スマホや携帯電話だけ?医療機器に影響を与える「電波」の基礎知識
以前は、電波による医療機器への影響を考慮し、必ず携帯電話の電源をオフにするようアナウンスがされていました。
しかし、スマホなどが普及して久しい現代でも、医療機器への電波影響は変わらないのでしょうか?
今回は、2018年現在での医療機器への電波影響について解説します。
ガイドライン上で電波影響があるとされている医療機器は全11個
植込み型医療機器、といわれるとすぐに思いつくのがペースメーカーですが、こうした機器はそれ以外にも複数存在しています。
2018年1月現在、総務省が発行している「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」において、ガイドライン上に制定されている医療機器は以下の11個です。
- 1)植込み型心臓ペースメーカー
- 2)植込み型除細動器
- 3)脳深部刺激装置
- 4)脊髄刺激装置
- 5)仙骨神経刺激装置
- 6)迷走神経刺激装置
- 7)植込み型輸液ポンプ
- 8)植込み型心電用データレコーダー
- 9)補助人工心臓駆動装置
- 10)ポータブルインスリン用輸液ポンプ
- 11)携帯型輸液ポンプ
この11種類の医療機器においてポイントとなるのは、「必ず影響を与える」のではなく、「可能性がある」という点です。
つまり、これらの医療機器を使用していても、正しい知識を持って対応することで、その影響を回避することは十分可能である、ということがいえるのです。
電波による医療機器への影響を考慮するにあたり、まずはこの点をしっかり押さえておくことが大切です。
スマホや携帯電話を医療機器から離す目安は「千円札」
植込み型医療機器へ影響を及ぼす可能性があり、かつ多くの人が日常的に利用しているのが、スマートフォンや携帯電話です。
総務省が2012年7月25日以降、スマートフォンや携帯電話端末による医療機器への影響を調査したところ、一部の植込み式医療機器について、携帯電話から最長で3cmの距離で影響を受けることがあったことを公表しています。
そのため、ガイドラインにて以下のように制定しています。
1)植込み型医療機器の装着者
携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部位から15cm程度以上離すこと。
また、混雑した場所では、付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、注意を払うこと。
2)携帯電話端末の所持者
植込み型医療機器の装着者と、近接した状態となる可能性がある場所では、携帯電話端末と植込み型医療機器との距離が、15㎝程度以下になるよう注意を払うこと。
身動きが自由にとれない状況にあり、15㎝程度の距離が確保できない場合は、事前に携帯電話端末が電波を発しない状態に切り替えるなどの対処をすることが望ましい。
ここで注目したいのは、「15cm程度の距離を離すこと」そして「電源をオフにするのではなく、電波を発しない状態に切り替えることを奨励している」という2点です。
15cmというと、具体的にどれくらいになるのかイメージがわきにくいですが、15cmピッタリの身近なものは、千円札の横幅です。
よって患者さんに説明をするときも、「千円札の横幅以上は離して使うように」と指導するとよいでしょう。
●医療機関でPHSが採用されている理由
医療機関内でのオンコール用として採用されていることの多いPHS。
なぜ携帯電話やスマートフォンではなく、PHSが採用されているのか、疑問に思っている方も多いかと思います。
総務省の調査によると、PHS端末については、影響を受けた植込み型医療機器はありませんでした。
PHSであれば医療機器への影響を気にすることなく、使用することが可能であるため、医療機関においても採用されているのです。
ただし、PHSは見た目だけでは携帯電話と区別がつきにくくなっています。
そのため、医療機関内ではストラップに「医療用PHS」と記載し、PHSであることを患者さんにアピールするようにしています。
スマホや携帯電話以外にも電波はある!身近な電波利用機器
植込み型医療機器に影響を与える電波利用機器は、スマートフォンや携帯電話だけではありません。
では、植込み型医療機器を利用している方は、ほかにどのような電波利用機器に注意する必要があるのでしょうか。
●ワイヤレスカード(非接触ICカード)システム
ワイヤレスカードシステムは、鉄道の駅の改札口や電子マネー決済、会社の入退室管理などに使われている電波利用機器です。
植込み型医療機器を利用している方がこのシステムを使う場合は、ワイヤレスカードシステムから装着部位を12㎝程度以上離すことが推奨されています。
●無線LAN機器
無線LAN機器によって影響を受けた医療機器は1種類のみでした。
そのため、影響を受けた医療機器を使用している方には、医療機関を通じてすでに全員に対して注意喚起が行われています。
そのため、2016年11月現在で注意喚起されていない方については、無線LAN機器に対して特別な注意は必要ありません。
●電子商品監視(EAS)機器
電子商品監視機器とは、感知ラベルやタグを張り付けた商品がレジカウンターで清算されずに、この機器のセンターを通過したときに警報音を発することで商品の不正持ち出しを防止する電波利用機器です。
植込み型医療機器を利用している方は、「EASステッカー」が貼られている場所では立ち止まったり、寄りかかったりせず、通路の中央をまっすぐ通過することが奨励されています。
●RFID機器(電子タグの読み取り機)
RFID機器とは、電子回路を内蔵したタグとリーダライタとの間を非接触で通信を行い、タグのデータを読み書きすることを可能にしている電波利用機器です。
RFID機器は、物流や在庫管理、商品の清算など、さまざまな分野で利用されています。
この機器にはいくつかのタイプがあり、タイプによって注意すべき項目や装着部位との距離が違うため、それぞれのタイプごとに注意点を挙げます。
1)ゲートタイプ
立ち止まったり、寄りかかったりせず、通路の中央をまっすぐ通過することが奨励されています。
2)据え置きタイプ
据え置きタイプが設置されている場所およびRFIDステッカーが貼付されている場所の半径1m以内には近づかないことが奨励されています。
3)ハンディタイプ
植込み型医療機器の装着部位より22㎝程度以内に近づけないことが奨励されています。
まとめ
技術の進歩に伴い、電波が医療機器に与える影響も年々変化しています。
よって医療者も常に最新の動向を確認し、正しい知識をアップデートすることが大切です。
「携帯電話やスマートフォンはすべて禁止」とするまえに、ぜひ今回解説した内容を踏まえて安全な使い方を指導していただけたらと思います。
患者さんが過度に電子機器への不安を持ったり、使用せずに不便な思いをされることがないよう、正しい知識をお伝えしていきましょう。
参考:
総務省 知っていますか?「植込み型医療機器」をより安心して使用するためにできること(2018年1月18日引用)