急性期医療で福祉用具は必要なの!?病棟スタッフが知っておきたい介助方法についてご紹介!
福祉用具と聞くと、在宅や介護現場をイメージする方も多いと思いますが、実は最前線の医療現場においても重要視されています。
急性期病院に勤める若手セラピストや介護職の方は、福祉用具についての知識や技術は縁のないものと思っていませんか?
本記事では、急性期医療に携わる筆者の経験をもとに、知っておきたい福祉用具の活用法や移乗介助の方法についてご紹介します。
福祉用具の利用が必要なのは介護現場だけではない!
福祉用具=介護保険サービスという考えは間違ってはいませんが、急性期医療の現場においても重要な役割を担っています。
●急性期の早期離床で活用したい福祉用具
急性期医療において、早期離床というワードはもはや定番であるといってよいでしょう。
しかし、早期離床の本質を理解しておかなければ一人前のセラピストとはいえません。
早期離床とは、入院から48時間以内に抗重力の姿勢に到達することであり、ベッド上座位や車椅子座位が代表的な姿勢といえます。
しかし、呼吸や循環が安定していない方や、覚醒状態が不安定な方の場合、患者さん自身の力に期待することは困難であるケースが多いです。
そんなとき、事故を起こさないように、また介助者の負担を軽減するためにも、福祉用具を使用することは非常に有効です。
しかし、実際の現場ではセラピストをはじめ看護師や介護職などのスタッフも福祉用具の扱いに不慣れなことが多く、使用するイメージが湧きにくいのが現状といえるかもしれません。
●急性期でまず重要なのは移乗動作!?
早期離床において、セラピストが介助して座位を保つ時間は限られているため、車椅子での座位を獲得することが離床時間確保のためには重要です。
車椅子に座って過ごす時間を増やすためには、「移乗」の介助をスムーズに行うことが不可欠になります。
しかし、重度の運動麻痺がある方や、意識状態が不安定な方の場合は多くの介助量が必要となります。
また、点滴や尿道カテーテルがついている場合は、無理して動作を行った結果、ルートの接続部が外れるなどトラブル・事故につながります。
急性期での車椅子移乗に重要なポイントを以下にあげてみます。
- ◯ルート類の位置を把握できているか
- ◯十分な介助力があるか(人員)
- ◯転落する危険性はないか
- ◯急な状態変化の際にはすぐにベッドに戻れるか
これらをクリアする一つの手段として、移乗用の福祉用具を利用することは有効であるといえるでしょう。
病棟スタッフへ介助方法を指導する際のポイント!
セラピストが介入する時間にしか離床が図れない病棟は、急性期における早期離床が不十分であるといえます。
セラピストは、患者さんの機能を見極め、介助の仕方を病棟スタッフへ伝達していく必要があります。
ここでは、病棟スタッフに移乗動作の方法を指導する際に、気をつけておきたいポイントについて解説します。
●福祉用具を使用するメリットをいかに伝えるか?
急性期病棟のスタッフは、日常のケアに加えて、点滴や検査の送迎など非常に多忙です。
筆者の経験上、「離床を進めたいけど時間が…」という声や、「手があいているスタッフがいないから車椅子に乗れない…」という声をよく聞きました。
こうした状況を解消するためには、福祉用具を活用することがカギとなります。
正直、「たくさんある福祉用具を覚えるのが面倒くさい」と思う方もいますが、普及のためには以下の点をしっかり伝えるようにしましょう。
- ◯腰痛予防に効果的である
- ◯少ない人員で介助できる
- ◯転倒・転落の事故を防止できる
これらを認識するだけで、病棟での福祉用具の使用頻度は上がりますし、結果的に早期離床が達成しやすくなります。
●介助方法を指導するときの注意点
介助方法を指導する際のポイントは、福祉用具の使い方を含め、セラピストが目の前でやってみせたあとに実践してもらうことです。
反対に、「福祉用具を置いておくのでお願いします」と伝えるだけの対応は絶対にしてはいけません。
福祉用具の使用方法を熟知しているスタッフなら話は別ですが、「借りたはいいけど使い方に自信がない…」と思われては、まず使用してもらえることはないでしょう。
前述した使用目的に加えて、福祉用具の基本的な使い方・介助方法・必要な人員に関しては必ず伝えておきましょう。
リハビリ場面だけで離床するのではなく、チームで連携しながらアプローチすることで、急性期において求められる早期離床の実現に向けて一歩前進します。
移乗介助では「移乗ボード」と「介護リフト」を使いこなそう!
ここでは、数ある移乗用福祉用具のなかでも、移乗ボードと介護リフトを例にあげて、急性期における使用上の注意点について解説します。
●移乗ボードは手軽に利用できる優れもの!
移乗ボードはスライディングボードともよばれ、基本的にはベッド〜車椅子間での移乗時に使用します。
具体的な使用手順と注意点については以下のとおりです。
◯車椅子の準備
車椅子はアームレストが跳ね上げられるタイプが必須です。
ベッドと車椅子は平行に設置し、移乗前後での座る位置が90°になるようにしましょう。
点滴ルートの長さや尿道カテーテルの位置関係をしっかりと把握し、絡まったり引っ張られたりしないように注意しましょう。
◯移乗ボードの設置
目安としては、ボードの端4分の1をお尻の下に、もう片方の端4分の1を車椅子の座面にかかるように設置しましょう。
お尻の下に深く設置しすぎると、車椅子の座面にかかる部分が少なくなり、逆に浅すぎると移乗の過程でボードが動いてしまい、いずれも転落する危険性が高くなるので要注意です。
◯ボードの上を滑って車椅子に移る
動作としては単純ですが、この工程はもっとも事故が起きやすいため、以下の手順を押さえておきましょう。
- 1)ルート類を確認する
- 2)対象者を少し前方に誘導する(重心の移動)
- 3)滑らせるときに介助者の膝で対象者の膝をおさえておく
- 4)大きな弧を描くように滑らせる
3)の理由としては、介助者が手前に引く力が強くなると、ボードの縁ギリギリのところを滑るため、前方に転落する可能性があるからです。
介助される側も恐怖感をともなうため、慣れないうちはスタッフ同士で練習し、確認してみることをおすすめします。
●知っておきたい!介護リフトの利便性
介護リフトとは、自分の力で移乗動作ができない方が、ハーネスを装着してつり上げられることにより移乗が可能になる福祉用具です。
ベッドからの移乗用だけでなく、浴室用などさまざまなタイプがありますが、病棟で使用する場合は床走行式が便利です。
ただし、体が完全に浮いた状態となるため、転落には十分注意しておく必要があります。
具体的な操作方法は機種によって異なりますが、絶対に押さえておきたい注意点を以下にあげておきます。
- ◯ハーネスは正しく装着されているか
- ◯点滴ルートや尿道カテーテルを忘れていないか
- ◯つり上げから着座までの間に障害物がないか
- ◯緊急時(故障)に対応できる代替手段があるか
- ◯対象者は十分な説明を受けて介助方法を理解しているか
上記項目を確認しておくだけでも、事故の確率はグッと下がると思いますので、使用される際にはぜひ参考にしてください。
●使用頻度を上げるためには多職種での勉強会が有効!
筆者の施設を例にあげると、介助方法の指導をおこなう専門チームが存在し、セラピストだけでなく病棟スタッフへの介助方法指導も実施しています。
ここでご紹介した移乗ボードや介護リフト以外にも、リクライニング型車椅子やスライディングシートなど多種多様な福祉用具が使用されています。
定期的に病棟スタッフと合同勉強会を実施するうちに、病棟側から移乗介助方法について相談をうけることも増えてきました。
使用する目的や方法を伝達できるだけではなく、早期離床に向けた安全なリハビリについて多職種で検討する機会にもなります。
病棟専従セラピストの必要性が高まるなか、お互いの意見交換は連携を図るうえでも重要であるといえるでしょう。
まとめ
本記事では、急性期における福祉用具の必要性について、移乗介助を例にあげて解説しました。
臨床経験が浅いうちは、病気や障害に関しての知識習得に励むことが多いですが、早期離床は安全性のうえに成り立っていることを忘れてはいけません。
福祉用具の選定や使用に関する指導もリハビリ専門職の大事な役割ですので、今回ご紹介した移乗ボードと介護リフトの使用方法もぜひ覚えておいてください。
参考:
日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会 集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜(2018年3月5日引用)
OGウエルネス 介護リフトつるべーY6セット ML-Y6-S(2019年12月3日引用)