在宅酸素療法(HOT)を導入するとき、リハビリ担当者が行う評価とは?
肺炎や慢性閉塞性肺疾患の患者さんを担当した際、一時的に酸素投与をしながら運動をすることも多いです。
しかし、呼吸機能が元通りに改善しない場合、退院後も酸素療法を継続する必要があり、在宅酸素療法(HOT)を導入する必要があります。
HOT導入の際にどのような評価が必要なのか、退院後の生活において必要な指導内容などについて解説します。
在宅酸素療法の適応疾患や導入までの流れ
HOTが適応となる疾患や、導入するにあたっての流れ、患者さんが負担する費用などについて解説します。
●HOTの適応は慢性呼吸不全や慢性心不全
慢性閉塞性肺疾患や肺線維症などの呼吸器疾患や、慢性心不全で睡眠時無呼吸などがあり、自宅生活において酸素が必要となる疾患が適応となります。
しかし、上記疾患であれば誰でも適応になるわけではなく、導入するためにはいくつかの検査が必要になります。
慢性呼吸不全においては、動脈血酸素濃度が55mmHg以下、または60mmHg以下であり、運動時に低酸素状態が悪化することが条件になります。
その結果をもとに医師がHOTの適応であると判断した場合に導入となります。
タイミングとしては、呼吸器や循環器の治療が一段落して退院が見えてきた時点で、安静時は酸素が不要だが労作時の呼吸苦がある場合に検査が行われます。
運動時の低酸素評価に関しては、時間内歩行試験(6分間歩行試験)が行われ、その前後での酸素飽和度や呼吸数の変化、歩行距離の記録などが必要です。
医師以外での検査者としては、看護師や臨床検査技師でも可能ですが、歩行能力の評価という観点から理学療法士が実施している施設も多いと思います。
●毎月の費用は医療費の負担額で変わってくる
HOT導入にあたり、「高価な機器だから高いんじゃないか」と心配になる方もおられますので、費用面についてもしっかり説明しておくことが大切です。
以下にHOT導入にあたって算定される診療報酬を挙げてみます。
- ◯在宅酸素療法指導管理料 2400点
- ◯酸素濃縮器加算 4000点
- ◯携帯用ボンベ加算 880点
- ◯呼吸同調式デマンドバルブ加算 300点
- ◯在宅酸素療法材料加算 100点
これらすべてが算定されると7680点となり、3割負担で23,040円/月、1割負担なら7,680円/月になります。
負担額としては大きいため、患者さんが「経済的に厳しいからやめる」とならないように、HOTの必要性をしっかりと説明しておく必要があります。
酸素流量の評価を行うのはリハビリ専門職
HOTを導入するにあたって、リハビリ専門職が行う評価がいくつかあります。
●酸素投与量は慎重に決めよう
HOTを導入するにあたって、酸素投与量の設定が重要になりますが、投与量を決定する際にも注意が必要です。
多くの場合、安静時◯L、運動時◯Lというように、状況に合わせて投与量を調整しますが、闇雲に増やせばいいというわけではありません。
HOTに限ったことではありませんが、慢性呼吸不全の患者さんに多量の酸素を投与した場合、呼吸中枢が抑制され、CO2ナルコーシスになる危険があります。
また、投与酸素量が多い場合、ボンベの酸素量が減る速度がアップするため、外出時に残量がなくなる可能性もあります。
そのため、必要最低限の酸素量を見極める必要があり、運動中のSpO2の評価が重要になります。
●患者さんの活動範囲を評価しよう
前述した通り、酸素流量は慎重に決める必要がありますが、その1つの目安として患者さんの活動範囲が挙げられます。
たとえば、6分間歩行で200m歩くとSpO2が80%まで低下する、酸素を2Lから4Lにアップすると90%維持ができるとします。
SpO2は高く維持しておきたいという理由で運動時4Lと決定したくなりますが、その前に患者さんの活動範囲を考えることが大切です。
たとえば、「家の中しか動かない、外でもせいぜい100mほど」という活動範囲であれば、そもそも4L吸入の必要はないでしょう。
2L吸入下で100m歩行後も90%以上維持できるのであれば、運動時2Lという評価で問題ないでしょう。
逆に、屋外での活動量が多い方の場合は、2L吸入下で動ける範囲はどの程度なのかを評価しておくことが大切です。
HOT導入後、退院時に指導しておくべきポイント
HOT導入にあたり、火の元に気をつける、ボンベ残量に気をつける以外にも、事故防止のために必要な指導があります。
●決められた流量は必ず守るように指導する
6分間歩行評価で酸素流量が決定したとしても、患者さんの自覚症状がない場合は注意が必要です。
「ちょっとトイレに行くだけだから外している」、「息苦しくないからつけていない」など、自己判断で酸素療法を中断する方もおられます。
特に慢性呼吸不全で低酸素の状態が長い患者さんの場合、呼吸苦などの自覚症状とSpO2に乖離が生じることがあります。
SpO2が80%に低下しているのに自覚症状がないというケースもあるため、息苦しくない≠酸素が十分ということを説明しておきましょう。
低酸素状態が長く続いた結果、肺血管が攣縮して肺高血圧症が悪化し、右心不全(肺性心)の状態になるリスクがあることも説明しておくことが大切です。
また、機器によっては、設定の1や3などの数値が酸素流量を表していない(3≠3L)こともあるので、流量の表示方法を確認しておくことも重要になります。
●酸素の吸入方法について確認しておく
自宅内に設置する酸素濃縮器や携帯型酸素ボンベでは、常に一定の酸素量が流れる連続式と、吸気に同調して酸素が流れる同調式があります。
外出時など、携帯型を長い時間使用するときなどでは、ボンベ内の残量を節約するために同調式に設定されることが多いです。
同調式では、鼻からの吸気がトリガーとなって酸素が送り込まれるため、口呼吸をしていると感知しないことがあります。
患者さん本人は酸素吸入しているつもりでも、実は吸えていなかったというトラブルも考えられるので、吸入パターンの確認と適切な指導が重要です。
●パルスオキシメーターで酸素飽和度をチェックする
在宅酸素機器を導入する際、パルスオキシメーターも同時にレンタルすることができます。
労作時の酸素量は6分間歩行での評価をもとに決定しますが、退院後の生活において呼吸状態が一定であるとは限りません。
季節の変わり目や体調を崩したときなど、設定した酸素量では対応できない場合もあります。
常にパルスオキシメーターで自己評価をする習慣をつけていただき、異常があればかかりつけ医に報告するように伝えておくとよいでしょう。
測定時の注意点として、マニキュアを塗っている、指が冷たい、爪が分厚い場合などは正確な数値が出にくいため、数字上は低値だけど実は正常範囲であることも多いです。
そのため、SpO2が低くても自己判断で流量を変更しないように伝えておくことが大切です。
HOT導入後は呼吸機能維持とQOL向上が目標
HOT導入の目的は、低酸素状態を防ぎ、肺疾患や心不全の再発を予防すること、呼吸苦がなく自分らしい生活を続けられることです。
そのためには、リハビリ専門職による呼吸苦の評価、運動機能と生活背景を考慮した酸素投与量の決定など、運動負荷中の評価が重要になります。
ただし、評価のタイミングは退院直前であることも多く、呼吸器の患者さんを担当した際はHOT導入の可能性も視野に入れておくとよいでしょう。
呼吸器疾患を担当するリハビリ専門職は、適切かつ長期的な視点で評価ができるように、呼吸や循環の生理学を復習するなど、しっかりと準備をしておくことが大切です。
参考:
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル(2021年7月5日引用)
帝人ファーマ株式会社 在宅酸素療法(HOT) : レンタルの仕組み(2021年7月5日引用)
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士