医療データを院外に置く選択肢として、医療クラウドを利用するメリットを解説
医療に関するデータは、セキュリティ確保のため院内に置きたいと思う方も多いでしょう。
しかし院外のクラウドサーバーでもセキュリティが確保されるほか、コスト削減や災害に強いメリットもあります。
ここでは医療クラウドを利用するメリットを解説します。
医療クラウドとはなにか?
医療クラウドのメリットを知るためには、まずどのようなものかを知ることが重要です。
ここでは医療クラウドとはなにかについて、説明します。
●医療に関するデータを、院外のサーバーに保存する
医療クラウドとは、医療に関する情報を院内に置いたサーバーの代わりに、院外のサーバーに保存することをいいます。
たとえば電子カルテ、レントゲンやCTなどの画像データ、診療記録などの情報を、データセンターなどの専用施設に保管するものです。
2018年現在、医療クラウドに対応する代表的なサービスとして、以下のものが挙げられます。
- ○Microsoft Azure
- ○Amazon Web Service
- ○Google Cloud Platform
●医療クラウドの導入率は高くないが、関心は高い
2016年2月に富士経済が発表した調査結果によると、クラウド型電子カルテの普及率は約2%、19億円の市場となっています。
このため、医療クラウドの導入率は高いとはいえません。
一方、TechTargetジャパンが医療機関従事者に対して2016年10月に実施した調査によると、今後投資を予定している項目として、36.6%の人が医療クラウドを挙げています。
これはシステムの投資項目のなかではトップであり、関心は高いといえます。
●医療クラウドを利用できる環境づくりが進んでいる
個人データの固まりのような医療データを、外部に保管して大丈夫なのか?と思う方も多いかもしれません。
しかし2016年以降、医療クラウドを提供する企業から続々とガイドラインが示されています。
医療クラウドへの関心度が一定数あることも含めて、医療クラウドを利用できる環境づくりが進みつつあります。
医療クラウドを使うメリット
医療クラウドを使うことには、さまざまなメリットがあります。
ここではITへのコスト削減やトラブル時の迅速な復旧などについて、解説します。
●システムの増強が容易なため、小規模・少額のシステム投資から始められる
クラウドサービスの大きな特徴は、システムの増強が容易にできるという点です。
たとえばCTの画像データがたまった結果、データの空き容量が少なくなった場合でも、医療クラウドならばすぐに空き容量を増量できます。
このため将来のデータ容量を正確に見積もれなくても、小規模なシステムからスタートすることができ、月額の利用料も少額で済みます。
一例として各クラウドサービスが提供するストレージ(記憶領域)の使用料金は、以下の通りとなっています。
サービス名 | 1GB当たりの月間利用料金 |
---|---|
Microsoft Azure | 0.06~0.10ドル |
Amazon Web Service | 0.023~0.025ドル |
Google Cloud Platform | 0.026ドル |
一方、サーバーを医療機関内に置く場合は、あらかじめ将来のデータ増加量を見込んで、ハードディスクなどの記憶媒体を確保しておかなければなりません。
このため、機器購入時の設備投資額が多額となります。
さらに想定よりもデータの増加量が速い場合は、早めに追加の記憶媒体を用意する必要に迫られます。
医療クラウドで運用費用を削減した事例には、長野県内に14病院・11診療所を持つ「長野県厚生農業協同組合連合会」があります。
ここではMicrosoft Azureの導入によって、基幹システムの運用費用を20%削減することに成功しています。(詳しくは、こちらの記事Microsoft Azureを利用した医療クラウドの特徴と、導入事例を解説で紹介しています。)
●迅速なメンテナンスが可能
医療クラウドでは、外部業者が用意したサービスを利用することになります。
もし不具合が発生した場合でも、サーバー本体やサービス自体の不具合ならば、医療機関まで来てもらう必要がありません。
不具合が発生した場合でも、より迅速な対応が期待できます。
●災害にも強い
医療クラウドは、災害にも強い特徴があります。
クラウドサーバーは、医療機関と離れた、地震や水害に強い場所に設置されています。
医療機関が被災し、建物が倒壊したりサーバーが水没するといった事態に見舞われても、データが保存されているサーバーは無事に守られます。
もし仮設の建物で診療しなければならないとしても、クラウドサーバーへのアクセス手段さえ用意できれば、今まで蓄積してきた医療データをそのまま生かして診療を続けることが可能です。
医療クラウドのセキュリティ対応状況をチェックする
いくら便利なシステムであっても、セキュリティ面に欠陥が多いと利用されません。
特に医療情報には患者さんの個人情報や機密情報が多数ありますから、外部のクラウドサーバーに置くためには堅牢なセキュリティが求められます。
ここでは、医療クラウドのセキュリティ対応状況をチェックする方法を解説します。
●国やサービス提供事業者がガイドラインを策定している
2010年以降、総務省、経済産業省、厚生労働省から、医療クラウドのセキュリティに関するガイドラインが提示されています。
これに基づき、三菱総合研究所および日本ビジネスシステムズは2017年7月に、「医療機関向け『Microsoft Azure』対応セキュリティリファレンス」を発行しました。
また2018年7月中には、キヤノンITソリューションズ他3社から「医療情報システム向けAWS(Amazon Web Service)利用リファレンス」が発行される予定です。
●セキュリティリファレンスの利用で、IT事業者のセキュリティ対応状況がわかる
「医療機関向け『Microsoft Azure』対応セキュリティリファレンス」には、医療クラウドにMicrosoft Azureを活用するにおいて、セキュリティなどの対応がどのように取られているか、細かく記載されています。
医療機関としてはこの内容を確認した上で、利用者が取るべき対応に注力すればよいので安心であるとともに、システム管理の負担も軽減されます。
医療クラウドは安全で便利なITサービスを、低コストで利用可能
医療クラウドは、サーバーを院内に置くよりも低コストで利用できることがメリットです。
月々の利用料はかかりますが、一方で機器を持たなければ保守料金も必要なく、初期費用も低額で済みます。
また、災害への備えもできるメリットもあります。
医療データはセキュリティの確保が第一ですが、医療クラウドではその環境も整いつつあります。
システム更新などの際には、医療クラウドも選択肢に入れておくとよいでしょう。
参考:
朝日インタラクティブ 医療向けクラウドの活用が急速に拡大へ(2018年7月8日引用)
日経BP社 医療クラウドの活用、海外の法令はどうなっているか(2018年7月8日引用)
日経BP社 電子カルテのクラウド化が招く医療の未来(2018年7月8日引用)
クラウドサポート郡山 医療クラウドとは?期待度高まる未来の医療(2018年7月8日引用)
三菱総合研究所 医療機関向けクラウドサービス対応セキュリティリファレンス(2018年7月8日引用)
キヤノンITソリューションズ 「医療情報システム向けAWS利用リファレンス」を共同で作成・提供開始(2018年7月8日引用)
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究講座:スマホで始まる未来の医療~医療+ICTの最前線~.日経BP社,東京,2016,pp.75-79.
Microsoft 長野県厚生農業協同組合連合会(2018年7月27日引用)
富士経済 医療情報システムの国内市場を調査(2018年7月27日引用)
TechTarget Japan 最も関心があるのは「医療クラウド」、読者調査が示す医療IT最新トレンド(2018年7月27日引用)
Google Cloud Storage の料金(2018年7月27日引用)
Microsoft Azure Files の料金(2018年7月27日引用)
Amazon ストレージの料金(2018年7月27日引用)