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「運動が大事です」と伝えていませんか?地域・病院で運動実施率を上げるためにできること

普段の臨床業務のなかで、患者さんに「運動を頑張ってください」「運動が大事です」とお伝えするシーンは多いと思います。
しかし現実問題として、患者さんに運動を習慣的に行っていただくのは、非常に難しいものがあります。
今回は、運動を普及するために、どのような取り組みを進めていけばよいのかを考えていきます。

病院で運動の必要性を伝えるだけでは不十分

病院にくる患者さんに、運動に関するアドバイスをしたことはあるでしょうか?
口頭で伝えても、なかなか運動の実施には結びつかないということが実情です。
運動の必要性を理解することと、実行することには大きなギャップがあるのです。

●「運動が大事」というアドバイス

先日、筆者の家族が腰痛のために整形外科を受診したところ、医師から湿布・鎮痛剤・筋弛緩剤が処方されました。
医師からは、この薬でしばらく様子を見るように指示されましたが、診察のなかで「やはり運動が大事ですね」といわれたそうです。
帰宅したときは「運動しなければならない」と意気込んでいましたが、結局自宅で運動に取り組む姿は一度も見かけていません。

●伝えただけでは実施に結びつかない

病院で医師やリハビリのスタッフが、運動の必要性について話すシチュエーションは少なくないでしょう。
しかし、運動の必要性を伝えただけで、果たしてどれくらいの割合で「実施」に結びつくのでしょうか?
最初のうちは意識を高く持って運動するかもしれませんが、徐々にその気持ちは風化され、次第に元の生活に戻ってしまうケースが大半だと思います。
言葉だけで「運動してください」と伝えても、なかなか運動実施には至らないと考えておくほうが良いでしょう。
もともと運動習慣がある方であれば、スムーズに実行に移せる可能性もゼロではありませんが、そうした習慣がない人の多くは、行動に移すことが難しいと感じています。
患者さんへ運動を推奨することがある医師・リハビリスタッフは、この現実に向き合っていかなければなりません。

地域単位で住民の運動実施率を高めることはできるのか?

国民の運動実施率を高めるために、複数の機関を巻き込んで戦略を立てれば、奏功するのでしょうか?
健康増進のために、地域という単位でできる取り組みを考えていきます。

●全国的に広がりをみせる、コミュニティレベルで行う体操

全国的に、お寺や神社、空き家、休憩スペースなどを使い、コミュニティレベルで運動を提供する動きが広がっています。
これは非常にユニークな取り組みであり、介護予防事業としての役割も担っています。
こうした取り組みでは、高齢者向けの健康体操などを行うこともあれば、エンターテインメントを提供することもあります。
高齢者に外出や交流の機会を与えることにもつながるプログラムであるといえます。
ここに参加しているのは比較的アクティブな高齢者が中心であり、参加者の活動量・運動量がそれなりに多いことには留意する必要があるでしょう。

●地域で運動実施率を上げるには5年かかる

体育の科学68巻1号(2018)のなかで、ハーバード大学公衆衛生大学院の鎌田氏は、「1年間の介入でスポーツ実施率や身体活動量を地域レベルで高められたという質の高いエビデンスは見たことがない」と述べています。
運動に関わる事業を年度単位で企画・実施する例は多いですが、その多くは1年以内で終了するものであり、これでは運動実施率の向上には至らないというのです。
しかし、鎌田氏は研究を通して、5年間の多面的な介入によって、地域という単位で運動実施率を高めていくことは可能という結果を示しました。
単発の事業ではなく、長期的なスパンで介入していくことが求められているのでしょう。
コミュニティレベルで運動を普及させていくことも可能ですが、それは地道な努力を経てようやく実現できるものと捉えておくほうがベターです。

患者さんに運動してもらうために医師・リハビリ職ができること

国民・地域住民の運動を習慣化するという大きなテーマで考えると、時間とエネルギーが必要になります。
大きな視点での取り組みも大切ですが、まずは身近なところから住民の健康を支えていくという意識を持ち、できることからアプローチする必要があるでしょう。
次に、患者さんに運動習慣を持ってもらうために、医療機関で医師・リハビリスタッフができることを挙げていきます。

●まずは運動方法を具体的に伝えること

先にご紹介したように、病院で運動することをすすめても、現実的に実施に至らないケースは多いです。
筆者の家族が受診した際、医師から「運動も大切」といったアドバイスしかもらえず、具体的になにを重点的に鍛えれば良いのか、どんな方法で何回くらい実施すれば良いのかといった情報がありませんでした。
病院によっては医師やリハビリのスタッフが丁寧に説明してくれることもありますが、患者教育の能力や方針にはばらつきがあるというのが正直な印象です。
特に年配の方だと聞いただけでは覚えることが難しい場合もあるので、簡単にメモ紙に書いてお渡しするだけでも効果的でしょう。
筆者はリハビリにくる患者さんに、病院でアドバイスしたことをメモ紙に書いて渡すようにしていましたが、それが備忘録として活用してもらえたと感じます。

●病院で健康教室を開催する場合は定期的に

地域レベルで運動実施率を高めていくためには、大きなエネルギーが必要になりますが、まずは身近なところから患者さんの健康増進に貢献していく姿勢が求められます。
すでに病院などで健康教室を開いている例もあると思いますが、運動の定着には時間がかかるという観点から、「定期的に実施すること」を意識すると良いでしょう。
年に2〜3回などイベント感覚での実施では、運動の習慣化に寄与するのは難しいです。
できれば、月に2回などの頻度で実施していくことをおすすめします。
医師が運動を教えても良いですし、リハビリのスタッフが交代で担当することも方法です。
医療機関が運営する「フィットネス」も登場するなど、病院・クリニックを中心とした試みは広がっているので、こうした流れに便乗してみてはいかがでしょうか。

まとめ

運動が生活習慣病に影響を与えるという認識は、国民の間でも広がってきています。
漠然と「運動は健康に良い」と考えている人も含めると、非常に多くの人が運動の必要性をある程度理解しているということになります。
必要性を理解することと、実践することは別物なので、医師やリハビリスタッフはその点に留意する必要があります。
社会や地域というレベルでの取り組みも重要ですが、まずは身近なところから住民の健康づくりに貢献していきましょう。

参考:
鎌田真光:身体活動・スポーツ実施率を高めるにはー普及戦略の科学ー. 体育の科学68(1): 15-21, 2018.

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