発達障がいの子どもにおける眼球運動・視知覚の評価方法は?ビジョントレーニングに役立つアセスメントを解説
発達障がいの子どもの「見る力」を正しく評価するためには、既存のスケールを活用していくことが一般的です。
また、観察評価から得られる情報も少なくないので、療育にあたるスタッフが観察眼を養うことも大切になります。
今回は、発達障がいの子どもたちの「ビジョン」を評価するうえで知っておきたい、アセスメントのコツをお伝えしていきます。
まずは基本の眼球運動をチェック!できるだけ具体的な記録を心がける
発達障害領域で働く作業療法士の多くは、「臨床観察」というスクリーニング検査を用いて、眼球運動の評価を実施していることでしょう。
臨床観察では、縦・横方向や円状に動くターゲットの追視、輻輳(ふくそう・近くを見るときに目が内側に寄る反応)の状態を確認するなどして、見る力を評価していきます。
臨床観察は非常に簡便に全体像を把握できるため有用ですが、あとから変化を追うことができるように、なるべく定量的な評価を意識していきたいところです。
次に、現場で活用できる可能性がある眼球運動の評価を整理していきます。
検査名 | 概要 |
---|---|
DEM (Developmental Eye Movement test) |
●文字間隔が狭い・広い条件で、縦・横に並んだ数字を処理していくテスト ●タイムや読み飛ばしなどから成績を算出 ●衝動性眼球運動の正確性に関わる検査も含む ●年齢ごとの標準値がある |
NSUCO (Northeastern State University College of Optometry) |
●固視・輻輳・追従性眼球運動・衝動性眼球運動の精度を5段階で評価 ●頭部の動きの関与についても5段階で評価 ●年齢ごとの標準値がある ●スティックの先端に小さなカラーボールがついた器具で検査 ●被験者からスティックまでの距離などが規定されており、統一した条件で検査できる |
これらの検査は、日本ではそれほどポピュラーではないでしょう。
研究レベルでは、後藤ら(2010)がDEMを含めた指標を使い、発達性読み書き障がいの子どもの特徴について報告しています。
また、必要なシート類をそろえる必要もあるため、すべての病院ですぐに実施できるわけではありません。
しかし、DEMやNSUCOといったスケールのメリットは、眼球運動の状態をある程度定量的にスコアリングしていけることにあり、普段の評価で取り入れたい要素は多く含まれています。
たとえば、「見るべきターゲットを子どもの顔からどのくらい離すのか」といった条件的な部分もそうですし、結果の記録方法についても具体性があったほうがあとから比較するのに役立ちます。
臨床観察などを用いている場合、「追視が劣る」といった評価だけでは、せっかくトレーニングを行っても、あとから効果を比較できなくなってしまいます。
「◯回往復の追視のうち、◯回はサッケードが混入する」「この数字を読み上げるのに◯秒かかり、◯回の見落としがある」など、少しでも定量的な視点が入るように記録しておくことをおすすめします。
視知覚の評価はスケールを活用!定番のフロスティッグ視知覚検査の解釈
視知覚という言葉の定義にはさまざまなものがありますが、形の大小や角度、方向、形態、色などを弁別するための機能と認識しておくと良いでしょう。
日本で一般的に用いられている視知覚のスケールは、「フロスティッグ視知覚発達検査」といえるのではないでしょうか?
こちらは4歳〜7歳11カ月までの子どもの視知覚上の課題を発見するために用いる検査ですが、8歳以降の子どもであっても、視知覚の発達年齢が低いと思われる場合には役立つことも多いです。
フロスティッグ視知覚発達検査は、次のような構成で成り立っています。
- 1)視覚と運動の協応
- 2)図形と素地
- 3)形の恒常性
- 4)空間における位置
- 5)空間関係
「視覚と運動の協応」では、2本の線の間をなぞっていきますが、はみ出しがあれば視覚運動協応の課題がある可能性を考えることができます。
また、形の恒常性では、複数の図形が描かれたページのなかから、四角だけを探してなぞるなどの課題がありますが、図形が斜めになっていると気づかない子どももいます。
検査における結果は、書字・算数の図形問題などでも影響がでることがあるため、どこに根本的な原因があるのかを把握するために役立つでしょう。
ただ、「フロスティッグ視知覚検査」は非常に古い検査であり、英語で発表されている新しい学術論文などでは、違う検査が使用されていることが多いです。
たとえば、VMI(Beery Buktenica Developmental Test of Visual Motor Integration)というスケールが用いられていることもあるので、新しい検査について学びたい方は詳しく調べてみるとヒントが得られるかもしれません。
また、WISC-IVやK-ABCなどの評価スケールでも、視知覚に関連する下位検査が含まれているため、こちらの結果も参考になるでしょう。
観察評価から運動時の様子を分析するときのポイント
眼球運動や視知覚など、子どもの見る力に関わる評価は、基本的には既存のスケールを使って行っていくことが多いでしょう。
ただ、日常生活において「見る力」が求められる場面は、机上だけではないため、実際に体の運動が伴ったときの反応についてもチェックしておく必要があります。
先にご紹介したフロスティッグ視知覚発達検査のなかにも「視覚と運動の協応」という項目がありますが、こちらはあくまでも机上でのパフォーマンスを分析できるものです。
発達障がいの子どもでは、体育の時間にうまく運動ができない、障害物にぶつかって転びやすいなどのニーズがある例も多いため、実際に体を動かしているときの様子を評価することも大切なのです。
実際の子どもの例として、あるエピソードをご紹介します。
【エピソード】 大縄でジャンプする活動で、跳ぶ位置が側方にどんどんずれていってしまう子どもがいた。この子どもは、跳ぶ位置に目印を置くとスムーズにジャンプできることから、飛ぶべき位置をうまく見積もれない可能性が考えられた。 |
このように、実際の活動場面を観察することで判断できることも多いです。
上記のエピソードで「目印を置いたら反応がどう変わるか」をみているように、条件を微調整しながら子どもの課題を見つけていくことがコツといえます。
こうした分析を実践するためには、子どもの反応を見逃さない観察眼を養うことと、活動に含まれるどんな要素が影響を与えているのか論理的に考えていくことが求められます。
また、できる・できないの判断だけではなく、実生活の作業において、どれくらいの時間や努力を要するのか、といった質的な面で評価することもポイントになるでしょう。
まとめ
一言で「見る力」や「ビジョン」と表現しても、実際に関与する機能にはさまざまなものがあります。
目の運動そのものがぎこちない子どももいれば、目から入ってきた情報の処理(視知覚)に課題がある子どももいます。
あるいは、運動との協応という点で困難さにつながっているケースもあります。
見る力は運動・学習に大きな影響を与える一因となるため、発達障がいの子どもたちが抱えている課題の背景にはなにがあるのかを、丁寧なアセスメントでひも解いてみてください。
評価で得られた手がかりをもとに、ビジョントレーニングを含む訓練を提供していくと良いでしょう。
なお、発達障害の子どもに対するビジョントレーニングの必要性については、次の記事(発達障害の療育で鍛えたい「見る力」 ビジョントレーニングの必要性と期待できる効果を解説)で解説しているので、ご興味のある方はご一読ください。
参考:
NSUCO OCULOMOTOR TEST(2018年2月23日引用)
後藤多可志, 宇野彰, 他:発達性読み書き障害児における視機能, 視知覚および視覚認知機能について. 音声言語医学51:38-53, 2010.
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