心電図入門!知っておきたい基礎知識と臨床でのリスク管理
医療機関では、12誘導心電図や病棟でのモニター心電図など、心電図を見る機会が多くあります。
しかし、リハビリ専門職は心電図について学ぶ機会も少なく、「見方がわからない」と困っている方も多いのではないでしょうか?
本記事では、心電図の基礎知識から臨床で押さえておきたいポイントまでを解説していますので、ぜひ今日からの臨床に生かしてください。
STEP1 まずはおさらい、心電図波形の基礎知識
ここでは、心電図波形の各名称や心拍数の計算方法について解説します。
●心電図の基本波形は4つの部分で構成されている
心電図の基本波形は、P波、QRS波、T波、U波の4つの部分から構成されています。
以下の表は、それぞれの部分の特徴と発生する理由についてまとめたものです。
波形の名称 | 波形の特徴 | 発生する理由 |
---|---|---|
P波 | 上向きの小さな山の形 | 心房の収縮 |
QRS波 | 上向きの尖った山の形 | 心室の収縮(心室の脱分極) |
T波 | 上向きで小さな山の形 (P波より少し大きい) |
心室の拡張(心室の再分極) |
U波 | T波のすぐ後に出るかなり小さな山 | 成因は明らかになっていない |
注)12誘導心電図波形のうち、Ⅱ誘導における基本波形です
通常、心臓の興奮は洞結節から房室結節、ヒス束などの刺激伝導系を経由して電気信号が伝わります。
そのため、心房の興奮(収縮)の後に心室の興奮が起こり、最後に心室の興奮がおさまります。
つまり、刺激伝導の過程になんらかの異常が起こると、心電図上に異常波形としてあらわれます。
●3つの波形の間にも名称がある
P波、QRS波、T波の間には、それぞれ以下のような名称があり、心電図判読において非常に重要となります。
名称 | 区間 | 区間の意味 | 正常値 |
---|---|---|---|
PQ時間 | P波の始まりからQ波の始まりまで | 心房の興奮から心室興奮までの時間 | 0.12~0.20未満 |
ST部分 | S波の始まりからT波の始まりまで | 心臓の収縮持続時間 | 基線(T波の終わりからP波の始まりまでの線)に一致 |
QT時間 | Q波の始まりからT波の終わりまで | 心臓の収縮から弛緩までの 時間 | 0.35~0.44 |
PQ時間が長い場合、心房から心室の興奮までに時間がかかっているということになり、房室ブロックなどの病態が考えられます。
ST部分に関しては、狭心症や心筋梗塞などのように心筋の虚血がある場合に異常が生じます。
●マス目から心拍数を判断できる
心電図の記録用紙には、細かいマス目と大きなマス目が描かれていますが、このマス目から心拍数を判断することができます。
1mmの細かいマス目は、時間でいうと0.04秒に相当し、大きなマス目は小さなマス目5つぶん、つまり0.2秒に相当します。
R波から次のR波までの長さを調べ、1分間あたりの数を求めることによって心拍数が計算できるため、60/(RR間隔×0.04)という式になります。
また、大きなマス目(5mm)に重なっているQRS波を探し、大きなマス目ごとに300、150、100、75、60と簡易的に求めることもできます。
STEP2 異常波形の種類とその病態を理解しよう
異常波形は、リズムの異常(不整脈)、伝導時間の異常、形の異常などに分けることができます。
●リズム異常とはRR間隔の異常
臨床で遭遇することが多いリズム異常には、心房細動や心室性期外収縮が挙げられます。
◯心房細動
心房細動は、心房が不規則に興奮し、そのうちの何回かの興奮が心室に伝達するため、全てのRR間隔が一定でなくなります。
また、心房の興奮をあらわすP波が消失し、細動波(f波)と呼ばれる小さな波が出現することが特徴です。
そのため、「RR間隔がバラバラ」、「細動波が確認できる」などの特徴があれば心房細動であると判断できます。
◯心室性期外収縮
心室性期外収縮とは、正常な伝導経路を経由せず、心室での異常な電気活動により心室が収縮する現象のことです。
そのため、本来のRR間隔から外れて起こるQRS波であること、心室で発生するため直前のP波がないことが特徴です。
また、心筋内では刺激伝導系を経由せずに電気刺激が伝わるため、収縮時間が長くなる(QRS波の幅が広くなる)ことも大きな特徴です。
●伝導時間はPQ、QT時間をチェックする
臨床で確認する機会が多いものでは、房室ブロックやQT延長などが挙げられます。
◯房室ブロック
房室ブロックとは、心房の興奮の始まりから心室の興奮が始まるまでの時間(房室伝導時間)が延長する病態です。
P波の始まりからQ波までの時間(PQ時間)が0.21秒(5mm以上)を超えるものをⅠ度房室ブロックと呼びますが、心室への伝導比は正常に保たれています。
しかし、徐々にPQ時間が延長してQRS波が脱落するWenckebach(ウェンケバッハ)型や、前触れなく急にQRS波が脱落するMobitz(モビッツ)Ⅱ型は注意が必要です。
これらのタイプでは、めまいや意識消失などの症状が出現する場合があるため、リハビリ実施の可否について主治医の指示を仰ぎましょう。
◯QT延長
QT時間はQ波からT波の終わり(収縮から弛緩)までを指しますが、この時間が長くなることをQT延長と呼びます。
長くなった弛緩期に心室性期外収縮などの強い刺激が入ると、心室頻拍という致死性の不整脈に移行することがあります。
T波にQRS波が重なることをR on Tと呼び、心室性期外収縮の中で最も危険な分類になります。
簡易的な計測方法としては、QT時間がRR間隔の半分以上になっていないかをチェックすることが有用です。
STEP3 心電図を見てリスク管理につなげよう
最後のSTEPでは、心電図初心者が押さえておきたいポイントと、リスク管理につなげるための考え方をお伝えします。
●まずはリズム!全体をざっくり見てみよう
ここまでの内容で、PQやQTのような頭が痛くなるような略語が登場しましたが、まずは力を抜いて波形をなんとなく眺めてみましょう。
その後に、RR間隔が一定か、たまに崩れているのか、常に不定かなどざっくりとリズムを把握します。
RR波が一定であれば不整脈はないと判断でき、逆に常に不定であれば心房細動の可能性が高いです。
不定である場合、心房の興奮であるP波があるか、f波と呼ばれる細かな波がないかを見ることで、心房細動を見つけることができます。
たまにリズムが崩れている場合では、その崩れた波形の幅を見てみましょう。
心室性期外収縮のQRS波は幅が広くなることが特徴的で(0.12秒または3mm以上)、その前にP波が出現しません。
心室性期外収縮のリスク層別化にはLown(ローン)分類という分類法があり、以下のように分けられています。
grade 0 | 期外収縮がない |
---|---|
grade 1 | 散発性(1分間に1回以下) |
grade 2 | 多発性(1分間に2回以上) |
grade 3 | 多形性 |
grade 4a | 2連発 |
grade 4b | 3連発 |
grade 5 | R on T |
多形性とは、違う形の期外収縮が出現している状態であり、grade 3以上である場合はリハビリ時にモニター心電図を装着して評価するとよいでしょう。
R on Tは危険な状態であり、リハビリは中止して医師の指示を仰ぐ必要があります。
●バイタルサインと合わせてリスク管理をする
心電図では不整脈の有無を評価することができますが、不整脈があるからハイリスクであると判断してはいけません。
たとえば、心室性期外収縮が散発していても、本人に全く自覚症状がないこともあります。
また、血圧を測定しても特に問題がないことも多く、「心電図が◯◯だからリハビリは中止」という評価では不十分です(R on T波形は除く)。
心電図をはじめ、血圧や自覚症状など複数の項目を総合的に評価して、リハビリを行う上でのリスクを考えることが大切です。
不整脈がどのように身体に影響を及ぼすかわからない場合は、初心にかえって生理学の復習をしてみることをおすすめします。
期外収縮や心房細動ではどのくらい心拍出量が減少するのか、骨格筋に血流が不足するとどうなるかなど、循環生理学を理解することでリスク管理能力が高まるでしょう。
まずは心電図波形を見慣れることが大切
心電図波形は、基本的な見方がわかっても完璧に判読することは難しいため、実際の臨床場面でのトレーニングが大切です。
心電図の理解が深まることで、患者さんの急変を予測したり、より高いレベルでのリスク管理が可能になります。
また、12誘導心電図で基本的な判読ができるようになれば、病棟などに設置してあるモニター心電図でリアルタイムに確認することができます。
自身のレベルアップのためにも、まずは1日1回、心電図波形を見ることから始めてみませんか?
関連記事:モニター心電図を理解しよう!セラピストが押さえておきたいポイントを解説します
参考:渡辺重行,山口巖:心電図の読み方パーフェクトマニュアル.羊土社,東京,2006.
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士