心臓リハビリテーションガイドラインが改訂!注目すべきポイントを解説します
心臓リハビリテーション(心リハ)に関するガイドラインは、2012年に発刊された「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」が主流でした。
しかし、2021年3月に「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版)」として大改訂が行われました。
新ガイドラインで注目すべきポイント、今後求められる心臓リハビリテーションについて解説します。
高齢心不全患者に対する心臓リハビリ
近年、心リハの対象患者さんは高齢化しており、心リハの内容や目的なども変わってきています。
●対象は冠動脈疾患から高齢心不全患者さんへシフト
心リハは、多職種がそれぞれの専門性を生かして介入し、運動能力や栄養状態の改善、QOL改善などを目的とした包括的な取り組みを指します。
心リハの起源としては、もとは急性心筋梗塞後の早期離床を目的にはじまったものであり、対象は冠動脈疾患に限局されていました。
その後、早期離床による運動耐容能の向上を目的とした運動療法、患者教育による二次予防が重要視されるようになってきました。
ただ、近年では高齢化率上昇により、心機能が低下した高齢者や、循環器疾患以外にも複数の併存症をかかえた高齢者が増えてきました。
高齢の心不全患者さんの場合、入退院を繰り返すたびに身体能力が低下する、老老介護のため疾病管理が難しいなど、新たな課題が浮き彫りになっています。
●目的は運動耐容能向上からADLの向上へ
心臓リハビリといえば、エルゴメーターやトレッドミルなどの運動機器をイメージする方も多く、たしかに運動耐容能向上は重要な目的の1つです。
しかし、対象者が高齢化してきたこと、リハビリのフィールドが病院から地域にシフトしていることなどから、その目的も徐々に変化しています。
具体的には、有酸素+筋力トレーニングというプログラムから、ベッド周囲での基本動作練習や歩行練習などが挙げられるでしょう。
高齢者では加齢にともない身体機能面や生活スタイルに個人差が出やすいため、それぞれ個別にリハビリの目標を設定していく必要があります。
●サルコペニアとフレイルの予防がポイント
本ガイドラインによると、高齢心不全患者さんのうち60〜82%がフレイルを合併しており、サルコペニア合併率は44%とされています。
そのため、心リハにおいてもフレイルやサルコペニアの対策が重要であり、ADL維持や転倒予防などが長期目標に設定されます。
「循環器疾患をもった患者さん」ではなく、「循環器疾患ももっている後期高齢者」という観点でリハビリを進めていくことがポイントです。
超高齢者の場合、従来の有酸素運動だけでなく、身体機能やADLをしっかりと評価すること、患者さんの生活スタイルに応じた目標設定と運動療法が重要になります。
そのため、身体機能評価のスペシャリストであるリハビリ専門職が果たす役割も大きくなってくるといえるでしょう。
心臓リハビリの対象疾患が拡大
心リハの対象として冠動脈疾患や心臓手術後(弁膜症や大血管疾患など)など多くの疾患が挙げられますが、近年ではさらに対象が拡大しています。
●肺高血圧症に対する心臓リハビリ
肺高血圧症とは、肺動脈圧が上昇した結果、呼吸苦を主とする症状を呈する疾患であり、肺というワードがついていますが、循環器疾患としての位置づけになります。
肺高血圧症では、低酸素状態が続くことによる骨格筋障害や、活動範囲が狭小化することによる廃用症候群などが問題となります。
肺高血圧症患者さんが運動療法を行うことで、酸素摂取量の改善や血管内皮機能の改善などが期待されます。
ガイドライン上では比較的高いエビデンスレベルとなっていますが、「経験豊富な施設において」という条件が明示されています。
肺血管障害が残存している場合、運動にともない肺循環の異常が生じる可能性があるため、運動強度や時間などを慎重に決定する必要があります。
心リハの対象として重要視されていますが、安全性や効果判定など、まだまだこれから研究が進んでいく疾患であるといえるでしょう。
●経カテーテル大動脈弁留置術後の心臓リハビリ
大動脈弁狭窄症に対する外科的治療は開胸による弁置換術が主流でしたが、新たに経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が保険適用となりました。
また、2018年の診療報酬改定においても、心大血管リハビリテーションの対象疾患としてTAVI術後が明記され、実施施設も増えてきています。
TAVIを簡単に説明すると、鼠径部からカテーテルを挿入し、大動脈弁まで運んだ人工弁をバルーンで拡張して留置する手技です。
この手技は人工心肺を使わない低侵襲手術であることが最大の特徴であり、超高齢者や低体力者に対しても適応となります。
ただし、上記のような患者さんが対象となるため、早期離床による廃用予防や栄養状態の改善など、術後リハビリにおける課題は多くなります。
また、患者さんによって身体機能やADLが異なるため、リハビリパスが適応とならないケース、退院支援が必要となるケースなどがあるでしょう。
心臓リハビリの対象疾患が拡大するなかで、従来は王道であった有酸素運動+レジスタンストレーニングという枠組みでは対応できなくなっています。
そのため、今後心リハに従事するスタッフには、循環器疾患に対する知識だけでなく、老年医学や介護予防など、さまざまな知識と技術が求められるといえるでしょう。
心臓リハビリも遠隔治療の時代に突入?
コロナ禍の影響により、各分野でリモート化が進んでいますが、心臓リハビリにも遠隔心リハという新たな方法が誕生しました。
●コロナ禍が心臓リハビリに与えた影響は?
新型コロナウイルス感染予防対策として、多くの医療機関では、外来心臓リハビリを中止にする、または規模を縮小して実施するなどの対応をとりました。
その結果、これまで外来リハビリに通院していた患者さんとの関係が一時的に途絶えるケースもでてきました。
そのため、外出機会の減少や活動量低下によってサルコペニアやフレイルが進行する、心不全増悪のため入院したなどの問題が挙がってきました。
これらの流れをうけて、自宅にいても運動療法が行える、リアルタイムで指導ができるというメリットから、遠隔心リハに注目が集まっています。
実際には、エルゴメーターをこぐ以外にも、医療スタッフが画面越しに運動指導を行う、体操を一緒に行うなどの取り組みがされています。
2021年の日本心臓リハビリテーション学会学術集会においても、遠隔心リハのセッションが設けられるなど、今まさに注目されている分野でしょう。
●遠隔心臓リハビリは今後普及してくるか?
遠隔心リハは感染予防の観点だけでなく、さまざまな事情で通院できない患者さんに対しても効果的です。
本ガイドラインにおいても、心リハ外来に参加できない理由として、アクセスの問題や時間の問題が大きな障壁であると報告されています。
また、老老介護の後期高齢者、僻地に住んでいる患者さんなど、外来でのフォローが必要な方ほど外来通院ができないというジレンマを抱えています。
そのため、遠隔心リハの普及によってこれらの問題が解決されるのではという希望も見出せますが、いくつかの課題もあります。
患者さんの側で指導ができないことで、少しの体調変化に気づくことができないため、運動強度の設定やプログラムの変更などが必要になります。
また、スマートフォンやパソコンなどモニターを通して双方向のやりとりが必要になるため、機器の設定をどうするかなどの問題もあります。
特に、後期高齢者ではこれらのデバイスに触れたことがないという方も多いため、誰にでも適応というわけにはいかないでしょう。
遠隔心リハの有効性は認識されていますが、全国的に普及するにはまだしばらく時間がかかるのではないでしょうか。
心臓リハビリは時代に合わせて変化している
新ガイドラインでは、後期高齢患者さんの心リハや遠隔心リハなど、新たな概念やアプローチ方法が記載されています。
心臓リハビリ=心電図をつけてエルゴメーターをこぐというのはもはや昔の話であり、心リハに従事するスタッフは常に知識のアップデートが必要です。
社会の動向を把握すること、自分たちの施設の特徴を理解すること、自分たちに求められていることを常に考え、創意工夫していくことが重要になるでしょう。
参考:
日本心臓リハビリテーション学会ホームページ(2021年7月30日引用)
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士