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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2020年11月17日
  • リハビリ病院の悩み

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#リスク管理 #循環器

リハビリ中の急変を防ごう!①「冠動脈疾患」編

医療現場において「リスク管理」という言葉は、血圧や脈拍などのバイタルチェックだけを指すものではありません。
また、一般的にハイリスクと思われる循環器や呼吸器疾患の患者さんだけではなく、状態が安定していると思っている患者さんでも急変する可能性があります。
第1弾では、冠動脈疾患の既往がある場合、どのようなリスク管理が必要かについてご紹介したいと思います。

治療歴と内服薬を把握していますか?冠動脈疾患の既往がある患者さんのリハビリ

まずは復習、冠動脈疾患とはどのような病態なのか

まずは復習、冠動脈疾患とはどのような病態なのか

冠動脈疾患と一括りにいっても、その病態はさまざまです。
ここでは、それぞれの特徴について復習したいと思います。

●急性冠症候群と狭心症の違い

冠動脈が原因の疾患といえば、狭心症や心筋梗塞が代表例として挙げられますが、急性冠症候群という言葉を初めて聞く方もいるのではないでしょうか。
急性冠症候群とは、プラークの破綻による血栓形成によって急速に心筋が虚血または壊死にいたる病態とされています。
「それって心筋梗塞じゃないの?」と思う方も多いですが、プラークが破綻した状態は不安定狭心症と急性心筋梗塞に分けられます。

プラークの状態 末梢の血流 心筋のダメージ 治療の必要性
不安定狭心症 破綻 低下(心筋虚血) なしまたは軽度 緊急
急性心筋梗塞 破綻 断絶(心筋壊死) 重度 緊急

上の表の通り、両者の違いは簡単にいえば血流が断絶しているか否かだけであり、不安定狭心症はもうすぐ血流が断絶する危険な状態といえます。
そのため、両者とも緊急治療が必要であり、胸痛がおさまったからといって安心していては命取りになります。
一方で、狭心症とは一般的に労作性狭心症を指すことが多く、安静時には症状が出現しませんが、運動時に必要な酸素が心臓に送られない状態です。
狭心症では心筋のダメージは発生していないため、患者さんの症状によって待機的に治療が考慮されます。

●胸痛や呼吸苦は心臓からの警告!

胸痛や呼吸苦は心臓からの警告!

急性冠症候群や狭心症における代表的な症状は胸痛ですが、これは心筋の需要に見合った酸素が供給されていないために生じます。
ただ、患者さんによっては胸痛ではなく呼吸苦の訴えであったり、左肩から上腕にかけての違和感として出現する場合もあります。
もしリハビリ中に患者さんが上記のような症状を訴えた場合、労作性狭心症か不安定狭心症かでは対応が大きく異なります。
安静にした場合に胸痛が消失した場合は問題ありませんが、休憩中や安静臥床中にも症状が出現しているなら不安定狭心症の可能性が高くなります。
このような場面に遭遇した場合、ただちに主治医に報告し循環器医師の診察を仰ぐ必要があります。
そのため、一旦は症状が軽快したとしても、決して患者さんから目を離さないようにしましょう。

運動器や脳血管疾患の患者さんこそ急変に注意!

運動器や脳血管疾患の患者さんこそ急変に注意!

リハビリ対象者が高齢化している現状では、「循環器疾患だけがハイリスク」と思い込んではいけません。
すべてのリハビリ対象者で注意しておくべき点とその理由について解説します。

●既往歴を見逃さない、患者さんを守るのはセラピスト

たとえば、大腿骨頸部骨折の患者さんを担当する場合、術式や術後の炎症、貧血の有無など原疾患に関する情報はしっかりと押さえていると思います。
また、既往歴に狭心症や心房細動などの病名が記載されていても、多くの場合整形外科医師から循環器に関して詳細な指示がでることはないでしょう。
そのため、もし冠動脈疾患の既往を確認した場合、リスク管理項目の中に前述した自覚症状の評価なども入れておくべきでしょう。

●リハビリ時、酸素の需要と供給のバランスを考えよう

胸痛は酸素の需要と供給のバランスで決定するので、心臓が多くの酸素を必要とする状況に注意する必要があります。
心筋の酸素需要が高くなる理由として、以下の状況が挙げられます。

◯前負荷の増加

前負荷とは、心臓に返ってくる血液である静脈還流量を指し、還流量が増えるほど心筋が拡張するため酸素需要が増加します。
また、腎機能障害や心臓ポンプ機能が低下した患者さんの場合、体の水分量が多いことから心臓に負担がかかることになります。

◯後負荷の増加

後負荷とは、心臓が血液を送り出す先の抵抗、つまり血圧の値ということになります。
血管の抵抗が強い場合、心臓は収縮力をアップさせる必要があるので、多くの酸素を消費します。

◯心拍数の増加

心臓は収縮するたびに酸素を消費するため、収縮回数が多くなると酸素需要も多くなります。

●心原性脳塞栓症の場合、頻脈と心筋虚血の可能性を考える

心原性脳塞栓症の患者さんを担当した場合、リハビリ時に注意しておきたいポイントがあります。
患者さんに頻脈性の心房細動がある場合、リハビリ中に心拍数が120拍や140拍になることがありますが、もし冠動脈の狭窄もある場合はかなり危険です。
心臓の冠動脈はほかの血管と異なり、心臓の拡張期に血液が流れますが、頻脈の状態では心臓の拡張期も短くなります。
加えて、頻脈では心臓の酸素需要も多くなるので、需要と供給のバランスが大きく崩れる可能性があります。
脳梗塞患者さんのリハビリ時に心電図モニターを装着するセラピストは少ないかもしれませんが、冠動脈疾患が既往にある場合は必ず心電図をチェックしておきましょう。
仮に頻脈があってリハビリ進行に危険が伴うのであれば、主治医に相談して循環器内科の診察や内服薬の調整を依頼するとよいでしょう。

急変を防ぐために必要な情報収集と評価のポイント

急変を防ぐために必要な情報収集と評価のポイント

ここでは、前述したリスクを把握するため、安全なリハビリを実施するために必要な情報と評価のポイントを解説します。

●冠動脈の治療歴と残存狭窄を知る

過去に急性冠症候群や狭心症の既往がある患者さんの場合、必ずすべての狭窄血管が治療されているわけではありません。
閉塞をきたした血管は早急にカテーテル手術やバイパス手術が施行されますが、狭窄しているが特に症状のない場合は、経過観察になることもあります。
つまり、既往歴に狭心症、冠動脈治療歴ありという情報があったとしても、「治療しているなら大丈夫」と安心してはいけません。
その後の経過で狭窄が進行している、または新たな狭窄が出現している可能性も考えられます。
同じ病院で治療されているなら治療レポートや外来診療記録を参照できますが、そうでない場合は他院からの情報収集が必要になります。
諸事情により情報収集ができない場合などは、狭窄が残存しているかもしれないというリスクを念頭において、自覚症状などに注意しつつリハビリを行いましょう。

●抗血小板薬を飲んでいるかをチェックする

冠動脈疾患が既往にある場合、治療歴だけではなく内服薬の把握もリスク管理の上で重要になります。
血小板の凝集を防ぐために、抗血小板薬という種類の薬があり、特に冠動脈にステントを留置した患者さんでは必須の薬になります。
循環器の退院時には必ず処方されますが、患者さんによっては外来受診をされていない、処方されたが服用していないなどのケースもあります。
また、骨折などで整形外科に入院して手術をする場合、止血困難になる可能性が高いため、周術期は内服が中止になります。
心房細動でのワーファリンも同じことがいえますが、血液凝固系の内服が中止になっていること、またいつから再開予定なのかは知っておかなければいけません。
もし、狭心症の治療歴があるのにもかかわらず抗血小板薬を内服されていない場合、冠動脈の再狭窄リスクが高い状態であるため、主治医と相談することをおすすめします。

急変は起こる、しかしリスク管理で防ぐこともできる

一言で急変といってもその原因はさまざまであり、予期しない不整脈や原因不明の血圧低下など、注意していても起こるときは起こります。
しかし、冠動脈疾患の既往歴や治療歴を確認することで、虚血による不整脈や心筋梗塞を未然に防ぐことができるのも事実です。
超高齢社会が加速するなか、内科系の併存症がある患者さんは多く、リスク管理=血圧測定という単純な評価だけでは安全性を確保できません。
「歩行練習時に胸部症状がでるかもしれない」など、リスクを予測しているか否かで、急変時の初期対応にも差がでてきます。
循環器以外の患者さんだからこそ、冠動脈疾患の既往に関してはしっかりと情報収集をしておくことが大切です。

参考:
日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版).(2020年11月10日引用)

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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