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【LGBTフレンドリーな病院に②】LGBTのパートナーには「家族」と同じように対応する?医療機関の現状と対応事例

LGBTの方が自治体の発行する「パートナーシップ証明書」などを提示した場合に医療機関はどう対応すべきか?あるいはパートナーをキーパーソンにしたいと伝えられた場合、病院は手術同意などをどうするか?
現状の課題と参考となる対応事例をご紹介します。

いろいろな家族に対応する LGBTフレンドリーな病院に②

【キーパーソン問題】「家族」の範囲を明文化している病院は約15%

パートナーが家族と認められないかもしれない不安

LGBTをめぐる社会情勢は近年急速に変化しており、パートナーシップ制度を導入する自治体も増え、LGBTも広く認知されるようになっています。
(「LGBTフレンドリー」と呼ばれる、LGBT当事者に配慮した企業も増えています。)
しかし、病院を受診することは、LGBTカップルにとってはいまだ高いハードルです。
特にコロナ禍では感染者の入院時に血縁者でさえも面会制限が実施され、ましてやLGBTカップルのように婚姻関係でも血縁者でもない人の面会は厳しいものになっています。
LGBTカップルにとって、パートナーが病気で入院したら医療機関で自分がどう扱われるかというのは心配の種なのです。

実際に医療機関でのLGBTの患者対応の現状について、2019年に三部倫子さん(調査当時:石川県立看護大学講師、2021年4月~奈良女子大学研究院准教授)が医療機関の看護部長にアンケート調査を実施しています。

三部倫子2019「『LGBTの患者対応についての看護部長アンケート』結果」

このアンケートは、東京都・石川県・静岡県内の「入院病床20以上の病院」の看護部長を対象とし、252件の回答が寄せられました。

アンケート結果によると「患者さんの家族の範囲を文章で明文化」しているかどうかという問いに、8割以上が「いいえ」と回答しています。
つまり、LGBT患者の配偶者に相当する内縁パートナーにも「家族」と同じように接するかは、多くの病院で院内規定がなく、スタッフの判断に任せられているといえます。

またアンケートでは「成人した患者に判断能力がない場合の手術の同意を誰からとっているのか」「看取りの場面に誰が立ち会えるのか」「ICUなど面会制限のある病棟で面会が可能な人の範囲」については、以下のように回答がありました(複数回答)。

【手術の同意】

親族のみ(44.8%)、親族と内縁の同性・異性パートナー(30.6%)、親族と内縁の異性パートナーのみ(10.3%)、その他(6.7%) ※ほかに「手術をしていない」=7.5%

【看取りの立会い】

親族と内縁の同性・異性パートナー(62.3%)、親族のみ(22.2%)、親族と内縁の異性パートナーのみ(8.7%)、その他(6.7%)

【ICU面会制限(の病棟で面会可能な人)】

親族と内縁の同性・異性パートナー(56.5%)、親族のみ(29.0%)、親族と内縁の異性パートナーのみ(4.8%)、その他(9.7%)

~以上、アンケート結果を要約~

以上から、看取りの立会いやICUなどでの面会についてはLGBTパートナーでも可能とする病院は多いものの、「手術の同意」は親族が重視される傾向があるといえます。

調査を行った三部倫子さんはアンケート結果に

「個人情報保護法では、本人の同意なしに他者に個人の情報を開示することはできないとされています。つまり、本人の意識がない場合、親族であっても代諾ができると法律上決められているわけではありません。しかし、医療現場では親族であれば代諾が可能で、それ以外の同性パートナーなどは難しいと判断される傾向がある
「多くの病院で同性カップルが『家族等』として扱われていない」

と分析を記載されています。

また同アンケート調査では、LGBTについての研修を実施したことのない病院が9割以上で、その多くから全職種・全職員向け研修の必要性があると回答がありました。
このことから、医療機関でLGBTパートナーへの対応を任せられる現場の職員も、LGBTについての知識や院内でのある程度の規定づくりを求めていると考えられます。

社会のLGBTに対する認識の高まりにより、今後LGBTで内縁パートナーがいることを医療機関に伝える患者さんも増えてくると思われ、研修や方針の明文化も必要となるでしょう。

なお厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)では、本人の意思確認ができない場合の対応として、「家族等」と対処するよう記載されています。

※同ガイドライン「解説編」の注12にて、「家族等とは、(中略)本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みます」と説明もされています。

同省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日、令和2年10月一部改正)でも、「家族等」という表記がされていますし、このガイダンスでは「家族等への病状説明」は本人から申出があれば、「現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者」が説明を行う対象に加えられることになっています。

今のところ、LGBTパートナーへ「家族」と同等に接するかは医療機関の判断に委ねられて
いますが、以上の点も参考に院内の方針を話し合っておくことは、LGBTの患者が安心して療養できるためにも、スタッフの対応の不均衡などによるトラブル防止の観点からも大切になります。

パートナーシップ制度の「パートナーシップ証明書」などの法的効力は?

パートナーシップ制度 どこまで法的に認められているのか

多くの自治体で導入が進む「パートナーシップ制度」で、同性カップルに発行される「パートナーシップ証明書」。(ほかに「パートナーシップ宣誓書受領証」などと呼ぶところも。)

この証明書などにより、同性カップルが「結婚に相当する関係」であると自治体が認めると、親族や周囲に関係性を認められやすくなったり、一部民間・行政サービスの家族割や生命保険契約の受取人指定も利用でき、公営住宅申し込みの扱いが家族と同じようになったりするなどの利点はあります。

しかしこの証明書には、法的効力はありません。(2021年4月現在)

ただし証明書には法的効力がなくても、パートナーシップ制度を利用する同性カップルのなかには任意後見契約なども締結している場合もあり、この場合はパートナーに万一の事態が生じたら判断能力低下時の入院契約・医療費支払い・財産管理などを行うことができます。

なかには渋谷区のように、自治体がパートナーシップ制度利用時に「任意後見契約」や「合意契約」を公正証書作成により締結しておくことを条件としているところもあります。

参考:渋谷区パートナーシップ証明 任意後見契約・合意契約公正証書作成の手引き

これらに遺言、財産管理委任契約、死後事務委任契約(死後の一通りの手続きを本人からパートナーに委任する契約)をプラスし、パートナーの権利を補完することもあります。

さらに通常の後見人契約ではカバーできない、「医療行為に対する意思表示」についても、公正証書(合意契約書など)に「病状説明や治療方針をパートナーに相談し尊重してほしい」など本人の意思表示を記載していることもあります。

このような契約を結んでいる場合は特に、医療機関も同性パートナーを実質的なキーパーソンと考える必要性が出てきます。

パートナーシップ証明書などを提示されたら、患者にとって「婚姻関係にある夫婦と同じ」重要な存在だと理解し、ほかにもこうした契約をしている可能性にも留意しましょう。

ほかにもパートナーシップ宣誓を行うと、(行政に対し)亡くなったパートナーの個人情報開示請求ができる(保有個人情報開示請求)という自治体も出てきており、今後パートナー証明書などの利点はさらに広がる見通しです。

なにより、同居しているパートナーなら特に、患者の普段の体調や生活習慣、本人の希望について一番良く知っているので、医療機関にとっても治療の重要なパートナーとなります。

LGBTのパートナーも「家族と同様」などの対応をしている病院の事例

パートナーも家族と同等の対応を受けられる事例の紹介

医療機関のなかには、パートナーシップ証明書(自治体や民間団体が証明するもの)などがあれば、患者本人の希望で同性パートナーを「家族と同様」に対応するところもあります。
参考として以下に事例を紹介します。

●江戸川病院

東京都江戸川区の江戸川病院では、ダイバーシティ推進の一環として、民間の「一般社団法人Famiee」が発行する家族関係証明書「パートナーシップ証明書」を利用しています。

参考:江戸川病院のFamiee Projectへの参画について

江戸川病院では職員がFamiee Projectのパートナーシップ証明書を利用できることで、法律上家族と認められない職員にも、家族同様の福利厚生が受けられるようにしています。

患者に対しても、パートナーシップ証明書を持参した場合、インフォームドコンセントへの同席・ICUへの入室・手術や輸血の同意書へのサインについて、家族と同様の対応をするとしています。

同院が賛同するFamiee Projectは民間の機関ですが、ほかにもいくつかの医療機関、日本航空やみずほフィナンシャルグループ、損害保険ジャパンなど多くの企業が利用しています。

※自治体発行のパートナーシップ証明では、転出すると転入先自治体で証明再取得が必要な場合もあり、民間のパートナーシップ証明発行とそれに賛同する企業も広がっています。

●横須賀市立病院(市立市民病院、市立うわまち病院)および救急医療センター

横須賀市では、市立病院において同性パートナーによる患者の手術同意書サインについて、親族と同等の対応をしています。
 
参考:横須賀市 市立病院における手術の際の同意の取り扱い

また市内の救急医療センターおよび消防局救急隊で、救急搬送された患者の同性パートナーが、同行や来院し病状説明を求められた場合について、対応を取り決めています。
 
参考:横須賀市 同性パートナーの救急搬送時の情報照会及び市立病院の手術の同意について

これによれば、搬送患者の同性パートナーには以下のように対応することになっています。

  • ○患者の意識があれば本人の同意を得た上でパートナーに情報提供をする
  • ○患者の意識がない場合は、関係者であることを確認した上で情報提供をする
    ※電話による問い合わせには情報提供しない

(以上、原文を一部要約)

手術の署名には「3年ほど一緒に過ごし、周囲からパートナーとして認められていること」「関係性は親族に確認する」と、身内にカミングアウトしていないカップルには厳しい条件はありますが、まずは明文化されたことで安心して受診できる患者もいることでしょう。

●神奈川県立病院機構(足柄上病院/精神医療センター/循環器呼吸器病センター)

地方独立行政法人神奈川県立病院機構では、公式サイトの「各種規定等」のページで、同性パートナーへの対応について2019年時点の規定を公開しています。

参考:神奈川県立病院機構における同性パートナーへの病状説明及び治療に係る同意について

この規程の内容は

  • ○足柄上病院:これまで事例はないがパートナーがキーパーソンと認められれば対応する
  • ○精神医療センター:医療内容により異なるが、一部の診療においては本人とパートナーの複数の申告があれば説明への同席を実施している
  • ○循環器呼吸器病センター:医療の内容により異なるが、患者本人がパートナーを代理人として指名した書類(意思表示書)などがある場合は、説明への同席・医療同意を実施している

(以上、原文を一部要約)

となっています。

機構のすべての医療機関で同性パートナーに家族と同じような対応をしているわけではないですが、実際にLGBTカップルに対応する事例が発生した医療機関は、検討の上で「家族と同様」とみなした対応をとっているといえます。

LGBTの患者やパートナーに方針を説明できる「準備」が大切!

LGBTの患者のパートナーについて、面会・病状説明や手術同意をどこまで認めるかは、医療機関ごとの事情もあり、考えが分かれるところでしょう。
しかしいざLGBTの患者と接するときは、患者本人の意向により、パートナーをキーパーソンとして考慮すべき場面が出てきます。
パートナーも「家族」ととらえる医療機関が増えていく以上、方針をLGBTの患者やパートナーに説明できるよう準備しておくことが重要です。

関連記事:【LGBTフレンドリーな病院に①】LGBTの方も受診しやすい問診票の性別表記や対応のポイントは?

参考:
NHK 「家族だけど家族じゃない」制度開始から5年 広がりと不安と(2021年4月19日引用)
司法書士CFP鈴木事務所 同性パートナーシップ証明に法的効果を持たせる任意後見契約(2021年4月19日引用)
若林・平子・内田司法書士事務所 同性パートナーシップ合意契約書(2021年4月19日引用)
神奈川新聞社(カナロコ) 性的少数者を支援 手術同意 同性パートナーも可(2021年4月20日引用)

  • 執筆者

    湖上ゆうこ

  • 大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。

    保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士

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