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CPX第3弾「応用編」!運動耐容能低下の原因を考える際のポイントとは?

心肺運動負荷試験(CPX)は、運動耐容能の評価や、適切な運動負荷量を決定するために有用です。
しかし、なにが原因で運動耐容能が低下しているのか、呼吸苦の原因はどこにあるのかなど、CPXには診断的側面もあります。
第3弾では、運動耐容能低下の原因や労作時呼吸苦の原因を考えるポイントをご紹介します。

CPX第3弾「応用編」

CPXで確認しておきたい3つのデータとは?

CPXで確認しておきたい3つのデータとは?

ここではまず、CPXの結果で押さえておきたいデータについて解説します。

●peak VO2=運動耐容能の指標

CPXでは、運動耐容能=peak VO2で表されるため、まずはこの値を理解することが大切です。
peak VO2は1分間の酸素摂取量を体重で割った値(ml/kg/min)で表され、同年代の基準値を100%とした場合に何%であるかも知ることができます。
一般的に、「運動耐容能が向上した」と判断する場合、peak VO2が指標になります。
酸素摂取量を規定する要因は、心臓の拍出量(一回拍出量・心拍数)や動静脈酸素較差(筋肉内での酸素の取り込み能力)が挙げられます。
しかし、peak VO2は言い換えるとどこまで強い負荷に対して頑張れたかということでもあり、下肢筋力も重要な要素となります。
そのため、心機能が正常でも下肢筋力が低下していればpeak VO2は低値となります。

●VE/VCO2 slopeは換気効率の悪さがわかる

VE/VCO2とは、一定の二酸化炭素(CO2)を排出するために、どの程度の換気量(VE)が必要になるかを表します。
そして、グラフ上にVE/VCO2の経時的変化をプロットしたときの傾きがVE/VCO2 slopeになります。
この値が高ければ「一定のCO2を排出するために必要な換気量が多い(効率が悪い)」と解釈できます。
本来、酸素や二酸化炭素は肺胞と肺毛細血管との間で受け渡しがされますが、その間になんらかの障害があると、受け渡しの効率が悪くなります。
肺胞に空気があるが血流が少ない場合や、血流は十分だが肺胞に空気が少ないときは高値になります

●peak VO2/HR(O2 pulse 酸素脈)は心臓の一回拍出量をあらわす指標

peak VO2/HRとは、1回の心拍出によってどの程度酸素摂取量が得られたかをあらわす指標であり、心臓の収縮機能を推測できます。
心臓の機能は心臓エコー検査で知ることができますが、運動時の心拍出量を知ることはできません。
ただし、peak VO2/HRは心臓の1回拍出量だけでなく、末梢の筋肉における動静脈酸素較差酸素も関与するため、あくまでも推測値であることに注意が必要です。
酸素脈は、負荷量が上がるにつれて上昇しますが、中盤に頭打ちになり、その後は心拍数によって酸素摂取量が上昇します。

息切れの原因検索にCPXを活用しよう

息切れの原因検索にCPXを活用しよう

臨床では、「運動するとすぐに息があがる」、「SpO2(経皮的酸素飽和度)は下がらないのになぜ?」と悩む場面があります。
ここでは、なぜ息切れの原因検索にCPXを活用するのかをご紹介します。

●医師からの指示「なんでこの人は息切れするの?」

医師は各種検査を参考に疾患を治療しますが、労作時の息切れに関しては実際の運動場面を見なければわかりません。
筆者の施設では、循環器内科医から「労作時の呼吸苦を評価してほしい」とリハビリ指示がでることが多く、心臓リハビリチームのセラピストが評価を担当します。
運動耐容能の検査としては6分間歩行試験が代表的であり、多くの施設で実施されているでしょう。
しかし、歩行のみでは評価できる内容に限界があり、その際にCPXが有用であるといえます。

●歩行中の息切れや酸素飽和度だけでは原因がわからない

6分間歩行を例に挙げると、歩行前にSpO2・心拍数・呼吸数などをチェックし、歩行中や歩行後の変化を記録します。
また、自覚的運動強度であるBorgスケールを用いて、患者さんがどの程度つらかったのかを把握することも重要です。
しかし、歩行中にSpO2が低下しなかった場合や、歩行の負荷が最大心拍数の◯%に相当することがわかっても、なぜ息切れをしているのかを判断することはできません
たとえ心機能が低下している患者さんの場合でも、本当に心機能低下による息切れなのかを判断することは困難です。

●CPXでは運動時における心拍出量や肺うっ血の有無を評価できる

6分間歩行などの検査では、体内での変化をリアルタイムに捉えることが難しいですが、CPXを実施することによって評価の精度が上がります。
検者としては、以下の項目を知りたいのではないでしょうか。

  • 労作時呼吸苦の原因は肺か心臓か?
  • 患者さんの体力はどの程度低下しているのか?
  • 心機能の低下が運動時に及ぼす影響は?

これらの疑問は、前項でご紹介したpeak VO2・VE/VCO2 slope・peak VO2/HRから読み取ることができます。
次項では、その原因検索の進め方についてご紹介します。

原因は心不全?それとも肺気腫?ほかの検査結果も参考に考える

原因は心不全?それとも肺気腫?ほかの検査結果も参考に考える

ここでは、労作時呼吸苦を評価するための具体例について紹介します。

●酸素脈が低ければ心不全による呼吸苦を疑う

酸素脈は心臓の1回拍出量の指標になるため、VO2/HRが低いと心臓の機能低下が疑われます
また、最大心拍数やVE/VCO2 slopeなども参考にすることによって、心機能がどこまで影響しているかを推測することができます。
以下に評価の1例を挙げてみます。

  • ◯VO2/HRが低い
  • ◯最大心拍数が基準値の80%前後まで上昇
  • ◯VE/VCO2 slopeが高い(35以上)

これらのデータから、心拍数は上がっているが1回拍出量は少ないため、肺循環が遅延して(VE/VCO2 slopeの上昇)労作時呼吸苦が出ていると推測できます。

●VE/VCO2 slopeと肺機能検査の異常があれば肺気腫を疑う

VE/VCO2 slopeは換気効率の悪さを表していますが、この値だけでは心臓と肺のどちらに原因があるのかまではわかりません。
前述したように、VO2/HRの低下があれば心機能低下による影響も考えられますが、肺機能検査の結果も重要になります。
VO2/HRがほぼ正常であり、肺機能検査で閉塞性パターンを呈している場合は、肺気腫による換気効率の低下・労作時呼吸苦と考えることができるでしょう。

●胸部レントゲンや心臓エコー検査なども参考にする

換気効率や心臓の収縮機能など、CPXで評価できる指標はさまざまですが、CPXの結果だけで病態を解釈することはできません。
CPXで得られるデータは、酸素と二酸化炭素の摂取・排出量、換気量、心電図、運動負荷量といった限られたデータを組み合わせたものです。
前述した肺機能検査をはじめ、心臓エコー検査で心不全の所見があるか、胸部レントゲンで心拡大があるかなど、ほかの検査所見も参考にする必要があります。
安静時における検査結果と、運動負荷時のCPX結果を統合して病態を解釈することを心掛けましょう

根拠に基づいた評価を!さあ、CPXを活用しよう

根拠に基づいた評価を!さあ、CPXを活用しよう

CPXは、普段のリハビリ場面ではわからない項目を数値化できるため、評価の信頼性がアップします。
また、CPXに精通すると医師の診断補助にも役立つため、他職種との信頼関係を築くことにもつながります。
運動耐容能の評価・安全な運動強度・労作時呼吸苦の評価と、CPXはさまざまな場面で活用することができます。
ぜひこの機会に、CPXの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

関連記事:
CPX第1弾「基礎編」心肺運動負荷試験(CPX)とは?リハビリ場面での活用方法をご紹介します
CPX第2弾「実践編」!検査の実施から運動処方までの流れをご紹介します

参考
OGウエルネス フィジソニック ES-7

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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