整形外科の看護師として知っておきたい、クーリングの目的と根拠、そして冷やしすぎることで新たに起こりうる症状とは?
発熱時に多く行うクーリングですが、整形外科の場合はそれ以外にも術後や応急処置などさまざまな場面で行います。
そこで今回は、整形外科の看護師としてぜひ把握しておきたい整形外科領域におけるクーリングについての基本知識と、過度なクーリングによって引き起こされる症状についてご紹介していきます!
クーリングの目的は疼痛の軽減と、腫脹(しゅちょう)や浮腫の軽減
整形外科においてクーリングを行う目的は、大きく分けて二つあります。
それは、「疼痛の軽減」と「腫脹や浮腫の軽減」です。
疼痛は、患部を冷やして低温にすることで、患部の神経伝達速度が低下するために痛みを軽減させることができます。
腫脹や浮腫は、患部周辺の血管を冷やすことで収縮させ、炎症反応による血管の腫脹を抑えたり、血管透過性を低下させて血清たんぱく質が血管外へと流出するのを抑えることで、軽減させることができます。
では、クーリングはどの程度行うことが好ましいのでしょうか。
2018年3月現在、クーリングの目安について明確な定義はありません。
しかし角田(2015)は、クーリングの目安として受傷後や術後の数日は「10分冷やして30分取り外す」というサイクルを可能な限り繰り返すことが有効としています。
そして、術後の炎症が起こりやすい時期が過ぎたら、1日に3~5回行うのが適当としています。
整形外科領域においてクーリングを行う際は、合併症に考慮したこのサイクルを覚えておくとよいでしょう。
冷やしすぎによる血液の循環不全と症状の増悪に注意!
クーリングは疼痛および炎症軽減効果が期待できますが、一方で長時間患部を冷やし続けることで、新たな症状を引き起こす恐れがあります。
過度なクーリングによって起こり得る、2つの症状についてご紹介します。
●血液の循環不全
長時間継続して冷やすことで、血液の循環不全が起こり、組織壊死や神経炎を新たに引き起こす恐れがあります。
●症状の増悪
組織温度が15度以下より下がる、あるいは筋肉を10度前後まで冷やすことで、かえって炎症や腫脹、浮腫が増悪するという報告もあります。
また、こういった症状以外にクーリングを除去しても、筋肉などの深部組織や血管の収縮効果、血流の低下は数分から30分持続するという報告もあります。
皮膚温が上昇しているからという理由で再びクーリングを始めてしまうと、先ほどあげたような症状を誘発する恐れがあるので、「10分冷やして30分取り外す」というサイクルを守ることが大切です。
TKAの術後にクーリングを行う理由は、出血量の減少もあり
では実際に整形外科の現場において、どういった場面でクーリングを行うことが有効なのでしょうか。
人工膝関節全置換術(以下TKA)の術後を例にご紹介しましょう。
膝関節は体の表面にあり、筋肉などの軟部組織の被膜が乏しくなっています。
そのためTKAの術後は、患部を中心として熱感や腫脹が現れやすく、それに伴って疼痛の増強や可動域制限も起こしやすくなります。
そこで、TKA直後から専用の器具やアイスパック等を用いてクーリングを行うことで、疼痛や浮腫、腫脹の軽減を図ることができるのです。
また、疼痛や浮腫・腫脹の軽減以外にも、表在血管を収縮させることで、術後の出血量を減少させる狙いもあります。
さまざまな効果が得られるクーリングですが、「冷やせば冷やすほど効果が高くなる」というわけではありません。
施術後数日間は特に炎症反応が強くでるためクーリングの効果が期待できますが、長時間冷やし続けることで、新たな症状が出現してしまうこともあるので、冷やす時間には注意が必要です。
まとめ
整形外科領域においては、解剖生理の理解が必須となります。
クーリングの目的や冷やしすぎによる症状についても、解剖生理がわからないと根拠を理解することはできません。
もし整形外科領域について苦手意識が強い場合には、術式や疾患に伴う看護についての勉強をするまえに、まずは整形外科における解剖生理を復習してみてはいかがでしょうか。
そうすることで驚くほど理解がすすみ、日々の業務にもすぐに役立てることが可能になります。
角田直也:患部に熱感・腫脹のある患者に対して行うクーリングの適切な処置時間を教えてください:整形外科看護:2015年20巻6号:p98-99
岩佐直子他:TKA術後のクーリングや挙上の方法・期間:整形外科看護:2017年22巻6号:p90-95
遠藤 寿美恵 さん
2021年3月25日 7:27 AM
術後の上肢の場合 浮腫が引けても 熱感が残り夜間の睡眠にも影響する場合、まだ急性期として クーリングを行っていっても良いのでしょうか。