自律搬送ロボットで院内搬送業務の負担を軽減。特徴とメリットをご紹介
薬剤や検体などを運ぶ「院内搬送業務」は、病院にとって欠かせない業務。
一方でほかの業務に費やす時間が圧迫されることが課題です。
自律搬送ロボットは「運ぶ手間」を省き、安全に運搬できる頼もしい機器。
活用するメリットを、詳しく確認していきましょう。
目次
院内搬送業務は、さまざまな物品を運ぶ仕事
院内搬送業務は「院内物流業務」「病院メッセンジャー」とも呼ばれています。
簡単な業務と思う方もいるかもしれませんが、縁の下の力持ちともいえる重要な役割を担っています。
どのような業務なのか、3つのポイントに分けて解説していきます。
●院内搬送業務で運ばれる物品は多種多様。医療機関の運営を支える重要な職務
医療機関では、以下の通りさまざまな物品が運ばれます。
- ○カルテ
- ○伝票
- ○郵便物
- ○検体
- ○検査結果
- ○医療機器
- ○薬剤
これらを運搬する「院内の物流業務」を担う役割が、院内搬送業務。
場合によっては、仕分けや入力業務を任される場合もあります。
物を運ぶ業務であるため単純作業に思われがちですが、迅速に指定する場所へ届けられなければ医療機関の運営が滞りかねません。
このため院内搬送業務は、医療機関の運営を支える重要な職務です。
●搬送作業は頻繁に行われる場合も。搬送業務専門の求人募集もある
院内ではさまざまな物が運ばれるとともに、その回数も多いことが特徴です。
松下記念病院とパナソニックなどが合同で公表したデータによると、自律搬送ロボット「HOSPI」を使って物品を搬送した回数は、以下の通り多数にのぼります。
- ○4カ月間で1,282回
- ○最も多い日では、1日で38回の搬送を実施
38回の搬送は、看護師4時間分の労働時間に相当すると報告されています。
このように大きな病院ともなると、搬送業務は片手間でできる業務量にとどまりません。
そのため、医療機関や委託先の専門業者が搬送業務専門の求人募集を出す場合もあります。
●搬送1件に20分かかる場合も。ある程度の体力が必要
院内搬送業務は、足腰を使う仕事であることを認識しておくことが必要です。
離れた棟や離れた階に配送する場合や、院内が入り組んだ構造となっている場合もあります。
なかには搬送1件に20分かかる医療機関もあることは、見逃せないポイント。
移動が多くなりますから、ある程度の体力が求められます。
シニアや主婦でも可能な仕事ではあるものの、誰でも行える仕事とまではいえません。
院内搬送業務は自律搬送ロボットを活用して効率化できる
院内搬送業務は重要な業務であるものの、手間と時間がかかりがちなことが課題。
自律搬送ロボットの活用により、課題を解決できます。
その特徴には、以下の4点が挙げられます。
- ○目的地を指定することで、自動で走行する
- ○人や障害物なども避けて走行。静かに輸送するため、液体なども安心して運べる
- ○セキュリティシステムと連動させることで、エレベーターの乗降や自動ドアの通過も可能
- ○カメラの画像を随時チェックできるため、院内の巡回業務も兼ねられる
もっとも、スタッフが走って移動するスピードにはおよびません。
しかし急ぎでない場合は、スタッフよりも安全に運べるため安心です。
特に搬送のために人手が取られる事態を防げることは、大きなメリットです。
自律搬送ロボットを院内搬送業務に活用する4つのメリット
自律搬送ロボットを院内搬送業務へ活用することには、4つのメリットがあります。
それぞれのメリットについて、順に解説していきましょう。
●人件費が不要。充電さえすれば、365日活用できる
大きなメリットの1つに、人件費がいらないことが挙げられます。
2020年10月に改定された最低賃金は、最も低い県でも1時間当たり792円。
1日8時間労働の場合、最低でも6,400円のコストがかかります。
実際には、最低賃金の1.5倍以上で募集する求人もあります。
自律搬送ロボットならば機器購入時の初期投資がかかるものの、人件費は不要。
ランニングコストも大きく抑えられます。
また充電さえしておけば24時間365日活用できるため、人員確保やシフト作成の悩みから解放されることも大きなメリットです。
●人手不足も解決。貴重な人材を、よりスキルの高い業務に割り当てられる
院内搬送業務専門の職員がいない職場では、看護師や看護助手などがメッセンジャー業務を担います。
これらの職種では、人手不足や多忙な業務が課題です。
自律搬送ロボットの活用により、人員を増やすことなく職員の負担を軽減できます。
貴重な人材をより専門的な業務に割り当てるとともに、患者さんと接する時間を長くすることも可能。
患者さんからの不満や苦情も減り、より良い医療の提供が期待できます。
●安全な運搬が可能
人の手で運んだ場合、急いでいると走ってしまうかもしれません。
またつまずいたり手が滑ったりするなどの理由で、物品を壊すおそれもあります。
一方で自律搬送ロボットは重心が人間よりも低く、物品を安全に輸送できるように作られています。
万が一の際でも、すぐに停止できるゆっくりとした速度で走行。
人や障害物を検知する仕組みも備えているため、人とぶつかるなどのトラブルも避けられます。
どのようなものでも、安全に運べることは大きな魅力です。
●入室できる方を厳選することで、セキュリティの強化につながる
職場のなかには安全確保などの理由により、入室できる方を制限している場合もあるかもしれません。
その場合でもメッセンジャー業務に携わる方は室内に物を届ける必要があるため、入口で物を受け渡す場合を除き入室権限の付与が必要です。
入室できる方が増えると、セキュリティリスクが増大することも認識しなければなりません。
院内搬送業務を自律搬送ロボットに任せることで、物を届けるためだけに入室権限を付与する必要がなくなります。
入室できる方を最小限に絞ることは、セキュリティの強化につながります。
2種類の自律搬送ロボットを紹介
自律搬送ロボットには、どのような製品があるのでしょうか。
ここからは自律搬送ロボットの例を2種類取り上げ、詳しく解説していきます。
●パナソニック「HOSPI」
パナソニックは、自律搬送ロボット「HOSPI」を実用化しています。
以下の通り、一度で多くの物を搬送できることが強みです。
- ○高さ1.4m、重さ170kg、最大で秒速1mでの走行
- ○20kgまで搭載可能な収納スペースを内蔵。幅32.7cm、奥行44.6cm、高さ39cmと広い
- ○2時間半の充電で、7時間稼動可能
- ○浅型トレイなら6個、深型トレイなら3個収納可能
- ○操作や行き先の指定は、タッチパネルで行える
収納スペースは最大で55リットル。
これだけの量を人手で運ぶことは簡単ではありませんが、HOSPIなら一度で運べます。
さらに大容量の運搬が必要な場合は、最大160リットル、60kgまで搬送できる「HOSPI Cargo」も用意されています。
加えてHOSPIには安全に運搬する、以下の仕組みも備わっています。
- ○あらかじめ記憶させた院内の地図情報に基づき走行する。院内のレイアウト変更にも、地図情報の変更で対応できる
- ○センサーを用いて、人や障害物を避けて走行。点滴台や歩行器、車いすなども避けられる
- ○搬送中の物品に衝撃を与えにくい工夫がされている。液体など、衝撃を避ける必要がある物品も搬送可能
- ○自動ドアの通過や、エレベーターへの乗降も自動で行える
- ○収納スペースの開錠は、IDカードを利用。部外者は出し入れできない
- ○走行位置や利用状況を、院内LANで確認可能。オプションで、走行時のカメラ画像も記録できる
スタッフよりも安全に輸送でき、記録もしっかり残せることは大きなメリットです。
●三菱電機「多用途搬送サービスロボットシステム」
三菱電機は「多用途搬送サービスロボットシステム」を開発しました。
2021年2月から3月にかけて、藤田医科大学で実証実験が行われています。
このロボットが持つ大きな特徴の1つに、カートが脱着式である点が挙げられます。
これにより、収納スペースの大きさを気にせず運搬可能。
ロボットが来る前に収納作業を行えるため、稼動率を上げることが可能です。
またさまざまな物品の運搬を1台で行えるため、用途別にロボットを用意する必要もなく経済的です。
操作はロボット本体に設けられたタッチパネルのほか、タブレット端末でも可能。
またHOSPIと同様、安全に走行する仕組みも備わっています。
走行する方向を床面に示せる仕組みはユニーク。
周囲に音を鳴らすことでロボットの存在を知らせ、注意喚起も行えます。
加えてロボットの状態をディスプレイで確認できることも、メリットに挙げられます。
自律搬送ロボットの活用により経費節減しながら、人材の有効活用とより良い医療を提供できる
院内搬送業務を自律搬送ロボットに任せることで、経費を節減しながら安全な運搬を行えます。
職員の採用が難しい状況でも人手不足を改善し、重要な業務に人手をかけることが可能。
より良い医療の提供につなげることで、患者さんの満足度向上も得られます。
初期費用こそかかるものの、充電さえできればいつでも使えることも大きな魅力。
特に院内搬送業務の要員確保にお困りの場合は、ロボット導入の効果も期待できます。
参考:
ソラスト 病院メッセンジャーってどんな仕事?未経験からの働き方や雇用形態について(2021年6月12日引用)
Indeed 病院内での物流業務 エス・ディ・ロジ 横浜南共済病院(2021年6月12日引用)
桜十字グループ【病院に密着!】病棟のこまごまとした必要業務、どうしてますか?~病棟看護師・介護職の仕事をサポートする、「病棟補助」の活躍で、現場がどう変わる?~【ドキュメンタリー】 (2021年6月12日引用)
厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧(2021年6月13日引用)
加藤進治, 酒井文代, 他:小まめな搬送のロボット化「自律搬送ロボット HOSPI」 のお役立ち(2021年6月12日引用)
パナソニック HOSPI(2021年6月13日引用)
パナソニック HOSPIに新型登場-いつでもどこでも院内搬送の専用スタッフ-(2021年6月12日引用)
三菱電機 「多用途搬送サービスロボットシステム」を開発(2021年6月13日引用)
三菱電機 脱着型カート方式により、多様化する搬送需要へ対応、省力化にも貢献「多用途搬送サービスロボットシステム」を開発(2021年6月13日引用)
ロボットスタート 三菱電機「多用途搬送ロボットシステム」とパナソニック「追従型モビリティ」を藤田医科大学病院で実証実験 あいちロボットショーケース(2021年6月13日引用)
ロボットスタート 藤田医科大学病院で人型ロボットと自動搬送ロボットの実証実験 除菌/殺菌やコンテナの自律搬送を公開 あいちロボットショーケース(2021年6月13日引用)
ロボットスタート Mitsubishi Electric’s autonomous transfer robot is demonstrating at a hospital(2021年6月13日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ