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VR(バーチャルリアリティ)は医療系の学生教育において、様々な能力の向上に活用され、学力向上に貢献している具体例を紹介

より良い医療教育を目指して、VR(バーチャルリアリティ)を用いたさまざまなシステムが大学などで活用されています。
本記事では医学や看護など医療教育へのVR活用について、どのようなものがあるか、またそれぞれの特徴について解説していきます。

医療現場はVRを積極的に取り入れている

VRのメリットや、医療教育への活用方法

医療系の大学などにおける専門教育では、シミュレーターなどを使った「シミュレーション教育」が行われています。
VRはシミュレーション教育の1つであり、さまざまな目的で活用されている方法です。
本記事ではVRの特徴やメリットを述べた後、どのような活用方法がされているか解説していきます。

●VRの特徴や、医療教育に活用するメリット

医療系の学生教育にVRを活用することには、以下の特徴やメリットがあります。

  • ○高価なシミュレーターを用意しなくてもよいため、コストを削減できる
  • ○VRゴーグルを使うことで、同時に多人数が体験できる
  • ○360度の画像を作成できるため、おのおのの学生が見たい視点で学べる

VRを活用する代表的なメリットとして、「百聞は一見に如かず」ということわざで示される体験を、低コストかつ同時に多人数で体感できることが挙げられます。
たとえば「赤と緑の違いがわかりにくく、同じように見えてしまう」という情報を言葉で得ても、体験したことのない方はなかなか想像しにくいものです。
しかしVRを用いて実際に体験すれば、すぐに理解できることはメリットといえるでしょう。

参考:Google 色覚多様性教育支援VRアプリver.1
Youtube bandicam 2017 02 01 05 11 32 067 WMV V9

またVRの映像を見る手段としては、しばしばVRゴーグルが使われます。
2019年現在ではダンボール製のVRゴーグルも登場しており、大人数の実習などでもコストを抑えた導入がしやすくなっています。

●医療教育にはどのように活用される?

VRは実習を中心に、さまざまな場面で用いられます。
代表的な例として、以下の3つが挙げられます。

  • ○知識を深め、定着させる
  • ○手技を学ぶ
  • ○患者への応対能力を向上させる

教育に使われるVRはHoloeyesVRなどの既製品が使われる場合もある一方で、教材として使う映像などのコンテンツにおいては適切な製品がない場合も少なくありません。
その場合はゼロベースで開発されることになります。

利用例1:知識を深め、定着させる

VRは医療を学ぶ学生が必要な知識を深め、定着させる有効な手段のひとつです。
ここでは3つの例を取り上げ、それぞれについて解説していきます。

●HoloeyesVRを活用して、臓器の位置と大きさを正確に理解させる

HoloeyesVRを活用して、臓器の位置と大きさを正確に理解させる

HoloeyesVRはスマートフォン用VRアプリの1つで、人体の3D構造を見ることが可能なアプリです。
心臓や肝臓、腎臓、大動脈などの位置を正確に表示できることはもちろん、臓器の名前をつけて表示できることが特徴です。

杉本らは国立看護大学校看護学部において、1年生100名を対象に、HoloeyesVRを10分間利用することで人体の立体構造の理解度がどれだけ向上するか評価しました。
その結果、以下の結果を得ています。

  • ○VR体験により、臓器の正しい位置と、正しい形を描くことができた
  • ○VRヘッドセット「MirageSolo」の活用により臨場感が得られるとともに、臓器をあらゆる方向から観察できるため学習の意欲が増す

このため解剖の実習をする前の段階でも、短時間で臓器の理解が進むことがメリットに挙げられます。
まさに「百聞は一見に如かず」を示す一例といえるでしょう。

●色覚多様性教育支援VRアプリで、色覚異常の方の見え方を理解する

色覚多様性教育支援VRアプリで、色覚異常の方の見え方を理解する

一般市民の中には、ほかの方と異なる色覚を持つ方もいます。
たとえば日本では、男性のうち約5%の方が「色覚異常」と呼ばれる色覚の特性を持っています。
一方で色覚異常の診断を受けていない方にとって、このような方が見ている世界はなかなか理解しにくいものです。

「色覚多様性教育支援VRアプリ」は、異なる色覚を持つ方がどのように見えているか、VRで体験できるアプリです。
主な用途は小学校の新任教員向けとなっているため、学校の教室が舞台となっています。
しかし症状を理解するという点では、医療系の学生にも役立つ内容といえるでしょう。

●統合失調症の幻覚を疑似体験する

統合失調症は、1,000人のうち7人の方が生涯のどこかでかかりうる病とされており、決して珍しい病気ではありません。
一方で主な症状である「幻覚」は、ほかの人からはなかなか想像しにくいものです。

ヤンセンファーマは「認定NPO法人 地域精神保健福祉機構」らの監修のもと、統合失調症の幻覚を疑似体験できる「バーチャルハルシネーション」を作成し、公開しています。
なかでも、幻聴を中心に扱っていることが特徴です。
言葉で説明するだけでは得られない、驚きと知識を得ることができるでしょう。

利用例2:手技を学ぶ

利用例2:手技を学ぶ

VRは手術など、実際に手を動かす実習にも活用できます。
徳島大学医学部耳鼻咽喉科では、医学生の解剖学的知識と側頭骨手術の手技を向上させる目的で、2014年から側頭骨手術のVRシミュレーター「VOXEL-MAN TempoSurg」を導入しています。
「VOXEL-MAN TempoSurg」は、以下の機器で構成されています。

  • ○PCとディスプレイ
  • ○ハンドピース2台(手でドリル操作を行うために使用)
  • ○3Dマウス(3次元に画面を動かすために使用)
  • ○立体視が可能な専用ゴーグル

これらを活用した結果、側頭骨の解剖学的名称に関する筆記試験の正答率は、50%前後から80%以上に上昇するという成果を得ています。

利用例3:患者への応対能力を向上させる

利用例3:患者への応対能力を向上させる

VRは、患者への応対能力を向上させる教育にも活用されています。
ここでは認知症患者と家族への対応、および小児看護教育の例を取り上げ、解説を進めます。

●認知症患者と家族への対応

山川らは高齢のアルツハイマー型認知症患者をモデルにして、VRを用いた看護教育プログラムを作成しました。
映像をゴーグルとヘッドフォンをつけて見ることで、患者が自身の症状や病棟で体験することをどのように感じているか、臨場感をもって知ることができます。
加えて「余裕のない看護師編」と「エキスパート編」を用意することで、看護師の対応いかんにより、患者や家族に及ぼす影響の違いも体験できます。

これにより、VRの教材は患者さんに対する対応をどうすべきか、考える材料として活用できます。
また学生がこの体験をすることで、個々の患者さんに対するより良い応対方法を実践するきっかけにもなります。

なお認知症の疑似体験については「ITで認知症の疑似体験が身近に!実態を知ることは効果的な対応への第一歩」記事でも解説していますので、あわせてご参照ください。

●小児看護教育への活用

患者が子どもの場合、以下のように成人や高齢者とは異なる点があります。

  • ○自分の症状を適切に言えるとは限らない
  • ○大声をあげて泣く場合や、体を激しく動かす場合もある
  • ○子ども自身にも理解してもらうために、プレパレーション(子どもが入院や治療、検査を受けるときに行う、子どもの発達に合わせた説明や配慮)が必要
  • ○シミュレーターの種類が限られる

参考:駒沢女子大学 プレパレーションって、なに? ~小児看護学領域~(2020年1月28日引用)

合田らは小児に対する看護教育を向上するため、学内の教員の協力を得て、3歳児と母親が病室内にいるVR動画を作成しました。
この動画を2017年12月に、ある大学の3年次の看護学生に講義で見せた上で、「子どもの成長発達や権利について自由に考えるアクティブラーニング」を行ったところ、以下の学びが得られたとしています。

  • ○想像よりも3歳児の発達が進んでいる
  • ○3歳児でも説明を工夫することで、理解してもらえる
  • ○子どもがどのような苦痛を受けているか理解できる
  • ○子どもに潜む危険がわかる
  • ○母親の受けるストレス

学生は、普段の生活で子どもの相手をする方ばかりではありません。
しかしVR教材の活用により子どもを知る経験が得られ、より良い応対方法を考えることにつながります。

VRの活用による今後への期待

VRの活用により、さまざまな内容を学ぶことができます。
ここでは今後どのようなことが期待できるか、2つの項目を取り上げ解説していきます。

●意欲のある人はより多くのことを学べ、現場に出た際のギャップを和らげる

医療系の学部を卒業後に現場に入ると、多少なりとも現実に戸惑う経験をした方も多いのではないでしょうか。
VRの活用により、学生は実践の場に近い体験ができます。
これにより学生のうちから現場に近い環境で学ぶことができ、就職後のギャップを和らげることが可能です。
この点について、宮崎は以下の通り記しています。

VR教材での体験を通じて、学生はより現場に近い環境を体験し、早い時期から目的意識をもたせ、自分がどんな看護をめざしたいかとの乖離を埋めることを期待する。

引用元:宮崎剛司: VRを用いた生活援助技術の学びと今後の発展. 看護教育 Vol.60 No.1: 39, 2019.

VRの活用により、意欲ある人はより多くのものを感じ取り、学ぶことができます。
一方で意欲の有無により、同じカリキュラムでもこれまで以上に学生ごとの理解度に差がつくことも考えられます。
したがって医療系の学部・学科では、「目的をもって学ぶ」ことが今まで以上に重要視されることになるでしょう。

●VR内でコミュニケーションを取ることで、さらなるスキルの向上を目指す

本記事で解説したVR教材の多くは、映像を見ることが主体です。
このため「映像を見ている学生の操作によって、その後に映る内容が変わる」などといった、双方向のコミュニケーションに対応するものは多くありません。
この実現には、AIなどの活用が求められます。

もし実現すると、自らの対応の良し悪しが、ある程度その場でわかることが期待できます。
このため学生の理解度がさらに深まることはもちろん、学生の習得レベルも評価することが可能です。
この点について小山は、以下の通り述べています。

AIを用いた音声認識や表情や行動解析を行いながら、学習シナリオに応じてAIが仮想患者の状態を変化させ、体験者の習得レベルを評価することが可能な時代になってきています。
(中略)
患者視点から見て、何らかのアクションを起こした場合の看護師の表情や態度など双方向の対応についても検討できたほうがいいように思います。

引用:小山博史: 医療教育分野へのVR/AR技術応用の現在と未来. 看護教育 Vol.60 No.1: 25-26, 2019.

VRを用いた教育で優秀な医療従事者を育成し、医療の質がさらにアップすることを期待

VRを使うことで、知識や技能、応対方法など、医療に携わる者として欠かせないさまざまなスキルを向上できます。
以前は机上や高価なシミュレーターでしか学習できなかった内容でも、VRの活用により、学生はより現場に近い環境で学べます。
これは就職後、より早く力を発揮することにつながります。
このようにVRは優秀な医療従事者を育成する上で力強い味方となりますから、医療の質がさらにアップすることも期待できます。

参考:
廣瀬通孝: 教育におけるVRの活用を展望する. 看護教育 Vol.59 No.2: 86-87, 2018.
山川みやえ, 古谷和紀, 他: VR×看護教育 患者の立場に立てる教育方法をめざして. 看護教育 Vol.59 No.2: 92-99, 2018.
内藤知佐子, 山川みやえ: VR体験とこれからのケアをつなぐ学習プログラム. 看護教育 Vol.59 No.2: 100-108, 2018.
下河原忠道, 内藤知佐子, 他: VRの可能性に託した、看護教育への信頼と展望. 看護教育 Vol.59 No.2: 109-116, 2018.
小山博史: 医療教育分野へのVR/AR技術応用の現在と未来. 看護教育 Vol.60 No.1: 20-27, 2019.
杉本真樹, 他: XRによる臨場感と主体性をもたらす医用画像にもとづく医療・医学・看護教育. 看護教育 Vol.60 No.1: 28-33, 2019.
宮崎剛司: VRを用いた生活援助技術の学びと今後の発展. 看護教育 Vol.60 No.1: 34-41, 2019.
合田友美, 西田千夏: 看護教員がつくるVR教材の小児看護教育への応用. 看護教育 Vol.60 No.1: 42-47, 2019.
Google HoloeyesVR.(2020年1月28日引用)
App Store HoloeyesVR.(2020年1月28日引用)
Google 色覚多様性教育支援VRアプリver.1.(2020年1月28日引用)
Youtube bandicam 2017 02 01 05 11 32 067 WMV V9.(2020年1月28日引用)
厚生労働省 統合失調症.(2020年1月28日引用)
ヤンセンファーマ 統合失調症の幻覚疑似体験バーチャルハルシネーション.(2020年1月28日引用)
ヤンセンファーマ バーチャルハルシネーション.(2020年1月28日引用)
ヤンセンファーマ 日本版バーチャルハルシネーションについて.(2020年1月28日引用)
佐藤豪, 神村盛一郎, 他:医学教育におけるバーチャルリアリティーを用いた側頭骨手術シミュレーション実習の効果.(2020年1月28日引用)
東京大学大学院医学系研究科臨床情報工学 医用バーチャルリアリティ.(2020年1月28日引用)
駒沢女子大学 プレパレーションって、なに? ~小児看護学領域~.(2020年1月28日引用)
医学書院 特集 VR/AR/MR 教育への応用最前線 合田友子先生提供 参考映像2 VR教材の3D映像(30秒ダイジェスト版 HMDなしでは3Dに見えません).(2020年1月28日引用)

  • 執筆者

    稗田 恵一

  • 千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
    現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。

    保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ

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