医療不信は、医療者とのコミュニケーションが原因で起こる!?患者さんとその家族へ、リハビリ看護師としての関わり方を考える
リハビリを進めていくにあたっては、患者さん本人の意欲はもちろんのこと、家族のサポートも欠かせません。
だからこそ、より医療者と患者、そして家族間での信頼構築が重要であり、看護師はその中心として働く必要があります。
そこで今回は、患者さんとその家族へ、リハビリ看護師としての関わり方を考えていきます。
目次
病と闘うことに対し、勇気を持っている患者さんだけではない
リハビリへ転棟・転院してきた患者さんのなかには、
「なぜこんなリハビリをやらなくてはいけないんだ」
「こんなつらい思いをするのなら、もうリハビリなんてしたくない」
など、リハビリに対して意欲が持てない方もいらっしゃいます。
そんな患者さんに対し、
「なぜもっと頑張れないのだろうか」
「今頑張れば、もっと良い結果が出るはずなのに」
と、つい患者さんに対して良くないイメージを持ってしまうことはありませんか?
しかし、ここで一度立ち止まり、患者さんがこれまでたどってきた経緯を振り返ってみてください。
患者さんはつい数カ月前までは、私たちと同じように日常生活において大きな支障を感じることなく、過ごしていました。
それがある日突然、病気やケガをによって日常生活に支障がでるほどの障害を負うことになりました。
そのため、なかなか病やケガを受容できず、リハビリに対して意欲を持つことが難しくなってしまうのは、致し方ないことだといえるでしょう。
そこでリハビリ看護師として、まずこの「患者さんは誰しも病気やケガと戦う勇気をもっていて、リハビリに対しても前向きに取り組めるとは限らない」という前提をおさえておくことが大切です。
そしてこの「前提」を理解することで、患者さんに対しても「リハビリに対して意欲がない、困った患者さん」というイメージから「患者さんは今受容のどのプロセスにいて、それに対して看護師としてどのように関わっていけばいいのか」についてのアセスメントを始めることができます。
家族に対して行う「説明」は「相手がどれだけ理解しているか」を重視
患者さんやその家族にきちんと説明したにも関わらず、実際に行った際に「話と違う」と反論され不信感をもたれてしまった、という経験はありませんか?
なぜきちんと説明をしているのに「話が違う」と反論されてしまうのでしょうか。
その理由の一つとして考えられるのが、「患者やその家族が状況について納得していない」つまり、「受けた説明を正しく理解していない」ことがあげられます。
患者さんへの説明時に看護師が多忙だったりすると、つい作成済のパンフレットや既成のものを読み上げるのみの説明を行ってしまいがちですが、それだけで患者さんやその家族が理解できているとは限りません。
説明を受けた側が内容を理解し、その上で適切な行動がとれること。
それこそが、患者さんにとっての「適切な説明」といえるのです。
たとえば医師から、「ベッド上安静、頭部挙上も不可」などの指示がでていたとします。
このとき看護師が、「頭をあげず、ベッドの上で安静にしていてくださいね」と患者さんに伝えていたとします。
一見するとこの説明で伝わるように思いますが、患者さんのなかには「少しだったら良いだろう」と考えてしまう可能性があるのです。
そのため、説明するときには患者さんの容態に合わせ、
「今は〇〇という状態なので、頭を少しでもあげることは医師から止められています。頭はあげずにベッド上で安静にしていてください」
といった言い方で、まずは「なぜベッド上で安静にしていなければいけないのか」を丁寧に説明します。
そのうえで、
「物を取りたいなど身体を動かしたいことがあれば、ご自身で動かずに看護師を呼んでください」
と伝えてナースコールを手元に置くようにすれば、患者さんも納得してくれるはずです。
また、説明を行うにあたっては、普段の立ち居振る舞いも大切です。
良いイメージをもってもらうための立ち居振る舞いについては、こちらの記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
「いつもの」ではなく「その日」の観察の重要性
患者さんの急変や合併症の発症などは、いつ起こるかわかりません。
そして、万が一のときに備えて重要となるのが、看護師がどれだけ観察を行えていたか、ということです。
リハビリ病棟では、急性期ほどの観察が必要とならないぶん、どうしても観察が「いつもと変りない」で終わらせてしまいがちです。
しかし、家族は患者さんのわずかな変化に気づきやすく、ときには看護師に対して
「いつもと少し様子が違うような気がするんですが、大丈夫でしょうか」
と声をかけてくることもあります。
そんなときは、バイタルサインや様子だけを見て「いつもと変わらない」と判断せず、家族が心配しているという思いをまず受け止めること。
それがその後のトラブル防止において重要となります。
さらに、なぜ家族が違う様子だと感じたのか、その原因を看護師としてアセスメントすることが大切です。
もちろん、あまり深入りしすぎることはよくありませんが、そのあとにもし急変してしまった場合、家族から「あのとき私は違和感があると看護師に伝えていたのに」とトラブルになってしまう可能性があります。
看護師は、常に急変が起こるかもしれないというリスクを踏まえたうえで、患者さんやその家族に対して行動することが大切です。
一人で悩まず仲介者を通すことも大切
患者さんやその家族との関係について、ときには深く悩んでしまうこともあるでしょう。
実際に筆者も経験が浅いとき、始めのあいさつの段階で患者さんの家族から
「あなたのような若い看護師に私の大事な夫を任せるわけにいかない。もっと経験豊富な人を呼んでちょうだい」
と言われてしまったことがあります。
このとき筆者はすぐに師長へ相談し、師長から直々に「彼女は病棟で働くスタッフの一人です。若いというだけで判断されず、まずは彼女の看護内容を見ていただけないでしょうか。不備などございましたら、まず師長である私にお伝えください。師長として指導いたします。まずは彼女に看護を学ばせていただくためのチャンスを与えていただけないでしょうか」と直訴してくださいました。
このように、自分ひとりで患者さんやその家族との関係性について悩んでいても、解決策がでてこないこともあります。
しかし上司などの第三者を交えることで、その後の関係がスムーズにいくこともありますし、なにより直接ぶつからないようにすることで、自分自身を守ることにもつながります。
患者さんとコミュニケーションをとることができず、今後トラブルになりそうだと感じたら、まずは一人で悩まず、仲介者を通すことを心がけてみてください。
まとめ
看護師として、患者さんの不安や受容するまでの過程を受け止めることはもちろん大切です。
一方で、看護師が自分自身を守ることも、また大切なことです。
今回とりあげた4つのポイントは、いずれも「トラブルから訴訟問題へと発展しかけたケース」を元に作成しています。
患者さんやその家族と良好な関係を持つと同時に、自分自身を守るためにも、ぜひこのポイントを押さえていただけたらと思います。
参考:
南雲直二他:事故をトラブルにしない患者さんへのかかわり:リハビリナース:2012年5巻2号:pp8-37
児玉久仁子:予期せぬ合併症により医療不信を募らせる家族:看護技術64巻2号2018:pp68-74