整形外科クリニックにおいて「短時間で患者さんとのコミュニケーションの質を高める」方法
「下手で患者さんとうまく話せない」
言葉のやり取りだけがコミュニケーションだと思っていませんか?
「誰とでも話せるから大丈夫」
一方的な会話をしていたり、不快感を与える言葉を使ったりはしていませんか?
コミュニケーションは、お互いが意思・感情・思考を伝達しあうことを意味します。そして伝達の手段は、なにも言語だけとは限りません。
患者数の多い整形外科クリニックでは、時間をかけてコミュニケーションをとることが難しいといえます。しかし、コミュニケーションは時間ではなく「質」です。たとえ短時間でも、その「質」が高ければ患者さんの満足度を上げることができるのです。
そこで今回は、言語を使用するときとしないとき、そして短時間でコミュニケーションの質を高める方法についてお伝えしていきます。
言語的コミュニケーション
言葉はその使い方によって、実に多くの効果をもたらします。落ち込んだ人を励ましたり、感謝の気持ちを伝えたり、多くの人を笑わせることもできます。
しかし、良かれと思ってかけた言葉が、逆に相手を傷つけてしまうことも少なくありません。言葉は使い方だけでなく受け取り方によっても、その効果は変わってくるのです。
こうした言葉や文字を使ったコミュニケーションを「言語的コミュニケーション」といいます。多くの患者さんが訪れる整形外科では、どんな使い方、受け取り方があるのでしょうか。
○聴くスキルを磨くことも忘れずに
言語的コミュニケーションというと、やはり「話すスキル」が先に思い浮かぶものです。
しかし、患者さんとのコミュニケーションにおいては「聴くスキル」も忘れることができません。
医療従事者として親身になって患者さんの話を聴けるかどうかは、患者さんの満足度にも直結していくからです。
傾聴においては、相手の言葉を短い言葉で反復することが効果的です。
患者さんの主張において重要な部分は復唱したり、別の言葉に置き換えて確認したりすると、「伝えたいことが伝わった」と感じてもらうことができます。
やりすぎると不自然になりますが、ほどよく反復しながら会話を進めることを意識すると、聴くスキルを高める一助になるでしょう。
○時間がないからこそ、より気を付けたい言葉選び
「親しみを込める」と「馴れ馴れしい」の境界線を考えていますか?
クリニックでは、一人ひとりの患者さんと話す時間は限られていますが、言葉には細心の注意を払わなければなりません。
忙しい現場だからこそ注意したい、言語的コミュニケーションについて考えていきましょう。
光男さん(仮名・85歳)は、麻痺のある右腕の痛みを訴えて来院されましたが、すでに1時間以上も待たされています。
しびれを切らし「まだですか?」と声をかけると、看護師は「ごめんね、もうちょっと待ってね」と笑顔で優しく答えました。しかし光男さんは看護師に憤慨し「その言い方は何だ!」と怒ってしまいました。
このように、いくら優しく答えても相手に合わせた言葉使いができなければ、言語的コミュニケーションに効果はありません。
「信頼関係ができている」「敬語を使うと堅苦しく感じる」などの理由で、目上の患者さんに対し馴れ馴れしく話す人がいますが、それは誤りです。彼らは患者であるまえに人生の大先輩であり、敬うべき存在です。そして信頼関係といった「心の距離」は、患者さん側が感じるものであって、こちら側が勝手に判断できるものではありません。
また、敬語を使っていても、次にご紹介する「非言語的コミュニケーション」を組み合わせることで、親近感をもってもらうことは十分できるのです。
患者さんへの敬意や礼儀を忘れないことも、コミュニケーションの質を高める大切な要素になります。
非言語的コミュニケーション
言葉と文字以外でのコミュニケーションを「非言語的コミュニケーション」といいます。
IOC総会の招致プレゼンテーションを覚えていますか?滝川クリステルさんのスピーチは、笑顔とやわらかい声のトーン、「おもてなし」のジェスチャーも印象的でした。聴覚だけでなく視覚にも訴える、素晴らしい非言語的コミュニケーションです。
温かい表情や声のトーンは短い言葉を彩り、相手に好意的な印象を与えてくれます。
では、忙しい整形外科の現場においては、どういった非言語的コミュニケーションがあるのでしょうか?
○身振りで伝わる!心をこめた「ご案内」
整形外科クリニックは、患者さんを案内する機会が多くあります。
リハビリテーションに力を入れているクリニックでは、理学療法士による徒手的訓練だけでなく、マシンの使用、ウォーターベッドや牽引、ホットパックなどの物理療法機器を導入しているところもみられます。レントゲン室はもちろん、こうした機器の設置場所への誘導は、クリニックの職員なら誰でも関わることがあるでしょう。
部屋に案内する際に、患者さんの先を歩き一度も振り返らない職員を見たことはありませんか?患者さんの状態によって歩くスピードは違うのに、一声かけただけで先を行ってしまうのでは、良いコミュニケーションの取り方とはいえないでしょう。
患者さんを案内するときは、まず「○○(目的地)へご案内します」と声をかけ、どこへ案内するのかを伝えます。
次に、目線と腕全体を使って方向を示しましょう。
患者さん自身が向かう方向を確認したら、自分の目線を患者さんに戻し「どうぞ」と声をかけて移動を促します。このとき、歩くペースは患者さんに合わせて調節しましょう。
角を曲がるときは立ち止まり、もう一度「こちらです」から繰り返して目的地まで案内します。
かける言葉は少なくても、こうした丁寧な接遇は質の良いコミュニケーションとして患者さんに伝わります。
○痛みがある患者さんに「タッチング」の効果
平成28年に実施された厚生労働省の調査によると、病気やけがなどで自覚症状がある人は、人口千人当たり305.9人です。
症状別にみると、男女とも「腰痛」「肩こり」「手足の関節が痛む」が上位を占めており、整形外科領域の疾病が多いことが伺えます。
初めに目的地を伝えているので、
このデータからもわかるように、整形外科は痛みのある患者さんが多い診療科です。また、その痛みは「慢性的な痛み」に移行しやすく、ほかの診療科とくらべて治療期間が長くなるという特徴もあります。
そんな痛みを抱えて来院される患者さんに、有効に働くケアが「タッチング(触れるケア)」です。
タッチングは、非言語的コミュニケーションの一つです。不安の軽減やリラクゼーション、痛みの緩和を目的に、看護師が使う看護技術でもありますが、それは決して特別なことではありません。
泣いている友人の背中に手を添えたり、腹痛を訴える子どものお腹をなでたり…。普段なに気なく行っている「手当て」がタッチングなのです。
立ち上がりが困難な患者さんに、そっと手を貸してみましょう。
痛みがある患者さんの患部を、優しくさすってみましょう。
タッチングには副交感神経を優位にするというエビデンス(根拠)もあり、さらに誰でもできる簡単な手法です。
ただし、触れられることが苦手な患者さんもいらっしゃるので、声をかけてからさするなどの配慮を忘れないようにしてください。
○マスクの下も笑顔で!セルフコントロールの大切さ
厚生労働省の「社会医療行為別統計」「医療施設調査」から、診療科別一日患者数を見てみると、他科は50人前後、整形外科クリニックは100人以上となっており、その忙しさは一目瞭然です。
1日100人の患者さんの対応は、想像を超える忙しさです。思うようにいかず、いらいらすることもあるでしょう。
マスクをしていても、目は口ほどにものをいいます。目元だけでも余裕のないあなたの感情は、患者さんに伝わっています。
フラットな気持ちの維持が難しくなったら、短時間その場を離れて深呼吸をしましょう。
自分の感情をうまくコントロールしていつも笑顔でいられたら、あなたはコミュニケーション上級者といえるでしょう。
○「気づいてほしい」気持ちに応えられる?観察とアセスメント
患者さんと長く接していれば、良い関係が築けるのでしょうか?
答えは「NO」です。ほんの数分でもコミュニケーションの質が高ければ、患者さんの満足度は上がるからです。
では、短い時間で患者さんに満足してもらうには、どうしたら良いのでしょうか。
その答えは「患者さんをよく観察すること」です。
厚生労働省が三年ごとに実施している受療行動調査をみると、患者さんが一番不満に思っているのは「待ち時間」となっています。
待合室という限られた空間のなかでは、多くの患者さんと忙しなく動き回る職員たちが、きわめて近い距離で時間を共有しています。そんな環境では当然リラックスなどできるはずもなく、患者さんたちは強いストレスにさらされていることになります。
しかし、こうした状況下であっても「みんなも長い時間待たされている」「看護師さんの足を止めては申しわけない」など、伝えたいことを我慢してしまう患者さんは少なくありません。
そんなときでも職員が注意深く観察していれば、患者さんの「気づいてほしい」というサインを見つけることができます。
顔色が悪い、痛そうにしている、なん度も時計を見ている、顔がこわばっているなど、その表情やしぐさから、「困っている」と判断することは可能なのです。
そうして得た情報はすばやくアセスメント(分析)し、患者さんが求めていることはなにか、困っている理由はなにかを考えましょう。
アセスメントができたら、さっそく患者さんに近づきます。「痛みはありますか?」「あと3人で○○さんの診察ですよ」など、気づかう言葉や情報を伝え、問題の解決に向けた行動をとることが大切です。
まとめ
コミュニケーションは、一方通行では成り立ちません。
患者さんが出すサインを、職員がしっかりと受けとめることで初めて成立するものです。また、丁寧な言葉使いやタッチングなど、問題の解決に尽力する職員の姿は、患者さんの満足度を上げ、結果、質の高いコミュニケーションを生み出すのです。
会話にかける時間がないなら、言語以外のコミュニケーションスキルを磨きましょう。新たな学習は必要ありません、患者さんをよく看るだけです。
「看る」という字は、手と目で構成されています。
忙しくて下を向きがちなときほど、顔をあげて患者さんを見ましょう。近づいて手で触れましょう。
それだけでも、十分コミュニケーションの質は向上するはずです。
参照:
国民生活基礎調査の概況
参考文献:
・触れるケア 看護技術としてのタッチング 堀内園子 ライフサポート社 (2010/7/31)
・触れるケアの効果 山本裕子 千里金蘭大学紀要(1349-6859)11号 Page77-85(2014.12)