急性期は忙しくて時間がない?リハビリの適応を見極めて業務効率を改善しよう!
地域の中核となる急性期病院では、毎日数十人規模の患者さんが救急受診や救急搬送をされるため、スタッフは日々業務に追われています。
患者さんのなかには機能障害やADL低下をともなう場合も多く、必然的に医師からのリハビリ指示も多くなります。
「日々の業務が忙しい」、「患者さんに十分な時間をとれない」と悩むセラピストのために、業務効率を上げるポイントをご紹介します。
急性期病院のリハビリが忙しい理由は?
急性期病院のリハビリが忙しい理由は、対象患者さんが多い(臨床に費やす時間が多い)だけではありません。
その他には以下のような理由が挙げられます。
●その1 情報収集とカンファレンスの時間が多い
新規に患者さんを担当した場合、現病歴や入院前のADLなどの情報収集が必要であり、評価結果からリハビリプログラムやゴールの設定をしなければなりません。
仮に、1日に新規の患者さんを2人担当したとすると、カルテの情報収集や問診だけで1時間弱は必要になるでしょう。
それに加えて、新規患者さんを担当した際、リハビリ計画書や廃用症候群の書類をはじめとした事務作業に追われることになります。
また、患者さんの治療方針を決定したり、退院時期や退院先を決定するために多職種カンファレンスを開く場合、患者さん1人当たり10分ほどの時間を要するでしょう。
その他にも、病棟で使用する歩行補助具の選定や担当看護師さんへの情報伝達などで時間を要することもあります。
●その2 毎日決まった時間にリハビリが実施できない
急性期病院では、創部の処置や各検査などが頻回に入ってくるため、いつもの時間にリハビリが実施できないことが多いです。
そのため、自分の中でタイムスケジュールを組んでいても、それがどんどんズレていったり、午前午後と予約を入れ替えたりすることもあります。
特に内科系の患者さんは、内視鏡や造影検査などで検査時間が長い傾向にあるため、時間を改めて訪室する必要があります。
経験の浅いセラピストの場合、「予定が空いてしまった、どうしよう」と焦った結果、貴重な時間を無駄にするかもしれません。
その他には、術後の貧血で離床ができない、血圧が低くて離床に時間を要するなど、患者さんの状態が日々変化するため、その都度プログラムを変更する必要があります。
●その3 退院支援に要する時間が多い
回復期病院などでは、月単位のリハビリ期間を確保することができますが、急性期病院では在院日数の短縮化が求められます。
平均在院日数が10日から14日だとすると、その間にゴール設定とリハビリ、退院支援までを行う必要があります。
退院支援に関しては、ソーシャルワーカーさんへの情報提供や、介護保険サービス担当者とのカンファレンスなどが挙げられます。
特に多職種合同のカンファレンスでは、自分の都合で時間を決められないため、臨床時間を調整する必要がでてきます。
担当患者さんが増えてきた、でもそのリハビリは本当に必要?
「臨床に十分な時間を当てられない」と悩んでいる場合、リハビリの適応について再考することが大切です。
●内科系の患者さんが増えてきている?
リハビリの黎明期においては、骨折や外傷などの整形外科疾患、脳血管疾患や神経筋疾患の患者さんが多数を占めていました。
しかし、疾患別リハビリ制度により呼吸器や循環器をはじめとした内部障害に対するリハビリ件数も年々多くなっています。
あくまで筆者の私見ですが、入院前からADLが低下している後期高齢者の増加や、内科系医師がリハビリに対する関心を深めてきたこともその理由ではないでしょうか。
いずれにせよ、リハビリ対象患者さんが増加した場合、患者さんごとにリハビリ時間や介入期間を考える必要があります。
また内科系疾患では、低下した機能やADLを向上する従来のようなリハビリ内容だけでなく、現状の機能が落ちないようにするリハビリも必要になります。
●それって本当に廃用症候群?
疾患別リハビリテーションにおいて、内科系の疾患では診療報酬を算定することができないため、「廃用症候群」などの病名が必要になります。
廃用症候群は、急疾患等による安静によってFIM115点以下またはBI85点以下でADL能力が低下した状態とされますが、案外動ける方が多い印象を受けないでしょうか。
階段昇降が手すりなしでできない、歩行補助具が必要、認知機能が少し低下しているなどでも廃用症候群に該当するケースもあります。
そのため、リハビリ初日の評価で「病棟ADLは自立している」と判断した場合、どんなリハビリ介入をするか悩むこともあるでしょう。
そういったケースでは、「筋トレと歩行練習を続けているけど改善効果が得られない」という結果になるかもしれません。
●毎日歩くだけ、筋トレだけになっていない?
前述したように、筋トレや歩行練習だけを続けていくのは悪いことではありませんが、ただ漫然と続けていくことには問題があります。
われわれリハビリ専門職は、機能改善やADL改善を目標として運動療法を提供するいわば運動のスペシャリストです。
効果がないと思いながら同じことを続けていくのは、時間と医療費を浪費することにつながりますので、そのような介入はプロ失格です。
もし、歩くことで機能維持ができるようであれば、病棟でいかに活動量を維持するかを看護師さんと相談したり、ご家族に自主練習を伝えたりすることで対応できます。
「介入しないと単位が取れないじゃないか」と考えるかもしれませんが、その空いた時間でほかの患者さんの臨床時間を確保できることも事実です。
結果的に、収益性を確保しつつ、多くの患者さんに必要なサービスを提供することにつながるでしょう。
リハビリ介入を終了する際に注意しておくべき点
機能維持ができるからといって、ただ闇雲に介入を終了すればいいというものではありません。
そのタイミングや医師への報告のポイントについて考えてみましょう。
●「しているADL」が確立できたらリハビリ終了を検討する
前述したように、入院前と同様のADLを確立できた場合、介入終了の1つのタイミングといえるでしょう。
しかし、注意しておきたい点として、実際に患者さんがその動作を行うかどうかを見極める必要があります。
学生時代に「できるADL」と「しているADL」の違いを学んだと思いますが、リハビリ終了は「しているADL」の状態になったときです。
病棟から「◯◯さんリハビリ終了したら全然動かなくなりましたよ」と相談があった場合、セラピストの判断が間違っていたのかもしれません。
筆者の場合、ADLを確立してリハビリを終了する際には以下の5つのチェック項目を満たしているか確認するようにしています。
- ◯患者さんが実際に動作を行っているか
- ◯他者がサポートできる体制が整っているか
- ◯入院前のADLから低下していないか
- ◯患者さんの全身状態が安定しているか
- ◯終了後、手術など大きな侵襲をともなう治療がないか
担当看護師さんが日々のケアの中で離床を取り入れてくれる、家族が面会時に歩行練習をしてくれる場合などは終了しても大丈夫でしょう。
逆に、ADLが自立していても、手術を控えていたりバイタルが不安定な場合は、今後ADLが低下する可能性が高いため、終了せずにしばらく経過をみることが大切です。
●「リハビリの適応がない」はNGワード!
入院時のADLが自立していても、「廃用が進行するからリハビリスタッフにお願いしよう」と考えている医師もいるかもしれません。
リハビリの認知度が高くなってきたことや、医師から信頼を得られていることは喜ばしいことです。
ただし、いくらADL低下を予防するために必要だからといって、FIM115点以下の患者さん全員が対象となるとさすがにパンクするでしょう。
また、もともと寝たきりの患者さんの場合、急性期におけるリハビリの適応としては乏しいですが、拘縮予防を目的に介入指示がでることもあります。
介入に対して効果が得られない場合、「リハビリを終了しよう」と考えて医師に報告すると思いますが、その際に注意しておきたいポイントがあります。
「リハビリの効果がありません」、「適応ではありません」と言うのはあまりにも冷たく、指示を出した医師に対しても失礼になります。
介入を終了する際は、前述した5つのポイントを評価し、その結果を患者さんと主治医に伝えて終了するようにしましょう。
適応を見極めることもセラピストの役割
急性期病院のリハビリでは、新規患者さんの紹介も多く、時間配分などをしっかり考えないと業務をこなすことができません。
「終了するのは気が引ける」「患者さんや医師に怒られないかな」と思うかもしれませんが、必要な相手に必要なサービスを提供できないのでは本末転倒です。
急性期病院で勤務するセラピストは、限られた時間の中でどうすれば最大限の効果をあげられるかを常に考える必要があります。
そのためにも、まずは運動機能のプロフェッショナルとして正確な評価を行い、自身の時間配分や業務効率についても常に意識しておくことが大切です。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士