治療用アプリが初の薬事承認に!禁煙治療用アプリの特徴と今後への期待
禁煙に挑む方をサポートする治療用アプリとして、株式会社CureAppは「CureApp SC」を開発し、初の薬事承認を受けました。
本記事では禁煙治療の課題を述べた後、アプリを活用した治療はどのようになるのかについて解説します。
目次
禁煙は生活改善に有効であるにもかかわらず、難しい
禁煙は健康をはじめ、生活の改善に有効であることは、多くの方が共有する認識といえるでしょう。
一方で喫煙者が禁煙することは、難しいことが現実です。
本記事でははじめに禁煙のメリットを述べた後、禁煙が難しい理由を解説します。
●禁煙はさまざまな病気のリスク低減や、健康改善に有効
喫煙は生活習慣病をはじめ、さまざまな病気と関係しています。
この点について日本生活習慣病予防協会では、以下の通り指摘しています。
タバコ(喫煙)と関係がある病気というと肺がんがよく知られていますが、それは氷山の一角に過ぎません。肺がんのほかに、喫煙により発病する確率が高くなったり発病後に重症化しやすくなる病気として、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、咽頭がん、口腔がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、歯周病などがあり、他にも関連性が示されている病気は枚挙にいとまがないほどです。 |
また中村氏は禁煙によって、以下のメリットがあると指摘しています。
- ○さまざまな病気にかかるリスクが減少する
- ○病気の有無を問わず、健康改善効果が期待できる
引用:厚生労働省 禁煙の効果
上記の通り、禁煙には多くの病気にかかるリスクを減らすメリットがあります。
加えて、健康な日々を送るという観点でも重要です。
●日々の生活も豊かにする
禁煙には健康面だけでなく、日々の生活も豊かにするメリットも見逃せません。
日本禁煙学会が作成した「きんえんポケットブック」では、禁煙がもたらすメリットを以下のように記載しています。
1−2 禁煙のメリット 味覚が鋭くなり、自然の緑と花の香りがわかるようになります。 体が臭くなくなります。ストレスがなくなります。タバコの火を消したかどうかを心配する必要がなくなります。喫煙できる場所を探し回らなくて良くなります。経済的に楽になります。家を汚していたことに気づきます。不整脈、止まらない咳、のどの痛み、呼吸困難も軽快していきます。そして何よりも、周囲の人々への受動喫煙の害をなくすることができます。 |
引用文の通り、禁煙には以下に挙げるさまざまなメリットがあります。
- ○味覚や嗅覚が、喫煙していたときよりも働くようになる
- ○タバコ臭がなくなる
- ○火の消し忘れによる火災を防げる
- ○喫煙所を探し回る手間や、タバコを吸えないことによるイライラがなくなる
- ○タバコ代を節約できる
- ○喫煙時よりも健康的になる
消防庁は「平成30年版消防白書」において、タバコが原因となった火災は3,712件と報告しています。
これは年間の出火件数である39,373件のうち9.4%を占め、主な出火原因の1つとなっています。
禁煙により、火災のリスクを下げることが可能です。
またタバコは相次ぐ値上げにより、2020年10月からは多くの銘柄で1箱(20本)500円以上となります。
毎日20本吸っている方は、禁煙するだけで毎月15,000円以上の節約ができることは見逃せません。
●離脱症状の克服が大きな関門
禁煙にはさまざまなメリットがある一方で、離脱症状がつらいというハードルがあります。
日本禁煙学会によると、主な離脱症状は以下の通りとなっています。
離脱症状 | 割合 | 期間 |
---|---|---|
タバコを欲しがる | 70% | 禁煙開始後3日間が最も強い。 その後は減退し、3週間でほとんど消える |
集中力の低下 | 60% | 2~3週間 |
疲れやすさ | 60% | 2~3週間 |
イライラ感 | 50% | 2~3週間 |
喫煙夢(タバコを吸っている夢を見る) | 60% | 2~3カ月 |
特に禁煙開始直後は、頻繁に襲う「タバコを吸いたい」という気持ちに打ち勝たなければなりません。
これらの離脱症状を克服できず、禁煙に失敗する方も少なくありません。
禁煙治療で行われる内容と課題
禁煙は個人の意志だけではなかなか難しいこともあり、希望する方は健康保険を使った禁煙治療が受けられます。
しかし医療機関と二人三脚で治療を進めても、禁煙の継続は簡単なことではありません。
ここでは禁煙治療で行われることと、その課題について解説していきます。
●3カ月で5回の治療が受けられ、健康保険も使える
日本ではニコチン依存症と診断され、直ちに禁煙したい方に対する禁煙治療が保険の適用となっています。
治療は禁煙外来において、12週間で5回の診療が実施されます。
参考:西武健康保険組合 禁煙失敗!その理由とは
厚生労働省 禁煙治療ってどんなもの?
治療回数 | 初診からの期間 |
---|---|
初回 | (初診日) |
2回目 | 2週間 |
3回目 | 4週間 |
4回目 | 8週間 |
5回目 | 12週間 |
引用:谷口千枝: 禁煙学 改訂3版. 日本禁煙学会(編), 南山堂, 東京, 2014, pp.202-203.
患者さんには、貼り薬や飲み薬タイプの禁煙補助薬が処方されます。
加えて離脱症状の乗り越え方や禁煙継続についての課題、そのほか困ったことなどのアドバイスも受けられる点は、医療機関に受診するメリットといえるでしょう。
費用は、13,000円~20,000円程度となります。
1日1箱吸う方の場合は、おおむね1カ月分のタバコ代と同じ費用で禁煙できます。
●診療と診療の間は、孤独な戦い
禁煙治療では、次の診療日までの過ごし方が極めて重要です。
これまでの禁煙治療では薬の助けはあるものの、基本的には患者さん自身で禁煙に挑まなければなりません。
一方で社会には喫煙へのさまざまな誘惑があり、これらを振り切りつつ、離脱症状などにも耐える必要があります。
このような状況下で、常に禁煙への強い意志を持ち続けなければなりません。
その点で、診療と診療の間は孤独な戦いを求められることになります。
●治療が完了しても、半分以上の方は禁煙を継続できない
禁煙の継続には、禁煙補助薬を用いたとしても高いハードルがあります。
厚生労働省が2017年度に実施した調査によると、患者1,308人のうち5回の禁煙治療を完了できた方は390人(29.8%)しかいません。
加えて治療終了9カ月後(おおむね治療開始1年後)に禁煙を継続できている方は、以下の通り半分以下となっています。
属性 | 治療終了9カ月後の禁煙継続率 |
---|---|
全体(治療中断者も含む) | 27.3% |
5回の禁煙治療を完了した方 | 47.2% |
参考:厚生労働省 平成 28 年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成 29 年度調査)ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書 p4, pp.62-63, 73-74, 81-82.(2020年8月23日引用)
このように禁煙治療自体を完了できる方が少ないばかりでなく、その後の継続がなかなかできない方が多いことが特徴です。
そのため所定の治療が完了した後も安心せず、絶えず禁煙を継続する努力が求められます。
アプリのきめ細かいサポートで、禁煙を実現しやすくなる
より多くの方が禁煙を成功できるよう、キュア・アップはCureApp SC(ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー)を開発し、2020年8月21日に薬事承認されました。
アプリの活用にはどのようなメリットがあるか、3つの項目に分けて確認していきましょう。
●患者さんのそばで、24時間禁煙をサポート
CureApp SCは医師の指導のもとに、患者さんの禁煙をいつでもサポートするアプリです。
一例として「タバコを吸いたい」という要望に対して、以下のようなアドバイスを行うことが挙げられます。
- ○タバコを吸いたい理由を質問する
- ○禁煙を続けるつらさに共感する
- ○禁煙継続のための行動を勧める(ガムをかむ、部屋の掃除をするなど)
アプリは患者さんの状況に合わせて、個別にアドバイスやサポートを行うことが特徴です。
また診察の結果や服薬状況、COチェッカーによる測定結果などもアドバイスに反映されますから、患者さんにフィットした禁煙のサポートが可能です。
参考:日経BP 「アプリで治療」が日本でも、禁煙治療用アプリが国内初承認へ(2020年8月26日引用)
CureApp プロダクトコンセプト(2020年8月26日引用)
●日々の一酸化炭素濃度をデータで記録し、診療に役立てる
呼気のCO(一酸化炭素)濃度は、禁煙を継続できているかどうかで異なります。
北原らは2015年に、禁煙に成功した方と失敗した方で、診療時に測定したCO濃度に以下の違いがあることを公表しました。
2回目受診時 | 3回目以降の受診時 | |
---|---|---|
禁煙に成功 | 4.1ppm | 2ppm未満 |
禁煙に失敗 | 10.7ppm | 6~9ppm台 |
参考:北原良洋、吉田敬、他 脂質異常症と初診時の高い呼気一酸化炭素濃度は、短期的な禁煙失敗に対する予測因子である
CureApp SCには付属のCOチェッカーを使い、定期的に測定した呼気中のCO濃度を記録する機能があります。
記録された内容は医師が持つ「医師用アプリ」から確認できます。
そのため患者さんが本当は吸っているのに「ずっと禁煙していました」と言っても、実際は喫煙していた可能性を知ることができます。
日々の禁煙状況を自己申告以外の方法でも把握できるため、より適切な診療に役立てることが可能です。
●治療用アプリの活用により、禁煙継続率の上昇が確認されている
慶応義塾大学は2020年5月21日、治療用アプリを禁煙治療に用いることの有効性について公表しました。
この研究は患者さんを以下の2つのグループに分け、24週後および52週後の禁煙継続率を調査したものです。
- ○ニコチン依存症治療用アプリを使用
- ○治療用プログラムが入っていない対照アプリを使用
治療に使用したアプリ | 24週後 | 52週後 |
---|---|---|
ニコチン依存症治療用アプリを使用 | 63.9% | 52.3% |
治療用プログラムが入っていない対照アプリを使用 | 50.5% | 41.5% |
引用:慶応義塾大学 禁煙治療用スマホアプリの長期有効性を世界で初めて発表 -日本初の治療用アプリ治験結果-
上記の通り、治療用アプリを使ったほうが禁煙の継続率は高くなっています。
従って治療用アプリの活用により、禁煙しやすくなることが期待できます。
治療用アプリへの期待と、有効活用するポイント
治療用アプリには、これまでと異なった観点から治療を進められるなどの期待があります。
一方で、アプリならではの注意点も見逃せません。
ここではアプリへの期待とともに、治療に有効活用するためのポイントを考えます。
●薬に加えて、治療に向けた選択肢になる
治療用アプリが薬事承認を受けたことにより、医師は薬の処方に加えて、アプリを処方する選択ができるようになります。
治療に向けた選択肢が増えることで、これまで禁煙できなかった方でも禁煙を継続できる可能性がでてきます。
株式会社CureAppでは禁煙だけでなく、非アルコール性脂肪肝炎や高血圧についての治療アプリも開発中です。
このようにほかの疾患でも、治療用アプリの活用が期待されます。
●患者さんに対し、アプリを積極的に活用するよう意識づけることが必要
禁煙の治療にアプリが使われた場合でも、患者さんの姿勢が重要なことは変わりません。
むしろ患者さんにとっては「アプリを活用する」手間が増えますから、日々の生活でいかに活用してもらうかは重要です。
そのため患者さんにアプリを処方する場合は、治療にアプリが重要であることと、積極的に活用するよう意識づけることが必要です。
●スマートフォンを持たない患者さんに対する配慮も必要
アプリによる治療を受ける条件には、患者さんがスマートフォンを持つことが挙げられます。
一方でスマートフォンの普及率は50代までは高いものの、60代以上は高くありません。
年代 | 普及率 |
---|---|
40代 | 83.5% |
50代 | 79.3% |
60代 | 55.6% |
70代 | 27.2% |
80代以上 | 7.8% |
もし高齢者が禁煙外来を訪れた場合、「スマートフォンを持っていないから、アプリを処方されても困る」と言われてしまうケースも考慮する必要があります。
このため、スマートフォンを持たない患者さんに対しても安心して受診してもらえるよう、以下の工夫が求められます。
- ○問診時や診察時に、スマートフォンの有無を確認する
- ○スマートフォンの購入を無理に勧めない
- ○「スマートフォンがなければ禁煙できない」と思われないよう、説明を工夫する
治療アプリで禁煙成功者の増加と、ほかの疾患への活用を期待
禁煙治療アプリの普及により離脱症状を克服できる方が増え、禁煙に成功し継続できる方の増加が期待されます。
禁煙する方の増加により生活習慣病などの罹患者が減少すれば、患者さんの生活が豊かになるだけでなく、医療費の削減にもつながることでしょう。
加えてほかの疾患にも治療アプリが活用されることで、健康な日々を過ごせる方が増えることも期待できます。
今後の開発が待たれる分野といえるでしょう。
参考:
郷間巌, 島田和典, 他: 禁煙学 改訂3版. 日本禁煙学会(編), 南山堂, 東京, 2014, pp.16-76,114-116,202-203.
佐竹晃太: 治療アプリの開発・デジタル療法の確立. Modern Physician Vol.39 No.7: 649-652, 2019.
鈴木晋: 遠隔医療実験例 治療アプリケーション:CureApp. 治療 Vol.100: 1044-1048, 2018.
野村広之進: 『アプリ』で治す 禁煙治療用で初の承認申請 高血圧、不眠症でも続々開発. 週刊エコノミスト 2019.9.10: 30-31, 2019.
一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラム 自力禁煙の方法(2020年8月23日引用)
日本禁煙学会 きんえん ポケットブック(2020年8月23日引用)
総務省消防庁 平成30年版消防白書 4.出火原因(2020年8月26日引用)
日本たばこ産業 たばこ税増税等に伴うたばこの小売定価改定の認可申請について(2020年8月24日引用)
一般社団法人日本生活習慣病予防学会 タバコ病(2020年8月23日引用)
厚生労働省 喫煙者本人への健康影響(がんへの影響)について(2020年8月23日引用)
中野恭幸 “たばこ病”って、どんな病気?(2020年8月23日引用)
厚生労働省 禁煙の効果(2020年8月26日引用) ※寄稿者:中村正和氏
厚生労働省 禁煙のおくすりってどんなもの?(2020年8月23日引用)
厚生労働省 平成 28 年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成 29 年度調査)ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書 p4, pp.62-63, 73-74, 81-82.(2020年8月23日引用)
西武健康保険組合 禁煙失敗!その理由とは(2020年8月26日引用)
一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラム ニコチン依存症について説明するページです。(2020年8月26日引用)
一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラム 今すぐ禁煙!あなたはどの方法?(2020年8月26日引用)
日本医師会 禁煙を始めましょう 医療機関でなら比較的楽に、より確実に禁煙できます(2020年8月26日引用)
厚生労働省 禁煙治療ってどんなもの?(2020年8月26日引用)
日経BP 「アプリで治療」が日本でも、禁煙治療用アプリが国内初承認へ(2020年8月26日引用)
創新社 禁煙外来でスマホ向け「治療用アプリ」を使うと禁煙継続率が高まる 長期的な有効性を実証(2020年8月26日引用)
慶応義塾大学 禁煙治療用スマホアプリの長期有効性を世界で初めて発表 -日本初の治療用アプリ治験結果-(2020年8月27日引用)
CureApp プロダクトコンセプト(2020年8月26日引用)
CureApp 医療機関向け(2020年8月26日引用)
CureApp CureApp SC(2020年8月26日引用)
北原良洋、吉田敬、他 脂質異常症と初診時の高い呼気一酸化炭素濃度は、短期的な禁煙失敗に対する予測因子である(2020年8月26日引用)
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団 一酸化炭素(2020年8月26日引用)
総務省 令和元年通信利用動向調査の結果(概要)(2020年8月23日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ