整形外科・リハビリ病院が抱える課題(ヒト・モノ・カネ)をサポート

  • Facebook

クリニック・治療院 OGメディック

  • 桑原

    公開日: 2021年09月30日
  • 整形外科の悩み

この記事に関するタグ

脊髄損傷に対する再生医療の効果の程は?iPS細胞を利用したさまざまな治験が始まっているのをご存じですか

2012年に京都大学の山中教授がノーベル賞を受賞されたときに、再生医療やiPS細胞という名前を皆さんもニュースなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
iPS細胞の実用化の一例として、最近では脊髄損傷の患者さんに対してヒトiPS細胞を使って再生医療が試みられています。
この再生医療の試みは世界初であり、注目されている治療の一つです。
この最新の医療の試みがどのようにして行われているかについて、お話しすることにしましょう。

再生医療・iPS細胞技術 いまとこれから

iPS細胞とは何か?再生医療や新薬開発などさまざまな治験が行われている

ニュースなどで耳にすることもあるiPS細胞ですが、一体何なのか、また医療の分野にどのような影響を与えているのかについて最初にお話しすることにしましょう。

●iPS細胞とは、ヒトの細胞に遺伝子操作を加えることで、人体を形成するさまざまな臓器になりうる幹細胞

iPS細胞はさまざまな細胞へ分化します

iPS細胞とは、Induced Pluripotent Stem Cellsの略語で日本語では人工多能性幹細胞といいます。
体細胞に何らかの遺伝子操作を与えることでリプログラミングされ、iPS細胞を作成することが可能です。
京都大学の山中伸弥教授が見出したリプログラミングの方法は、再現性が高く比較的容易な方法であるため、さまざまな分野で注目を浴び、ノーベル賞受賞に至ったのです。
このiPS細胞は多分化することができるといわれており、iPS細胞を用いてさまざまな細胞を作り出して、疾患や外傷などにより失われた機能を再生することを目標にした治療に生かされています

●iPS細胞を利用して、新薬の開発や病気の原因究明、再生医療などが試みられている

体の機能を修復 再生医療/病変細胞を再現 新薬開発

iPS細胞は先ほども話したように、体のさまざまな部位の細胞を作り出す際のもととなる幹細胞です。
たとえば再生医療に関しては、神経が断絶されてしまうような外傷や疾患の場合には神経をつなぐ細胞を移植する、糖尿病患者さんには血糖値を調節する機能があるような細胞を移植するといった具合です。
ほかにも、病気の原因究明にもiPS細胞が役立つのではないかと研究されています
たとえば、難病など原因のわからない疾患の患者さんから、細胞を採取し培養してiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞から臓器がいかに分化していくのか、またその臓器の機能はどうなっていくのかを見ることで原因や治療法を見出す一助になるのではないかといわれています。

現在iPS細胞で治せると考えられている病気は、脊髄損傷やパーキンソン病など

iPS細胞を利用して治療が見込まれている病気には一体どのようなものがあるのでしょうか。

●iPS細胞の治験などが行われた、もしくは行われている疾患はさまざま

さまざまな施設において、iPS細胞から目、神経、心臓、骨、膵臓、肝臓、血液などの臓器を作ることを試みています。
これらの研究により、難病で視力を失うもしくは失いかけた方の目の組織の移植、脳梗塞患者さんへの神経組織の移植、自家培養軟骨細胞を用いた膝関節の離断性骨軟骨炎や外傷性軟骨欠損への移植、ヒト骨格筋由来細胞シートを用いて重症心不全の心収縮能の改善、パーキンソン病への非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の移植などさまざまな取り組みが行われています。
これらの治療への有効性が証明されれば、難病疾患への治療法の確立が可能となり、医療の進歩がさらに感じられることとなるでしょう。

●将来的な展望は、病因の究明や自分の細胞を用いた拒絶反応の少ない臓器の再生

自分の細胞を用いた臓器の再生や移植などを目的としての研究や、先に述べたような難病などの病因の究明への応用を目指しています。
たとえば、肝臓の酵素欠損症の患者さんに対して、2019年には肝臓の細胞を移植する試みが始められています。
将来的には肝硬変などの主流となる病気に対する治療への応用を目指しているといわれています。

世界初。脊髄損傷に対して行われている間葉系幹細胞やヒトiPS細胞を用いた治療とは?

脊髄損傷やパーキンソン病などの治療法の確立へ

今まで治療法が全くといっていいほどなかった脊髄損傷に対してヒト間葉系幹細胞やヒトiPS細胞を用いた治療が進んでいます。
その治療の適応や結果がどうなのかについてもお話しすることにしましょう。

●脊髄損傷に対する再生医療は札幌医科大学や慶應大学などで始まっている

脊髄損傷に対しての積極的な治療は今まではほとんど方法がなく、脊髄の浮腫の防止や合併症の予防、リハビリテーションが主な治療でした。
札幌医科大学で行われている再生医療の一つは本人の骨髄由来間葉系幹細胞を培養して増やし、静脈内に投与し損傷した脊髄を修復するというもので、治験はすでに終了しています。
政府からの条件付き認可が下され、再生医療の一つの手段として治療が開始されています。
慶應大学でも2021年6月に患者の募集を公表し、ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を用いた再生医療が開始されるようです。

●脊髄損傷にはヒトの細胞を用いたオーダーメイド医療が。その成績は効果が見られている

札幌医科大学では5月より、受傷後31日以内の脊髄損傷症例に対して限定数のみ、ヒト由来の間葉系幹細胞を本人の骨髄から培養させたものを用いて治療を行い、その後半年間のリハビリテーションと1年間の追跡評価などを行っています。
合併症により治療ができなかったり、治療効果も個人差や重症度によっても差がありますが、改善例などもメディアに紹介されており、大きな注目を浴びています
今後さまざまな施設で治療が行われることで、研究や治療法の確立が進んでいくことが望まれます。

再生医療にはiPS細胞の臨床応用への安全性などのクリアすべき問題も

再生医療への課題として、倫理観、安全性なども大きな障壁の一つですが、新薬への期間限定の承認など再生医療への取り組みは進歩しているようです。
今回ご紹介したiPS細胞や間葉系幹細胞などによる脊髄損傷の症例のように良好な結果を得られているものもあります。
再生医療の進歩がこれからの医療を変える一歩となる可能性は計り知れず、今後の展望にも注目すべきでしょう。

参考:
京都大学iPS細胞研究所 iPS細胞とは?(2021年8月24日引用)
札幌医科大学附属病院 脊髄損傷に対する再生医療等製品「ステミラック注」を用いた診療について(2021年8月24日引用)
NHK 脊髄損傷への画期的な治療法が登場!(2021年8月24日引用)
慶應義塾大学医学部プレスリリース 脊髄損傷へのiPS細胞を用いた新規治療法の開発-「脊髄型」iPS細胞由来神経幹/前駆細胞で運動機能回復-(2021年8月24日引用)
亀田京橋クリニック 膝関節・軟骨修復治療(2021年8月25日引用)

  • 執筆者

    桑原

  • 1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
    その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。

    保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士

コメントをどうぞ

ご入力いただいた名前・コメント内容は弊社がコメント返信する際に公開されます。
ご了承ください。
メールアドレスが公開されることはありません。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)