急性期でも栄養評価は必要?リハビリ実施時に注意するべきポイント
リハビリ専門職にとって、栄養状態の評価はなじみがないものであり、「管理栄養士さんがするんじゃないの?」と思っている方も多いでしょう。
しかし、栄養状態が悪いとリハビリがかえって逆効果になることもあるため、患者さんの栄養状態を知っておくことは重要です。
急性期では栄養をどのように考えたらいいか、リハビリ時における評価のポイントについて解説します。
なぜリハビリに栄養の評価が必要なの?
まずは、リハビリ専門職が栄養状態を評価する理由について考えてみましょう。
●栄養状態が悪い場合、リハビリの効果が上がらない
運動を実施するためにはエネルギー産生が必要不可欠ですが、そのもとになるのは糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素です。
入院患者さんの場合、経口摂取が可能で3食しっかりと食べている場合は問題ありませんが、喫食量が少ない、経口摂取ができない患者さんもいます。
急性期の患者さんで手術直後や全身の炎症が強い場合などは、身体の代謝量が大きくなるため、消費カロリー量も高くなります。
そのため、常に消費カロリーが摂取カロリーを上回った状態にあると、少しずつ患者さんの体重が減少していくことになります。
筋力トレーニングや有酸素運動を行う際、十分な栄養がないと運動効果が上がらないばかりか、筋肉のタンパク質を分解してエネルギーを産生することになります。
「筋力トレーニングの結果、筋力がダウンする」ということも考えられるので、急性期リハビリにおける栄養状態の評価は非常に重要です。
●栄養状態をスクリーニングできる評価法
栄養状態の評価を大きく2つに分けると、基礎代謝や必要エネルギー量などを計算する方法と、現在の栄養状態をスクリーニングする評価法があります。
以下に代表的なスクリーニング法をご紹介します。
◯MNA(R)-SF
ヨーロッパで開発された高齢者の栄養評価ツールにMini Nutritional Assessment(MNA)というものがあり、それを簡略化したものがMNA-SFです。
この評価は、6項目のスクリーニングから構成され、問診やカルテ情報、ベッドサイドでの簡単な検査で行うことができます。
点数は14点満点、12~14点は栄養状態良好、8~11点は低栄養リスクあり、7点以下を低栄養状態と判断します。
臨床場面での活用例としては、低栄養リスクあり、または低栄養状態の患者さんに対しては、早期に栄養サポートチーム(NST)が介入するなどの対応が挙げられます。
◯GNRI
術後患者の栄養指標であるGeriatric Nutritional Risk Indexでは、血清アルブミンの値から栄養状態を評価する方法で、以下の計算式を用います。
GNRI=14.89×血清アルブミン値(g/dL)+41.7×[現体重(kg)/標準体重(kg)]
82未満は重度リスク群、82以上92未満は中等度リスク群、92以上98未満は軽度リスク群、98以上はリスクなし群と判断します。
ただし、この計算式は採血が必要であること、急性炎症でアルブミン値が変動しやすいことなどに注意が必要です。
まずは必要エネルギー量と摂取エネルギー量を調べよう
栄養状態のスクリーニングが終わったら、次は消費エネルギー量と実際に摂取しているエネルギー量の差を考える必要があります。
●必要エネルギー量を評価しよう
ある患者さんにとって、どのくらいのエネルギー量が必要かを知る必要がありますが、基礎エネルギー代謝(BEE)を求める際はHarris-Benedictの式が有名です。
計算式は男女で異なっており、以下のようになります。
- ◯男性 66.47+13.75×体重+5.0×身長−6.76×年齢
- ◯女性 655.1+9.56×体重+1.85×身長−4.68×年齢
ここで求めたBEEをもとに、活動係数と傷害係数を掛け合わせたものが、必要エネルギー量(TEE)になります。
◯TEE=BEE×活動係数×傷害係数
上記式にある活動係数と傷害係数は、患者さんの状態によって以下のような係数を代入します。
活動係数 |
---|
寝たきり(意識低下) 1.0 |
寝たきり(覚醒状態) 1.1 |
ベッド上安静、ベッドサイドでのリハビリ 1.2 |
ベッド外での活動 1.3~1.4 |
一般就労者 1.5~1.7 |
傷害係数 |
---|
飢餓状態 0.6~0.9 |
手術 軽度1.1 中等度1.3~1.4 高度1.5~1.8 |
骨折/癌/COPD 1.2~1.3 |
褥瘡 1.1~1.6 |
腹膜炎/敗血症/重症感染症 1.2~1.3 |
発熱(1℃ごと) 1.2~1.3 |
●経口摂取以外のエネルギー量、しっかり把握していますか?
脳梗塞後の嚥下障害や、消化器疾患で絶食中の場合などは、食事メニューだけで栄養状態を判断することが困難です。
単純な嚥下障害の場合、静脈栄養より経腸栄養が選択されるケースが多く、経鼻胃管などから流動食が投与されることになります。
いっぽう、何らかの理由で腸管が使えない場合、静脈から栄養剤を投与することになるため、点滴で入っている栄養剤の成分を知っておく必要があります。
流動食などは袋の表面にカロリー量や成分が記載されていますが、もしわからない場合は管理栄養士さんや主治医に確認するとよいでしょう。
静脈ルートから入る液体には、薬剤、維持輸液、栄養剤などさまざまな種類があるため、単に「点滴」とひとくくりにしてはいけません。
脱水状態で水分が必要なのか、電解質の補正が必要なのか、不足した栄養を補っているのかなど、最低でも点滴の目的を知っておくことが大切です。
特に、急性期における摂取エネルギー量は、静脈栄養+経腸栄養(経口+経管)の総量で考える必要があることを覚えておきましょう。
急性期では異化亢進と運動負荷量の調整が大切
侵襲の高い手術後や重症感染症の場合、栄養状態の評価はさらに複雑になります。
●急性炎症や重症感染症はエネルギー不足の状態
栄養は損傷した組織の回復や筋力アップのために必要不可欠ですが、全身で急性炎症が起こっているときや、重症の感染症の場合は注意が必要です。
たとえば、敗血症などで腸管の血流が低下している際は、嘔吐や下痢、消化管出血を起こさないために静脈栄養が選択されます。
そのため、計算上は必要カロリーを大きく下回ることになりますが、まずは感染症のコントロールに主眼が置かれます。
感染症や大掛かりな手術などで生体内に侵襲が加わった場合、体内の代謝変化は傷害期、異化期、同化期に分けられます。
傷害期では、一時的にエネルギー消費が少なくなりますが、その後の異化期では筋肉のタンパク質や脂肪の分解などで治癒のためのエネルギーが産生されます。
異化期に大量のエネルギーを摂取したとしても、そのすべてを防ぐことができず、余分な栄養は脂肪に変換されます。
つまり、急性期病院に入院して手術を受けた患者さんや、重症感染症で集中治療を行っている患者さんでは、その時期に適したリハビリが重要になります。
異化期と同化期を厳密に区別することはできませんが、高熱が続いている、炎症反応が高いなどの状態であれば、無理にリハビリを進めるのはNGでしょう。
●異化亢進が起こっている場合、どんなリハビリを実施するか
前述したように、明らかに炎症反応が高くて十分な栄養が入っていない時期に、早期離床を掲げてリハビリをガンガン進めるのはナンセンスです。
しかし、代謝を詳細に評価して、どのタイミングで栄養とリハビリをアップするのかという基準は残念ながらありません。
そのため、身体を修復するために栄養素が分解されているのであれば、消費カロリーの大きい運動は控えておくという考えをもつことが大切です。
具体的には、強い抵抗をかけての筋力トレーニング、歩行練習、長時間の座位保持練習などは負荷量的に厳しいかもしれません。
座位練習は介助下で行う、立位は車椅子移乗をするときのみ実施する、抵抗なしでの自動運動を行うなど、消費カロリーを少なくする工夫が大切です。
炎症が落ち着いて経腸栄養(経鼻胃管か経口摂取)が開始になり、必要カロリー量がある程度確保できたタイミングで、リハビリの負荷をアップするといいかもしれません。
まずは患者さんの栄養状態に目をむけてみよう
急性期における栄養管理は、手術や急性炎症などの影響もあり、計算式ですべてを把握できるものではありません。
しかし、栄養状態が悪い状況で運動を進めることは、効果が上がらないばかりか逆に筋力を低下させてしまう可能性もあります。
そのため、患者さんの栄養摂取ルート(経管や点滴)を確認する、必要カロリーと摂取カロリーを確認することが大切になります。
それを前提に、リハビリを進めるタイミングや負荷量の調整を行うことで、安全にリハビリを進めることができるでしょう。
苦手意識が強い分野かもしれませんが、まずは普段の評価に栄養という観点をもつことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考:
若林秀隆: PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 栄養ケアがリハを変える 第2版. 医歯薬出版, 東京, 2016.
NPO法人 PDN 栄養必要量の算出(2021年4月19日引用)
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士