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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2020年11月30日
  • リハビリ病院の悩み

リハビリ中の急変を防ぐシリーズ②「肺塞栓症」

リハビリ対象者の高齢化が進むなか、心不全や腎不全などの内部障害がある患者さんも多く、リハビリ中の安全管理もセラピストの大切な役割です。
患者さんの急変をゼロにすることはできませんが、適切な情報収集と評価によってある程度防ぐことができます。
急変を防ぐシリーズの第2弾では、肺塞栓症にフォーカスを当てて情報収集と評価のポイントをご紹介します。

患者さんの急変に慌てず対応するために 肺塞栓症の前兆を見逃さない長期臥床後のリハビリ

まずは復習、肺塞栓症とはどのような病態なのか

まずは復習、肺塞栓症とはどのような病態なのか

まず最初に、肺塞栓の病態や起こりやすい状態について復習してみましょう。

●肺動脈の閉塞によって呼吸不全や循環不全を起こす

肺塞栓症は、その発症機序から急性肺血栓塞栓症と慢性肺血栓塞栓症に分かれますが、リハビリ場面では急性発症に注意が必要です。
急性発症は、主に下肢静脈で形成された深部静脈血栓症(DVT)が血管から遊離し、肺動脈を閉塞することが原因です。
肺動脈が閉塞することで、閉塞部位より先ではガス交換ができなくなること、左心室に血液が届かなくなるなど、呼吸不全と循環不全が問題となります。
血栓が大きく肺動脈の中枢部を閉塞した場合、重度の循環不全(ショック)をきたすため、集中治療室管理になるケースもあります。

●発症の多くは下肢深部静脈血栓症が原因

発症の多くは下肢深部静脈血栓症が原因

血栓が形成される場所としては、多くの場合下肢や骨盤内の静脈であり、以下のような状態では血栓を形成しやすくなります。

◯血流の停滞

下肢静脈は筋ポンプ作用によって常に血液が心臓へ戻るように力が働いていますが、長期臥床や局所の不動(ギプス固定など)により血流は停滞します。

◯血管内皮の障害

手術による血管損傷をはじめ、外傷や骨折などで血管内皮に損傷が起こると血栓が生じやすくなります。

◯血液凝固作用の亢進

悪性腫瘍や感染症、脱水状態などでは血液凝固作用が高まるため注意が必要です。

下肢術後、長期臥床、脱水状態の患者さんにおいては、DVTの発生リスクが高くなるといえるでしょう。

●実は判別が難しい?患者さんの症状と発生状況が大切

肺塞栓症に特徴的なこととして、特異的な症状(肺塞栓に限定した症状)がないことが挙げられます。
肺塞栓症では、呼吸困難感や胸痛、頻呼吸などの症状が出現しますが、急性心筋梗塞や急性大動脈解離などでもこれらの症状は出現します。
また、塞栓部位が末梢血管の場合、ほとんど症状がないケースもあるので、肺塞栓を診断するのは簡単ではありません。
しかし、下肢静脈にまだ血栓が残っている場合、再塞栓する可能性があるので、なるべく早くに精査をする必要があります。
そのため、上記症状に加えて、長期臥床後の離床ではないか、トイレでいきみをした後ではないかなど、そのときの状況も加味して判断することが大切です。

手術直後や長期臥床の患者さんは特に注意が必要!

手術直後や長期臥床の患者さんは特に注意が必要

前述した通り、肺塞栓症はDVTが原因となる場合が多く、血栓形成しやすい状態の患者さんでは特に注意が必要です。

●どのようにして血栓の有無を判断できる?

下腿静脈に血栓があるかどうかは、下肢のエコー検査で判断することができますが、すべての患者さんにおいて実施されるわけではありません。
セラピストが評価できる項目について、以下にいくつか挙げてみます。

◯下腿の浮腫や疼痛

静脈血栓があると静脈還流が障害されるため、血栓付近に浮腫が出現したり、圧痛や熱感などの症状が出る場合があります。
ただし、DVTを有する患者さんの多くは無症状であることも多く、身体評価のみで判別することは困難です。

◯血液検査(D-dimer)

D-dimer(ディーダイマー)は、血栓を溶かす働きが亢進している場合に上昇するマーカーであり、高値の場合は血栓形成を意味します。
しかし、炎症や手術自体でも上昇するため、高値=DVTとは断定できません。

決定的な判断材料は乏しいですが、下肢手術後や安静臥床時にD-dimerが高値、下肢に浮腫や疼痛がある場合、DVTや肺塞栓のリスクを念頭においておくとよいでしょう。

●手術後や長期臥床後はいきなり起こさない

多くの医療機関において、整形外科疾患はリハビリ実施件数も多く、術後の疼痛や可動域制限などに対して評価を行うでしょう。
しかし、下肢の手術では血管損傷などが起こりやすく、また術後の安静や固定などの要素も加わることによって血栓形成をしやすい状態になります。
そのため、整形外科の患者さんを担当した際は、常にDVTのリスクを考えておく必要があります。
特に、術前に安静期間があった場合や、術後にシーネなどで関節を固定している場合は血管損傷+血流停滞と血栓を形成しやすい状況にあります。
また、長期臥床によって廃用症候群にいたった患者さんの場合も同様に、離床時には注意が必要です。
食事摂取や水分摂取量が低下して脱水傾向にある場合、ベッド上臥床が続いている場合などもリスクが高いといえるでしょう。
前述した腫脹や疼痛などDVTの症状がないか、D-dimerが上昇していないかなどを確認し、血圧や酸素飽和度、自覚症状に注意してリハビリを進める必要があります。

急変を防ぐために必要な情報収集と評価のポイント

急変を防ぐために必要な情報収集と評価のポイント

DVTや肺塞栓症を起こしやすい状態ではないかをチェックすることは重要ですが、それ以外にも注意しておくポイントがあります。

●臥床時に適切なDVT予防が図れているか

整形外科の手術後を例に挙げると、フットポンプや弾性ストッキング着用など、下肢術後はほぼ100%といっていいほどDVT対策がされています。
リハビリのために訪室した際は、これらを一旦中止して運動や離床を進めていくでしょう。
術後早期に医師や看護師がこれらの対策を中断することはないと思いますが、患者さんが不快に思って外すことも考えられます。
ベッド上でのDVT予防において、セラピストが最低限チェックしておきたいポイントを挙げてみます。

  • ◯日中は弾性ストッキングやフットポンプが装着されているか
  • ◯患者さんが自己判断で中断していないか
  • ◯患者さんから装着の必要性について質問があった場合、正しく答えられるか
  • ◯リハビリ終了時にフットポンプを再装着したか

また、リハビリ時間以外にも、足関節の運動を指導する、自分で軽くマッサージを行うなど、ベッド上でできる自主練習を指導することも効果的です。

●ワーファリン内服の有無には注意!

代表的な抗凝固薬であるワーファリンという薬は広く知られていますが、心房細動や静脈血栓の既往がある患者さんでは、術前から服用していることがあります。
冠動脈疾患に対する抗血小板薬もそうですが、基本的に手術の前には大量出血を避けるために、これらの薬は中断になります。
そのため、手術後はいつから内服が再開になるのかを知っておくことが望ましいです。
仮に内服していない状態が続いているのであれば、DVTや肺塞栓のリスクが高いと考え、呼吸や循環の評価をしっかり行うようにしましょう。

●離床時には呼吸や循環の評価が必須

離床時には呼吸や循環の評価が必須

前述した通り、整形外科術後や長期臥床の患者さんを担当する場合、血圧測定や脈拍のチェックだけではリスク管理として不十分です。
DVTをチェックする場合は下肢の視診や触診が重要になり、肺塞栓の有無を判断するには患者さんの表情やおかれている状況なども考慮する必要があります。
すべての患者さんにおいて、離床時に評価しておきたい項目を以下に挙げてみます。

  • ◯血圧(重症肺塞栓では大きく低下する)
  • ◯心拍数(頻脈になっていないか)
  • ◯酸素飽和度(離床後に低下していないか)
  • ◯呼吸数(頻呼吸の有無)
  • ◯自覚症状(胸痛、呼吸苦、めまい)

循環器や呼吸器以外の患者さんでも、安全なリハビリを提供するためには内服薬のチェックや呼吸状態の評価が必要になります。
すべての患者さんにおいて、これらの評価がルーティンに行えるようにトレーニングを積んでおくとよいでしょう。

急変は起こる、しかしリスク管理で防ぐこともできる

肺塞栓症は、急性発症する疾患のなかでも命に関わることが多く、リハビリを進めていく上で厳重な注意が必要です。
ただ、下腿に血栓があるかどうか、動いたときに肺に飛んでしまわないかは正直わからないので、予測が難しいといえるでしょう。
しかし、患者さんの服薬状況や活動状況を把握し、発症のリスクが高いかどうかを知っておくことが大切です。
いかなる状況でも急変は起こり得ますが、その急変につながるリスクをどれだけ評価できるかで防ぐこともできます。
血圧や脈拍など基本的なバイタルチェック以外にも、これらの評価をルーティンに行うことで、セラピストとしてのリスク管理能力も向上するでしょう。

リハビリ中の急変を防ぐシリーズ

参考:
日本循環器学会:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)(2020年11月26日引用)

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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