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クリニック・治療院 OGメディック

  • 奥村 高弘

    公開日: 2021年09月16日
  • リハビリ病院の悩み

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#リスク管理 #循環器

12誘導心電図から読み解く、冠動脈狭窄部位の判別とリハビリ時の注意点

心電図は非侵襲的な検査でありながら、不整脈や心筋の障害など多くの情報を得ることができます。
しかし、循環器を専門としていないリハビリ専門職にとって、「難しい」、「どう見ればいいかわからない」と悩むことでしょう。
12誘導心電図を見るうえで知っておくべきポイントと、リハビリ時のリスク管理にどう生かすかについて解説したいと思います。

12誘導心電図をリハビリに生かす

12誘導心電図では、心臓のどこを見ているかを理解する

まずは12誘導心電図に関しての基本的な知識をおさらいしてみます。

●標準肢誘導と胸部誘導を理解すると、モニター心電図に応用できる

12誘導心電図では、両手足に装着した電極と、胸の前面に装着した電極から心電図を読み取ります。
両手足に装着した電極は肢誘導、胸の前面は胸部誘導と呼ばれ、それぞれ6つの方向から心臓を見ています。
12誘導のそれぞれの名称とどの方向から心臓を見ているかを以下に挙げてみます。

どの部位に病変が発生しているか心電図から絞り込めます

肢誘導 胸部誘導
Ⅰ誘導 Ⅱ誘導 Ⅲ誘導 aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6
右室 中隔 前面 前面 前面 側面

病棟などで装着しているモニター心電図では、右鎖骨と左側胸部に電極を装着していることが多いと思いますが、この場合Ⅱ誘導に近い波形となります。
また、NASA誘導といって胸骨柄と剣状突起の部分に電極を貼る誘導では、V1〜V2誘導に近い波形になります。
つまり、12誘導心電図を理解することで、モニター心電図を装着する場合に自分が見たい方向を決めるなどのアレンジができるようになります。

●12誘導心電図では、心臓をどこから見ているかを覚える

前述したように、12誘導心電図ではそれぞれが異なる方向から心臓を見ていることがポイントであり、まずはこれらを覚えておく必要があります。
たとえば、Ⅱ誘導とⅢ誘導、aVF誘導で異常波形があれば、心臓の下の部分(下壁)が障害されている可能性があります。
同様に、V2〜V4誘導で異常があれば、心臓の前壁に異常があるかもしれないと考えることができます。
救急や循環器の医師は、急性心筋梗塞の疑いで搬送されてきた際、まずは心電図や心臓エコー検査で病変部位を絞り込み、その後のカテーテル検査で確定診断を行います。
リハビリ専門職にとっても、循環器疾患をもつ高齢者が増えていることから、12誘導心電図を理解しておくことはリスク管理の面からも重要であるといえるでしょう。

急性心筋梗塞は病変部位によって合併症のリスクが異なる

12誘導心電図を理解できると、狭心症や急性心筋梗塞など冠動脈疾患におけるリスクを把握することができます。

血管が閉塞すると心電図で虚血性変化が出ます

●12誘導心電図から冠動脈の病変部位を考える

12誘導心電図では、心臓のどの部分に障害が出ているかを把握することができますが、それと同時に冠動脈の病変についても推測することができます。
たとえば、心臓の前壁部分を栄養しているのは前下行枝という血管ですが、この血管が閉塞すると心臓の前壁部分が障害され、V3~V4誘導などで虚血性変化が出ます。
また、心臓の下壁を栄養しているのは右冠動脈(回旋枝の場合もあり)であるため、ここの閉塞では下壁を見ているaVFやⅡ〜Ⅲ誘導で異常が確認されます。
つまり、12誘導心電図を確認することによって、心臓のどの部分に異常が生じているか、冠動脈の血流異常がある場合、どの血管が原因かなどを推測することができます。

●前壁や中隔の広範な障害では僧帽弁閉鎖不全症に注意

心臓を栄養する3本の冠動脈のうち、前下行枝と呼ばれる血管は心臓の前壁部分や心室中隔などを栄養しています。
この前下行枝に狭窄や閉塞が起こり血流が不足すると、前壁や中隔が虚血状態となり、心電図上にも変化があらわれます。
実際には、aVLやV2〜V4あたりでのST低下が確認されることが多く、リハビリを続けるにはかなり危険な状態であるといえます。
前下行枝が栄養する部位に梗塞が起こると、心室中隔穿孔や乳頭筋断裂からの僧帽弁閉鎖不全症といった重篤な合併症が起こる可能性があります。
リハビリ中に患者さんから「胸が苦しい」という訴えがあり、心電図を確認してV2〜V4誘導でST変化が起こっている場合、運動を中止して主治医に報告するとよいでしょう。

●下壁の障害では徐脈に注意

主に心臓の下後壁を栄養している右冠動脈(回旋枝の場合もあり)は、最終的に下後壁を栄養する血管と房室を栄養する血管に分かれます。
そのため、右冠動脈に閉塞が起こった場合、房室結節への血流が途絶えるため、房室ブロックなど刺激伝導系の障害を起こす可能性があります。
心電図上、Ⅱ誘導とⅢ誘導、aVF誘導で虚血性の変化が起こっている場合、リハビリ中の心拍数を確認しておくことが大切です。

リハビリ時に注意すべきポイントと実施すべき評価は?

12誘導心電図と対応する部位の関係について理解できれば、リハビリ時のリスク管理にも役立てることができます。
リハビリ時における評価ポイントについて解説します。

●狭窄部位が判明している場合、モニター心電図の貼り付け場所を考える

12誘導心電図とモニター心電図の関係については前述しましたが、冠動脈疾患がある場合、電極の貼り付け位置を適宜変更することが大切です。
たとえば、担当している患者さんは右冠動脈に狭窄があり、運動中に虚血症状が出ないかどうかを評価したいとしましょう。
その場合、左側胸部に電極を貼る(Ⅱ誘導に近い波形)よりかは、V2誘導に近いNASA誘導を選択するのがベターです。
モニター心電図の場合、12誘導のうち1カ所しか確認できないため、できるだけ病変部位を見られるような位置に貼り付けることがポイントです。
ただし注意点として、もともと貼ってあった位置から変更した場合、モニター上の波形が変化するため、事前に担当看護師さんに連絡するようにしましょう。

●心電図とフィジカルアセスメントを組み合わせる

心音・心拍数も確認してリハビリを施術しましょう

冠動脈疾患のリハビリにおいて、12誘導心電図やモニター心電図で異常波形がないか確認することは大切ですが、それだけでは不十分です。
心臓が虚血によるダメージを負った場合、胸痛の前に心電図変化が、心電図変化の前に心臓の収縮能や拡張能が低下します。
そのため、「胸痛はない、心電図も大丈夫そう」と油断するのではなく、必ず血圧や呼吸苦の有無などもチェックしておきましょう。
心電図に加えて、最低限確認しておきたい項目を以下に挙げてみます。

血圧

リハビリ前とくらべて明らかに低下している場合、心臓の収縮力が低下している可能性があります。

胸部不快感や呼吸苦

心臓の収縮能や拡張能が低下した場合、また乳頭筋断裂で僧帽弁閉鎖不全症が起こった場合は肺うっ血を起こします。

心音と呼吸音の聴診

肺うっ血をきたしている場合、呼吸音では水泡音が聴取され、弁の閉鎖不全や心室中隔穿孔をきたした場合は心雑音が聴取されます。

四肢末端の視診と触診

末梢循環不全がある場合、末梢の冷感や皮膚の蒼白などがみられます。

12誘導心電図とフィジカルアセスメントを組み合わせることで、起こり得るリスクを想定することができ、結果的に急変の回避につなげることができるでしょう。

心電図を理解するには、見続けることが大切

リハビリ専門職にとって心電図はなじみのない検査項目であり、特に12誘導は「波形が多くてよくわからない」と悩む方も多いでしょう。
しかし、心臓の電気活動だけでなく、病変部位や運動時における心臓の負担など、数多くの情報を得ることができます。
心電図を理解するには数を見ることも大切であり、まずは見る習慣をつけること、そして病態をしっかり考察することから始めてみましょう。

関連記事:心電図入門!知っておきたい基礎知識と臨床でのリスク管理

参考:日本光電 電極装着のポイント(2021年8月11日引用)

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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