医療用医薬品の情報もAIで得られる!AIを活用した製薬会社の問い合わせサービスを解説
医療従事者が医療用医薬品を問い合わせる方法として、AIを用いたサービスも続々と現れています。
このサービスには、電話での問い合わせでは得られないメリットがあります。
本記事ではサービスの特徴と実用化された例を取り上げ、解説します。
医療用医薬品の問い合わせを行う際の課題
医療従事者が医療用医薬品に関する問い合わせを行う場合、不便を感じた方もおられるのではないでしょうか。
ここでは3つの課題を取り上げ、それぞれの内容についてみていきます。
●電話は使いやすいが、問い合わせ可能な時間は限られる
医療の現場では、製薬会社のコールセンターに問い合わせするケースも多いでしょう。
電話は口頭で疑問を伝えれば、薬に関するどんなことでも、欲しい情報をすぐに得られることが特徴です。
必要な情報だけをスピーディーに、かつピンポイントで得られることは大きなメリットです。
一方、コールセンターで24時間365日人を配置することはなかなか難しいものです。
夜間や休日に不明点が発生した場合は受付時間外となるため、週明けまで待たなければならない不便さは課題の1つです。
●電話では回答を聞き取る際に、転記ミスのおそれがある
コールセンターからの回答は口頭で行われますから、記録を取るためにもメモする必要があります。
しかし回答を聞き取る際に、転記ミスをするおそれがあることは重要な課題の1つです。
たとえば薬の名前は1文字聞き間違えただけで重大な結果を引き起こすおそれがありますから、正しく記録することは大変な神経を使います。
「文字で回答されれば、聞き間違いもないので楽になるのに」と思う方も、多いのではないでしょうか。
●Webサイトで探す場合、必要な情報を得るまでに時間を要する
製薬会社のWebサイトには、薬に関するさまざまな情報が集まっています。
網羅的な情報が掲載されていること、24時間365日いつでもアクセスできることは大きなメリットです。
一方で多くの情報から必要な項目だけをピックアップしなければならないため手間がかかることは、急いで情報を知りたい場合の課題です。
沢井製薬の柿木充史氏は、AIを用いた問い合わせサービス「チャットボット」を導入した理由を以下の通り述べています。
きっかけは、医薬品情報学会が主催するJASDIフォーラムに参加したことでした。 その時のフォーラムのテーマは「製薬企業ホームページの未来を語る」で、医療関係者や製薬企業担当者が参加し、製薬企業のサイトがどうあるべきかについて議論されました。そこで薬剤師からの声で、「医薬品を使うにあたって情報をサイトで調べるが、製薬企業によってレイアウトや掲載されている情報が異なり、探すのが大変で困っている」「資料のページまで辿りついても、結果的に求めている資料がないこともある」などの意見でした。 |
引用:沢井製薬 SCIENCE SHIFT 医療の現場の最前線 沢井製薬・情報提供のためのAIチャットボットに込められた理想
上記で示した通り、Webサイトでは情報量が多いがゆえに、探し出す不便さを感じる場合もあります。
Webの「24時間365日アクセスできる良さ」を生かしつつ、必要な情報をすばやく調べられる方法が求められています。
問い合わせにAIを活用する3つのメリット
医療用医薬品の問い合わせ窓口には電話のほかに、AIを活用する製薬会社も増えてきました。
AIを活用した問い合わせには、3つのメリットがあります。
それぞれの内容を、詳しく解説していきます。
●現場で欲しい情報を、いつでも迅速に得られる
AIに対して問い合わせできれば、薬の情報を得るために製薬会社のWebサイトを探し回る必要はありません。
個別の質問に対して、すばやく適切な回答が得られることはメリットの1つです。
ちょうどLINEのトークと同じように使えますから、使いやすいと感じる方も多いのではないでしょうか。
加えてAIを用いた問い合わせサービスは、24時間365日稼働させている製薬会社も多くなっています。
コールセンターが休業しがちな夜間や休日であっても薬の情報が得られますから、夜間診療や救急対応でも安心して使える点は魅力です。
●回答が文字で表示されるので、何度でも確認可能。転記ミスも防げる
AIへの問い合わせは、回答を文字で確認できることも特徴に挙げられます。
いつでも回答内容を確認できるとともに、転記ミスを防げることもメリットとして見逃せません。
もし回答内容を忘れてしまっても何度でも確認できますから、電話で聞き直す必要もありません。
問い合わせの相手がAIであることは、どんな質問でも気兼ねなく問い合わせできることもポイントの1つです。
このため知りたいことを形式ばらず端的に質問できることも、メリットに挙げられます。
●スマートフォンでも簡単に使える
AIへの問い合わせは、スマートフォンでも簡単に行えることもメリットの1つです。
業務中のスマートフォンでインターネットの接続が許されている勤務先ならば、パソコンの前を離れていても簡単に、すばやく薬の疑問を解決できます。
また仕事中に薬についてもっと知りたいことがでてきた場合でも、就業時間後に気軽に問い合わせができ、知識を身につけ実務に生かすことが可能です。
AIを用いた問い合わせサービスの例
AIを用いた問い合わせサービスにはメリットがあることから、製薬会社は次々とサービスを開始しています。
ここでは3社の例を取り上げ、それぞれが提供しているサービスを紹介していきます。
●中外製薬「MI Chat」
「MI Chat」は中外製薬が2019年1月10日から提供する、AIを用いた問い合わせサービスです。
タミフルを中心に医療関係者からの問い合わせに対応しており、2020年5月現在、2,000種類の情報に対応しています。
MI Chatは以下に示す6つのステップにより、簡単に使えます。
上記のように、必要な情報をすばやく得られることが特徴です。
MI Chatは、適応外使用にも一部対応しています。
この場合は、情報を提供したユーザー名が記録されることに留意が必要です。
●田辺三菱製薬「たなみんmed」
田辺三菱製薬では2020年2月12日より、医療関係者向けにAIチャットボット「たなみんmed」による問い合わせサービスを開始しています。
「たなみんmed」は、サービス開始時点で約160品目に対応しています。
アクセスは、医療関係者向けサイト「Medical View Point」から行います。
また、以下の問い合わせに対応しています。
- ○医薬品についての情報
- ○適正使用情報(添付文書の改訂等)
- ○使用期限
- ○包装変更について
- ○患者向け資材
「たなみんmed」を開くと選択肢が表示されますので、目的のものを選びます。
また製品名を入力すると、製品の選択肢が自動的に表示されます。
知りたい情報の選択肢を選ぶことで、必要な情報が掲載されたページにアクセスできます。
●沢井製薬
沢井製薬は医療関係者向け総合情報サイトにおいて、チャットボットによる問い合わせサービスを提供しています。
画面右下のチャットボットを開くとキャラクター「ジェネちゃん」から以下の通り、問い合わせのカテゴリーを選択するよう求められます。
- ○お知らせ
- ○製品について
- ○使用期限
- ○患者向け資材
質問したいカテゴリーを選んだ後、製品名などを入力して知りたい情報を選ぶと、情報を得られるWebサイトが案内されます。
知りたいページへダイレクトでアクセスできる点は魅力的です。
AIで問い合わせをする際に知っておきたい2つのポイント
AIで医療用医薬品に関する問い合わせをする場合には、前もって知っておきたいポイントがあります。
ここでは2点取り上げ、その内容を解説していきます。
●すべての医療用医薬品に対応しているわけではない
AIを用いた問い合わせサービスは、以下の通りすべての医療用医薬品に対応しているわけではありません。
- ○「たなみんmed」では、約160品目(サービス開始時点)
- ○塩野義製薬「DIチャット」は、ゾフルーザのみ対応
このためAIで回答が得られない場合は、電話などほかの方法で問い合わせる必要があります。
●1分以上放置すると最初の質問に戻る場合がある。質問内容はあらかじめ明確に
問い合わせをする際には、何を知りたいか事前にはっきりさせておくことも求められます。それは問い合わせサービスによっては、1分以上会話を放置すると最初の質問に戻ってしまう場合があるためです。
1分という時間は「あれ、薬の名前はなんだっけ?」などとメモやノートを探していると、すぐに経過してしまいます。
スピーディーに疑問を解決するためにも、事前に問い合わせたい薬の名前や知りたい事項を明確にしておきましょう。
AIの活用で、医療用医薬品の情報をいつでも迅速に得られる
製薬会社がAIを活用した問い合わせに対応することで、医療従事者は夜でも休日でも、医療用医薬品の情報を迅速に得られるようになりました。
質問自体も形式ばらず気軽にでき、記録に残るため後で見直せる点も魅力です。
サービスは24時間365日、無料で提供されているものが多いですから、この機会に試してみるとよいでしょう。
また今後、対応する医療用医薬品の種類は増えることが期待されます。
参考:
厚生労働省 医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策について(2020年6月21日引用)
ダイヤモンド社 スマホを活用したICT医療で、誰もが、どこでも、同じ医療を受けられる時代に(2020年6月21日引用)
マイナビ マイナビ看護師 今さら聞けないスマートフォンの使い方(2020年6月21日引用)
中外製薬 AIを用いた医療従事者向け製品情報問い合わせチャットボット 「MI chat(エムアイチャット)」の運用を本日より開始(2020年6月15日引用)
中外製薬 製品問合せチャットボット「MI chat」のご紹介(2020年6月15日引用)
中外製薬 動画で知る 製品情報検索ツール 製品問合せチャットボット「MI chat」(2020年6月15日引用)
アイティメディア 医師・薬剤師の質問に24時間対応 各種規制にも準拠 中外製薬の製品問い合わせチャットボット「MI chat」誕生秘話(2020年6月15日引用)
田辺三菱製薬 医療関係者向けWebサイトにAIを利用したチャットボット「たなみんmed」を導入- 24時間365日 医薬品情報へのアクセス性向上を実現 -(2020年2月12日発表)(2020年6月15日引用)
田辺三菱製薬 Medical View Point
https://www.exiis-lab.com/new-product-medical/(2020年6月15日引用)
日立システムズ 製薬業界向けに特化した対話型自動応答AIサービスを提供開始(2020年6月15日引用)
沢井製薬 SCIENCE SHIFT 医療の現場の最前線 沢井製薬・情報提供のためのAIチャットボットに込められた理想(2020年6月15日引用)
沢井製薬 医療関係者向け総合情報サイト(2020年6月15日引用)
沢井製薬 ジェネちゃんについて(2020年6月15日引用)
木村情報技術 塩野義製薬ホームページでの AI顧客問合せ対応システム提供開始(2020年6月15日引用)
塩野義製薬 DIチャット(2020年6月15日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ