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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2020年10月27日
  • リハビリ病院の悩み

聞いてみたかったICUリハビリの疑問、「起こす」「起こさない」の基準は何?

多くのセラピストがICUでのリハビリを経験した際、「何をしていいかわからない」と悩んだ経験があるのではないでしょうか。
ICUは一般病棟とは違って特殊な空間であることは間違いありませんが、しっかりと評価をすればリハビリのプログラムが見えてくるものです。
ICUでのリハビリにおいて、離床の可否を判断するポイントについて解説したいと思います。

今始める?様子みる?ICUでのリハビリのポイントを解説します

セラピストがICUでのリハビリに苦手意識を持つ理由

セラピストがICUでのリハビリに苦手意識を持つ理由

なぜICUでのリハビリに苦手意識を持ってしまうのか、その理由について考えていきたいと思います。

●評価や治療手技など、今まで学んだことが通用しない

ICUに入室する理由としては、全身状態が不安定で生命維持のために集中的な治療が必要、または状態が悪化する可能性があるなどの理由が挙げられます。
そのため、意識状態が悪い場合や、循環動態が不安定な場合に筋力トレーニングや歩行練習は実施できません。
しかし、われわれリハビリ専門職は、「運動」という点に特化した職種であるともいえるため、その得意分野が制限されることになります。
また、養成校で学ぶ解剖学や生理学に関しても、筋肉や関節などの運動器に焦点が当てられることが多く、呼吸や循環生理学が得意という方は少ないでしょう。
状態が悪くて筋力強化や動作練習もできないとなると、「患者さんに触って急変したらどうしよう」と不安にかられることになります。
その結果、「とりあえず関節可動域訓練やポジショニングをしよう」という対応になってしまいます。
これはあくまで筆者の私見ですが、リハビリ専門職には基礎医学分野における知識が不足しており、それがICUでのリハビリに苦手意識を持つ一番の理由ではないでしょうか。

●患者さんの状態や治療方針を把握できていない

前述したように、基礎医学分野の知識が不足していることで、患者さんの病態がわからない、治療内容がわからないなどの問題につながります。
人工呼吸器が装着されている、多くの点滴がつながっていることは「動かしてはいけない」とイコールではありません。
機器の設定や薬剤の投与量などによって、なんとか維持しているのか、徐々に状態が良くなっているのかを把握することが大切です。
また、全身の状態が理解できていないと、今はなんの治療をしているのか、治療の短期目標は何かなど、治療方針の理解もできないでしょう。
これらの評価ができないと、そのときに必要なリハビリメニューの判断ができないだけでなく、治療と逆行したリハビリを実施してしまう危険性があります。
筆者も新人の頃、「なんで起こしたんですか?今の状態をわかっています?」と看護師さんからキツイ一言をもらい、ICUに行くのが恐怖になった時期もありました。
ICUでのリハビリを経験するなかで誰もが(?)通る道かもしれませんが、まずはリハビリ実施の前に、患者さんの状態をしっかり把握することが大切です。

患者さんを起こす?起こさない?治療方針を知ることが大切

患者さんを起こす?起こさない?治療方針を知ることが大切

ICU患者さんの離床を進める際は、バイタルやモニターの数値だけで判断するのではなく、治療方針に沿ってリハビリを進めることが大切です。

●本当に循環動態や呼吸状態が安定してる?

ICU患者さんのリハビリをする際、画面上に見える数値だけで状態が安定しているか判断することはできません。
たとえば、血圧が100/50mmHgと表示されていた場合、「収縮期血圧が100台だから大丈夫」という理由で離床を進めてはいけないのです。
多くのICU患者さんは血圧上昇作用のあるカテコラミン製剤を使用しており、いわば薬によって無理やり上げられている血圧かもしれません。
ナチュラルな状態での100台と、カテコラミン投与での100台では同じ数値でも大違いであり、安易に離床すると血圧低下をきたしてしまうかもしれません。
カテコラミンが投与されている場合、γ(ガンマ)計算などで投与速度をしっかりと評価し、前日とくらべて増量されていないかなどを評価しておくことが重要です。
循環動態と同様に、人工呼吸器が装着されている患者さんでは、SpO2(経皮的酸素飽和度)のみで判断することは危険です。
たとえば、画面上は95%であったとしても、投与酸素濃度が大気中濃度(21%)での95%と濃度60%での95%では大違いです。
後者の場合、濃い酸素でなんとか95%を維持しているわけですので、安易に離床を進めると一気に呼吸状態が悪くなってしまう可能性があります。
この場合、P/F比(血中酸素濃度と投与酸素濃度の比)を評価することで、前日より悪化していないか、重症(P/F比が200未満)かどうかを判断することが重要です。

●鎮静剤が入っているときは要注意!その理由を考えよう

ICUでは、訪室時に患者さんが寝ていることが多いと思いますが、それは単に眠たいから寝ているのではありません。
呼吸状態が悪い患者さんの場合、口から気管挿管をされて人工呼吸器管理となりますが、そのストレスで興奮状態になることもあります。
その結果、余計に呼吸状態や循環動態が悪化するおそれがあるため、軽度の鎮痛と鎮静をかけることで患者さんのストレスを軽減することも大切な治療になります。
その一方で、重症肺炎などでさらに呼吸状態が悪くなった場合、肺炎が改善するのを待つために深い鎮静をかけて体の代謝を少なくすることも必要です。
この時期に、「覚醒レベルが悪いから離床して起こそう」と勘違いするととんでもないことになります。
鎮静剤が入っている患者さんの場合、投与量の増減を確認する、今の病状が安定しているかどうかを評価する必要があります。
徐々に減量している場合、「そろそろ覚醒を上げたいのかな?そろそろ離床のタイミングかも」と判断することもできるので、主治医や担当看護師に確認すればOKです。

ケースで学ぶ、離床を進めるタイミングを判断しよう

ケースで学ぶ、離床を進めるタイミングを判断しよう

ここでは、ICU患者さんの離床について架空のケースを通して考えていきたいと思います。

●ケース紹介

患者さんは急性心不全でICUに入室した70代男性で、入室2日後からリハビリが始まりました。
初回はベッド上での可動域訓練やポジショニングを実施しましたが、翌日からは離床のタイミングを考えていく必要があります。
以下にICU入室からの経過を記載しておくので、現状の病態や今後の方針について考えてみましょう。

入室1日目 入室2日目 入室3日目
意識レベル GCS E2VTM4 GCS E3VTM5 GCS E1VTM1
循環 血圧 100/60mmHg 110/65mmHg 95/60mmHg
カテコラミン量 DOB 5γ 
NAD 0.04γ
DOB 5γ
NAD 0.04γ
DOB 5γ
NAD 0.02γ
血液ガス  PaO2 80mmHg 70mmHg 60mmHg
呼吸器設定 FiO2 0.35 0.5 0.4
鎮静状態 RASS -2 RASS -2 RASS -4

注)DOB:塩酸ドブタミン NAD:ノルアドレナリン RASS:Richmond Agitation Sedation Scale

血圧が下がっている、意識レベルが悪くなっている、血液ガスでPaO2が下がっているなど、いくつかの着眼点があります。
しかし、「この情報だけでは足りない」と考える方は、どのような情報が必要かも考えてみましょう。

●病態の把握とリハビリの離床基準を考える

このケースのリハビリを進める上で重要な着眼点はいくつかありますが、循環、呼吸、意識レベルについてそれぞれ考えてみましょう。

◯血圧とカテコラミン量の推移

カテコラミン量に着目すると、3日目のNADは2日目にくらべて少なくなっていますので、血圧の数値だけで良し悪しを判断することは難しいです。
昇圧剤が少なくなっても90台を維持できているという考え方もできますし、どちらにせよ平均血圧は60mmHg以上あるので、末梢循環は確保されていると判断できます。

◯呼吸はP/F比で考える

PaO2(動脈血中の酸素分圧)に着目すると、2日目から3日目にかけて下がっており、「呼吸状態は悪くなった」と思うかもしれません。
しかし、呼吸器の酸素投与濃度(FiO2)は0.5から0.4まで下がっている、つまり投与酸素濃度を低くできたということです。
ここで、P/F比(投与酸素濃度と血中酸素分圧の比)を計算してみると、2日目は140、3日目は150であり、少し改善傾向にあるといえます。

◯なぜ意識レベルが低く(鎮静が深く)なっているか

鎮静の深さを表すRASSを見てみると、2日目までは-2であったのに、3日目からは-4とかなり深い鎮静状態になっています。
前述した表には情報がありませんでしたが、もしかしたら覚醒レベルが上がるとともに患者さんが興奮状態となっていた可能性もあります。
その影響で呼吸器の酸素濃度を上げていた、鎮静が深くなったから血圧が下がった可能性もあるでしょう。

これらの状況から考えると、患者さんの覚醒が上がると心不全症状が悪化するため、深い鎮静状態にして体を休ませる治療方針かもしれません。
3日目のリハビリ時、「覚醒を上げるために離床」、「酸素分圧が下がったから呼吸状態が悪化」という判断は間違いとなります。

ICUでの離床は病態の把握、情報収集がカギ

前述したケースのように、ICUの患者さんは表面的な数値を見るだけでは判断できない状態にあるといえます。
ICUでの離床基準を考える際は、なぜこの治療がされているのか、どういう効果が期待されるのかを理解することが大切です。
もちろん、一人で考えてもわからないので、主治医や看護師に確認しながらリハビリを進めることが重要であり、そのためには生理学などの基礎医学知識が必要になります。
「ICUでのリハビリはわからない」と悩む方は、まずは病態を把握するために基礎医学を復習し、自分なりの考察ができることを目標にしてはいかがでしょうか。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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