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医療における情報技術の革新は、入院翌日に退院時期や再入院の可能性がわかるところまで進んでいる!人工知能を使った最新技術を紹介します

入院した患者さんがいつ退院できるかは、医療機関と患者さんの双方にとって高い関心事です。
なかには、
「入院直後にいつ退院できるかなんて、わかるわけがない」
と思う方もいるでしょう。
しかし最新の人工知能を使った情報技術では、入院翌日には退院時期や退院先などがわかるところまで進んでいます。
ここでは、その実現方法をご紹介していきます。

病棟をもつ医療機関のさまざまな悩み

入院病棟を持つ医療機関には、さまざまな悩みがあります。
入院待ちもなく必要なときにすぐに入院できて、治療が終わったらすみやかに退院してもらえることが理想ですが、現実はそううまくはいきません。
病棟をもつ医療機関はどのような悩みを抱えているのか、詳しく解説していきます。

●入院15日目以降は診療報酬が下がってしまう

入院費の計算については、DPC(診断群分類包括評価)方式を用いて計算する医療機関が増えてきています。
DPC方式の特徴は、入院15日目以降は診療報酬が下がることです。
たとえば「一般病棟10対1入院基本料」が適用される病院の場合なら、2016年度(平成28年度)の診療報酬に基づく点数は以下のようになっています。

入院1日目から14日目まで 1782点 「一般病棟入院期間加算(14日以内)」を加算
入院15日目から30日目まで 1524点 「一般病棟入院期間加算(15日以上30日以内)」を加算
入院31日目以降 1332点

これは、患者さんの入院期間が長引くと医療機関の収入が減少することを意味します。
このため、医療機関としてはなるべく早く退院して欲しいと思うのは、自然なことだといえます。

●退院後の受け入れ態勢が整うまで入院せざるを得ない場合もある

退院が決まったからといって、全員の患者さんが自宅に帰ることができるとは限りません。
ほかの病院に転院する場合や、そのまま老人ホームに入所する場合もあります。
別の施設へ移るめどがついていないにも関わらず、突然「では明日退院してください」と言われても、患者さんや家族は困ってしまいます。
このため、受け入れ先の施設の準備が整うまでは、入院を続けざるを得ない場合もあるでしょう。

●入院中に柵越えや院内徘徊など、不穏行動を起こす患者さんの対応も必要

入院中の患者さんのなかには、柵越えや院内徘徊などの不穏(※)になる方もいます。
また大声をだしたり、ときには暴力をふるう患者さんもいるかもしれません。
異常行動が発生した場合は医療スタッフが患者さんのもとへ行き、その都度対応しなければなりません。
特に夜勤時には人員も少ないため、ただでさえ忙しいスタッフの業務負荷がさらに増すことになります。
※不穏:急性の錯乱状態のこと。幻覚、妄想、感情不安定、混乱状態などといった症状が起こる

医療におけるITサービスは、入院翌日に退院時期や退院先、入院時のリスクや再入院の可能性がわかるところまで進んでいる

ここまでご説明したとおり、医療機関にはさまざまな悩みがあります。
しかし2017年以降、AIを使ってこのような悩みを解決するITサービスがすでに登場しています。
ここではNECのAI技術群「NEC the WISE(ネック ザ ワイズ)」やDataRobot(データロボット)をご紹介し、これらの課題を人工知能を使ってどのように解決するのか、そのポイントを解説していきます。

●「NEC the WISE」なら、入院翌日にいつ退院できるかが予測できる

2017年10月、医療法人社団KNIと日本電気(NEC)は、同年12月から「NEC the WISE(ネック ザ ワイズ)」を用いた実証実験を行うことを発表しました。
実証実験は、東京都八王子市の北原リハビリテーション病院新棟にて行われています。
NEC the WISEは入院期間の適正化をはかるAIを活用したITサービスであり、患者さんの退院を遅らせないための情報を提供します。
この人工知能を活用したサービスを利用することで、入院患者さんの退院先(自宅、回復期病院など)を、入院翌日に84%の確率で予測することができます。
これによりほかの病院への転院や、施設への入所が必要な場合でも、入院当初から転院先や入所先との調整を行うことができます。
またNEC the WISEは、患者さんの不穏行動を事前に検知する機能もあります。
NECではAIを用いることで、不穏行動が起きる40分前に71%の確率で検知できると公表しています。
医療法人社団KNIの調査によると、不穏行動があった患者さんは、通常の患者さんよりも入院期間が19日のびたという結果が出ています。
これは、もともと不穏になりやすいような背景をもった患者さんは、入院期間が長くなりがちという側面と、不穏になることで骨折や誤嚥など二次的な合併症が発生し入院期間がのびるという側面があると思いますが、不穏を未然に抑制することは、早期退院を目指す上では重要なことです。
NEC the WISEは患者さんのバイタルデータを常時取得し、自律神経バランスの乱れをいち早く検知することで、不穏行動の予兆がでた時点でスタッフに対応を促します。
これにより早期に適切な対処ができ、結果として不要な入院延長を防ぐことができる可能性があります。

●「DataRobot」は患者の再入院を防ぐ情報を提供する

入院患者さんの退院後をAIを使って予測するITサービスは、アメリカのDataRobot社でも提供しています。
DataRobot自体は「誰でも簡単に使える」がコンセプトです。
また、予測モデルを完全に自動で作成できることも特長です。
患者さんに関する情報を入力することにより、退院後再度入院する確率と、再入院を防止するためのポイントを事前に知ることができます。
このようにDataRobotを利用することは、患者さんの再入院を防ぎ、最短の日数で退院してもらうことにもつながる可能性があります。

医療機関や医療従事者へのメリット

患者さんの退院時期や不穏行動が早期にわかることは、医療機関や医療従事者にさまざまなメリットをもたらします。
どのようなメリットがあるのか、解説していきましょう。

●病床の使用計画が立てやすくなり、医療機関の収入増につながる

患者さんの入院後、すみやかに退院時期や退院先がわかることで、病床の使用計画が立てやすくなります
また長期入院者も少なくなり、医療機関の収入増にもつながります。

●医療スタッフの負担が軽減される

入院患者さんの不穏行動の予兆が検知できることで、大事に至るまえに対応ができ、医療スタッフの負担も軽減されます。
特にスタッフが少ない夜勤の場合は、こうした不安が少しでも減ることは、ありがたいことだといえるでしょう。
さらにこうした機能は、医療スタッフの労働環境を改善することにもつながります。
働きやすい職場になれば、離職者の減少や応募者の増加も期待できます。

患者さんにも多くのメリットがある

AIの利用により早期に退院時期や退院先がわかることは、患者さんにとってもさまざまなメリットがあります。
どのようなメリットがあるか、説明していきます。

●患者さんや家族が安心する

入院当初はこの先どうなるのか、患者さんも家族も大変不安なものです。
人工知能を活用することにより早期に退院時期や退院先がわかれば、「どうなるのかわからない不安」が軽減され、退院まで安心して療養することができます。

●早めに受け入れ先の準備が進められる

これまでは退院のめどがなかなかつかないこともあり、受け入れ先の調整が進められない場合もありました。
しかし早期に退院時期がわかることで、施設に移る場合でも早めに受け入れ先を探し始めることができます。
早期に受け入れ先が決まるということは、早期退院にもつながるということになります。

●入院待ちの期間が短くなる

病院によってはベッドの空きがなく、新しい患者さんに入院を待ってもらわざるを得ない場合があります。
これは新しい患者さんにとっても不利益なことです。
「NEC the WISE」などの利用により、入院と退院のサイクルがスムーズに行われれば、入院予定患者さんの待ち日数が減ることになります。
これは入院を待つ患者さんにとっても、早く治療してもらえるというメリットになります。

まとめ

IT技術の進展により、人工知能を活用することで入院直後に退院時期や退院先がわかるようになってきています。
このことには以下のメリットがあります。

  • 〇医療機関の収益向上
  • 〇医療スタッフの負荷を軽減
  • 〇今後の見通しが早くつくことによる患者さんや家族の安心感
  • 〇転院や施設入所が必要な場合でも、早めに受け入れ先の準備ができる

今回紹介したITサービスは、先行投資がかかること以外は利点の多いサービスといえます。
実際は、医療には不確実性がつきものですので、特に急性期病院においても退院時期を明確に予測できるかどうかは今後の検証を待たなければなりませんが、今後さらに精度が向上すれば、医療機関の運営を助けるひとつのツールとして、有用な選択肢となりえるでしょう。
病棟をもつ医療機関なら、将来的にサービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:
厚生労働省 DPCによる診療報酬について(2018年3月10日引用)
厚生労働省保健局 平成28年度診療報酬改定のページ(2018年3月1日引用)
内閣府 7対1・10対1入院基本料の対応について(2018年3月10日引用)
聖路加国際病院 がん種別治療待ち日数、入院日数の目安(2018年3月10日引用)
国立がん研究センター中央病院 治療・検査待ち期間一覧(2018年3月10日引用)
北里大学病院 入院に際してのお願い(2018年3月10日引用)
東京都立中部総合精神保健福祉センター 東京都老人性認知症専門病棟別入院待ち状況(2018年3月10日引用)
DIAMOND online 入院から退院まで2週間以内が当たり前!?長期入院させてもらえない病院のウラ事情(2018年3月10日引用)
KNI、NEC 医療法人社団KNIとNEC、AIを活用した医療・社会改革に向けた共創を開始(2018年3月10日引用)
NEC 医療法人社団KNIが目指す病院運営改革をNECのAIが支援(2018年3月10日引用)
NEC 未来の医療に向けた取り組みpp.9-11.(2018年3月10日引用)
日経×TECH NECと医療法人社団KNI、AIで入院患者の不穏行動などを予測する技術(2018年3月10日引用)
エス・エム・エス せん妄とは 原因と対応方法 認知症との違いも紹介(2018年3月10日引用)
京都府立医科大学付属北部医療センター 新人看護師紹介(2018年3月10日引用)
Microsoft 医療分析による入院期間とペイシェント フローの予測(2018年3月10日引用)
DataRobot ヘルスケア(2018年3月10日引用)
ASCII.jp 誰でも簡単に使える機械学習プラットフォーム「DataRobot」とは?(2018年3月10日引用)

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