医療機関もDX対応が必要。ITの課題とDXに対応するメリットを教えます
2010年代末から話題となっている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。
医療機関もこの例に漏れず、対応が必要です。
本記事では医療におけるITの課題と、DXへの対応が求められる理由について解説していきます。
目次
いま話題の「デジタルトランスフォーメーション」(DX)とは?
IT技術を取り巻く変化は「デジタルトランスフォーメーション」という用語で示されています。
「DX」という文字は、この略語です。
医療においても、DXを活用したさまざまなサービスが登場しています。
ここではDXについて解説した後、どのようなサービスが実用化されているか解説します。
●DXとはデータとデジタル技術を活用し、業務を変革すること
DXは、経済産業省により以下の通り定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること |
インターネットを活用し、大量のデータやデジタル技術を活用したサービスが多数展開されていることは、ご存じの通りです。
DXはこれらの技術を活用し、以下に挙げる項目を実現します。
- ○業務改革を行い、働きやすい職場をつくる
- ○医療機関と患者さん双方にとって良いサービスを提供し、選ばれる医療機関になる
代表的な例として、クラウドを活用した「必要なときに使うサービス」が挙げられます。
●医療業界でも、データを外部に保管するサービスが続々と登場している
DXに関するサービスは、さまざまな形で実用化されています。
一例として、これまで当サイトで解説した事例を挙げてみましょう。
- ○患者に対して、手術の説明を行う
- ○外国人が来院した場合、コミュニケーションを円滑に行う
- ○CTやMRIの画像診断
- ○医療機関で実施する健診のコストダウン
- ○看護師の業務負担を軽減
- ○医療用医薬品の情報を入手
- ○オンライン資格確認
これらは、すべてデジタル技術を活用した「必要なときに使う」サービスであり、データを外部に保管するサービスです。
従って医療機関においても、DXは無縁ではありません。
「システム更新をベンダーに依頼する」が当たり前でない時代が近づいている
DXを推進することと異なる方法の1つに、自院で引き続きシステムを所有し保管する方法が挙げられます。
この方法は、「オンプレミス」とも呼ばれます。
皆さまのなかには以下のような理由で、DXを推進するよりもオンプレミスのままのほうが良いとお考えの方も、多いのではないでしょうか。
- ○院内なら物理的に保全されているため安心
- ○システムへの対応が必要ならば、付き合いのあるITベンダーに頼めば良い
そのIT業界ですが、慢性的な人手不足など厳しい状況に置かれているだけでなく、業界の構造自体も変化しています。
もしかすると近い将来、「ご依頼はお受けできません」と言われてしまうことがあるかもしれません。
なぜそのような状況が近づいているか、解説していきましょう。
●IT業界は人手不足に加え、市場が大きく変わる過渡期にある
IT業界は2019年まで、慢性的な人手不足が続いていました。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大により求人倍率は下がっていますが、それでも全職種の平均よりは高く、1倍以上を維持しています。
参考:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和2年8月分)について 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(除パート)) (2020年10月18日引用)
厚生労働省 一般職業紹介状況(令和2年1月分)について 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(除パート))(2020年10月24日引用)
このため優秀なIT人材を中心に、人を十分に確保できない状況は続いています。
加えてIT業界は、従来型のサービスからデジタル中心へ大きく変わる過渡期にあります。
経済産業省が2018年に公表した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」によると、両者の割合は以下のように変わると予測しています。
- ○2017年では、従来型ITサービス市場:デジタル市場=9:1
- ○2025年には、従来型ITサービス市場:デジタル市場=6:4
参考:経済産業省「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」:(2020年10月24日引用)
これから新しく携わるIT人材やIT企業が、従来型のサービスに代えてデジタルサービスを扱うならば、必然的に従来型のサービスに関わる人材は減少します。
引き続き「サーバーを自前で持ちシステム開発も依頼する形態」を選ぶ場合、これまで以上に依頼を受けてもらえにくくなることも、起こりうる未来の1つとして想定しなければなりません。
●「サーバーへのインストール」にこだわることは好ましくない
院内で使用するシステムは機密性と個人情報の保護が求められる観点から、サーバーへのインストールにこだわる方もいるのではないでしょうか。
2000年代まではこれが普通であり、リスクの低い方法であったといえます。
しかしデジタル化が進んだ2020年代では、以下に挙げるデメリットを考えなければなりません。
- ○インターネット上で提供されるデジタルサービスを、なかなか使えない
- ○システム更新が必要となっても、人員不足を理由に断られる可能性がある
上記のデメリットがあるため、サーバーへのインストールにこだわることはお勧めできません。
DXを用いた「使うサービス」を活用する3つのメリット
高度化するIT技術への迅速な対応と、施設内にサーバーを置くリスクに対応するため、社会全体で以下に挙げる転換が進んでいます。
- ○保有するサービスから使うサービスへ
- ○データを外部に保管するサービスを活用
医療機関をはじめとする医療業界も、その例外ではありません。
ここでは「保有するサービス」から「使うサービス」へ切り替える3つのメリットを取り上げ、解説していきます。
●初期費用が抑えられる
医療に関するシステムは数百万円から数億円、またはそれ以上に達する場合があります。
一例として、健診に関するシステムを考えてみましょう。
「クラウドの活用により、医療機関でも低コスト・迅速に健診を実施できる」記事で解説の通り、システムやデータを院内に設置する場合は以下の費用がかかることが多いです。
- ○導入費用に少なくとも数百万円
- ○運用開始後、少なくとも月数万円の保守費用
これに対し、外部のサービスを利用する場合は少額からの利用が可能です。
最小の投資額で豊富な機能を使えることも、魅力の1つです。
●必要なときに必要なサービスを使える
システムやデータを院内に設置する場合の課題は、費用だけにとどまりません。
契約から導入まではどうしてもタイムラグが発生し、場合によってはその期間が年単位となる場合があります。
「保有するサービス」から「必要なときに使うサービス」に変更することで、契約後迅速にサービスを使えるようになります。
不要な場合は契約を更新しないか、解約することでほかのサービスに乗り換えられることもメリットに挙げられます。
●院外の専門家の力を借りられる
医療機関では人員不足などの理由により、ベストな体制を組めない場合があります。
このような場合でもDXを活用することで、院外にいる専門家の力を借りることができ、診療に役立てることが可能です。
一例として、以下のケースが挙げられます。
地域の患者さんにより良い医療を提供できることは、DXを活用するメリットの1つといえるでしょう。
DXを活用したサービスは、セキュリティにも配慮されている
ここまで、医療におけるDXについて解説してきました。
「個人情報や機密データのかたまりである医療情報を、外部に預けて良いのか」というご意見もあることでしょう。
このような疑問に備えて、デジタルサービスを運営する各社ではセキュリティ対策を万全にしています。
一方で院内にサーバーを置き続けることが、セキュリティ確保において最善とはいえません。
最後の章ではセキュリティや有事における業務継続の観点から、解説していきます。
●デジタルサービスだからこそ、セキュリティが考慮されている
インターネットを介したサービスにおいて、悪意を持った方による攻撃や盗み見などが起こりうることは、今や常識です。
デジタルサービスはインターネットを介したサービスである以上、当然このことを認識し、対策を取った上でサービスを開発しています。
情報を格納する機器はもちろん、利用者との間のデータのやり取りも暗号化などの技術を使い、部外者に情報が盗まれない工夫を行っています。
そもそもデジタルサービスは、運営会社においてデータを集中管理しています。
このためセキュリティの対策もしやすく、バックアップも定期的に行っていることが特徴です。
この点については、「医療データを院外に置く選択肢として、医療クラウドを利用するメリットを解説」記事もご参照ください。
●院内にサーバーを置き続けることにもリスクがある
院内にサーバーを置くことは最善のセキュリティ対策のように見えますが、必ずしもそうではありません。
たとえばセキュリティソフトの更新をしっかり行っていなければ、外部から通信回線を通じた侵入や、ウイルスの入ったファイルによる感染といった被害をこうむるおそれがあります。
またバックアップの取得を怠った場合は、故障すると最新の情報に復旧できないリスクがあります。
加えてサーバーをはじめとしたIT機器は水に弱いこと、家電のようにすぐに電源を切ることができない点にも留意が必要です。
このため大雨や氾濫などにより院内への浸水が始まった場合、迅速にサーバーなどを避難させることは困難です。
万が一水につかってしまえば内部のデータが失われ、業務再開に困難をきたすおそれがあることにも、留意しておかなければなりません。
参考:SOMPOリスクマネジメント 医療機関における風水害対策のポイント(2020年10月23日引用)
もしDXを活用していれば、たとえ仮診療所での診療や移転を余儀なくされた場合でも、データは保全されています。
このため新しい施設で通信回線を整えれば、今までの情報を活用することが可能です。
DXにより、新しく高品質なサービスを低コストで活用できる
DXによりデジタル化が推進されることで、これまでは高価で稼働まで期間がかかるサービスでも、低コストかつ迅速に利用を始められるようになりました。
なかでも必要なときに必要なサービスを使えることや、院外の専門家の力を借りられることは大きなメリットです。
いつでも最新の機能を利用でき、セキュリティへの対策も万全であることも見逃せません。
この機会に機能を1つ選んで、DXの検討をしてみてはいかがでしょうか。
参考:
厚生労働省 一般職業紹介状況(令和2年8月分)について(2020年10月18日引用)
厚生労働省 一般職業紹介状況(令和2年8月分)について 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(除パート))(2020年10月18日引用)
厚生労働省 一般職業紹介状況(令和2年1月分)について 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(除パート)) (2020年10月24日引用)
厚生労働省 医療のIT化に係るコスト調査報告書(2020年10月25日引用)
経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました(2020年10月24日引用)
経済産業省 ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(2020年10月24日引用)
経済産業省 デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました(2020年10月25日引用)
経済産業省 「DX 推進指標」とそのガイダンス(2020年10月25日引用)
SBクリエイティブ “withコロナ”で続くIT人材不足、ハイレベル層を確保し「成果」を出してもらう方法(2020年10月25日引用)
オージー技研 2021年3月からオンライン資格確認が可能に!導入する4つのメリットと注意点(2020年10月25日引用)
オージー技研 医療用医薬品の情報もAIで得られる!AIを活用した製薬会社の問い合わせサービスを解説(2020年10月25日引用)
オージー技研 AIで看護師の記録業務を58%削減も。入院患者の転倒・転落も防ぎ、看護師の負担を軽減する(2020年10月25日引用)
オージー技研 クラウドの活用により、医療機関でも低コスト・迅速に健診を実施できる(2020年10月25日引用)
オージー技研 外国人の患者に対する「言語の壁」を、ITを用いた通訳で解決する(2020年10月25日引用)
オージー技研 患者への手術の説明にITを用いることで、スタッフや説明時間を増やさなくても効果的に行える(2020年10月25日引用)
オージー技研 Googleの医療クラウドに関する特徴と、導入事例を解説(2020年10月25日引用)
オージー技研 5Gにより新しい医療がスムーズに行える!期待される内容と課題を解説します(2020年10月26日引用)
オージー技研 医療データを院外に置く選択肢として、医療クラウドを利用するメリットを解説(2020年10月25日引用)
富士通 【DX入門編①】今更聞けないデジタルトランスフォーメーションの定義とは?(2020年10月25日引用)
ソフトブレーン DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必須な理由や意味を解説(2020年10月25日引用)
ジャパンシステム 病院情報システム(HIS)というもの(2020年10月25日引用)
塚田智 医療クラウドの可能性2(2020年10月25日引用)
岐阜市民病院 病院情報システム更新事業者選定公募型プロポーザル実施要領(2020年10月25日引用)
岐阜市民病院 病院情報システム更新基本仕様書(2020年10月25日引用)
エムネス 遠隔画像診断サービス(2020年10月25日引用)
SOMPOリスクマネジメント 医療機関における風水害対策のポイント(2020年10月23日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ