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発達障害の療育で鍛えたい「見る力」 ビジョントレーニングの必要性と期待できる効果を解説

発達障がいの子どもたちは眼球運動や視知覚の面で苦手さがあるケースが多く、運動や学習に影響を及ぼすことがあります。
今回は、発達障がいの子どもに対するビジョントレーニングについて、筆者の経験をもとに考え方や期待できる効果をご紹介していきます。
ニーズがあると感じる場合には、発達障がいの子どもの療育にぜひ取り入れてみてください。

ビジョントレーニングの概要と発達障がいの子どもにおける必要性

発達障がい児の医療・教育に関わっている専門家や親御さんの間で、子どもたちの「見る力」をトレーニングするという考え方が広がってきました。
医療や教育の現場で浸透しつつある「ビジョントレーニング」について、まずはその概要を整理していきます。

●ビジョントレーニングの概要

そもそもビジョントレーニングとは、目で対象物を見るための力を養う訓練のことです。
普段の生活のなかで、なにかを見て視覚情報を得るときには、視力だけでなく実にさまざまな機能が必要になります。
動いている対象物を目で追いかけることができるか、目から得た視覚情報を脳で処理できるか、視覚情報に対して体を適切に動かすことができるか…。
目で情報を得て、その情報を処理するまでには非常に多くのプロセスがあり、これらに関連した目の機能を高めることが、ビジョントレーニングの考え方です。
トップアスリートでも、運動のパフォーマンスをアップさせるために、ビジョントレーニングに取り組んでいる人は少なくありません。
具体的に実施するトレーニングについては、数字などを探しながら目を動かす練習を行うこともあれば、全身運動をしながら目でターゲットを捉える練習をする場合もあります。
また、机上でプリント課題などを用いて実施するようなトレーニングも含まれます。

●発達障がいの子どもにビジョントレーニングが効果的な理由

発達障がいの子どもでは、運動・学習においてさまざまな課題に直面することが多いです。
どのような種類の運動・学習に困難感を抱えるかは子どもによって異なりますが、目の使い方や視覚情報処理の問題が影響している例も少なくありません
筆者のなかで非常に印象に残っている研究の一つに、Milesら(2015)が発表した不器用な子どもたちに関する報告があります。
この報告では、運動の不器用さを主体とする発達性協調運動障がいの子どもたちに、ボールを投げる・キャッチする課題を実施してもらい、そのときの運動パフォーマンスを分析しています。
結果のなかで興味深いのは、運動そのものは指導せず、「どこを注視すべきか」を教えるアプローチをしたグループでも、ボールをキャッチする動作の質が上がったという事実です。
つまり、「見る力」に関するトレーニングを行っただけで、運動の仕方にも効果が及んだということを意味しています。
これは運動パフォーマンスを指標とした研究ですが、学習においても同様に「見る力」が大きな影響を及ぼすケースがあります。
視力的な問題がなくても、発達障がいの子どもたちでは目を動かすことが苦手であったり、目で物をうまく捉えることができなかったりしますが、トレーニングによって状態が改善していくことを経験します。

どこに課題を抱えている?観察・家族からの情報をもとに仮説を立てる

発達障がいの子どもにおいては、運動・認知・感覚機能をはじめ、さまざまな側面から多角的に状態を分析していくことが必要になります。
一つの視点として「見る力」に着目することは有用ですが、まずは本人・家族のエピソードをもとに、どのような点で課題を抱えている可能性があるのか仮説を立てることが大切です。

●ケース1. 板書をうまくとることができない子ども

すぐ隣にあるものを書き写すことはできるのに、前方にある黒板を見て板書をとると、ノートの文字が視認できないほど乱雑な状態になってしまうという子どもがいたとします。
もし、隣にあるものの書きとりも同じようにうまくいかないのであれば、基本的な視知覚や筆記具の操作に問題が影響しているのかもしれません。
しかし、黒板の板書だけが苦手という場合には、頭部を上下に動かす運動を伴った際に、うまく対象を捉えることができていない可能性が考えられます。
通常、頭部と目はまったく同じように動くわけではありませんが、そうした分離運動がうまくいかない子どもでは、頭の動きに影響を受けやすいという仮説を立てることができます。

●ケース2. 音読のときに行を読み飛ばしてしまう子ども

国語の教科書などを音読するときに、スムーズに読めない子どもがいたとします。
学習障害によって読む力に困難さのある子どももいますが、なぜか行を飛ばしてしまう子どもは少なくありません。
通常は改行するときに目を動かし、次に読むべき場所に視線を移しますが、この過程に難しさがあるケースもあります。
目の運動には1つの地点を「注視」するもの以外に、目で追っていく「追視」や2点間で視線を移す「サッケード」と呼ばれるものがあります。
この子どもでは、行が変わるときに正確にサッケードを行うことができず、読むべきところを見失っているかもしれない、という仮説が得られます。

●ケース3. ラダーの枠内をうまくジャンプできない子ども

一般的にも運動のトレーニングで用いられる、はしご状の「ラダー」を使い、枠内に合わせてジャンプをする運動がうまくいかない子どもを考えてみましょう。
たとえば、「マスを1つとばしでジャンプしてみよう」と声をかけたのに、うまく「1つだけ」を飛ばすことができずに、飛ばすマスの数が「0」になったり「2」になったりしてしまうケースを見かけます。
通常だと単なる運動の不器用と認識されてしまいがちですが、実は視知覚に課題があり、運動以前にうまくマス目を認識できていないのかもしれません。
そうした仮説を立てて視知覚の検査をしてみると、課題が明らかになってくることがあります。

上述した3つのケースでは、子どもの様子から「仮説」を立てることができるというサンプルを示しました。
運動や学習などの活動において、子どもの様子を観察しながら「見る力」が影響を及ぼしている可能性を考え、必要な評価・トレーニングを実施していくことが必要になります。
診察室やセラピー場面での様子だけでなく、家庭や学校でのエピソードから仮説を立てていくことも大切な作業です。
「見る力」の具体的な評価方法についてはこちらの記事(発達障がいの子どもにおける眼球運動・視知覚の評価方法は?ビジョントレーニングに役立つアセスメントを解説)をご参照ください。

発達障がいの子どもにビジョントレーニングの効果はあるのか

実際のビジョントレーニングの効果やエビデンスについては、まだあまり情報がありませんが、現場では経験則から「効果がある」と感じて実践している方が多いのではないでしょうか。
作業療法士である筆者は、観察評価や「見る力」に関する評価の結果をふまえ、眼球運動や視知覚のトレーニングを提供したことが数多くあります。
もちろんほかの活動の効果も波及することから、ビジョントレーニング単一の効果を検証することはできません。
ただ、多くの子どもたちの様子が変わっていったことは非常に強く実感しています。
たとえば、ビジョントレーニングを含むアプローチをした子どもでは、次のような変化がみられるようになりました。

ケース1 ホームプログラムとして数字を探して線を結んでいく「点つなぎ」のプリントをお渡しして2〜3カ月コツコツ取り組んでもらったところ、ノートに文字を書く際のはみ出しが明らかに少なくなった。
ケース2 目の動きではなく、頭の動きに依存して対象物を見ていた子どもと、目だけを動かして迷路などの活動に取り組んだところ、少しずつ目の動きが引き出されていった。その結果、視覚と運動の協応が求められる活動でもパフォーマンスが向上した。

こちらの例にあるように、トレーニングで改善する部分は少なからずあるということは、専門家の間でも共通認識といえるのではないでしょうか。
ビジョントレーニングの教材や本が多数市販されるようになったこともあり、ご家庭でも取り組みやすくなったため、ホームプログラムとしてもおすすめできるようになりました。
見る力を鍛えるニーズのある子どもには、ビジョントレーニングの活用を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

まとめ

発達障がいの子どもが抱えるニーズの背景要因は多岐にわたります。
ビジョントレーニングさえ実施すればそれで良いということではありませんが、ニーズを認める場合には非常に効果的なアプローチ方法の一つとなりえます。
運動や学習面で直面している課題の裏に「見る力」の問題が隠れていることもあるため、専門家が丁寧に解釈していく必要があるでしょう。

参考:
Miles CA, Wood G, et al.: Quiet eye training facilitates visuomotor coordination in children with developmental coordination disorder. Res Dev Disabil40:31-41, 2015.
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