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VRを用いて幻肢痛を緩和する治療法の研究が進んでいる

手や指を切断した方は、ないはずの腕などが痛む「幻肢痛」が起こり、つらい思いをされることも多いです。
幻肢痛の治療には鏡療法のほかに、VR(バーチャルリアリティ)で緩和する研究も進んでいます。
本記事ではVR(バーチャルリアリティ)を用いた幻肢痛の治療方法について解説します。

バーチャルリアリティで幻肢痛は緩和できるか?

幻肢痛とはなにか?

幻肢痛とはなにか?

感覚のない、あるいはそもそも存在しない四肢が痛むことを、不思議に感じる方もいるかもしれません。
このような「幻肢痛」は、「なぜ痛みが起こるのか」という仕組みと大きな関わりがあります。
ここでは幻肢痛とはなにか、またなぜ起こるのかという理由に迫ります。

●四肢そのもの、または感覚を失った四肢に痛みを感じる

世の中には、事故や病気で手足や指を失う方がいます。
また形自体は残っても、神経が麻痺することにより感覚を失い、動かせなくなった四肢を持つ方もいます。
その苦しみは容易に想像できるものではないでしょう。
かつて自由に動かせた四肢はもうなく、感覚はなくなっているかもしれません。
しかし実際には、温感や冷感、しびれなどの感覚を覚える患者さんは少なくありません。

幻肢痛はこれらの感覚の中でも、痛みを覚えるものを指します。
住谷らによると、その発症頻度は四肢を切断した患者の5割から8割にも上り、数年経過しても痛みが続くとされています。
これらの患肢に覚える痛みの強さは人それぞれですが、猪俣は以下のように表現しています。

  • ○血管の中を砂利が流れる感じ
  • ○触るだけでもつらい

これを見るだけでも、かなり強い痛みであることがわかります。

●正体は「動作に対する感覚情報が正しくフィードバックされない」異常の知らせ

それでは、どうして「ないはずの四肢」「感じないはずの四肢」が痛むのでしょうか。
それは、痛みは脳で感じることにヒントがあります。
住谷らはこの点について、以下の通り記述しています。

ヒトの四肢運動の際には脳から筋肉へと発せられる運動の指令に続いて四肢運動後には感覚情報が脳へとフィードバック(腕の肢位など)されるが、この運動指令に応じて適切な感覚情報がフィードバックされない場合に痛みが生じるとされる。

引用元:住谷昌彦, 大住倫弘, 他: バーチャルリアリティを用いた幻肢痛の治療とその機序解明

たとえば腕を例に挙げると、腕を動かしたにも関わらず、あるべき感覚が得られないと痛みとして感じるわけです。
これは、腕の異常を知らせることにほかなりません。
住谷らもさきに紹介した論文のなかで、「“痛み”とはそもそも身体の異常を知らせるための警告信号である」と記述しています。
腕を失った、あるいは動かない腕を持つ患者さんは、身体の異常が続いているわけですから、常に警告信号としての「痛み」が続くことになるわけです。
もっともこの痛みは患者さんにとって苦しみでしかなく、なんとかしたいものであることには違いありません。

●鏡療法が一定の効果をあげている

幻肢痛への治療は、鏡療法が一定の効果をあげています。
鏡療法は両手で異なる動作をさせても、右腕も左腕も同じ動作になる「両手協調運動」という性質を利用しています。
患肢を鏡で隠し、代わりに健常な腕の鏡像を見せると、あたかも患肢がきちんと動くように感じます。
このため、痛みも軽減されるというわけです。
腕が動かない患者さんの中には、患肢が動かせるまでに回復する場合もあります。

一方で患者さんの中には、両腕が同じ大きさに感じていない場合もあります。
たとえば、失った腕が健常な腕よりも小さく感じるなどが挙げられます。
このような方は鏡で健常なほうの腕を見せても、かえって不自然に感じてしまい、痛みの軽減にはつながりにくくなります。

VRを用いた幻肢痛治療の方法

VRを用いた幻肢痛治療の方法

幻肢痛の治療は鏡療法のほかに、新しい治療法としてVRを用いた治療の研究も行われています。
ここではVRを用いた治療方法と鏡療法をくらべた効果について解説していきます。

●実際に行われる治療方法

VRを用いた幻肢痛の治療は、鏡を使いません。
その代わりに、患者さんはモニターを見たり、専用のヘッドマウントディスプレイをかぶったりすることになります。

患者さんが目にする画面には、バーチャルリアリティ技術を使った仮想現実の風景(VR空間)が広がっています。
この技術を用いて、患肢が正常に動いている状況を作り出し、脳に錯覚を与えることができます。
加えて、現実では実現が難しい状況を作り出し、治療に役立てることも可能です。
たとえば現実では幻肢で風船を割ったり、水をすくったりすることは難しいですが、VR空間なら簡単にこの状況を作り出せます。

実際には健常な腕の情報を用いて、VR空間に腕の画像を作り出し、患者さんに提示します。
ただし鏡療法と異なり、腕のサイズや形を患者さんのイメージ通りに見せられることが特徴です。

●痛みが速やかに弱まる患者さんもいる

VR治療も鏡療法と同じく、治療により患肢の痛みが弱まる方は多い一方で、症状が改善する期間は異なる場合があります。
鏡療法では一定の効果を得るまで、最低でも3週間程度の期間が必要です。

一方でVR治療の場合は、速やかに痛みが弱まる場合があります。
患者さんの中には、VRにより患肢が動くのを確認した後、5分程度で痛みが弱まった方もいると報告されています。
もちろん症状の改善には、個人差があることに留意が必要です。

VRを活用した治療法のメリットと、将来への期待

VRを活用した治療法のメリットと、将来への期待

VRを活用した幻肢痛の治療は、鏡療法と同等以上の効果が見込まれています。
ここではそのメリットと、将来どのような期待ができるかという点について解説していきます。

●鏡療法と異なり、患者さんの状態に合わせた補正が可能

VRを活用した治療法には、以下のメリットがあります。

  • ○患者さんの身体を傷つけない
  • ○鏡療法のように、患肢と鏡を上手にセッティングする手間が不要
  • ○まわりの物などに影響されず、VR空間でつくられた「四肢が動く理想的な状況」を体感できる
  • ○VRならディスプレイに映る患肢の大きさや形を、実際に感じているものに合わせられる

これにより「左腕と右腕で大きさが違う」「手が胃の位置にある」と認識している患者さんに対しても、痛みを抑える治療につなげることが可能です。

●痛み止めの量の削減や、QOLの向上に期待

将来はVRの活用により、幻肢痛に悩む多くの患者さんの苦しみが快方に向かうことが期待できます。
QOL(生活の質)の向上や、社会の活力アップにもつながるかもしれません。

加えて幻肢痛に悩む方の中には、痛み止めを常用する方も少なくありません。
VRの活用により幻肢痛の痛みを抑えられれば、痛み止めの処方量も減ります。
このため薬の費用が減ることはもちろん、患者さんに対する体の負担も軽くなるメリットが期待できます。

VRを活用した幻肢痛の治療に注目を

VRを活用した幻肢痛の治療は研究段階であるものの、鏡療法で効果が得られなかった方でも、痛みなどの症状が改善される可能性があります。
2020年初頭の時点では腕など上肢のみの対応ですが、日々の暮らしを快適にするという点でも、今後に期待できる治療法といえるでしょう。
本格的な活用はこれからとなりますので、関心のある方はどこまで研究が進んでいるか、随時チェックすることをおすすめします。

参考:
住谷昌彦, 大住倫弘: 幻肢痛に対するバーチャルリアリティ治療. 医学のあゆみVol.269 No.8:575-580,2019.
猪俣一則: バーチャルリアリティの医学応用への期待:患者の立場から. 医学のあゆみVol.269 No.8:597-599,2019.
井上裕治: バーチャルリアリティの医学応用への期待:開発者の立場から. 医学のあゆみVol.269 No.8:600-602,2019.
住谷昌彦, 大住倫弘, 他: バーチャルリアリティを用いた幻肢痛の治療とその機序解明. (2020年1月6日引用)
玉城雅史, 大澤傑: 幻肢痛に対する鏡治療.(2020年1月6日引用)
住谷昌彦, 宮内哲, 他: 幻肢痛の脳内メカニズム.(2020年1月6日引用)
ダイヤモンド社 腕がなくても痛む「幻肢痛」に朗報、VRによる治療が効果.(2020年1月6日引用)

  • 執筆者

    稗田 恵一

  • 千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
    現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。

    保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ

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