ペースメーカー設定の変更でADLが改善する?セラピストが評価するべきポイントをご紹介します
心臓ペースメーカーの植え込みは、不整脈治療の1つとして行われるものであり、植え込み後の患者さんを担当した経験のあるセラピストも多いでしょう。
ペースメーカーの設定は原疾患や患者さんごとに異なり、生活スタイルに合った設定でなければ治療効果を最大限に引き出すことはできません。
ペースメーカーの設定を変更することでADLが改善する理由、セラピストとして評価しておきたい項目についてご紹介します。
確認しておきたいペースメーカーの設定項目
ペースメーカーの設定項目に関して、まずは以下の3つを押さえておきましょう。
●設定レート(下限~上限)
ペースメーカーの基本的な機能は、心臓(心房と心室)の収縮がない場合に電気刺激によるサポートを行うことです。
そのため、自身の心臓の拍動を感知して、必要なタイミングで必要な回数の電気刺激を発生させます。
設定レポートには60〜130など下限〜上限で記載されており、この場合「60回から130回の間なら心臓の電気信号を感知して仕事をしますよ」という意味になります。
ここで間違えてはいけないのは、60〜130回/分の間で自動的に脈を調整するのではないということです。
心臓が働いているならその経過をみて必要なサポートをしますが、あまり働いていない場合は最低限のサポートしかしてくれません。
つまり、自分の脈が60回/分未満なら、ペースメーカーは下限の60回/分の収縮をサポートするだけになります。
ペースメーカーが機能してくれる範囲はどのくらいなのか、まずは設定レートを確認しておきましょう。
●設定モード
ペースメーカーの作動モードにはいくつかの種類があり、AAIやVVIなど3つのアルファベットで記載されています。
左はペーシングする部位、真ん中はセンサー部位、右は制御モードを表しており、アルファベットのAは心房、Vは心室、Dは両方、Iは抑制の頭文字になります。
洞不全症候群を例に挙げると、心房以降の刺激伝導経路には問題がないため、心房での感知と刺激(AA)があれば心拍数は保たれます。
房室ブロックの場合では、心房の働きが心室に伝わらないため、心房と心室それぞれで感知や刺激(DD)が必要になります。
設定モードを確認することで、刺激伝導系のどの要素をサポートしているかを理解することができるでしょう。
●レスポンス機能の有無
ペースメーカーは、設定レートの範囲内で心拍数が変化しても、その時々に応じて必要なサポートを行ってくれます。
自己心拍が設定レート以下の場合なら、下限心拍数での働きになることは前述しましたが、動きに応じて心拍数を変化してくれる機能もあります。
これはレスポンス機能と呼ばれるもので、ペースメーカー内センサーが加速度などを感知し、体が動いたときに刺激頻度をアップしてくれる機能になります。
設定レポートにはレスポンスon offなどと記載されていることが多く、特に若い患者さんで多い印象を受けます。
ただし、その分電池の消費が多くなるため、早めに電池交換をしなければならないというデメリットもあります。
呼吸器?循環器?ペースメーカー患者さんの息切れを考える
臨床場面において、息切れがあるため活動制限をするという判断をしたことはないでしょうか?
患者さんが訴える息切れにはさまざまな原因があり、セラピストはその原因について評価する必要があります。
●低酸素による呼吸苦は治療経過で改善する
呼吸苦の原因の1つに低酸素血症が挙げられますが、大きく呼吸器系と循環器系に分けることができます。
◯呼吸器系の障害で生じる呼吸苦
肺炎やCOPDなど呼吸器系に障害が生じると、体内への酸素の取り込みが低下するため、低酸素による呼吸苦が出現します。
これらの場合、原疾患の治療状況を確認すること、酸素飽和度を測定することで低酸素状態を把握し、酸素投与量を調整するなどの対応が求められます。
◯循環器系の障害で生じる呼吸苦
心不全によって肺にうっ血が生じると、低酸素による呼吸苦が出現します。
呼吸器系と同様に、換気や肺胞でのガス交換障害によって生じるものであり、過剰な水分
がなくなることによって呼吸苦が改善します。
呼吸器系も循環器系も、治療によって低酸素状態が改善すると、患者さんの呼吸苦が改善するため、そのときの状態に合わせてリハビリ内容を変更するとよいでしょう。
●歳のせいじゃない、疲労感による呼吸苦を評価する
「階段を登ったら息切れがする」、「歳のせいでしょう」というやりとりは容易にイメージできるのではないでしょうか。
実際、廃用によって下肢の筋力が低下すると、同じ運動でも相対的に負荷量がアップするため、息切れ(呼吸数や1回換気量の増加)が出現します。
この場合、必ずしも酸素飽和度の低下を伴うわけではないため、あまり重要視する必要はないかもしれません。
しかし、疲労感による息切れであっても、運動器ではなく循環器系に問題がある場合もあります。
心拍出量が低下すると、末梢の筋肉では酸素不足となるため、無酸素性のエネルギー代謝(解糖系)が有意になります。
無酸素代謝により乳酸が産生されると、酸を排出するために換気が亢進するため、低酸素を伴わない息切れが出現します。
つまり、息切れは低酸素による原因とは別に、運動に必要な酸素(血液)が足りない場合が挙げられます。
ペースメーカーの設定変更でADLがアップする!
息切れはADLを低下させる因子ですが、逆に改善することでADLをアップすることも可能です。
ここでは、ペースメーカー設定の変更と息切れの改善について解説します。
●洞不全症候群の場合、心拍数が設定下限から上がらない
ペースメーカーを植え込む原疾患として、徐脈性の心房細動、房室ブロック、洞不全症候群などが挙げられます。
この中でも、洞不全症候群は洞結節からの刺激自体が減少しているため、心拍数はペースメーカーの設定レートに依存します。
仮に、自分の心拍は40回前後であっても、設定レートが60回/分であれば60回を保証してくれるので徐脈になる心配はありません。
しかし、洞結節の障害によって運動時の心拍数が上がらない場合、安静時と同じ心拍数で運動をすることになります。
運動時によって筋肉の酸素需要は増加しますが、酸素の供給量は変わらないというアンバランスが起こります。
そのため、酸素不足により運動筋がすぐに疲労し、患者さんは下肢の倦怠感や息切れを訴えることになります。
ペースメーカーの設定変更がされない場合、息切れが生じない範囲での運動(生活)が推奨されるため、積極的にリハビリを進めることができないでしょう。
●設定レート変更によって心拍出量がアップすると息切れが改善する
前述したように、運動時に心拍数が増加しないと容易に疲労感や息切れが起こるため、患者さんのADLやQOLが低下する可能性があります。
その解決手段の1つとして、設定レートの変更が挙げられますが、この調整にはセラピストの評価が重要になります。
なぜなら、設定を上げすぎると心臓への負荷が強くなることや、ペースメーカーの電池交換時期が早まったりというデメリットがあるからです。
そのため、適切な設定レートはどのくらいか、また変更した後の自覚症状がどうかなどを評価しなければなりません。
以下に、押さえておきたい評価項目を挙げてみます。
- ◯入院前の活動範囲(活動的かどうか)
- ◯今はどのくらいの活動で息切れが起こるか
- ◯ほかに息切れする原因がないか(呼吸器疾患や肺うっ血など)
- ◯設定変更後の自覚症状(同じ動作で息切れが生じるか)
ADLやQOLを改善するために設定変更が必要かどうかは、担当しているセラピストにしかわかりません。
心拍数の上昇がADLやQOL改善につながると判断した場合、主治医と相談して設定変更を検討してみましょう。
まずは呼吸と循環の評価からはじめよう!
徐脈による心不全の場合、ペースメーカー植え込みによって突然死の回避や心不全症状の改善が期待されます。
しかし、もともとの活動範囲やADL、原疾患や自覚症状など、患者さんによって最適となる設定はさまざまです。
運動時の症状を評価できるのはリハビリ専門職の強みであり、循環器疾患の治療に関しても大きく貢献できます。
ペースメーカー植え込み後の患者さんを担当した際は、運動機能に基づいたADL評価のみでなく、運動生理学的な観点からも評価を進めてみてはいかがでしょうか。
-
執筆者
-
皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士