選手を1日も早く現場に!そのために理学療法士やトレーナーができる受傷後の初期対応
スポーツ現場においては、ケガの重症度は違えども接触による裂傷や打撲(だぼく)などさまざまなケガを経験します。
そのとき理学療法士やトレーナーには、「いかに早く競技に復帰させられるか」という能力が求められます。
早期復帰を可能にするには、積極的な運動療法なども有効ですが、そのためには受傷初期の対応が非常に重要であり、適切に行われないと復帰時期が遅れてしまうことをご存じですか?
今回は、受傷早期の対応についてまとめました。
医師並みの詳しい知識と技術が必要!
ほとんどのプロスポーツチームや実業団には、チームごとにチームドクターが携わっています。
しかし、実際のスポーツ現場では、医師がつねに帯同していることは少ないのです。
このため主に受傷初期の対応は、理学療法士やトレーナーがその役割を担い、必要であればテーピングやアイシングなどの処置を施します。
つまり、現場で対処できるケガなのか、医療機関を受診させたほうが良いのかの判断は、理学療法士やトレーナーが行うことになるのです。
たとえば足関節内反捻挫の場合なら、おおまかな判断基準として、組織損傷が軽度か重度かで分けることができます。
軽度の組織損傷 | 重度の組織損傷 | |
---|---|---|
腫脹や内出血 | やや+ | ++ |
熱感、痛み | + | ++ |
跛行(かばった歩きかた) | やや+ | ++ |
損傷靭帯や筋組織の圧痛 | + | ++ |
症状などによっても異なりますが、軽度の場合は基本的に大きな組織の損傷を起こしている可能性は低いため、RICE処置やテーピングで対応できるものが多いでしょう。
状況によっては念のため、医療機関を受診させることも必要となります。
重度の場合は医療機関を受診し、CTやMRIなどで細かい評価を行う必要があります。
しかし、受傷後すぐに医療機関を受診できるとは限りません。
状況によっては、受診までに時間を要することもあり、その間に症状が変化することも考えられます。
このため、現場にいる理学療法士やトレーナーがさまざまな病態を勘案し、その病態に合わせた的確な処置を行わなければなりません。
ポータブルの超音波診断機器を持参していれば、その場で組織の損傷程度などを判断することができます。
しかし、基本的には徒手検査と視診、触診で正確な評価をする必要があります。
これらのことから、理学療法士やトレーナーには、医師と同等の評価を実施できる技術、知識が必要といえるのです。
最短での競技復帰を実現するには、初期のRICE処置がカギ!
最短で現場復帰を可能にするには、受傷早期の対応で決着がつくといっても過言ではありません。
受傷初期の対応としては、有名なRICE処置を適切に実施することが重要です。
これにより、炎症徴候をしっかりと沈静化させ、残存させないようにします。
RICE処置は、以下の4つで構成されています。
- ●Rest(安静)
- ●Ice(冷却)
- ●Compression(圧迫)
- ●Elevation(挙上)
この中でも、特に圧迫を丁寧に行うことが重要です。
なぜ圧迫が重要になるのでしょうか。
圧迫を重要視する理由としては、以下の2つになります。
- ●瘢痕(はんこん)組織の形成予防
- ●癒着(ゆちゃく)の予防
1) 瘢痕組織の形成予防
瘢痕組織は、大きな傷や適切に癒合しなかった箇所の組織修復をするときに、別の組織として断裂した箇所を埋めていきます。
この瘢痕組織は通常の組織とは異なり、伸び縮みをしません。
たとえば筋肉が損傷し、修復過程で瘢痕組織が形成されたとします。
瘢痕組織と筋肉の境目には、筋肉の伸びる部分と瘢痕組織の伸びない部分でギャップが生じ、通常以上の負荷が加わります。
この結果、ギャップの加わる部分を再受傷してしまうリスクが非常に高まるのです。
このため、たとえ重度の損傷ではなくても、適切な組織の状態管理ができていないと、この瘢痕組織ができてしまうので注意が必要となります。
しかし組織の圧迫を行うことで、開いた傷口をくっつける方向に誘導し、瘢痕組織の形成を予防することができます。
2) 癒着の予防
癒着とは、たとえば筋肉と筋肉の間がくっついてしまい、相互に滑らなくなった状態のことです。
組織損傷後には血腫ができ、線維芽(せんいが)細胞と呼ばれる細胞が損傷部位に集中します。
この線維芽細胞が過剰に集中すると、その部位に癒着が生じます。
つまり、血腫が大きくなればなるほど、その部位に癒着が生じやすくなるのです。
血腫を大きくしないために、圧迫して血腫ができるゆとりをなくすことが重要になるわけです。
また、癒着が形成されてしまった場合は、その癒着を剥離する作業を行います。
一度癒着してしまった部分は、選手自身での剥離操作は難しく、専門知識のある理学療法士やトレーナーが行う必要があります。
著者の経験上、競技復帰時期を遅くする一番の原因は、この癒着であると感じます。
一度癒着が完成してしまうと、その部位の治癒に多くの時間がかかり、本来行いたいリハビリにかける時間が短くなります。
限られた時間のなかで結果を求める選手であるからこそ、こうした無駄な時間を少しでも省く必要があります。
こうした癒着は、適切な時期の処置で予防することができます。
癒着が形成されるのは急性期〜組織修復期までの期間です。
この期間に損傷部位の治療が適切に実施できるかが、選手の競技復帰時期を左右します。
早期復帰を目指すのであれば、ぜひ意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。
選手を一番理解する存在?理学療法士に求められること
選手と一番近い距離で接することができるのが、理学療法士やトレーナーです。
このため、選手と良好な関係を築いておくことも重要になります。
チームでの立ち位置や役割、習慣や動作のクセなど、選手を取り巻くさまざまな状況を把握し、選手の意見を尊重しながらリハビリを行っていくことで、信頼関係の構築にもつながります。
適切な評価、治療を行える技術をもって、選手に安心してリハビリを任せてもらえる、理学療法士やトレーナーでありたいですね。
まとめ
今回は受傷早期の対応についてまとめました。
受傷後のリハビリというと、運動療法をしっかりと行うことで、早期復帰に近づけることができるという印象が強い方も多いと思います。
しかし実際は、受傷早期の対応一つで復帰時期は変わってきてしまうのです。
選手に対応を指導し、できるだけ炎症を残さないようにすることを意識しましょう。
選手を一番近くで支える理学療法士やトレーナーだからこそ、こうした意識を常にもちケガの治癒を全力でサポートしていきたいものです。