整形外科で膝のリハビリに携わるスタッフが必ず行うべき評価のポイント3つ
リハビリの場面では、膝の痛みを訴える患者さんの声を多く聞きます。
ここでは、膝の痛みを有する患者さんに対して、行うべき評価のポイント3つをお伝えします。
問診と触診に工夫を凝らして膝が痛む原因を絞り込む
最初に行う評価は、問診と触診です。
この2つはおそらく、ほとんどの方が行っている評価ですが、ちょっと工夫を凝らすことで痛みの原因を絞り込むことができます。
●問診で病態を絞り込んでいこう!
ポイントを意識しながら問診を行うことで、原因を早期に予測・特定することが可能になります。
問診をする際には「どのくらいまえから」、「どのようなときに」、「どこが」、「どんな」といった4つのポイントを意識すると、原因を絞り込みやすくなります。
以下では、それぞれの有効性について解説します。
〇「どのくらいまえから」
いつ頃から痛みが出現したのか?など、時間経過を知ることで現在の状態が炎症期かそうでないかの判断ができます。
炎症期の場合は安静が大事になってきますが、そうでない場合は過度の安静は逆効果です。
〇「どのようなとき」
安静時に痛みがなければ、どんな場面で痛みが起こるのか?そのパターンを聞きだすことも重要です。
階段の上り下りや歩行時、動作開始時など患者さん特有の「痛むとき」を探っていきます。
このときのコツは、「痛みが楽になる場面を聞く」ことです。
痛みが楽になる姿勢をみつけることで、痛みを悪化させている姿勢や原因の特定にもつながります。
〇「どこが」
痛みを発生させている箇所を確認しましょう。
指で「ここ」と示すように、どの部分が痛むのかを特定できることもあれば、「全体的に痛い」などと訴える場合もあります。
〇「どんな」
痛みの種類を聞くことで、急激に起きたものなのか慢性的なものなのか、その時期を判断することができます。
ズキズキ、バクバクなどは炎症が強い時期と考えられます。
逆にズーンと重たい、鈍いなどの場合は慢性的な痛みが考えられます。
これら4つのことを意識して問診を行うだけで、今がどのような状態なのかを判別することが可能になり、考えられる原因を絞り込むことができます。
●触診で隠れた病態を明らかにしよう!!
触診で重要になるのは、今なにを触っているのか?という正確な触診技術と、疾患に応じてどの部位が痛くなるのかを把握しておくことです。
触診では、問診である程度予測された部分の圧痛の確認、膝周り(大腿四頭筋など)の柔軟性の確認、また下記でも説明しますが膝蓋骨周辺の組織の触診と、膝蓋骨の動きを確認します。
たとえば「膝の内側が痛いです」という50代の女性が来院されたとしましょう。
内側の痛みと年齢を聞いてまず考えるのは変形性膝関節症です。
でも、本当に膝の内側が痛くなるのは変形性膝関節症だけでしょうか?
膝の内側に痛みがでる病態としては、変形性膝関節症のほかに鵞足炎(がそくえん)
や伏在神経の圧迫、内側側副靭帯損傷なども考えられます。
これらは問診だけでは判断できず、各場所を触診して圧痛を確認することが必要です。
実際に50~60代でスポーツが好きな活動性の高い方の圧痛をみてみると、鵞足での痛みを訴える人がかなり多い印象をうけます。
診断名だけで判断せず、患者さんの言葉だけで判断せず、実際に触って隠れている病態を明らかにしていくことが触診の大事な考え方です。
膝蓋骨の評価から膝の状態を分析するテクニック
膝関節の評価をする際に、膝蓋骨の評価は非常に重要です。
●膝蓋骨の位置を確認するときは関節裂隙(かんせつれつげき)が基本
膝蓋骨の位置を評価する際、左右でくらべても、どちらの高さが正常に近いのか分からない場合があります。
そのときは関節列隙を探してください。
関節裂隙は関節の隙間のことで、膝の場合は大腿骨と脛骨の間のことをいいます。
正常な膝蓋骨の位置は、膝蓋骨の下端が関節裂隙と同じ高さになります。
実際の臨床では膝蓋骨が高い状態(高位)よりも、低い状態(低位)の方が多い印象です。
膝蓋骨低位の場合は、痛む原因として膝蓋骨の下にある脂肪体や膝蓋腱の癒着が考えられます。
低位になると膝蓋大腿関節内の圧が高まっていくため、階段などで膝が曲がった状態になると、支える際に膝の前面が痛みを起こしやすくなります。
●膝蓋骨の動きは回旋に着目しよう!
膝蓋骨は上下に動いているだけではなく、回旋したり、傾斜したりしながら動いています。
主にどんな動きをするのかを以下でみてみましょう。
〇上下
膝の屈曲に伴って下方へ、伸展に伴って上方へ移動します。
〇回旋(傾斜)
膝蓋骨を正面から見たとき、膝関節の屈曲に伴い外側に回旋し、伸展に伴い内側に回旋していきます。
このような前額面上の動きをfrontal-rotation(フロンタルローテーション)と呼びます。
また、膝蓋骨は膝関節の屈曲に伴い内側に傾き、伸展に伴い外側に傾きます。
このように水平面上で傾く運動をcoronary-rotation(コロナリーローテーション)といいます。
これらの動きを仰向けの状態で確認していきます。
必ず両手の親指と人差し指を使い挟み込むようにして持ち、上下左右と回旋の動きを見ていきますが、私自身このcoronary-rotationはしっかりと確認します。
回旋の動きは、外側広筋や大腿筋膜張筋といった筋をはじめ、膝蓋支帯・靭帯など膝周囲にある組織全般の影響を受けます。
また、下腿のアライメントによっても膝蓋骨の回線運動は変化していきます。
膝に痛みを抱えている患者さんは、この回旋の可動性が低下しているケースが多いのです。
両サイドから膝蓋骨を持ち、親指側を支点として固定し人差し指側を上に持ちあげるようにして動かします。
動かない場合は少し持ちあげた状態をキープすることでストレッチができます。
このようにするだけで、痛みが緩和される患者さんもいます。
股関節、足関節の影響を考えた膝のアライメント評価
膝関節は、股関節や足関節の間にある関節のため、これら2つの関節になにかしらの問題が生じると、膝関節にも影響を及ぼすことになります。
●股関節、足関節の影響で膝が捻じれる!
膝の痛みを抱えている患者さんの膝をみてみると、大腿骨に対して脛骨が外旋しているケースがよくみられます。
脛骨が外旋していると膝にかかる回旋ストレスが大きくなってしまい、痛みにつながってしまうのです。
脛骨が外旋する原因としては、股関節の回旋制限や足部の柔軟性の低下が考えられるので、膝関節以外の柔軟性をチェックする必要があります。
●特徴的な下肢アライメント
ここではよく臨床で見かけるアライメントとして「knee-in toe-out(ニーイン・トゥーアウト)」を解説します。
knee-in toe-outとは膝が内側に入ってつま先が外を向いている姿勢のことです。
本来つま先と膝は同じ正面を向いていなければならないのですが、それが同じ方向でないために大きな負担がかかってしまうのです。
原因としては
- 1)偏平足
- 2)股関節の回旋可動域低下
- 3)足関節の可動域低下
- 4)体幹、股関節周囲筋力の低下
- 5)腸脛靭帯の過緊張
が挙げられます。
この姿勢になると膝の内側にストレスが加わるため、前十字靭帯(ACL)損傷などの靭帯損傷や鵞足炎などが起こりやすくなります。
まとめ
今回は膝関節の評価として視診、触診に膝蓋骨の動き、アライメント評価を挙げました。
もちろんこれだけの評価ですべてを網羅することはできませんが、情報を効率的に得るには有効だといえます。
ただ何となく行うという考えを捨てて、しっかりとした目的をもって評価に臨むことを意識すれば、今まで見えなかったもの、気づかなかったものも見えてくるでしょう。
参考:
青木隆明,林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診術 改訂第2版,MEDICAL VIEW,2012,PP.30-34.
林典雄,浅野昭裕他:関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 第1版,MEDICAL VIEW,2008,PP.61-63,65,100-101
加賀谷善教,大工谷新一他:スポーツ障害理学療法ガイド,臨床スポーツ医学臨時増刊号,vol31:2-4,2014