医療・介護専用SNSの活用でできることを徹底解説
現在では医療機関や介護施設などにおいて、SNSが活用されるケースが増えてきました。
この医療・介護専用SNSは、一般社会で活用されるSNSと異なる点があります。
本記事では医療・介護専用SNSの活用により可能となることを解説していきます。
目次
医療や介護におけるコミュニケーションの課題
医療や介護の業務において、患者や利用者、ほかの施設などとコミュニケーションを取る場合は、電話やFAXといった方法がよく使われています。
施設によっては、電子メールを活用している所もあるかもしれません。
しかし電話やFAX、電子メールを使ったコミュニケーションには、課題があります。
本記事ではまず従来のコミュニケーションにおける課題について、取り上げていきます。
●電話はお互いのタイミングが合わないと、なかなかコミュニケーションが取れない
電話は直接会話できる便利なコミュニケーションツールですが、以下の弱点もあります。
- ○1対1でしか話ができない
- ○お互いのタイミングが合わないと、なかなかコミュニケーションが取れない
たとえば5カ所の連絡先がある場合は5回電話をかけ、そのつど同じ内容を話さなければなりません。
このため電話を使う場合は、少ない情報でも伝えるまでに時間がかかる点が課題となります。
また電話によるコミュニケーションは、相手が不在などの理由で電話に出ない場合もあることも課題の1つです。
これはお互いが多忙な方同士の場合で、より顕著になります。
加えて相手がもし不在だった場合、折り返しの電話を依頼しても連絡が来るとは限りません。
そのため電話でのコミュニケーションにこだわると、必要な事項の確認ができないまま数日が経過してしまう事態に陥る可能性も否定できません。
●FAXや電子メールは、誤送信をしてしまう可能性がある
FAXや電子メールには、同じ内容を複数の方に送信できる機能がついています。
この点で電話と異なり、相手が不在であっても送信できることはメリットの1つです。
一方でFAXや電子メールは、宛先が間違っていても誰も指摘してくれません。
このため送信者自身が十分なチェックを行わないと、意図しない相手に情報が送信される恐れがあります。
もしその情報が患者や利用者に関するものなら、個人情報の漏えいとなってしまうでしょう。
いわゆる「誤送信」を防ぐ仕組みがないことは、FAXや電子メールを用いる上での課題です。
またFAXを使う場合は、送信先の紙を消費することにもつながります。
このことは送信先の施設において、経費の増大につながることも課題に挙げられます。
医療・介護専用SNSの活用で、患者や利用者への対応が向上できる
医療・介護専用SNSを活用することにより、以下に挙げるメリットを得られます。
- ○患者や利用者への対応が向上できる
- ○仕事を進めやすい環境づくりに貢献できる
この項目では患者や利用者への対応に関するメリットを4点取り上げ、それぞれについて解説します。
●SNSを読めば、患者や利用者に関する情報が一通り理解できる
医療・介護専用SNSは、その患者や利用者に関わる方を過不足なく登録できることが特徴です。
いわば、グループLINEのようなものと考えるとよいでしょう。
従って患者や利用者に関する情報が集まりますから、SNSを一読することで患者や利用者に関する情報を一通り理解することが可能です。
また情報の共有は、SNSにアップするだけでよいこともメリットに挙げられます。
従って電話のように、何度も同じことを説明する手間がかかりません。
加えて医療・介護専用SNSには、以下の情報も添付できます。
- ○文書ファイル
- ○画像
- ○動画
上記のように言葉での正確な説明が難しい内容でも、SNSへのアップにより明快かつ正確に伝えられる点もメリットに挙げられます。
●患者や利用者に関する情報を時系列で理解できる
SNSは、情報が時系列で並ぶ点にも特徴があります。
従って、患者や利用者に対する情報を時系列で理解できる点もメリットの1つです。
一例として以下に挙げる情報について、前後関係を含めて理解できる点が挙げられます。
- ○患者や利用者に対して取った処置
- ○起きた症状
- ○患者や利用者、家族からの連絡事項
●専門スタッフと患者・家族それぞれに対し、必要な情報だけを提供できる
医療・介護専用SNSのなかには、患者や家族も参加可能な場合があります。
この場合、1つのSNSに全員を参加させることがよい方法とは限りません。
たとえば医療の専門用語に詳しくない患者や家族がいる場合、タイムラインに医療用語が飛び交うと、内容が理解できないことを理由に参加をやめてしまいかねません。
またタイムライン上で治療方針についての案が複数提示されている場合、議論が長引くと患者や家族はどれを信じたらよいかわからなくなるかもしれません。
このような場合は専門のスタッフ向けと患者・家族向けのタイムラインを分けることで、お互いに必要な情報だけを入手し、活用することが可能です。
●セキュリティが万全なため、安心して利用できる
医療・介護専用SNSは、業務に適合したセキュリティを確保していることも重要なポイントです。
一般的なSNSでは、以下に示す方法により第三者に情報が流出する可能性があります。
- ○SNSに参加している方のアカウント名を知り、会話内容を直接閲覧する
- ○SNSに参加している方宛てのメッセージを検索し、どのような会話が行われていたかを推測する
一方、医療・介護専用SNSは「患者や利用者に関係するメンバーのみ、タイムラインを閲覧できる」点が大きな特徴です。
従って医療・介護専用SNSならば適切なセキュリティ対策が行われているため、第三者に情報が流出するリスクを防げます。
このためセンシティブな内容であっても、安心して会話することが可能です。
また誤送信の対策においても、医療・介護SNSは優れています。
送信前に送信先を容易に確認できるため、意図しない方に情報を送信してしまうことを防ぐことが可能です。
医療・介護専用SNSは、仕事を進めやすい環境づくりにも貢献できる
医療・介護専用SNSの利用は、業務に従事する医師や看護師、介護士などにもメリットがあります。
ここでは仕事を進めやすい環境づくりに貢献できるメリットを3つ取り上げ、それぞれ解説していきます。
●参加者各自が都合のよい時間にSNSを読み、情報や回答を投稿できる
患者や利用者に関する情報連携を行う際には、ケアマネジャーから医師に対する確認など、他職種との連携が求められるケースも少なくありません。
この場合は、医療・介護専用SNSを使うことで大きなメリットが得られます。
それは忙しい方同士の情報連携において、お互いにタイミングを合わせなくてもコミュニケーションの成立が容易になることが理由です。
たとえば片方は早朝に確認、もう片方は夜に確認する方同士でも、SNSならコミュニケーションが可能です。
従って参加者各自が都合のよい時間にSNSを読み、情報の入手や情報提供が可能となります。
宇佐美は「新医療2014年9月号」掲載の記事において、ケアマネジャーの8割は医療機関に対して連携が図りにくいと思ったことがあると述べています。
またその理由として、最も多いものが「かかりつけ医が多忙なため、連絡しても会ってもらえない」であったと述べています。
医療・介護専用SNSの活用により、これらの課題を解決することが可能です。
加えてSNSならパソコンに限らず、スマートフォンやタブレットでも確認できます。
そのため、どこでもすばやく情報を確認できる点もメリットに挙げられます。
またコミュニケーションのハードルが下がることにより、ささいな情報でも情報共有ができるため、患者や利用者の状況をより正確に把握することにもつながります。
●1回の投稿で関係者全員に伝達でき、電話の鳴る回数も減る
医療・介護SNSの活用により、急がない確認事項や情報提供はSNSに投稿したほうが便利となります。
なにしろSNSを活用すれば内容の聞き間違いも防げ、文書や画像、動画も共有できるわけです。
さらに関係者全員がSNSの閲覧を行っている場合は、1回の投稿で関係者全員に伝達できることもメリットに挙げられます。
電話より便利な情報提供手段が得られるならば、もはや1対1の会話しかできない電話にこだわる理由はありません。
従って電話の鳴る回数も減少し、本当に緊急の場合だけ電話がかかってくるようになることが期待できます。
一例として「メディカルケアステーション」サービスを提供するエンブレースによると、ある医師からは「1日の電話の着信履歴が55件から5件に減った」という報告がされています。
これにより各自のペースで仕事を進めやすくなり、能率のアップやミスの軽減が期待できます。
●会議や打ち合わせの時間が減る
医療・介護SNSを活用することで、多くの情報は会議や打ち合わせの場を介さなくても共有できるようになります。
このことは、情報共有のための会議を減らすことにつながります。
従って会議や打ち合わせの時間が減少し、残業時間の削減やほかの業務に割り当てる時間を増やすといった効果が期待できます。
医療・介護SNSの活用により、患者や利用者の満足と働きやすさを両立できる
医療・介護SNSは情報共有が主な機能ですが、活用によりもたらされるメリットは大きなものがあります。
なかでも患者や利用者の満足度を高めつつ、医療や介護従事者の働きやすさも向上できる点は大きなメリットです。
またいつでもどこでもコミュニケーションを活発に取れるため、よりよいアイデアが生まれやすくなる点もメリットに挙げられるでしょう。
この機会に、医療・介護SNSについて情報収集することをおすすめします。
あわせて読みたい:
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参考:
エンブレース メディカルケアステーション.(2019年8月25日引用)
エンブレース 完全非公開型 医療介護専用SNS 「メディカルケアステーション(MCS)」で実現する多職種ネットワーク.(2019年8月25日引用)
中川敦 遠距離介護における SNS を用いた遠隔コミュニケーションの会話分析的研究.pp.217-237(2019年8月25日引用)
ブラザー工業 1回の操作で同じ原稿を複数の相手先にファクス送信することはできますか?.(2019年8月29日引用)
須藤修: 在宅医療・介護連携のための情報共有基盤. 病院73巻6号: 426-431, 2014.
山下巌: SNSを用いた医療介護連携. 地域ケアリング: 60-67, 2015.
土屋淳郎: 施設間連携システムとしての医療介護専用SNSの利用状況と今後の展望. 新医療2014年9月号: 59-63, 2014.
平田厚: SNSの落とし穴 介護従事者のコンプライアンス. ふれあいケア2015年8月号: 22-26, 2015.
北川妙子: リスクマネジメントとSNS:意識を高めるための研修の必要性. ふれあいケア2015年8月号: 22-26, 2015.
宇佐美茂男: 現場視点の地域包括ケアシステムに対するICT連携の要諦と要件. 新医療2014年9月号: 77-79, 2014.
小倉佳浩: 医療介護連携専用SNS「メディカルケアステーション」と栄養指導の今後について. 日本糖尿病情報学会誌: 51-55, 2016.
葭葉敦史: SNSやコミュニケーションツールが医療業界に果たす役割 (特集 医療ICTの進展). 映像情報メディカル: 25-26, 2016.
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ