心リハを立ち上げる!心大血管リハビリテーションの施設基準を取得するためのポイントは?
2019年に脳卒中・循環器病対策基本法が施行され、循環器病の予防や指導できるスタッフの育成など、医療機関が取り組むべき課題が明確になりました。
循環器疾患リハビリの診療報酬(心大血管リハビリテーション料)を算定するためには、いくつかの施設基準を満たす必要があります。
心大血管リハビリテーションの施設基準を取得するための条件や、収益性を上げるためのポイントについてご紹介します。
心大血管疾患リハビリのハードルが高い理由
よく「心臓リハビリのハードルは高い」という声を聞きますが、その理由について考えてみたいと思います。
●心大血管リハビリテーションの施設基準とは
心大血管リハビリテーションの施設基準に関しては、関係スタッフ、機器や設備、必要スペースなどから構成されます。
◯必要なスタッフ
心臓リハビリを実施するにあたり、最低でも以下の3職が必要になります。
- 1)医師
心臓リハビリを実施する時間帯に循環器内科または心臓血管外科の医師が勤務していることに加え、心臓リハビリの経験を有する医師が1名以上勤務している必要があります。 - 2)看護師と理学療法士
心臓リハビリの経験があり、心臓リハビリ業務を専従とする理学療法士または看護師が、合わせて2名以上勤務している必要があります(1名は専任でも可)。
◯必要な機器や設備
心臓リハビリを実施するにあたり、いくつか特殊な機器が必要になります。
- 1)酸素供給装置v
- 2)エルゴメーターまたはトレッドミル
- 3)除細動器や救急カート
- 4)心電図モニター
- 5)運動負荷試験装置(施設内にあれば可)
◯必要なスペースや設備
病院では30㎡以上、診療所では20㎡以上のスペースが必要となりますが、リハビリ室の面積によっては十分対応可能な範囲です。
しかし、心臓リハビリを実施する時間帯において、ほかの疾患別リハビリテーションとスペースを共有することはNGです。
同時刻に行う場合、それぞれの疾患別リハビリテーションの施設基準に挙げられているスペースを確保する必要があります。
設備としては、急変が生じた場合に治療できる設備があるか、または早急に治療が行える連携施設があるかなども要件に挙げられます。
●機器が高価、マンパワー不足がネックになる?
前述したように、心臓リハビリを開始するにあたって専用の機器を準備する必要があります。
エルゴメーターやトレッドミルに関しては1台購入するにも数十万円から数百万円ほど必要となり、なかなか手が出ないと頭を悩ませるでしょう。
負荷心電図に関しても、トレッドミルや血圧計などとシステム接続するのであれば、工事費用などが別途必要になります。
新規で一通り揃えるのであれば、メーカーからの見積額は数千万円にものぼるでしょう。
また、心臓リハビリを経験している医師やメディカルスタッフに関しても、新規採用するか育成するための人件費が必要になります。
「心臓リハビリはお金がかかる」というイメージもあり、新規立ち上げに二の足を踏んでいる施設も多いのではないでしょうか。
必要機器と人員をいかに確保するかがカギ
心大血管の施設基準を取得するにあたり、いかに低コストで効率よく条件を満たすかがポイントになります。
●エルゴメーターと負荷心電計は必須
ほとんどの医療機関において、酸素供給装置やAEDなどは施設内に設置されているため、新規購入する必要はありません。
しかし、エルゴメーターや負荷心電計、モニター心電図などを常設している施設は少ないでしょう。
医療機器メーカーが販売している負荷装置やエルゴメーターなどは、同期させるシステムを導入することによって遠隔操作やデータ出力などが可能になります。
そのため、費用も1セット当たり数百万円は必要になるため、予算的な問題で心リハを開設できない施設も多いでしょう。
ところが、施設基準の取得上必要となるこれらの機器は、必ずしも「同じメーカーで遠隔システム導入が必要」とは明記されていません。
要するに、エルゴメーターやトレッドミルを行う際、心電図がチェックできる体制であることがポイントになります。
また運動負荷試験に関しても、必ずしも呼気ガス分析を用いた心肺運動負荷試験を行う必要はなく、エルゴメーターと負荷心電計があればOKです。
すでにエルゴメーターやトレッドミルを所有しているのであれば、前述した必要面積や実施時間に注意すれば、心リハの機器として使用することが可能です。
●「経験のあるスタッフ」は必ずしも心臓リハビリの経験者でなくてもいい
施設基準取得において、マンパワー不足で悩む施設も多いと思いますが、新規採用で経験者数名を雇う必要はありません。
そもそも、これから心リハを立ち上げる施設に経験者がいるはずがないので、この「経験を有する」というワードをどう解釈するかがポイントです。
一番理想的なのは、心臓リハビリテーション指導士(心リハ指導士)を取得したスタッフが数名(医師1名、看護師または理学療法士が2名)でしょう。
しかし、心リハ指導士を受験するためには、2年間の会員経験に加えて、症例報告を作成するために他施設での研修が必要になります(自施設で心リハを実施していない場合)。
そのため、「循環器疾患のリハビリ」や「運動処方」に関する研修会の修了証明書などで代用するのも1つの方法です。
その講習を修了し、かつ循環器疾患の患者さんのリハビリに携わっていることが証明できれば「経験のある」スタッフとして申請することができるでしょう。
ただ、勤務している施設が整形外科クリニックや内科系の患者さんが全くいない施設の場合、研修修了だけでは申請が難しいかもしれません。
収益性を上げるために押さえておきたいポイント
心大血管疾患リハビリの施設基準を取得するためには、研修費用や機器の購入費用など、ある程度の出資は必要になります。
心臓リハビリにおいて、収益性をアップするためのポイントについてご紹介します。
●心臓リハビリ外来での集団療法がカギ
心大血管リハビリテーションは、ほかの疾患別リハと異なり、集団療法が実施可能になっています。
診療報酬上は、外来リハビリでは医師または理学療法士1名につき20名程度、作業療法士や看護師1名につき8名程度が妥当であると明記されています。
また、心臓リハビリの実施中、医師は常時連絡が取れる場所にいるのであれば、リハビリ室にいなくても問題ありません。
そのため、理学療法士1名で外来患者さん複数人(施設の設備などに合わせた人数)を1時間担当すれば、205点×3単位×人数分の収益となります。
エルゴメーターの台数が足りない場合などは、有酸素運動と筋力トレーニンググループに分けてローテートするなどの工夫もいいでしょう。
ただし、収益性だけをみてキャパを超える人数を対応することは、事故のリスクや提供サービスの質などの観点から避けるべきです。
患者さんのリスクを層別化し、リハビリ担当者のスキルや運動スペースなどを考慮し、安全面と収益性を並行して考えることが大切です。
●心大血管リハビリ10単位分に相当、心肺運動負荷試験(CPX)を活用する
心肺運動負荷試験(CPX)とは、呼気ガス分析装置や負荷心電計を用いて、体力の指標である酸素摂取量を評価する検査を指します。
上記機器に加えてエルゴメーター(またはトレッドミル)や自動血圧計などが必要になるため、検査機器一式で数百万円の出費になります。
しかし、CPXは検査1件につき2,120点(負荷試験1,600点+呼気ガス分析520点)とかなりの高額であり、リハビリ約10単位分に相当します。
1日1件ペースで行うとすれば、月20件、年間240件ほどになるため、年間で5,088,000円
もの収益になります。
実際には人件費なども絡んでくるため純利益にはなりませんが、それでもかなりの収益性になります。
また、CPXは収益性だけではなく、患者さんが安全に運動ができる強度を客観的に評価したり、最大負荷時に不整脈が出現しないかなどの評価としても有用です。
初期投資が高額になりますが、心リハを立ち上げるのであればCPXを実施できる機器は購入しておきたいところです。
施設基準取得は心臓リハビリのスタートライン!
心大血管疾患リハビリテーションの施設基準は、必要な機器やスタッフの育成など、ほかの疾患別リハビリにくらべると、取得するまでのハードルは高いといえます。
しかし、リハビリ時間に配慮してスペースを確保する、すでに所有している機器を活用するなど、工夫次第でクリアできるケースもあります。
循環器病対策基本法が施行された現在では、循環器疾患の治療や予防は国をあげて取り組む課題であり、今後は心臓リハビリのニーズも高まります。
施設基準取得はそのスタートラインですが、心臓リハビリに正解はないため、自分たちの施設の特色などを踏まえ、運用方法や方針について検討していくことが大切です。
参考:日本循環器学会 日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年5月26日引用)
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士