理学療法士・作業療法士の需要と供給のバランスは?地域・領域別に状況を解説!
理学療法士・作業療法士などのリハビリ職は、高齢化を迎える時代において働き口に困ることはないと考えている方も多いのではないでしょうか。
ただ、理学療法士や作業療法士はその数が増えてきている状況でもあり、常に需要が供給を上回っているという保証はありません。
今回は、地域・領域などさまざまな観点から理学療法士・作業療法士の需要と供給について解説していきます。
過剰供給の歯科医師…理学療法士・作業療法士は大丈夫?
高齢化に伴うニーズに応えようとする動きから、理学療法士・作業療法士の数は増加傾向にあります。
リハビリの仕事については「就職先に困らない」「ニーズがなくなることはない」というイメージを持っている方も多いでしょう。
ただ、いくら高齢化社会といっても、理学療法士・作業療法士が際限なく増え続ければ、供給が需要を上回る可能性もゼロではありません。
実際、歯科医師などは供給が需要を超えるとして懸念されており、理学療法士や作業療法士も先を見据えた対応をしていく必要があるでしょう。
●供給が需要を上回る歯科医師を例に考える
歯科医師というと、かつては安定した職業だといわれていましたが、需要に対して供給が過剰になっていると問題視されており、これまでにも厚生労働省が議論を重ねてきた職種です。
2017年に実施された第9回歯科医師の資質向上等に関する検討会では、その論点が整理されています。
ここでは、新規参入する歯科医師の数が10%削減されれば、2030年には需要と供給の均衡が保てると予想しており、2015年の段階で入学定員は9.4%減少しました。
実際の合格率や留年者の割合によっても需給は影響を受けますが、少なくとも先を見据えて定員削減などの対応を講じていることは事実です。
●理学療法士・作業療法士も需給のバランスを大切に
先述した歯科医師のような例もあるため、理学療法士や作業療法士も「安定した職業だから」と安心することはできません。
たとえば、少子高齢化といわれる時代においては、リハビリを必要とする高齢者の割合が多くなるため、それに対応してニーズも高まるでしょう。
しかし、子どもの数が少ないといわれる世代が成長して高齢になっていく頃には、逆に高齢者の数が減少するため、将来的にリハビリのニーズが少なくなる可能性があるのです。
歯科医師は人口動態の影響を受けやすい職業といえますが、リハビリに関してもそれは同様にいえることです。
もちろん今すぐに仕事がなくなる危険性があるわけではありませんが、どんな職業についても「いつまでも安泰」という保証はありませんし、長期的なスパンで需給を考えていくことは大切になるでしょう。
また、2018年からは鍼灸師が機能訓練指導員として登録できるようになる、といった変更もあり、こうした制度の状況によっても影響を受ける可能性はあります。
地域によってもばらつきが!都道府県別にみるリハビリ職の配置状況
理学療法士・作業療法士の数は、地域によってもばらつきがあります。
実際、医師についても長年「医師不足」が叫ばれていますが、実際には「地域偏在」という側面もあると耳にします。
理学療法士・作業療法士についても、都道府県によって人口あたりの人員数には差があるといわれています。
理学療法士・作業療法士需給分科会の資料のなかで報告されている、人口10万人あたりの就労者の割合を確認してみましょう。
人口10万人あたりの就労者 | 理学療法士 | 作業療法士 |
---|---|---|
割合が多い都道府県 | 和歌山県、高知県、長崎県、熊本県、大分県、佐賀県、鹿児島県 | 鳥取県、高知県、徳島県、鹿児島県など |
割合が少ない都道府県 | 宮城県、栃木県、埼玉県、東京都、神奈川県 | 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、大阪府など |
こちらは就労者の絶対数ではなく「人口10万人あたりの療法士数」に基づいた分類であることには留意する必要がありますが、都道府県によって差があることがわかります。
人口あたりの数でいくと東京都・神奈川県・大阪府など比較的人口が多い都道府県で就労者の割合が少なくなっていることが特徴的です。
需要と供給は単純に全体の平均で表すだけでなく、人口あたりの就労者数など、バランスを考慮して考えていくことも必要になるといえるでしょう。
住む地域にこだわりがない方は、人口あたりの療法士が少ないエリアで求人を探してみるというのも選択肢としては良いかもしれません。
医療分野で働く人が多い?ニーズのある専門領域はあるの?
理学療法士や作業療法士が活躍できる場は、病院などの医療機関をはじめ、介護・福祉・教育・行政などさまざまです。
身近な理学療法士・作業療法士を思い浮かべてみても、医療機関で働く人の割合が多いイメージがありますが、領域によってどのような偏りが生じているのかを考えていきましょう。
●理学療法士は医療分野が80%を占める
理学療法士・作業療法士需給分科会で用いられた「理学療法士を取り巻く状況について」という資料のなかでは、就業先として医療分野が約80%を占めていると報告されています。
一方、介護の現場で働く理学療法士の割合はわずか10%程度であり、領域によってばらつきがあることがわかります。
筆者の知人でも、ある程度病院で経験を積んだあと、介護分野で中途採用される方は多い傾向にあるため、介護領域の方が比較的ポストが空いているのかもしれません。
●作業療法士は領域によるばらつきが大きい
作業療法士も理学療法士と同様に、介護現場で働く人の割合が少ないことが報告されています。
「作業療法士を取り巻く現状」のなかで、2014年の状況として、医療現場では32,673名、介護現場では6,524名の作業療法士が就労していると報告とされています。
また、対象とする疾患別の就労者数では、脳血管障害が圧倒的に多い25,121名であるのに対し、がんは400名、発達障害は690名など専門領域によって大きく偏りがあります。
もちろん脳血管障害のリハビリは需要が多いため、このような割合になるのは自然なことではありますが、がん・発達障害などはまだまだ活躍できる作業療法士が少ない現状にあるといえます。
筆者は発達障害の子どもたちが通う病院で勤務した経験がありますが、この分野で働く作業療法士は非常に数が少ないため、同じ都道府県内であれば働いているスタッフの顔はすべて思い浮かべることができました。
プロフェッショナルが少ない領域なので人材としては重宝されますが、家庭の都合などで居住地を移す場合には、地域によって自身の専門を生かせる勤務先が見つからないというデメリットもあります。
転職を視野に入れる場合、つぶしがきくのは需要が多い脳血管障害などの領域といえるでしょう。
ただ、最終的には自分が活躍したい、興味があると思える領域で働くことが一番のモチベーションになるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、理学療法士や作業療法士の需要と供給について、地域や領域別の違いなどに触れながら解説しました。
人口あたりの理学療法士・作業療法士の就労数では、比較的人口の多い都道府県で割合が少なくなる傾向がありました。
就労者の絶対数で考えると大都市のほうが数は多くなると推測されますが、人口あたりの割合から需給を判断するということも大切になります。
また、医療か介護か、どのような疾患を対象とするのかによっても働く療法士の数にはばらつきがあります。
歯科医師のように需給バランスが不均衡になるケースもあるため、将来的には人口動態やニーズに合わせて臨機応変に対応していくことが必要になるでしょう。
参考:
第9回歯科医師の資質向上に関する検討会 各WGにおける議論を踏まえた現時点の論点整理(全体版)(2018年1月28日時点)
第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 理学療法士を取り巻く状況について(2018年1月28日引用)
第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 作業療法士を取り巻く状況について(2018年1月28日引用)