革細工をリハビリに生かそう!作業活動の特性やリハビリへの応用を作業療法士が解説!
作業療法ではさまざまな作業活動がリハビリに使われており、革細工も作業活動のひとつです。
革細工とは革の素材を用いてコースターやペンケースなどの作品を作ることです。
革細工という作業活動にどのような特性があるのか、なぜリハビリに用いられるのかを理解することで、患者さんや利用者さんへの意義ある作業活動の提供につながります。
革細工とは?
革細工とは革の素材を使ってインテリアや実用品(財布やペンケースなど)を作る手工芸のひとつです。
革製品は日常生活のさまざまな部分に利用されており、日本でも古くから武家の馬具や武具、たばこ入れなどに使用されています。
革を使った作品の良い点は大きく5つあります。
- ①丈夫で耐久性がある
- ②可塑性に富み加工しやすい
- ③切り口がほつれにくい
- ④表面が美しく、磨くと光沢が出る
- ⑤染料で染めるときに染付きが良い
革を使った作品は湿気や乾燥による変形やカビがつきやすい欠点もありますが、人々の生活に強く根付いているものが多いため、患者さんや利用者さんにも興味を持ってもらいやすいアクティビティのひとつです。
革細工で作ることができる作品とは?
革細工で作ることができる作品はさまざまです。
難易度も作品によって異なるため、患者さんや利用者さんの心身機能に合わせて作品づくりの段階付けができます。
革細工に初めて挑戦する方には、コースターやキーホルダーがおすすめです。
革を型紙に沿って裁断し、染色したり、スタンピングという技法で刻印を打ったりしてオリジナルの作品を作成することができます。
革細工に慣れてきたらより実用的な作品を作ることができます。
小銭入れや財布、ペンケースやメガネケースなどの小物から、かばんやベルトなど少し難易度の高いものまで普段身につけているものをオリジナルで作ることができます。
作った作品には愛着が湧くので患者さんや利用者さんのなかには何年も使い続けている方もいます。
革細工の作業特性、治療的効果とは?
作業療法では革細工を単に作品を作るために用いているわけではありません。
治療的な効果や革細工の持つ作業特性を利用して患者さんや利用者さんに提供しています。
●革細工の作業特性
革細工の作業特性は大きく4つあります。
①特定の年齢層や性別に左右されることなく、対象層が幅広い
革細工は作品によっては革に穴を開けたり、革ひもで端をかがったりする工程がありますが、そこまで力を必要としません。
男性的で若い人向けと思われる方も多いですが、子どもや女性、高齢者でも取り組める活動です。
②興味や関心を引き出しやすい
革を使って何かを作るということは日常的にはあまりありませんが、革製品は誰しも一度は身につけたことがあり、なじみのあるものが多いです。
自分で作った作品を身につけることができるため、患者さんや利用者さんへの動機付けがしやすく、革細工で使う道具が非日常的であることでその新奇性に引かれる方も多いです。
③作業の段階付けが容易にできる
革細工で作ることができる作品はさまざまで、簡単なものであればキーホルダーやコースター、難易度が上がると財布やペンケース、かばんなども作ることができ、作品そのものの難易度の範囲が広いです。
また、たとえば小銭入れを作るにしても、どのような小銭入れを作るか、染色は単色にするのか複数の色を塗り分けるのか、革ひもでのかがりはどの方法を用いるのかによっても段階付けができます。
④余暇活動への展開が期待できる
作業療法場面で革細工を経験したことで、革細工への興味・関心が湧き、退院後やその後の生活での余暇活動として取り入れられる可能性があります。
簡単なものづくりがきっかけでより高度で習熟度を必要とする作品づくりに発展することが期待できます。
●革細工の治療的効果
革細工は身体障害、精神障害、発達障害、老年期障害のすべての人を対象とします。
簡単な技法から難易度の高い技法までさまざまで、どのような治療効果を目的として革細工を導入するかを検討する必要があります。
作業療法で革細工を利用することで得られる治療効果の具体例を紹介します。
身体機能面
- ○姿勢の保持や耐久性の向上
- ○上肢や手指の筋力の向上
- ○手指の巧緻性(こうちせい)や協調性の向上
- ○両手動作の協調性の向上
- ○目と手の協調性の向上
革細工は基本的に机上での活動であるため、座位を長時間保持しなければならず、姿勢を保持する能力や耐久性の向上が期待できます。
木槌で刻印を打つ動作や刻印をつまむ動作、革ひもでかがる動作では、上肢や手指のさまざまな機能が必要となり、全般的な機能改善を促すことができます。
認知機能面
- ○注意力・集中力・持続力の向上
- ○遂行機能、問題解決能力の向上
- ○作業への関心・意欲の向上
刻印を打ったり、革ひもでかがったりする工程では、刻印を打ち間違えたり、革ひもを通す穴が飛んだりしないようにしなければならないため、注意力・集中力・持続力の向上が期待できます。
工程が多い作品を作る場合は、次にどの工程をするのかあらかじめ確認し、順序よく進めていかなければならないため、遂行機能の向上が期待できます。
革製品は日頃からなじみのあるものであるため、作業への関心や意欲を引き出す効果もあります。
精神機能面
- ○現実的体験
- ○自信や自己愛、自己肯定感の改善
- ○楽しむ体験
- ○他者との交流技能の習得
精神疾患の方で幻聴や妄想がある方は、作業活動に依存することで、作業活動がシェルターの役割を果たし、幻聴や妄想から距離を置くことができるため、現実的な体験を促す効果があります。
簡単な技法でも見栄えのある作品ができるため、自信の回復にもつながり、作ったものを誰かにプレゼントすることで他者からの称賛も得られ、自己愛や自己肯定感の改善が期待できます。
余暇活動として作業活動を楽しむ体験にもなり、他者と作業活動の場をともにすることで、他者との現実的な距離感を身につけることができたり、コミュニケーション技能を改善できたりする効果があります。
革細工をするために必要な物品とは?
革細工を始めるには材料と器具が必要です。
より高度な作品を作る場合にはさまざまな器具が必要ですが、次に挙げる材料・器具だけでも多くの作品を作ることができます。
材料
革、裏革、革ひも、染料、ゴムのり、レザーコート、バネホック(ボタン)
器具
革ばさみ、革削ぎ、刻印、ハトメ抜き、ホック打ち(ボタンを取り付ける道具)、木槌、ゴム板、筆やはけ
作品づくりを楽しみながらその人にあった目標を立てよう!
革細工は、患者さんや利用者さんのレベルに合わせて段階付けがしやすく、材料や器具があれば取り組みやすい作業活動です。
治療的効果も多く、作品づくりを通して身体機能面、精神機能面での機能向上が期待できます。
革は生活の中でなじみのある素材であり、作った作品は身につけることやプレゼントすることができます。
自分で作った作品には愛着も湧きやすく、見栄えも良いため、自信や自己愛の回復、他者からの称賛を通して自己肯定感の改善が期待できます。
革細工を通して、その人にあった治療目標を立て、楽しみながらリハビリを進めていきましょう。
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執筆者
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大学を卒業後、作業療法士免許を取得。急性期病院やデイサービス、福祉用具・住宅改修業者での勤務を経て、現在は精神科病院にてリハビリ業務に従事。心身の健康や在宅で安全に安心して暮らせる方法をわかりやすく丁寧にお伝えします。医療従事者の方々の健康にも焦点を当てていきたいと思っています。
保有資格:作業療法士、重度訪問介護従業者、福祉住環境コーディネーター2級