胸郭出口症候群のリハビリとは?理学療法士・作業療法士が知りたい方法と注意点を解説
胸郭出口症候群の患者さんは、肩の痛みや上肢のしびれ、握力の低下などの症状を示します。
腕神経叢と鎖骨下動脈が圧迫されたり、締めつけられたりすることで、神経障害や血流障害が生じ、さまざまな症状が出現します。
整形外科などでは胸郭出口症候群の患者さんのリハビリを担当する機会も多いですが、具体的な方法や注意点について解説していきます。
胸郭出口症候群に対する基本のリハビリ方法
胸郭出口症候群のリハビリでは、ストレッチと筋力増強運動を行うことが一般的です。
多くの患者さんに使える方法をピックアップしてご紹介していきます。
患者さんが慣れるとホームプログラムとしても提供できる内容ばかりです。
●ストレッチ
重い荷物を持ったときや肩周囲の筋肉に負担がかかったときには、斜角筋が神経を圧迫すると考えられています。
斜角筋をストレッチするときは、対側の手を症状が出ているほうの肩に乗せ、首を逆方向に傾けていきます。
斜角筋には前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋があり、頭部の屈曲や側屈に関与しています。
リハビリのスタッフが首の前面や側面が伸びていることを確認しながらストレッチをしていきます。
円背などの不良姿勢が原因の場合は、小胸筋のストレッチも検討してみましょう。
なお、ストレッチ時にはしびれなどの症状がないか確認しながら進めてください。
●筋力増強運動
胸郭出口症候群の患者さんには、僧帽筋、肩甲挙筋の筋力トレーニングを行っていきましょう。
いずれも上肢の近位部や肩甲帯を支え、吊り上げるために必要な筋肉です。
僧帽筋は首から背中にかけて広がる大きな筋肉で、次のような方法で鍛えることができます。
僧帽筋上部 | 座位または立位で、両肩を上げて耳に近づける。 |
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僧帽筋中部 | 腹臥位になり、腕をベッドから下ろし、左右の肩甲骨を中央に寄せる。 |
僧帽筋下部 | 腹臥位で上肢を頭のほうに伸ばし、腕が床から離れるように上げる。 |
僧帽筋上部や中部の運動では、患者さんの筋力に応じて、1〜2kg程度のおもりを使って実施することも可能です。
また、首の後部から肩甲骨にかけてある肩甲挙筋は、肩をすくめる運動で僧帽筋上部と一緒に鍛えることができます。
肩周囲の筋力を鍛えることでなで肩が改善し、結果的に胸郭出口症候群の症状が和らぐ患者さんもいます。
患者さんによっては円背が胸郭出口症候群の症状を悪化させている場合もあるため、そのときは円背を改善する筋力トレーニングを検討するなど、ケースに合わせて対応していきましょう。
胸郭出口症候群の患者さんには日常生活の指導も
胸郭出口症候群は、毎日の過ごし方によって症状が悪くなる可能性があります。
肩甲帯が下がって腕神経叢や鎖骨下動脈が圧迫されないような生活を意識することが大切です。
リハビリスタッフが生活指導も行っていくようにしましょう。
●荷物の持ち方を工夫する
重い荷物を持つと神経の圧迫が強まるため、できるだけ重い物を持たないようにします。
荷物を持つときは、症状が出ていない側の手を使うように指導します。
どうしても荷物を持って移動しなければならないときはリュックの使用を勧めることもできます。
仕事上、どうしても重いものを持つ作業が必要になるときも、業務内容を工夫できないか検討してみてください。
●上肢を挙上する運動を控える
上肢を挙上する動きは、神経や血管を圧迫し、胸郭出口症候群の症状を悪化させることにつながります。
ADLやIADLにおいても洗濯物を干す、ヘアドライヤーで髪を乾かす、戸棚の物を出すなど、何かと上肢を上げる活動はあるものです。
患者さんが上肢を上げたときに症状が憎悪すると理解していない場合もあるため、リハビリの時間でもお伝えすると良いでしょう。
●症状の出ている側を下にして寝ない
人によって、仰向けで寝る人もいれば、横向きになって寝る人もいます。
症状のある側を下にして体の重さで圧迫すると、症状が悪化する一因となります。
したがって、寝るときの姿勢についても指導してみてください。
●肩を少しすくめる習慣を身につける
胸郭出口症候群は、特になで肩の女性に多く、肩が下がっているために神経と血管が圧迫されやすい状態になります。
肩と肩甲帯を挙上する筋力が弱い方では筋力を鍛えることも大切ですが、少し肩をすくめて挙上するように過ごすことで、症状の悪化防止につながります。
筋力が弱いと常時肩をすくめたままに保つことは難しいですが、気がついたときだけでも実践するようにお伝えしてみましょう。
なお、肩甲帯の位置が下がっている場合には、挙上するために装具を使用する場合もあります。
理学療法士・作業療法士が知っておきたいリハビリの注意点
胸郭出口症候群のリハビリを行う上で、理学療法士や作業療法士が意識しておきたい点についてお伝えします。
筆者自身が患者の目線で感じたことも交えながら、注意点について解説します。
●単調なリハビリだからこそ専門性が大切
胸郭出口症候群のリハビリは、肩や肩甲骨周囲の筋肉を鍛えたり、ストレッチしたり、どちらかというと地味なものです。
この記事を書いている筆者は首が長く、なで肩であり、20代前半のときに胸郭出口症候群と診断されました。
週に1回、片道40分ほどかけて整形外科に通って理学療法士のリハビリを受けました。
ただ、20分間のリハビリの時間で簡単な首と肩の筋トレを行うのみで、状態に応じてメニューが変わることもなく、少し残念に感じられました。
同じ運動であれば、2、3回も通えばやり方は覚えてしまいますし、一般の患者さんでもトレーニング方法のメモがあればホームエクササイズで対応できるでしょう。
状態の変化をとらえて負荷や内容を調整するなど、専門家が関与する意味、病院に来てもらう意味を考えながらリハビリにあたってみてください。
●リハビリのスタッフからも生活指導を行う
先にご紹介したように、胸郭出口症候群の患者さんが日常生活上で気をつけるべきポイントはいくつかあります。
一般の患者さんは日常生活上の注意点について理解されていない場合も多いです。
「診察のときに医師が伝えている」と思っていても、診察の時間が十分にとれずに、過ごし方に関するアドバイスは伝わっていない可能性もあります。
しかし、リハビリのスタッフなら筋トレやストレッチの最中にお話しながら注意点を伝えることができます。
今回の記事で紹介したような生活上の注意点について、理学療法士や作業療法士からも丁寧に伝えていくことを心がけましょう。
患者さんの「生活」や「過ごし方」にも目を向けよう!
筋力増強訓練やストレッチで症状が緩和する方もいますが、生活時間の中でもリハビリの時間はほんのわずかにすぎません。
胸郭出口症候群の患者さんを担当することがあれば、自宅でどのように過ごせば良いのか指導する役目も果たしていくようにしましょう。
リハビリの時間だけでなく、家庭で過ごす時間にも目を向け、ホームエクササイズの提供なども行ってみてください。
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士
石井美紀 さん
2020年6月23日 5:26 PM
こんにちは。先日、胸郭出口症候群かもしれないと医師に言われました。神奈川県内で 腕の確かな理学療法士様、胸郭出口症候群に詳しい専門医にいる病院を教えてください。
頚椎ヘルニア、opllもあり頚椎手術の腕の確かな先生を探しております。痛みで生活もままならず薬もききません。至急お願い致します。