関節運動学的アプローチ(AKA)とは。腰痛治療や整形外科患者さんの可動域訓練に有用な理学療法技術
関節運動学的アプローチ(AKA)は、理学療法士にとって基礎的な技術の一つであり、関節可動域訓練の際に大変有用な手技の一つです。
またAKAに関しては、腰痛の治療として仙腸関節に関節運動学的アプローチ–博田法を行うことにより、腰痛を改善させるという治療法もあります。
基礎的なAKAと仙腸関節へのAKAによる腰痛の治療法について解説していくことにしましょう。
目次
AKAとは、関節運動学に沿った可動域の拡大を目的とした理学療法手技
AKAとは各関節が可動する際に関節に起こる回旋やスライドなどのごくわずかな動きを介助して関節全体の動きを改善させる理学療法技術です。
●関節運動学的アプローチは理学療法手技の一つ
関節運動学的アプローチとは、関節運動学に基づいた関節包内での運動、つまりスライドや回転、回旋、関節の遊びに関する異常を治療することと定義されています。
これらの関節包内での動きは、より大きな動きである関節運動につながるため非常に重要であり、これらを治療することは理学療法の効果に直結するものです。
●関節運動学的アプローチは、学内教育ではなかなか習得できない
関節運動学の机上での学習は、理学療法の養成校の学内での教育として、実践されていることでしょう。
しかし学内の関節運動学的アプローチを用いた治療は、健常人に対して施行し、効果を目にすることは難しいものです。
関節運動学的アプローチは、長期不動によるもの(長期臥床やギプスなど)、靭帯損傷や筋スパズム、骨折後の変形、加齢などによる関節内の変性により関節包内のスライドや回転、回旋などが制限された場合に用います。
そのため学内での技術の習得は難しく、臨床実習や実際に臨床に出てから患者さんへの理学療法を通して、技術習得を行う必要があります。
関節運動学的アプローチは理学療法では重要。AKAを用いた関節可動域訓練の例をご紹介
関節可動域の拡大や改善を目的とする理学療法では、大きな運動だけでなく関節内に起こる動きに関しても着目する必要があります。
●ダイナミックな関節の動きには関節内のわずかな動きも大きく関わる
関節の動きには、副運動と呼ばれる関節包内の動き、関節面の構成運動と関節の遊びが大きく関係しています。
関節拘縮などの副運動に対する理学療法手技として、関節包内にある軟部組織、関節包や靭帯の伸長を行うことを目的としています。
また関節における生理的な運動、たとえば関節面の適合や回転時の関節の中心を合わせるために滑りや軸回旋、転がりなどが起こるためそれらの構成運動への関節運動学的アプローチも可動域の増大や維持に重要となります。
これらの副運動に伴う関節の緩みの減少や疼痛により関節運動がスムーズに行われないこともあり、その原因を取り除くことも理学療法を行う上で重要です。
●整形外科疾患ではさまざまな理由により、関節内の副運動や周囲の関節の動きを介助する必要がある
関節面の破壊や変形、靭帯の裂や緩み、変形などにより関節包内の動きが制限されます。
ここでいくつかの例を挙げてみましょう。
○肩関節の内旋
上腕骨頭の後方滑り
○膝関節伸展最終域
脛骨外旋
脛骨の大腿骨に対する前方方向への滑り
膝蓋骨の上方への滑り
腓骨の上方への滑り
○足関節背屈
距腿関節における距骨の尾側への滑り
下部脛腓関節の外側への開き
疼痛の治療法としてのAKA–博田法とは?仙腸関節や脊椎の関節に対する関節運動学的アプローチ
腰痛の治療法の一つとして関節運動学的アプローチを手技として用いることもあります。
どのようなものなのか解説することにしましょう。
●腰痛の治療法として用いられるAKA-博田法とはどのようなものなのか
仙腸関節や椎間関節などの小さな関節の動きが障害された状態を関節機能異常として、それらによって起こる痛みやしびれなどのさまざまな問題を取り除くための理学療法手技です。
仙腸関節は皆さんご存じのように、大きく動く関節ではなく、ミリ単位のわずかな動きのみであり、ほかの主な治療対象は椎体関節周囲としています。
治療対象としては、腰痛や肩こり、ぎっくり腰などの非特異的な腰痛、頸椎捻挫、膝関節痛などとしており、神経系の異常によるものや炎症などから起こっている場合には治療対象とはなりません。
●AKA-博田法の技術習得のためには、当該団体の書籍やハンズオンセミナー
AKA-博田法では、日本AKA医学会において認定を受けた技術者による施術を受けることを推奨しています。
先ほどもお話ししたように、仙腸関節の可動範囲は非常に小さく、施術による関節包内の運動で痛みやしびれなどの症状が悪化することもあるといわれています。
そのため、日本AKA医学会では講習会などでハンズオンのセミナーを開催し、技術について学びたい方に機会を提供しています。
理学療法技術の中でも、痛みに対する治療法は多岐にわたりますが、手技に関しては実際に経験してみないと身につかないこともあるため、講習会などを利用するのが効果的といえるでしょう。
興味がある場合は、書籍や全国各地で開催される当該団体のセミナーがあるので、日本AKA医学会ホームページなどで確認してみてください。
関節運動学的アプローチは理学療法技術として重要。疼痛に対する理学療法、AKA–博田法はハンズオンセミナーを利用しよう
関節運動学的アプローチは日常の理学療法技術として重要なものであり、関節の副運動や構成運動に対するアプローチにより、関節拘縮の治療法として有用です。
また、AKA-博田法は腰痛などの疼痛に対する治療手技として用いられますが、技術習得にはハンズオンセミナーなどの利用が効果的な手段といえるでしょう。
参考:
竹井仁: 骨関節疾患に対する関節モビライゼーション. 理学療法科学20(3): 219-225. 2005. (2020年11月19日引用)
日本関節運動学的アプローチ(AKA)医学会 AKAとは(2020年11月19日引用)
日本関節運動学的アプローチ医学会 理学・作業療法士会 AKA-博田法とは(2020年11月19日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士