と疑問に感じたセラピストは多いのではないでしょうか。
立ち上がりから着座まで全ての行程がうまくできるのに、看護師さんの記録に「歩行時にふらつきあり」と記載されることがあります。
これは、リハビリ専門職や看護師など介助する職業の差ではなく、動作の準備段階が異なっていることが理由です。
たとえば、リハビリ時は下肢の運動や荷重練習を行ってから歩行練習を開始するため、疼痛が軽減され、筋出力がアップした状態で歩くことができます
しかし、昼寝から覚めてトイレに行こうとしたときは、臥床して安静にしていた下肢へ急な負担をかけることになります。
こんな場面では、うまく膝が伸びない、荷重時に膝崩れを起こすなど転倒につながる可能性があり、誰かが見守ることが望ましいです。
そのため、術後に見守りでの歩行を許可した後は、早朝や夜間にも安定して動けているかをカルテから情報収集しておきましょう。
時間帯によって安定性が異なる場合は、「昼間は自立、夜間はナースコールで対応」など、依頼内容を工夫するとよいでしょう。

歩行自立後も油断は禁物、病棟での生活状況を把握しよう

歩行自立後も油断は禁物、病棟での生活状況を把握しよう

歩行自立の許可を出した後も、患者さんの病棟生活上で注意するべき点があります。

●本当に歩いている?患者さんの活動量を把握しよう

「歩行は自立レベルだけど、あまり歩いていない」という患者さんを経験したことはないでしょうか。
「日中は車椅子座位で過ごすことが多い」「よく車椅子を自走されている」とカルテに記載されている場合は要チェックです。
これらのケースは、移動手段が車椅子から歩行へ変わった際に見られることが多いです。
能力的には1人で歩けるのですが、「脚が痛くなる」「車椅子のほうが楽」という理由で、自立許可後も活動量が上がらない方がいます。
自立許可後は、患者さんが実際に歩いているかどうかを把握し、歩いていない場合はその理由を考えましょう。
歩行時の疼痛が理由ならば、歩行前の準備運動を指導したり、歩行時の姿勢(患側の荷重量など)を再評価したりするとよいでしょう。
「車椅子のほうが楽」と考えている患者さんの場合は、自主練習の必要性を説明し、時には心を鬼にして車椅子を撤去するという対応もありです。
患者さんの日々の生活をチェックし、「できる能力」と「している能力」に乖離が生じないように注意しましょう。

●転倒予防のためにベッド周辺の危険を把握しよう

転倒予防のためにベッド周辺の危険を把握しよう

歩行練習をする際は、リハビリ室や病室、病棟の廊下などいろいろな環境がありますが、転倒しやすい場所がいくつかあります。
この中でも、特にベッド周辺の環境はしっかりチェックしておくことをおすすめします。
足下にもの(履き物、ゴミ箱など)が散乱していないか、歩行器は手の届く場所に置かれているかなどを確認することは大切です。
また、片手で歩行器を把持してリーチ動作をする場合、歩行器のバランスが崩れて転倒につながることもあります。
以前、筆者の職場では、転倒転落リスクを見つけるため、危険予知トレーニングというものを実施していました。
たとえば、患者さんの部屋の写真を撮って、どこに危険が潜んでいるかをスタッフ間で話し合えば、今後の転倒リスクを減らすことができます。
担当セラピストとして、歩行が自立すれば一安心ではなく、次は転倒予防というミッションがあることを忘れないようにしましょう。

歩行の自立には、機能面と環境面の評価が重要

筋力や可動域など機能面の改善に加えて、疼痛の有無や患者さんの性格など、歩行自立に必要な評価はさまざまです。
自立の可否を考える際、また自立後の転倒予防を考える際には、生活環境の評価が必須になります。
移動手段の確保は骨折後のリハビリにおいて重要なポイントであり、患者さんだけでなくほかの職種もリハビリ職に期待をしています。
身体機能とADL改善のプロとして、より安全性の高い判断が行えるよう、常に広い視野を持って歩行能力を評価することが大切です。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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