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関節可動域訓練って実は難しい?評価のポイントと使える2つのテクニック

関節可動域の評価や訓練といえば、理学療法士や作業療法士にとっては定番の手技であり、臨床でも携わる機会が非常に多いです。
しかし、実際に臨床で関節可動域制限を治療対象にした場合、なかなかうまく改善できないという経験はないでしょうか。
本記事では、基本的な評価のポイントとテクニックについて解説します。

治療対象を見極め適切な訓練を行うポイントとテクニック

まずは評価、可動域を制限している要因を理解しよう

まずは評価、可動域を制限している要因を理解しよう

可動域改善のためには、制限している要因を理解することが大切です。
まずは制限因子についておさらいしてみましょう。

●軟部組織かそれ以外か、治療対象を見極めよう

可動域制限をきたす因子としては、筋肉(筋膜)や皮膚などの軟部組織、靭帯や関節包などの関節構成体、そして骨組織とさまざまです。
そのため、まずはけがや手術でどこの組織に侵襲が加わっているか、長期の固定によって組織にどのような変化が生じているかを理解することが大切です。
たとえば、足関節(外顆や内顆)の骨折後に固定術を施行した場合、一定期間はオルソグラス固定などで安静が必要になります。
その結果、腓腹筋の短縮や足関節周囲靭帯や関節包の伸長性が低下するため、可動域の制限因子になります。
加えて、手術で骨折部位を固定しているため、外顆と内顆の間が広がりにくくなり、距骨がうまく入りこまなくなるため、骨性の制限もでてきます。
多くの場合、関節可動域の制限は複数の因子が関係しており、現時点でどの因子の影響が強いのか、まずはどこを治療対象にすればいいのかを判断しなければなりません
ただやみくもに制限方向への可動域運動を実施するのは素人と同じであり、まずは制限因子をしっかり理解することがプロとしての第一歩です。

●それは本当に拘縮?防御性収縮には注意しよう

臨床ではよく「拘縮」というワードを耳にしますが、可動域制限=拘縮と考える方もいるので、その理解には注意が必要です。
拘縮とは、本来可動性を持っている軟部組織がなんらかの影響で伸長性が失われた状態であり、徒手的に改善可能な状態を指します。
そのため、軟部組織性のエンドフィール(運動最終域での徒手感覚)を感じたとしても、安易に筋肉の短縮や皮膚の可動域制限と判断してはいけません。
誰しも痛みを感じるときは体をこわばらせるように、患者さんも関節可動域訓練(ROM訓練)の際に疼痛や不安を感じると可動域は低下します。
「力を抜いてくださいね」と声をかけたところで、本人も無意識のうちに筋肉がこわばってしまうので、防御性収縮はなかなかの強敵です。
防御性収縮の強い患者さんに対しては、やみくもにROM訓練をしても効果が乏しく、逆に拘縮や慢性疼痛につながる可能性もあります

痛みを出さないことが重要、可動域訓練は自動運動から始める

痛みを出さないことが重要、可動域訓練は自動運動から始める

前述したように、ROM訓練の最大の敵は痛みや恐怖感などのネガティブ感情といってもいいでしょう。
ここでは、それらを回避するためのポイントについてご紹介します。

●初対面、はたして患者さんにとってのセラピストは救世主なのか?

けがや手術後のリハビリは必須の治療であり、担当セラピストは患者さんの機能改善を助けようと強い意志をもっているでしょう。
しかし、患者さんにとっては必ずしもポジティブな気持ちだけではなく、「痛そう、怖い」などネガティブな感情ももっているかもしれません。
特に、痛い部位を触られること、もとの生活に戻れるかなどの不安から、どうしても体が身構えてしまうこともあります。
そのため、痛みを伴うリハビリを経験した場合、前日に改善した可動域がまたリセットされるということも往々にあります。
関節可動域訓練で最も重要なことは種々の治療手技ではなく、患者さんを安心させること、なるべく疼痛を与えないことといってよいでしょう。
特に術後早期においては、可動域改善を第一とするのではなく、まずはリハビリに対しての不安を取り除くことが大切です。

●痛みが強い場合や不安が強い場合は自動運動を優先しよう

「可動域訓練が痛いのは当たり前、どうやってリハビリを進めるんだ」と考える方もいるかもしれませんが、まずは自動運動から行うことを意識してください。
「無理やり関節を曲げられる」という恐怖ではなく、「なんとか自分で曲げてみよう」というポジティブな意識をもってもらうことが大切です。
術後早期の自動運動では、疼痛による筋出力低下もあり、MMT(徒手筋力評価)の1から2程度の筋力しかでないでしょう。
しかし、10°や15°の可動範囲であっても、自身で動かすことで他動運動にくらべて不安や疼痛が軽減できます
自動運動に慣れてくると、最大可動域(自動運動における)から5°や10°程度セラピストが介助して動かしてみましょう。
たとえ1日の治療効果が10°や20°だったとしても、徐々に炎症がおさまるにつれて疼痛は軽減してくるので、そのタイミングでペースを上げてもいいでしょう。
最初は自動運動に介助を加えた可動域訓練、患者さんの不安や疼痛が軽減してきたら他動運動のウェイトを増やしていくことが大切です。

大切なのは神経や筋肉の生理学、基本的な2つのテクニック

大切なのは神経や筋肉の生理学、基本的な2つのテクニック

疼痛や不安が軽減してきた後も、自動運動での可動域訓練は非常に効果的です。
ここでは基本的な2つのテクニックとそのメカニズムについてご紹介します。

●防御性収縮をおさえるためには相反抑制が有効

誰もが学生時代に相反性神経支配について学習したと思いますが、その生理学的機序を思い返してみましょう。
相反抑制とは、簡単にいうと主動作筋が収縮する際に拮抗筋が弛緩するというもので、ストレッチングなどで応用されています。
術後の防御性収縮を改善する必要性については前述しましたが、そのためには相反抑制を用いることが有効です。
たとえば、大腿四頭筋の緊張が高く膝の屈曲可動域を制限している場合、大腿四頭筋の収縮をおさえる必要があります。
患者さんに「力を抜いて」と伝えてもなかなかうまくできないため、可動域改善に難渋するケースも多いでしょう。
まずは患者さんに自分でできる範囲で膝屈曲運動を行ってもらい、セラピストは触れるくらいのサポートにします。
拮抗筋(ハムストリングス)の収縮によって大腿四頭筋(主動作筋)の収縮が抑制されたことが確認できたら、その後は徐々にセラピストが手を加えていきます。
実施時の注意点としては、可動域を拡大するよりは筋緊張を抑制することに主眼を置くことであり、痛みがでない範囲で行うことが大切です。

●筋繊維の弛緩を利用して伸長する「Hold-Relax」

相反抑制と合わせて実施したい可動域訓練として、Hold-Relaxというテクニックがあります。
これは収縮と弛緩という意味で、筋収縮と弛緩を交互に行うことによって筋肉を伸長するというものです
筋肉を構成する筋原繊維は太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントから構成されており、アクチンフィラメントの滑り込みによって筋収縮が起こります。
防御性収縮では、常に筋収縮が起こった状態であるため、なんとかして筋肉を弛緩させる必要があります。
そして、この弛緩相を利用して可動域の改善を図るためのテクニックがHold-Relaxになります。
具体的な実施方法は以下の通りです。

  1. 1)痛みのない可動域まで関節を動かす
  2. 2)その可動域で緊張を緩めたい筋肉の等尺性収縮を行う(2〜3秒)
  3. 3)脱力して弛緩しているときにセラピストが少しだけ伸長を加える
  4. 4)1〜3を繰り返す

筆者がHold-Relax実施の際に注意しているポイントを挙げてみます。

  • ◯弛緩相では深呼吸をするなどしてリラックスさせる
  • ◯セラピストによる伸長は5°程度におさえる(患者さんが気づかない程度)

相反抑制やHold-Relaxを組み合わせて可動域訓練を行うことで、患者さんの不安や疼痛を軽減することができます。
しかし、あまり強い刺激を加えると逆効果になるため、患者さんの表情や筋肉の緊張具合を考慮して強度を決めることが大切です。

臨床では生理学的知識を存分に活用しよう

関節可動域訓練はリハビリ専門職にとって基本的治療の1つですが、曲がらない関節に力を加えて曲げるというだけでは素人と変わりありません。
学生時代は運動学や生理学などの基礎知識を習得することが目的でしたが、臨床ではいかに知識や技術を活用するかが大切です。
また実際の臨床では、可動域制限をきたしている因子は何か、自分の治療行為が患者さんの体にどのような影響を与えているかを常に考える必要があります。
臨床推論(クリニカルリーズニング)に基づいて治療を進めるためにも、基礎医学の知識は常に復習して磨き続けていきましょう。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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