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【LGBTフレンドリーな病院に①】LGBTの方も受診しやすい問診票の性別表記や対応のポイントは?

自治体で「パートナーシップ制度」が導入されるなど、LGBTの認知度が高まっています。
しかし当事者のなかにはLGBT特有の「受診しにくさ」で受診控えする方も。
LGBTの方も受診しやすい対応や問診票の性別表記について、医療機関の対応事例を紹介します。

ありのままの患者さんを受け入れる LGBTフレンドリーな病院に①

LGBTをめぐる社会変容

2021年4月 パートナーシップを導入している字自体が100に到達

LGBT(Lesbian・Gay・Bisexual・Transgender)など性的少数者についての認知度は近年大きく高まっています。

性的指向(恋愛感情や性的関心がどの性に向くか)や、性自認(自分が認識する性)は多様だと知られるようになり、たとえばSNS各社では性別の自由記述が可能となっています。
(Facebook米国版では58種類の性別が選択可能。)
参照:BUSINESS INSIDER メルカリも対応開始、Webサービスで広がる「第3の性」選択肢ー先行するFacebookは58種類の性がある

子どもも小学校低学年からLGBTやXジェンダー(男性女性のどちらかではないアイデンティティーの人)などいろいろな人がいること、ダイバーシティの考えを教育されています。
大学でもLGBTの学生に配慮が行われており、企業も入社試験のエントリーシートで性別欄を設けないところが出てきています。

「パートナーシップ制度」を導入する自治体も増えており、東京新聞が報じたところによれば、2021年4月1日には一気に21市区町が導入を開始し、合計100自治体に達しました。

また三重県では2021年4月1日よりいわゆる「LGBT平等条例」(性の多様性を認め合い、誰もが安心して暮らせる三重県づくり条例)が施行され、都道府県レベルで初めてのLGBTについての独立した条例制定となりました。

この条例では、性的マイノリティに関する差別的取り扱い・カミングアウト強制・アウティング(本人の意に反して性的指向などを暴露すること)が禁止されます。
このように大都市圏以外の地方都市でもパートナーシップ制度導入や条例施行が進んでいることから、全国的にLGBTへの取り組みの必要性が認知されてきているといえます。

企業でも大手・中小を問わず、LGBTに対する取り組みを行う「LGBTフレンドリー」を掲げる会社が増え、管理職や社員へLGBTの正しい知識について研修などを実施しています。

医療機関においても、職員にLGBT当事者がいることを想定し正しい知識の啓発に努め、患者としてLGBT当事者の方が来院する場合の対応方針を決めておく必要があります。

LGBTの患者すべてが配慮を求めている訳ではなく考えは多様ですが、「選択肢を増やす」「当事者が苦痛と感じる点を正しく理解する」ことが重要です。

特にLGBTの方には医療機関の受診をためらう人も存在します。
LGBTフレンドリーを掲げさまざまな配慮をする病院もありますが、まだまだLGBTの方が一般的な医療機関を受診するには困難を感じるケースが見られます。

具体的にどのような点が受診の妨げとなっており、どのような配慮が適切なのかをご紹介します。

LGBTの方に配慮した問診票の性別表記は?

問診票でも戸籍上の性と自認する性が違う方への配慮を

LGBTの方が医療機関を受診するとき、受付で問診票に記入するときに困るのが「性別欄」です。

「男・女」に〇をする形式では、トランスジェンダーなど戸籍上の性と自認する性が違う人、Xジェンダーでどちらの性別自認もない人は強く苦痛を感じることがあります。
またホルモン治療中であったり自認する性別に合わせた服装やメイクをしていたりする場合、健康保険証の名前から連想する性と見た目が違うことで注目されるのを懸念する人もいます。

医療機関での対応について、大阪府や京都市などの自治体では、ダイバーシティや性の多様性についてまとめた、企業や医療機関が参考とできるガイドブックが作成されています。
参照:大阪府 DIVERSITY性の多様性を考えるガイドブック
京都市 ダイバーシティLGBTの視点から考えるこれからの職場づくり

これらのガイドブック及び同誌で紹介された大阪の太融寺町谷口医院の取り組みを参考にすると、以下の工夫が考えられます。

<問診票の性別表記の工夫>

●問診票の性別欄を「男・女・(  )」などにする

「男・女・その他」とする、あるいは体の性と自認する性両方を書けるなど性別について自由表記できる場所を設けた性別欄にします。
海外の一部病院でも「男性/女性/その他」などとなっています。
参照:HUFFPOST Facebookの性別欄は58種類!男性でも女性でもない性のこと

●問診票の名前を書く欄の横に「フルネームではなく番号や名字、通称名で呼ばれることを希望する」と記載し選べるようにする

ホルモン療法の影響やファッションにより、見た目の性が名前から連想する性と違う人もいて、フルネームで呼ばれると周囲から奇異の目で見られ気になり受診しにくい人がいます。
性同一性障害の方には、自認する性の「通称名」を持つ人もいますので、このように記載し、「はい or いいえ」で答えられるようにしておきます。
「希望する呼称」(通称名など)を書ける欄も設けると、通称名を口頭で確認して周りに聞こえアウティングになってしまうリスクも減らせます。
参照:太融寺町谷口医院サイト 問診票ダウンロードページ

●月経や妊娠の可能性を問う欄がある場合は特に「答えづらい項目は診察時に医師に直接お話しください」と明記する

性別や体の話について、看護師にも知られたくない人もいます。
体に関するデリケートな内容は診察室で医師だけに話せる配慮があるほうが、当事者は診療に必要な情報を医師に開示しやすくなります。
こうすることで、診断にも影響する受診歴などがあっても安心して詳しく話してもらえ、病院側にとっても最善の治療法選択が可能になります。

●連絡先を書く欄は、家族以外のパートナーがいる場合も記入できるとなおよし

問診票や受付書類で家族の緊急連絡先を書くようにしている場合は、本人が希望すれば家族以外の同居するパートナー(同性を含む)などの連絡先も書けるとなおよいでしょう。

※手術同意や病状説明の立ち合いについて、LGBTパートナーにどう対応するのが望ましいかは、次回記事「【LGBTフレンドリーな病院に②】LGBTのパートナーには「家族」と同じように対応する?医療機関の現状と対応事例」でご説明します。

医療機関でLGBTの方に対応するときのポイント

「えー、あの人女だったの?」「ずいぶんかわいい名前しているんだな」何気ない一言に傷つけられることも

問診票のほかに医療機関でLGBTの方に対応するときにできる工夫・配慮のポイントをご紹介します。

【受付や待合室にて】

●患者の呼び出しは問診票で確認した通り、番号・名字のみ・通称名などで!

前述したように、問診票で「番号・名字・通称名など」で呼ぶという希望があれば、そのように呼び出します。
その場合、患者取り違え防止でフルネーム確認が必要なら、他人に聞かれない声のボリュームで確認したり、「氏名をご確認いただけますか?」と書類にフルネームが書かれているのを指さして見てもらい確認します。

●保険証と問診票の性別が違うこともある

LGBTの患者さんのなかには、保険証(健康保険被保険者証)に記載された性別と、問診票に書いた性別が違う場合も考えられます。
医療機関では患者が自認する性別のほかに、体の性別を医師が知らないと治療や投薬の判断が難しいこともあるでしょう。
その場合は診断及び治療上の安全のためどうしても体の性別の確認が必要なら、診察室で確認の必要性を説明して保険証に記載の性別を参考に医師が確認する、筆談にするなど周囲に聞かれないよう配慮して確認します。
(意図せず待合室の他患者へのアウティングとなってしまうリスクがあるため。)
「カルテに性別の記載が必要なら保険証に記載の性を採用する」「診察室で医師が確認する」などあらかじめ院内である程度の方針を決めておくとよいでしょう。

※「被保険者証に記載される性別」は、現状として出生証明書に書かれ戸籍に記載された性別が記載されており、この戸籍上の性別を変更するには「2人以上の医師から性同一性障害と診断され」「20歳以上」「婚姻していない」「未成年の子どもがいない」「生殖腺がないか機能がない」「ほかの性別の性器部分に近似する外観を備えている」の全要件を満たす必要があります。
保険証の性別表記に「自認する性」とは違う性別が書かれることは、当事者にとって非常に苦痛な場合がありますが、戸籍上の性別を変更するにはこのような高いハードルがあり、断念している人もいます。
医療従事者はこの点も理解して対応することが大切です。
ただしやむを得ない理由があると保険者が判断した場合は、被保険者証の表面の性別欄に「裏面参照」と記載し、裏面に戸籍上の性別を記載するといった配慮も許可されています。
参照:島根県松江市長あて厚生労働省保険局国民健康保険課長通知 国民健康保険被保険者証の性別表記について(回答)(平成24年9月21日)

●保険証には実名でなく通称名が記載されている場合がある

性同一性障害のある方については、保険証の氏名記載を保険者の判断で表面に「通称名」を記載し、裏面備考欄に「戸籍上の氏名」が記載される(逆の場合も)ことがあります。
これは2017年に厚生労働省が都道府県や医療保険者に発した通知に基づく措置です。
参照:厚生労働省平成29年8月31日通知「被保険者証の氏名表記について」、平成29年10月18日老健局介護保険計画課長通知「被保険者証の氏名表記について」

この通知内容によると

  1. 1)医療機関が診療報酬請求(レセプト)をするときには「被保険者証の表面に印字された氏名で請求」する
  2. 2)医療機関の診察券やカルテ等に記載する患者名は、被保険者証の表面に印字された名前と異なっても問題なく、患者に配慮し取り扱う

とされています。
したがって、患者が通称名の印字された保険証を提示した場合の対応について、病院の方針を明確にしスタッフで対応方法を共有しておく必要があります。

【診察室にて】

●聴診や触診などで肌を出してもらう必要がある場合は目的を丁寧に説明する

当事者によっては体を見られる・触られることに抵抗感を持つ方もいるので、肌を出してもらう必要があるときには通常より丁寧に触診の目的などを説明することで受け入れやすくなります。
また医師や最低限のスタッフ以外には体が見えないよう、パーティションやカーテン、診察室の戸をしっかり閉めるといった配慮も行い不安を軽減します。

●診察前後のスタッフの会話に注意!院内でアウティングを起こさない

医療機関ではスタッフ同士の会話もプライバシーに配慮して行うよう教育されていますが、確認として大きめの声で患者について伝え合う場面が見られることがあるのも事実です。
特にLGBTの方が受診されたときは「この人○○だって」「付き添いの人は同性パートナーだって」といった連絡事項が、診察待ちの患者さんたちに聞こえないよう細心の注意が必要です。

LGBT当事者へのアウティング行為については、近年社会からの見方もかなり厳しいものになっています。
これは2015年に一橋大学法科大学院の学生が同級生によるアウティングののち転落死した事件を契機として、アウティングが当事者に与える苦痛が社会に広く認知されたためです。

特にアウティング禁止を条例化している自治体では、アウティング被害者が自治体に申し立てを行うと、苦情処理委員会の斡旋によりアウティングした会社が謝罪、解決金をはらう事例もあり、職員教育で徹底することが必要です。
参照:日本経済新聞 「アウティング」異例の和解 企業謝罪、男性に解決金

アウティング対策は対患者だけでなく、病院スタッフ間の「職場の同僚の性的指向のアウティング防止」についても合わせて啓発し、職員の意識を変えていくことが重要です。

【その他設備面など】

●男女どちらでも使えるトイレ

設備上可能であれば男女どちらでも使用可能なトイレを設けると、氏名から連想する性別と見た目の性別が違う場合も安心して利用してもらえます。
(トランスジェンダーの患者のなかには、トイレの利用を我慢して身体的な不調を招くケースもあるほど、自認する性別と違うトイレを使うことに困難さを持っている人がいます。)

●集団検診では着替えの場所として男女どちらでも使える部屋も用意

LGBTのうちトランスジェンダーの約2割は、定期健康診断を受けていないといわれます。
一因として、更衣室や健診着の色が男女別になっていることがあります。
集団検診の際には男女どちらでも使える部屋を用意したり、男女同一のデザインとしたり、個別受診を可能にするといった工夫ができます。
特に個別健診を選べれば、検査項目が男女別となっている場合にも、病院側もプライバシーを守ることができます。

まずはLGBT対応の「ヒント」をつかむことからスタートを!

LGBTのニーズはさまざまですが、職員がLGBTの思いを知り、対応の「ヒント」をつかんでおくだけでも当事者が受診しやすくなります。
子どもたちもLGBT教育を受けている現代では、今後LGBTへ配慮した医療機関のほうが一般の患者からも高く評価される時代が来ます。
医療人材確保の場面でも、ダイバーシティの観点は重視されるので、最初は職員への知識の普及から、徐々に病院全体への対応を進めていただけると幸いです。

関連記事:【LGBTフレンドリーな病院に②】LGBTのパートナーには「家族」と同じように対応する?医療機関の現状と対応事例

参考:
厚生労働省 令和元年度厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書 Ⅱ.職場と性的指向・性自認をめぐる現状(2021年4月13日引用)
厚生労働省 多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて~性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内(2021年4月13日引用)
時事ドットコム 「アウティング」禁止条例成立 都道府県初、4月施行-三重県議会(2021年4月9日引用)
東京新聞 「パートナーシップ制度」導入が100自治体に 性的少数者の支援に広がり(2021年4月9日引用)
札幌市 札幌市LGBTフレンドリー企業の紹介(2021年4月9日引用)
株式会社Nijiリクルーティング 第3回LGBT-Allyシンポジウム開催レポート(2021年4月9日引用)
朝日新聞デジタル 性同一性障害で通称名記載 すべての健康保険証で可能に(2021年4月12日引用)
時事ドットコム LGBT、公共や家庭で パートナーシップ制度もー教科書検定(2021年4月15日引用)
学びの場.com 小学生にLGBTQを教えたら、予想外の展開が!(2021年4月15日引用)
医学書院 医学会新聞 医療者が知っておくべきLGBTQsの知識(吉田絵理子)(2021年4月15日引用)
中国新聞 「女性になりたい…法の壁は高く【虹色のあしたへ 性的少数者と社会】<1>(2021年4月23日引用)

  • 執筆者

    湖上ゆうこ

  • 大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。

    保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士

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