急性期でも退院前訪問指導は必要?評価のポイントについて解説します
回復期リハビリ病棟では、退院後の生活に必要な動作能力や生活環境の評価を目的に、退院前に患者さんの自宅を訪問することがあります(退院前訪問指導)。
しかし、急性期や亜急性期においても退院前訪問を行うケースもあり、「行くことになったけどどうすればいいの?」と悩む方もいるでしょう。
なぜ急性期で退院前訪問が必要なのか、どんな知識や技術が必要なのかについて解説していきます。
急性期でも退院前訪問指導が必要な理由とは
退院前訪問=回復期リハと思うかもしれませんが、急性期でも訪問が必要となるケースがあります。
●廃用症候群や内科系疾患の場合
急性期病院では、手術や投薬などの初期治療を行い、状態が安定すれば早期に退院をするという流れが一般的です。
リハビリに関しても、ある程度動けるようになるか、術後◯日経過すれば退院(または転院)となるケースがほとんどでしょう。
整形疾患や脳血管疾患の場合、回復期病院に転院してリハビリを継続するという流れがありますが、呼吸器疾患や廃用症候群の場合は要注意です。
「廃用症候群は回復期の適応疾患だ」と思うかもしれませんが、スムーズに受け入れ先が決まらないケースも多いです。
ほとんどの回復期病院において、疾患別割合では脳血管や整形外科が大半を占めています。
公言はされていませんが、FIM利得が低い、脳血管に比して収益性が低い、原疾患や患者さんの状態が複雑であるなど、さまざまな理由があるでしょう。
なんらかの理由でほかの一般病棟にも転院できない場合では、自宅退院に向けて急性期でリハビリを続けていくことになります。
その際、自宅環境の評価や必要な福祉用具の検討などが必要であれば、急性期でも退院前訪問指導に行くことになるでしょう。
●独居で退院先や今後の方針が定まらない場合
核家族化や都心部への人口流出などの影響で、高齢者二人暮らしや独居の方が増えてきています。
また、独居生活でもADL全般が自立しているケースや、介護保険サービスや親族の介助のもと生活を行っているケースなど、さまざまなパターンがあります。
たとえば、独居の高齢者が肺炎で入院となり、歩行補助具がないと歩けない状態になった場合、家屋環境によって自宅生活の可否が左右されることもあります。
寝室からトイレまでに段差はあるのか、手すりは設置できるのか、廊下に歩行器が通れる幅があるかなど、確認するべき項目は多いです。
回復期病院への転院が難しく、かつ自宅生活が可能かどうかで今後の方針が変わってくる場合などは、急性期病院からの退院前訪問が重要になるといえるでしょう。
退院前訪問指導に必要な知識や準備しておきたいアイテム
患者さんの家を訪問する際、医学的な知識以外で知っておくべきことや、持っていると便利なアイテムについて解説します。
●日本家屋の基本的な構造について知っておこう
退院前訪問指導では、退院後の生活空間や動線の把握、必要な福祉用具の選定などに加え、家屋改修の必要性についても検討する必要があります。
改修箇所については、玄関や屋内の段差解消、手すりの設置などが多く、ほかの医療職や介護職、福祉用具メーカーから意見を求められることもあります。
リハビリ専門職として、どの動作に介助が必要か、どこに手すりがあればいいかなどの判断はできますが、実際に設置を検討する上ではいくつか注意点があります。
たとえば、手すりを設置する箇所(壁など)を決める際、自分が考えている箇所に設置できるのかを知っておくことが重要です。
壁にもいろいろな構造がありますが、石こうボード構造の場合だと、本柱と間柱に石こうボードを貼って固定しています。
そのため、石こうボードのみの箇所に手すりを設置しようとしても、強度不足で石こうボードごと崩れてしまいます。
そのため、専用の工具を用いるか、壁をコンコン叩くなどして間柱の位置を特定しなければなりません。
患者さん本人やご家族は自宅の詳細な構造まで把握していないこともあるので、担当セラピストに基礎的な知識があれば、改修業者と具体的な話をしやすくなるでしょう。
●撮影ができるスマホやタブレット、長いメジャーは必須アイテム
前述した壁の構造以外にも、湿気対策のために床下が高くなっているなど、日本家屋における共通点がいくつかあります。
段差を解消するための1つの方法として、スロープの設置が挙げられますが、どこにでも設置できるわけではありません。
たとえば、家族が車いすを押してスロープを上がる場合、1/8程度(高さ/距離)の勾配が望ましいですが、構造上の問題で十分な距離がとれないかもしれません。
また、車いすで移動できる昇降機を設置する場合は100×100程度のスペースが必要となりますが、確保できるか否かでは生活スタイルが大きく変わります。
そのため、距離を計測するためのメジャーや、現場の状況を確認するための写真(スマホなどで撮影)があれば便利です。
また、現場の写真は帰院後に報告書を作成する際にも便利なので、本人や家族の許可が得られた場合は積極的に記録するようにしましょう。
退院前訪問指導ができない場合の対策と注意点
時間やマンパワーの関係上、家屋の訪問ができないことも多いですが、その場合の代替案についてご紹介します。
●ご家族に家屋の写真を撮ってもらう
筆者も何回か経験しましたが、ご家族のスマホなどで自宅の写真を撮っていただき、それをもとに対応を考えることもできます。
また、必要に応じて段差の高さを計測してもらったり、福祉用具を配置しようとしているスペースを確認したりと、有用な情報を得ることができます。
現在、コロナ禍でほとんどの病院が面会を制限されているため、LINEなどでテレビ通話をしている患者さんもいます。
その場合、患者さん同意のもとで必要な環境を確認するとよいでしょう。
●介護認定がある場合、ケアマネジャーさんに伝達する
患者さんが独居であっても、要介護認定を受けている場合は担当ケアマネジャーがついています。
ケアマネジャーは定期的に患者さん宅を訪問しているので、ある程度は自宅環境や本人の動線などを把握しています。
また、どこに手すり設置や段差解消が必要なのか、ほかに必要な福祉用具はないのかなど、より専門的な話をすることができます。
デイサービスの送迎ではどこまで介助が必要なのか、転倒予防のために気をつけるポイントはどこかなど、退院後の生活についても確認しておくとよいでしょう。
●退院前訪問指導は必ず家屋を訪問しないといけない
担当セラピストの都合で退院前訪問ができない場合、前述したような対応をすることで退院をスムーズに行うことができます。
退院前訪問指導は580点の診療報酬がついているため、収益性を考えた場合は可能なかぎり行うことが望ましいです。
しかし、退院前訪問指導は必ず患者さんの自宅を訪問しなければならないため、「同意義の指導を行った」だけでは算定することができません。
臨床業務を疎かにして退院前訪問をすることは本末転倒であり、自身のスケジュール管理をしっかりとした上で計画的に行いましょう。
退院前訪問指導ではセラピストに多くのスキルが求められる
急性期病院における退院前訪問指導では、限られた時間のなかで効率よく行う必要があり、医学的知識以外にも多くのスキルが求められます。
リハビリ専門職は、身体機能やADL、福祉用具に関する知識など多くのことを学びますが、実際の自宅生活ではそれらすべてを関連づけて考える必要があります。
また、ケアマネジャーや福祉用具業者など、他職種と現場で直接やりとりすることで、スムーズな退院支援を行うことができるでしょう。
「退院後の生活スタイルが見えない」、「なにを準備すればいいかわからない」と悩むのであれば、百聞は一見にしかず、まずは自身の目で確認してみてはいかがでしょうか。
-
執筆者
-
皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士