質問力を鍛えて問診スキルをアップ!効果的な質問のポイントとは?
問診が苦手、どんな話し方をすればいいかわからないと悩む若手セラピストも多いでしょう。
また、話が好きでも、患者さんにとって言いにくいことに関して質問攻めをすると、「デリカシーがない」と信頼関係を崩してしまうかもしれません。
齋藤孝氏の「質問力」という書籍で紹介されている質問の座標軸をもとに、臨床場面で効果的な質問のしかたについて考えてみたいと思います。
質問下手だと損をする理由とは?
問診にかかわらず、日常的な内容でも聞き方によって得られる情報に差があります。
ここでは、質問下手のセラピストが損をする理由について考えてみます。
●質問が下手な人の特徴とは?
質問が下手といっても、人によっていろいろなタイプがありますが、おそらく以下のような例が挙げられるのではないでしょうか。
◯情報を得るまでに時間がかかる
臨床場面を想定した場合、現病歴や症状の有無を確認することが重要ですが、質問方法によっては情報収集に時間がかかる場合があります。
たとえば、「痛みはどうですか?」という質問をした場合、どんな状況で、どんな痛みで、痛みの程度は、など「どう?」と聞かれても回答範囲は幅広いです。
「立位での膝の痛みを確認してリハビリを進めよう」と思って聞いたとしても、「特に変わりません」という回答がくるかもしれません。
◯相手の気持ちを考えない
質問は一方的な話ではなく対話であるため、答える側の心境も意識することが大切です。
質問した内容から話がそれた場合など、「この話、長くなりそうだな」と思いながら、軌道修正のタイミングに悩むこともあります。
患者さんが一生懸命話しているのに、「で、◯◯はどうなんですか?」と強引に本題に戻した場合、患者さんもいい気分はしないでしょう。
自分の望む答えが欲しい場合、多くの情報を引き出したい場合は、ある程度相手のペースに合わせることも重要になります。
●質問力が低いと、患者さんとの信頼関係が築けない
質問のしかたによっては、「何が聞きたいのかはっきりしない」、「他人に話したくないことを聞いてくる」というように、相手を不快にさせることもあります。
逆に、その場面に応じた的確な質問や、雑談などを交えてメリハリのある展開にすることによって、「この人には話しやすい」と好印象を得ることもできます。
その場の雰囲気をコントロールすること、話をうまく展開することなど、セラピストの能力次第で患者さんとの信頼関係の良し悪しが決まるといえます。
どうすれば的確な質問ができるのか、話をうまくつなげるにはどうすればいいかについて悩む方は、質問の座標軸を意識してみるといいでしょう。
質問の座標軸については、齋藤孝氏の書籍「質問力」で紹介されている観点であり、セラピストが臨床で質問力を考える手段としても非常に有用です。
質問は本質的かつ具体的に、座標軸を意識しよう
ここでは、質問のタイプについて座標軸を用いて考えてみたいと思います。
●その1 具体的かつ本質的な質問がベスト
まずは、以下の表を見ながら質問のタイプを具体性と本質性の観点から考えてみます。
◯具体的かつ本質的なゾーン
ここに分類される質問は、重要性が高く患者さん側も答えやすい質問になります。
「昨日とくらべて歩いたときの膝の痛みはどうですか?」など、シーンを限定して質問することにより、「昨日より良くなりました」などと受け答えもスムーズになるでしょう。
◯抽象的かつ本質的なゾーン
重要性は高いが曖昧な質問がこのゾーンに分類されます。
「痛みはどうですか?」という質問の場合、どこの痛みなのか、何と比較しているのかなど曖昧であり、患者さんとしても「うーん、そうですね」と答えに迷ってしまいます。
◯具体的かつ非本質的なゾーン
ここには、重要性は低いが明確な答えが用意されている質問が分類されます。
「昨日の晩ご飯はなんでしたか?」という質問は特に重要ではありませんが、世間話的、場を和ます的な感じで使うといいでしょう。
◯抽象的かつ非本質的なゾーン
このゾーンには、その場面において重要でもなく答えづらい質問が分類されます。
「最近どうですか?」と聞かれても、どう答えればいいのか全くわかりませんよね。
ただ、その返しを予想して次の展開(話題)につなげたりと、上級者が使うと会話が弾む高等ゾーンでもあります。
●その2 その質問は自分本位になっていないか
以下の座標軸は、話し手と聞き手の気持ちから分類したものです。
◯自分が聞きたくて相手も話したいゾーン
セラピストは患者さんの症状を知りたい、患者さんは自分の訴えを聞いてほしいため、必然的にストライクゾーンになるでしょう。
◯自分は聞きたくないが相手は話したいゾーン
患者さんの過去の体験や身内の自慢話など、ここは患者さんに気分をよくしてもらうための気配りゾーンと考えましょう。
◯自分は聞きたいが相手は話したくないゾーン
「家族との関係性はどうか」、「金銭的に余裕はあるのか」、など、患者さんのプライベートに突っ込んだ質問が挙げられます。
リハビリを進めるために必須の情報ですが、場合によっては興味本位で聞かれていると思われるかもしれません。
◯自分も相手も聞きたくないゾーン
ここは要するにどうでもいいことに分類されるゾーンです。
前述した通り、会話が上手な人はここから次のネタにつなげることができますが、自信がないなら無理に使わなくてもよいでしょう。
会話から信頼を勝ち取る、質問内容はバランスが大切
必要な情報を入手して、さらに患者さんとの信頼関係を築くにはどうすればいいか、会話のバランスについて考えてみたいと思います。
●どうでもいい話に本質的な質問を混ぜる
臨床場面において、一番大切なのは本質的かつ具体的な質問になりますが、そのゾーンばかり攻めすぎると機械的な印象を与えるかもしれません。
まずは世間話など非本質的なゾーンで話しやすい空気を作った上で、身体症状や家庭環境などコアな部分に攻め込むのが効果的です。
- セラピスト「そういえば、毎日お参りをされているそうですね。結構遠くまで歩かれるのですか?」
- 患者さん「そうですね、片道20分くらい歩いています」
- セラピスト「お宮さんなら階段もあるでしょう?結構急だし、つまずいたりしませんか?」
- 患者さん「手すりがありますし、杖も持っているから大丈夫ですよ」
歩行補助具や階段動作の確認をしたい場合、単に「階段は登れますか?」と聞いても、どんな階段か、手すりは必要かなど、状況はさまざまです。
上記例の場合、普段の運動習慣、歩行補助具の必要性、階段動作など複数の情報が得られ、患者さんとしても問診ではなく世間話として気楽に話せますよね。
なにげない会話から情報を収集する、おまけに場を和ませることを兼ね備えた質問ができると上級者といえるでしょう。
●患者さんが話しにくい場合は変化球で攻める
相手が自分の質問に対して乗り気ではないと察した場合、相手が話しやすいエピソードに自分の聞きたいことを滑り込ませると効果的です。
以下は、デイサービスを拒否している患者さんとの会話例です。
- セラピスト「そういえば、以前は会社の重役をされていたんですってね。多くの人をまとめるのって大変だったでしょう」
- 患者さん「そうなんです、自分ではなかなか動かない、人に聞くことばっかりの社員とかもいました」
- セラピスト「指導も厳しかったんでしょう(笑)◯◯さんの立場的には自分のことは自分でするという考えですか?」
- 患者さん「もちろんです。情けない姿を周りに見せられませんから」
なぜデイサービスを勧めても行かないのか、上記会話からその理由が推測できますよね。
「なぜ行かないんですか?できないことを介護士さんに手伝ってもらいましょう」と説得しても効果はないでしょう。
患者さんの人生に尊敬の意を表す、患者さんの考え方のベースを理解することは重要なポイントです。
この場合、患者さんのプライドの高さを尊重して、他人の目を気にしない訪問入浴やリハビリ特化型のデイなどをお勧めしたほうがいいかもしれません。
質問力は一流セラピストになるための必須スキル
急がば回れという言葉があるように、聞き出したい内容があるのであれば、世間話など変化球から攻めてみることも効果的です。
専門知識や技術の習得は重要ですが、質問力を鍛えることは、セラピストにとって必ず武器となります。
特に臨床経験が浅いセラピストにおいては、高齢患者さんと信頼関係を築くために、話をうまく展開できるスキルを早く身につけることは大切です。
そのためにも、質問の座標軸を考えることは重要なポイントであり、日々の質問内容をカテゴライズして、自身にフィードバックすることから始めてみましょう。
参考:
齋藤孝: 質問力 話し上手はここがちがう. 筑摩書房, 東京, 2006, pp.54-68.
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士