リハビリ中の急変を防ぐシリーズ③「血圧低下」
リハビリ場面において、血圧測定はリスク管理を行う上で基本的な評価項目ですが、なぜ血圧が下がっているかを考えることが重要になります。
急変を防ぐシリーズ第3弾では、血圧低下が起こる原因やその際の注意点、臨床で役立つ評価項目についてご紹介します。
まずは復習、血圧が低下する理由とは?
まず最初に、血圧を構成する要素や低下する理由について考えてみましょう。
●血圧を構成する要素を理解しよう
血圧は血管の内側にかかる圧力であり、低血圧とはなにかしらの理由でその圧力が低くなった状態を意味します。
血圧を構成する要素として、以下の項目が挙げられます。
◯心臓のポンプ機能
血液は心臓のポンプ作用によって全身に送り出されるため、そのポンプ機能が低下すると血圧が低下します。
◯循環血液量
血管内を流れる水分量(血液)が減少することで血圧が下がります。
◯自律神経の調節
血管平滑筋が収縮または弛緩することで、血管内の圧力が調整されます。
なんらかの原因で自律神経の調整が破綻すると、血管平滑筋が弛緩するため血圧は低下します。
臥床により自律神経の働きが低下しているのであれば、ギャッジアップや座位練習を継続することで血圧は安定してくるでしょう。
しかし、単に血圧が低いという評価だけでは、リハビリを進めてもいいのか、急変するリスクはあるのかの判断ができないため、これらの原因を探ることが重要になります。
●循環血液量が減少するケース
リハビリを行う上で、循環血液量が減少するケースとして多いのが、脱水状態ではないでしょうか。
心不全や腎不全の患者さんでは、肺うっ血を解除するために利尿薬が投与されるため、一時的に血管内脱水の状態になることがあります。
しかし、運動器や脳血管疾患の場合でも、患者さんの食事量や飲水量が極端に少ない場合、循環血液量の減少につながります。
特に、嚥下障害がある患者さんの場合はその傾向が高くなるため、必ず飲水量や点滴の有無をチェックしておきましょう。
循環血液量の減少は、起立性低血圧のようにリハビリで負荷をかけても改善しないため、血圧低下が離床の阻害因子になっているのであれば、点滴などで補液が必要になります。
●心臓のポンプ機能が低下するケース
急性心筋梗塞や慢性心不全の既往がある患者さんでは、心臓の収縮能力(LVEF)が低下していることが多いです。
また、狭心症の発作時や不整脈が出現した際には、一時的に駆出量が低下するため、血管内のボリュームが少なくなり、結果的に血圧が低下します。
急な血圧低下はリハビリを中止するべきですが、慢性的な低血圧状態の患者さんもいるため、一概にリハビリが禁忌であるとはいえません。
そのため、倦怠感やめまいなどの自覚症状を参考にしてリハビリを進めていく必要があり、リスク管理が難しいといえるでしょう。
低血圧による身体への影響を理解しておこう
血圧が低下している場合、具体的にどのような現象が起こるかについて理解しておくことが大切です。
●脳血流低下による転倒と冠動脈血流低下による狭心痛
脳には一定の血圧を保つための働き(自動調節能)が備わっていますが、過度な低下や上昇には対応することができません。
平均血圧が60mmHgを下回ってくると、脳血流低下による症状が出現する可能性があります。
具体的には、意識レベル低下や認知機能低下などが挙げられますが、血圧が低い患者さんの場合は転倒や転落などに注意を払う必要があります。
脳以外の組織では、心臓(冠動脈)の血流低下もすぐに身体症状にあらわれるため注意が必要です。
心筋は、酸素を組織に取り込む能力がもともと高いため、血流量増減の影響を受けやすい組織です。
冠動脈に狭窄がある場合、血圧低下によって冠動脈血流が低下すると、心筋は虚血状態になるため、胸痛や不整脈が出現する可能性があります。
そのため、狭心症の既往がある患者さんの場合、血圧低下から胸痛が起こるかもしれないとリスクを想定しておくことが、急変を予防するポイントといえるでしょう。
●CKDを合併している患者さんでは腎血流低下に注意
脳や心臓のように、血流が低下するとすぐに症状が出るわけではありませんが、腎臓への血流低下も身体に重大な影響をあたえます。
腎臓が原因で尿が出ない場合、腎臓より前か後か、または腎臓自体に原因があるかのいずれかの要因が挙げられます。
腎臓より前に原因があるケースの例として、脱水や重症感染症などによる血流低下が挙げられます。
腎血流が低下して尿量が少なくなると、尿毒症による倦怠感や意識レベル低下、高カリウム血症による不整脈などが起こる可能性があります。
1回の血圧低下で起こることはありませんが、常に血圧が低い場合、慢性的に腎機能が悪いケースなどでは、常に上記のようなリスクを考えておくべきでしょう。
もしかして血圧下がってない?臨床で役立つ評価項目
血圧低下による急変は、低血圧の理由やそれに随伴する症状を理解していると急変を防ぐことができるかもしれません。
リハビリ専門職が臨床の中で血圧低下を確認できる評価項目についてご紹介します。
●皮膚の状態をチェックする
血圧低下による症状はさまざまですが、素早く確認できるのは皮膚の状態です。
皮膚血流が低下すると、冷感や蒼白などの変化があらわれるので、患者さんの顔色や温度を確認するクセをつけておきましょう。
また、さらに血流が低下してショックに近い状態では、皮膚が冷たく湿った状態になるため、すぐに臥床する必要があります。
貧血がある場合も顔面蒼白になりますが、失血による貧血の場合は上記症状が出現するため注意です。
●橈骨動脈が触知できない場合は注意
「血圧が下がっているかも」と不安になった際、毎回血圧測定をすることが望ましいですが、時間的にも効率が悪く、患者さんの負担にもなります。
そんなときは、橈骨動脈の触知をしてだいたいの血圧を推測することをおすすめします。
多くの場合、橈骨動脈が触知できると収縮期血圧が80mmHg以上はあると考えることができるため、しっかりと触れている場合は安心してもよいでしょう。
逆に、もし触知ができなかった場合は、患者さんの顔色を見たり血圧測定を行ったりして確認する必要があります。
そのため、リハビリの休憩がてら橈骨動脈を触知するクセをつけておくことをおすすめします。
ただ、注意点として、もともと拍動がわかりにくいケース、不整脈などで脈拍が抜けるケースなどもあるため、慣れない間はしっかり時間をとって触診しましょう。
●運動時の疲労感や全身倦怠感
低血圧の症状として、あくびや意識レベル低下などは有名ですが、これは脳血流低下をあらわす症状になります。
ほかの臓器に関しても、血流低下により出現する症状があるため、そこを押さえておくことが大切です。
骨格筋への血流が不足した場合、嫌気性代謝が優位になるため、運動時の疲労感を訴えることが多くなります。
「いつもしている運動なのに今日は疲れやすいな」と感じた場合、血圧をチェックしてみるといいでしょう。
複数の評価項目を組み合わせて血圧をチェックしよう
血圧低下は、リハビリ中のトラブルの中でも比較的遭遇しやすいですが、患者さんによっては心筋梗塞や不整脈などの急変につながるおそれがあります。
血液検査で貧血進行がないか、どこかに出血源がないか、失血により血圧が下がっていないかなど、カルテなどから得られる情報も非常に重要です。
また、患者さんの顔色や体表面の温度、いつもと違う疲労感など、小さな気づきを組み合わせることで、病態を把握することができます。
血圧の評価とは、情報収集、触診、視診などを組み合わせた全身の評価であり、臨床場面で実践して習得することこそが急変を防ぐ第一歩といえるでしょう。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士