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義肢をつくる新しい技術!3DプリンタやAIを用いるメリットを解説

義足や義手などの義肢は、金型を用いて製作する方法が主流です。
一方で2010年代後半から、義肢には3DプリンタやAIといった技術も使われています。
これらの技術を使うことで、従来の義肢にはないメリットがありますから、本記事で詳しく
解説します。

“義肢をつくる新しい技術”

義肢を持つ方が直面する課題

手や足を失った方にとって、義肢は生活する上で欠かせません。
その一方で、従来の方法で製造される義肢にはさまざまな課題があります。
ここでは価格という面と、生活上の制約という面から解説していきます。

“義肢を持つ方が直面する課題”

●製作費用が高いため、2本目の義肢が持ちにくい

義肢の費用は高価です。
たとえば義足の場合、全額自己負担となると1本あたり30万円から100万円程度の費用がかかります。
ただし日本では1つの部位につき1本のみ、以下の通り公的な補助を受けられます。

  • ○治療の場合は、医療保険が適用される
  • ○労災でも治療でもない場合は「補装具費支給制度」の対象となり、自己負担額は37,200円(住民税非課税世帯は無料)

一方、公的な補助を利用して2本目の義肢を用意できるケースは、日常生活用と作業用で分けるケースに限られます。
たとえば以下のようなケースの場合は、自費で用意する必要があります。

  • ○体力維持のため、スポーツをしたい
  • ○就職活動用として、ハイヒールにあわせた義足をつくりたい

多くの方は経済的な理由から、生活スタイルごとに別々の義肢を用意することは難しいのが現状です。
このため、生活を義肢に合わせることになりがちです。

また公的な補助を受けて用意した義肢には、部位により1年~5年の耐用年数が定められています。
耐用年数に達する前に義肢を作り直す場合は、自己負担となる可能性が高くなります。
特に紛失が原因の場合は、耐用年数に達するまで公的な補助が受けられません。

●金属製の場合が多く、水濡れ不可などさまざまな不便がある

一般的な義肢は金属が主体となっていたり、金属製の部品が含まれる場合が多いです。
このため日々の活動において、以下にあげる制約が出てしまいます。

  • ○金属がさびることを懸念して、海岸に近寄れない
  • ○温泉に入れない
  • ○空港などに設置された金属探知機に反応する
  • ○義足の場合は、自由に履物を選べない(スニーカーとハイヒールでは、別々の義足が必要)

従って義肢を必要としない人にくらべると、どうしても活動の幅が制限されてしまいます。

3Dプリンタで、義肢を早く安く製作できる

義肢は、2本目以降の購入が高価となる点がネックです。
しかし3Dプリンタの活用により、義肢を早く安く製作することが可能となりつつあります。
ここでは3Dプリンタを活用するメリットについて、解説していきます。

なお医療における3Dプリンタの特徴については、「整形外科のトピック!注目を集める3Dプリンティング技術の基本と医療応用」記事もあわせてご参照ください。

●部品や材料の種類が少なくて済み、装着までの時間も短縮可能

3Dプリンタは以下のように、材料が少なくて済むことが特徴です。

  • ○フィラメントと呼ばれる、細い線状のプラスチック
  • ○プラスチックや金属の粉末

特にフィラメントなどのプラスチックを用いる場合は、原価が一般的な義足の1~3割程度となります。
このため軽く、安価で提供できます。

また3Dプリンタを用いて製造する義肢は、金型などの制作が不要です。
このため工場に外注せず、義肢装具士が常駐する場所で製造することも可能です。
従って、以下のメリットが期待できます。

  • 装着までの時間が短縮できる
  • 個々の要望にあわせた義肢をつくりやすい
  • ○金型の制約がないため、デザインのバリエーションが増す

●義肢に向いた素材の開発も進んでいる

材料という観点では、義肢に向いた素材の開発も進んでいます。
このうちJSRは2015年、義肢の製作に向く「FABRIAL Rシリーズ」を発売開始しました。
FABRIAL Rシリーズは、以下の特徴を持つ3Dプリンタ用のプラスチック製フィラメントです。

  • ○柔らかさ
  • ○しなやかさ
  • ○肌触りの良さ
  • ○皮膚に刺激を与えにくい

従って、より人間の皮膚に近い感覚の義肢も作成可能です。

●AIを用いることで、価格と納期をおさえつつ良質な製品を製造できる

3Dプリンタによる義手や義足は、CADという設計用のプログラムが使われる場合が多いです。
CADは3Dのデジタルデータを作成でき、そのまま3Dプリンタでの製造が可能です。
このことは、製造までの時間短縮とコスト削減に役立っています。
加えてAIを用いることで、さらなる品質の向上と低価格、短納期を両立させることが可能です。

インスタリム株式会社はAIを活用して、義肢の製造工程を簡略化させることに取り組んでいます。
たとえば義足を製作する場合、患者さんの足の情報をそのまま用いても、痛くない義肢にならないケースが多いです。
このため義足ができた後、痛い部分を義肢装具士が修正する作業が発生します。

一方で足の情報と修正後の義肢の関連性をAIに学ばせることができれば、義肢を修正する箇所は減ります。
このことは3Dプリンタで製造される義肢の品質向上と、修正箇所の減少によるコストの低下、納期の短縮に貢献します。

“FABRIAL
画像左:JSR JSR、3Dプリンター用フィラメント「FABRIAL™(ファブリアル) Rシリーズ」を発表~やわらかく、しなやかなフィラメントが3Dプリントの可能性を拡げます~.(2019年4月17日引用)
画像右:Oath Japan AI活用の3Dプリント義足で「義足を持てない患者」救出へ、インスタリムがフィリピンで実証実験を開始.(2019年4月17日引用)

3Dプリンタで品質のよい義肢をつくるビジネスが始まっている

3Dプリンタの品質は、従来の方法で製作された義肢に匹敵します。
また、3Dプリンタによる義肢製作ビジネスも始まっており、今後参入を予定する企業もあります。

●3Dプリンタで製作された義肢の品質は、既存のものに匹敵する品質

2017年に American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation は義足についての調査を実施しました。
この調査では72名の下肢切断者を半分ずつに分け、リハビリを行いました。
片方の36人には3Dプリンタでつくられた義足を、もう片方の36人には従来の方法でつくられた義足が使われました。

リハビリを行った結果、以下の結果が得られています。

  • ○歩行時間、歩行距離、無痛で歩けた時間は、3Dプリンタで製作された義足のほうが長い
  • ○義足の装着時間は、3Dプリンタで製作された義足のほうが短い
  • ○患者さんのQOLについても、3Dプリンタでの義足はよい結果となっている

このため3Dプリンタで製作された義肢の品質は、既存の義肢に匹敵するものとなっています。

●3Dプリンタを活用する義足製作企業をはじめ、参入を計画する企業がある

3Dプリンタによる義肢製作を研究していたSHCデザインは、2017年に「ゲイトアシスト」を独立させました。
ゲイトアシスト社は、3Dプリンタを活用する義足専門の企業です。
小規模の企業ですが、3Dプリンタの義足が実用化されている一つの例にあげられます。

またほかにもインスタリム株式会社など、参入に向けて準備を進める企業があります。
この点で3Dプリンタを活用した義肢は、利用しやすくなることが期待できます。

3Dプリンタによる義肢は、今後の普及が期待できる

3Dプリンタによる義肢は事業化が始まったばかりであり、現状で利用できる機会は多いといえません。
しかし既存の義肢とくらべ、使いやすさは劣りません
またデザインや価格、提供スピードなどの点では、大きなアドバンテージがあります。

3Dプリンタを利用した義肢製作については、今後の事業化を計画する企業が増えつつあります。
これにより、3Dプリンタでつくられた義肢が一般市民に普及することが期待できます。

“フィリピンでの実証実験の様子”
Oath Japan AI活用の3Dプリント義足で「義足を持てない患者」救出へ、インスタリムがフィリピンで実証実験を開始.(2019年4月17日引用)

参考:
国立障害者リハビリテーションセンター 補装具費支給判定基準マニュアル― 支援者のための ―(平成28年3月)pp.10-12,16,32.(2019年4月17日引用)
福島県障がい者総合福祉センター 補装具の手引き 平成30年10月版.pp.9-11,15-20,39-43(2019年4月17日引用)
厚生労働省 補装具費支給制度の概要.(2019年4月17日引用)
佐々木義肢製作所 義肢・装具の耐用年数.(2019年4月17日引用)
JSR JSR、ANAとSHCデザインが3Dプリント義足を共同開発.(2019年4月17日引用)
JSR JSR、3Dプリンター用フィラメント「FABRIAL™(ファブリアル) Rシリーズ」を発表~やわらかく、しなやかなフィラメントが3Dプリントの可能性を拡げます~.(2019年4月17日引用)
ゲイトアシスト.(2019年4月17日引用)
SHCデザイン.(2019年4月17日引用)
RDS 3DプリンティングとAIの機械学習。先端技術で義足の価格を1/10に!.(2019年4月17日引用)
神戸医療福祉専門学校 3Dプリンターで作る義足の可能性とは.(2019年4月18日引用)
コンデナスト・ジャパン 3Dプリンターが「義足」の民主化を加速する.(2019年4月18日引用)
コンデナスト・ジャパン 3Dプリントでつくる「自分だけの義手」が、子どもたちに勇気を与えてくれる.(2019年4月18日引用)
Hod Lipson, Melba Kurman(斉藤隆央・訳):2040年の新世界. 東洋経済新報社, 東京, 2014, pp.175-178.
アイティメディア 「義手をメガネのようにしたい」――誰もが自由に設計できる、オープンソース電動義手の狙い.(2019年4月17日引用)
Oath Japan AI活用の3Dプリント義足で「義足を持てない患者」救出へ、インスタリムがフィリピンで実証実験を開始.(2019年4月17日引用)
総合メディカル 3Dプリンターが人工装具を進化させる!従来の鋳造法による義足との実用性比較.(2019年4月18日引用)

  • 執筆者

    稗田 恵一

  • 千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
    現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
    保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ

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