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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2020年12月25日
  • リハビリ病院の悩み

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#リスク管理 #呼吸管理

リハビリ中の急変を防ぐシリーズ④「低酸素」

急変と聞くと、急性心筋梗塞や肺塞栓症など循環不全に起因する病態が多いですが、血行動態だけではなく体内の酸素濃度も重要な要素です。
リハビリ中に行う呼吸の評価として、聴診や酸素飽和度のチェックは重要ですが、そのほかにも注意すべきポイントがあります。
シリーズ第4弾では、低酸素状態からの急変を回避するための評価やチェックポイントについてご紹介します。

リハビリ中の急変 低酸素状態の原因とリスク

まずは復習、酸素飽和度が低下する理由とは?

まずは復習、酸素飽和度が低下する理由とは?

まず最初に、「呼吸」を構成する要素や酸素飽和度の低下する理由について復習したいと思います。

●呼吸の目的は酸素の取り込みと二酸化炭素の排出

呼吸の評価というと、横隔膜や胸郭の動きに異常がないか、異常呼吸パターンがないかなどを評価することが多いでしょう。
呼吸の目的は、生体活動に必要な酸素を取り込むことに加えて、生体活動で発生した二酸化炭素を排出することです。
上記のように、胸郭の動きや呼吸パターンは「換気」機能の評価にはあたりますが、呼吸全体で考えるとそれだけでは不十分です。
換気以外のはたらきとしては、肺胞から毛細血管にガスが移動する「拡散」と、血液中のヘモグロビンを介して末梢に届ける「循環」が挙げられます。

●どこで酸素の取り込みが障害されるかが重要

前述したように、呼吸のうち「換気」「拡散」「循環」のどの過程が障害されても低酸素状態になります。
ワッサーマンの歯車というワードを聞いたことがあると思いますが、あの図は酸素の運搬過程を簡易的に表しており、呼吸状態を理解する上で非常に重要です。
以下に、それぞれが障害される病態について例を挙げてみます。

換気障害

換気障害とは、外界から肺胞までの間での空気の流れが障害された状態であり、主に呼吸筋の障害や呼吸中枢の障害、気道内の障害などが原因になります。
そのため、単純な換気障害であれば、人工呼吸器での陽圧換気や、気道内分泌物の除去などで改善する可能性が高いです。

拡散障害

拡散障害とは、肺胞から毛細血管間での酸素(二酸化炭素)の受け渡しに問題がある状態です。
原因としては、肺うっ血などで肺胞内に水分が貯留している、間質性肺炎などで肺胞と毛細血管の間が隔たれていることなどが挙げられます。

循環障害

血液までの酸素取り込みが問題なくても、末梢の組織に届けるまでに障害があれば、結果的に組織は低酸素状態になります。
原因としては、貧血(ヘモグロビンの減少)や低血圧(循環血液量の不足も含む)などが挙げられます。

組織に十分な酸素が届けられるためには、上記3つの過程が正常に機能している必要があります。
そのため、「呼吸の評価」というのは決して換気機能だけをみるのではなく、他2つの過程も評価することが重要になります。

低酸素から急変につながる3つのケース

低酸素から急変につながる3つのケース

低酸素状態になると、身体のさまざまな場所で異常を表すシグナルが発信されます。
具体的なケースを例に挙げて、急変を防ぐ方法を考えてみましょう。

●嚥下障害や意識障害のある場合、リハビリ前後の喀痰吸引は重要

脳梗塞後の患者さんでは、嚥下機能低下による喀痰の貯留や、意識レベル低下による呼吸パターンの異常などが問題となります。
また、臥床時の舌根沈下によって上気道が閉塞することも換気不全につながるため、リハビリ中には注意が必要です。
具体的には、ベッド上で関節運動を行う際にヘッドアップをして気道を確保する、聴診で気道内のクリアランスを確認するなどの対応が有効です。
訪室時に、気道内に痰が貯留している場合は吸引をして安全を確保すると思いますが、実はリハビリ終了時にも注意が必要です。
座位練習など体位の変わるリハビリを行った際、気道内に張りついていた痰が移動して気道をふさぐ可能性もあります。
そのため、リハビリ前後で呼吸音を確認する、終了時に痰が貯留していれば吸引を行うなどの対策を怠らないことが急変を防ぐポイントといえるでしょう。

●拡散障害による低酸素では運動負荷量に注意

肺炎や心不全などの患者さんの場合、筋力や可動域など運動機能に問題のないケースもあり、どこまで運動をするか悩むこともあるでしょう。
患者さんの意欲が高く、リハビリ初日からどんどん動いてしまうと、運動後に低酸素状態となる可能性があります。
「なんとなく元気そう」と思って安易に運動負荷をかけてしまうことは危険であり、事前にしっかり病態を把握しておくことが重要です。
また、患者さんや担当看護師さんが積極的な離床を提案していたとしても、現状における適正な運動負荷を評価して伝えることが大切です。
「なぜ動いたらダメなのか」という問いに対して明確な答えを出せない場合、呼吸の評価が不十分であるといえるでしょう。
病態を理解して低酸素となる可能性を考えておく、当たり前のことですが、これも低酸素による急変を防ぐポイントになります。

●酸素ボンベの残量と元栓の開閉はしっかり確認しよう

1〜2年の臨床経験を持つセラピストなら、酸素ボンベ(家庭内酸素療法を含む)を使用している患者さんを担当した経験があると思います。
訪室時に酸素ボンベを使用している場合、「何リットルの酸素流量設定になっているか」をチェックするでしょう。
しかし、酸素投与量に関してはリハビリの合間に頻回にチェックすることをおすすめします。
その理由は、酸素ボンベの残量が少ない場合、リハビリ時間が長くなると残量がなくなることや元栓が開いていないため酸素が出ていないことなどがあるからです。
仮に元栓が閉まった状態で酸素流量を上げても、瞬間的に酸素が流れることがあるため、「出ているから大丈夫」と勘違いすることがあります。
この状態に気づかずに運動を実施した場合、たとえ低負荷でも低酸素状態になり急変につながってしまうこともあります。

酸素飽和度が低い?臨床で役立つ評価項目

酸素飽和度が低い?臨床で役立つ評価項目

経皮的酸素飽和度は簡便に酸素量を測ることができますが、その値が100%正しいとは限りません。
呼吸状態の評価をする際、押さえておきたいポイントをご紹介します。

●末梢血流が低下すると酸素飽和度が計測できなくなる

経皮的酸素飽和度を測定した際、「え?85%?でも本人は苦しそうじゃないし」と悩んだことはないでしょうか。
生理学で学んだ酸素解離曲線を参考にすると、経皮的酸素飽和度が90%を下回ると血中酸素濃度は60mmHg以下の低酸素血症になると考えられています。
しかし、低酸素状態が長い患者さん(COPDの既往など)の場合、普段は80%台後半、運動時は70%台まで低下して、そのときはじめて症状が出現することもあります。
もし酸素飽和度が低値でかつ症状がない場合、低酸素状態だが症状がないのか、または計測値が間違っているのかを考えることが大切です。
経皮的酸素飽和度を計測する機器は、赤外線照射によって血流のヘモグロビンを評価しますが、センサーと血管内の関係が計測結果に影響します。
指先で計測する機器を例に挙げると、爪が分厚い場合、血流が悪く末梢が冷えている場合などは値を読み取ることができません。
外来での対応の場合など、患者さんがマニキュアを塗っている場合も計測できないので注意が必要です。
その場合、爪が薄い指で計測しなおす、センサーの種類を変更する、患者さんの手指を温めるなどの対応で正確な値が出ることがあります。
異常値が出た場合、低酸素の原因を考えるのと同時に、これらの項目についても確認してみましょう。

●数字だけの解釈はダメ!呼吸数と呼吸パターンを観察する

前述したような問題もあるため、酸素飽和度の数値だけを頼りに呼吸状態を解釈してしまうのはNGです。
機器に出る数値は低酸素状態をあくまで数値化したものであり、低酸素による身体への影響を知っておくことが重要です。
その1つは呼吸数と呼吸パターンの変化であり、これらは特別な機器がなくても評価することができるため、必ずチェックしておきましょう。
低酸素状態や高二酸化炭素の状態では、換気量をアップしてほしいという依頼が呼吸中枢に送られるため、その結果呼吸数が上昇します。
また、より多くの二酸化炭素を吐き出すために、呼気の延長や呼気補助筋を使用するなどの変化がみられます。
30回以上の呼吸数になる、呼気の努力性がみられる状態とは、低酸素や高二酸化炭素血症を知らせるためのサインであると考えましょう。

複数の評価項目を組み合わせて急変を防ごう

呼吸状態を評価するということは、教科書に載っている評価手技や機械を用いて数値を計測することだけではありません。
呼吸のどの過程が障害されているか、リハビリが介入することで改善するか否か、運動時にどのようなリスクがあるかなど、正直、評価のハードルは高いでしょう。
しかし、どこまで患者さんの病態を評価できているかによって、セラピストのリスク管理能力は向上します。
1つの評価項目で判断するのではなく、フィジカルアセスメントや自覚症状、画像所見など複数の評価項目からリスクを予測することが急変を防ぐ第一歩になるでしょう。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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