リハビリ専門職を目指す学生必見!今後、需要と供給のバランスはどうなるの?
理学療法士や作業療法士などリハビリ専門職を目指す学生は年々増加傾向ですが、「就職先がない」「給料が安い」というネガティブな話題も出ています。
世間ではコロナ禍の影響もあり、医師不足や看護師不足が話題に上がっていますが、「リハビリ専門職はどうなの?」と思う方もいるでしょう。
現役理学療法士の目線から、リハビリ専門職の「いま」と「これから」について考えてみようと思います。
医療機関でリハビリ専門職不足が起こらない理由
医師不足や看護師不足というワードは聞いたことがありますが、リハビリ専門職の不足はあまり聞かないでしょう。
まずは、医療機関における理学療法士の勤務実態について考えてみます。
●病院で働いているリハビリ専門職は全体の66%
日本理学療法士協会の統計データによると、2020年3月末時点での会員数は125,372人、2010年時点では70,758人であり、10年間で50,000人以上の理学療法士が誕生しています。
会員の中で、病院やクリニックなどの医療機関で勤務している理学療法士は82,819人であり、会員全体の66%と医療機関が占める割合は多いです。
養成校においても、医療としてのリハビリテーションを中心に学ぶため、就職を考える際も「病院」という職場を選択する方も多いです。
そのなかでも、筆者の就活時代や今の学生の就活を聞いてみると、「まずは総合病院で働きたい」と考える学生が多い印象を受けます。
しかし、協会の統計データによると、総合病院(大学病院や急性期病院など)で勤務する理学療法士は全体のわずか16%であり、どちらかというと狭き門になっています。
●急性期や総合病院では退職するセラピストが少ない?
急性期医療を学びたい、多くの疾患を経験したいという理由で就活を考えた際、その希望を叶えるのは難しいかもしれません。
ただし、正規社員としての採用ではなく、臨時社員としての採用形態をとっているところもあるでしょう。
あくまで筆者の推測ですが、総合病院や急性期病院に就職した理学療法士は、あまり転職をしない傾向にあるのではないでしょうか。
給与体系(昇給やボーナス)がしっかりしている、福利厚生(手当てや休暇など)が充実しているなどがその理由として考えられます。
また、理学療法士は病院のスタッフ全体に占める割合が少なく、医師や看護師とくらべると人数の拡張もされにくいです。
そのため、「せっかく入れたし生涯働こう」と考えるのも不思議ではありません。
総合病院で働きたいのであれば、就活前から求人情報をしっかりチェックしておくこと、面接の際にしっかりと自分の意志を伝えることが重要になります。
意外と知らない、リハビリ専門職が活躍する職場とは?
今後のニーズを理解するためにも、リハビリ専門職が働いている職場について知ることが大切です。
●医療機関と老人福祉施設が全体の74%を占める
前述した理学療法士協会の統計データによると、医療機関と老人福祉施設(介護老人保健施設や特別養護老人施設など)が全体の74%を占めています。
この2つの分野においても、以下のように細かく分けることができます。
◯医療機関
急性期病院や回復期病院、療養型病院など入院が可能な医療機関をはじめ、整形外科クリニックなども含まれます。
簡単にいえば、医師や看護師が常駐しており、診察や治療、リハビリなど多くの医療サービスが提供される施設であるといえます。
業務内容が養成校で学んだ内容と直結するため、一番イメージしやすい分野ではないかと思います。
◯老人福祉施設
急性期と在宅の間に位置する介護老人保健施設(老健)や、長期入所を目的とした特別養護老人ホーム(特養)など、介護保険サービスの適用となる施設が代表的です。
また、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなど実費負担で入所する施設なども含まれます。
そのほかには、デイサービスやデイケアなどの通所サービス、訪問リハビリなどもこれらの分野に含まれています。
施設自体の目的や経営方針などによって、理学療法士の果たす役割が異なることが特徴であるといえるでしょう。
●医療福祉以外への就職や起業するパターンもある
近年では、一般企業(介護用品や医療機器など)に就職したり、起業をしたりする理学療法士が増えている印象を受けます。
現在では、会社設立のハードル(人員や資本)が低くなっているため、起業をするだけなら割と簡単にできます。
ただし、注意点として、理学療法士は名称独占であるため、医師の指示のもと行わないサービスについては理学療法というワードを使用してはいけません。
以下に、起業例をいくつか挙げてみたいと思います。
- ◯訪問看護ステーション
- ◯福祉用具の制作販売
- ◯外出時の送迎および付き添いサービス
- ◯リラクゼーションサロン
- ◯医療コンサルタント
- ◯スポーツ施設
挙げ出せばキリがないですが、多くに共通しているのはリハビリ専門職の知識や技術を生かした業務内容であるといえるでしょう。
就活までに押さえておきたい、需要と供給のバランス
ここまでの内容をもとに、今後のリハビリ専門職における需要と供給のバランスについて考えてみたいと思います。
●病院勤務は難しくなる?
前述した通り、理学療法士のほとんどが医療機関や老人福祉施設での勤務であり、いまや年間10,000人ほどの新卒者が出ています。
職種全体の年齢をみると、平均年齢は34歳であり、39歳未満の理学療法士が全体の77%を占めています。
家庭をもって仕事を安定させたいと思う人が多いと仮定した場合、待遇のいい病院や老健などを退職する人は少なくなるでしょう。
ただでさえ応募が集まりやすい職場なのに、新規求人が出ないとなると、これらの職場で働くことは難しくなるかもしれません。
需要よりもはるかに供給が上回っているため、医療機関におけるリハビリ専門職不足が起こる可能性は低いといえるでしょう。
●介護施設、地域での需要は伸びてくる
高齢化率上昇にともない、原疾患に加えて併存疾患をかかえている、廃用症候群やADL低下が進んでいる、自宅生活が困難となる患者さんが増えてきます。
急性期や回復期病院を退院した後、老健や特養、有料老人ホームに入居する方が増えた場合、施設におけるリハビリ専門職のニーズは高くなるでしょう。
また同時に、デイサービスや訪問リハビリなど、自宅生活を中心とした介護サービスの需要も高まると思われます。
そのため、介護保険分野全体での需要は高くなり、また自身で起業する専門職も増えてくるかもしれません。
しかし、「リハビリ専門職を雇いたいけどあまりお金を出せない」「年収に不安があるから転職する」という状況になれば、スタッフの回転率が高くなります。
つまり、若いスタッフが循環するような状況となり、需要と供給が同程度、または需要が上回る可能性があります。
●ブルーオーシャンを攻める
医療機関は求人がない、介護保険分野は給与が安いとなってくると、一念発起して新規事業を開拓しようと考える人もいるでしょう。
リハビリ専門職+αで周りと差をつけることによって、その人の希少性は高くなるため、うまく成功すれば年収も相当なものになるでしょう。
しかし、ブルーオーシャン(競争相手が少ない分野)を攻めるとなると、社会情勢や一般教養、他ジャンルの知識などかなり高い能力が要求されます。
「なんかわからないけど一発当たった」ということはあり得ないので、起業を考えている方は専門知識や技術以外にも、いろいろと身につけておく必要があります。
医療保険や介護保険などの既成制度外で困っている人がいるのも事実であり、その需要にどう応えるかが重要になります。
今後の需要と供給は働く分野によって差が出る
毎年10,000人以上のリハビリ専門職が誕生し、そのほとんどが医療機関や老人福祉施設での勤務であることを考えると、将来的に医療機関での人材不足は考えにくいです。
介護保険分野も人気があり需要も高いですが、法人の規模によって給与面や福利厚生は異なるため、若いスタッフが循環する形になるかもしれません。
今後、リハビリ専門職に関しては働く分野によって需要と供給のバランスが変わってくるため、学生時代から自分の将来像を描いておくことが大切です。
どの分野に進むにせよ、専門職としてのスキルを上げつつ、社会のニーズを把握して応えることができれば、どんな時代変化にも対応できる人材になるでしょう。
参考:
公益社団法人 日本理学療法士協会 統計情報(2021年3月26日引用)
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士