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新卒セラピストが押さえておきたい、訪問リハビリで必要な評価とは?

ひと昔前は、リハビリ専門職が勤務する職場といえばクリニックや病院など医療機関がメジャーでしたが、最近では介護保険分野での仕事も増えてきています。
デイケアや老人保健施設では看護師や医師が勤務していますが、訪問リハビリ(訪問看護を含む)ではセラピスト1人で対応しなければなりません。
「新卒で訪問リハは不安」と悩むセラピストたちのために、訪問リハで必要となる評価やそのポイントについて解説します。

新人でも1人で対応するために訪問リハで押さえておきたいポイント

訪問リハビリで必要となる知識や技術とは?

お薬手帳は訪問時毎回確認する習慣を

訪問リハビリでは、学生時代に学んだ運動器や脳血管の治療技術だけでなく、さまざまな知識や技術が必要になります。

●呼吸や循環、全身状態の評価が大切

訪問リハビリでは、対象者とその家族、あとは担当セラピストしかいない状況になるため、全身状態の評価や状況判断能力が求められます。
ご家族から、「今日はしんどそうにしているのですが」と相談があった場合、どう対応すればいいでしょうか。
職場の医師や看護師に聞くわけにはいかないので、自分がその場でなにかしらの決定をしなければいけません。
息がしんどいのか、なぜしんどいのか、どうすれば改善するのか、呼吸状態をしっかり評価できる能力が求められます。
また、呼吸苦といっても肺や気管支が悪いとは限らず、心臓疾患が原因となるケースも多く、限られた情報や評価をもとに対応しなければいけません。
そのため、呼吸や循環に関する生理学、触診や聴診などのフィジカルアセスメント能力は必須であるといえるでしょう。

●併存症に注意、お薬手帳の確認は必須

呼吸器や循環器疾患などにかかわらず、高齢者は併存症が多く、複数の薬を飲んでいることが多いです。
また、情報提供書などに既往歴の詳細が書いていなくても、なにかしらの理由で薬を処方されて服用している場合もあります。
仮にその薬が循環器系の薬であった場合、血圧が下がる、脈が遅くなる、血がサラサラになるなど、運動時に注意するべき症状が出現します。
そのため、初めて対象者さんと出会ったときは、身体症状やゴール設定などの評価だけでなく、必ずお薬手帳を確認しておきましょう
また、かかりつけ医を受診した際に、内服薬の変更や用量の変更があるかもしれないので、訪問するたびに確認する習慣をつけるとよいでしょう。

●他職種とうまく情報共有するためのポイント

訪問リハビリでは、訪問看護師やケアマネジャー、かかりつけ医など他職種と情報交換する場面も多くなります。
また、介助方法や運動時の注意点などを介護スタッフに伝える場面もあるかもしれません。
その際に、自分(セラピスト)が一般的な内容だと思って話を進めると、「え、どういう意味?」とうまく伝わらないことがあります。
「骨盤の回旋が云々」、「アライメントが云々」というのは、基本は自分たちにしかわからない内容だと考えておきましょう。
他職種と情報交換をする際は、共通言語を用いて簡潔に説明することを心がけておきましょう。
専門的な用語を連発する人=賢い人ではないのでご注意を。

訪問リハビリ=機能訓練ではない!生活全体を見ることが大切

低下した機能を改善するだけでなく改善の結果なにが達成できるのかが大事

関節可動域運動や筋力トレーニングなどは、リハビリのなかでも王道的な位置付けですが、訪問リハビリでは視野を広くもつことが大切です。

●機能訓練、なんのためにやっているの?

医療機関や介護保険分野などフィールドにかかわらず、医師からリハビリ指示が出た場合まずは評価を行い、治療プログラムをたてていくでしょう。
医療機関の場合、術後に低下した機能やADLを改善し、自宅へと退院することが1つの大きな目標になります。
低下した機能を改善するという目標はわかりやすく、治療プログラムもたてやすいでしょう。
しかし、訪問リハビリの場合は、今後自宅で生活を続けていくなかでの目標設定が必要であり、治療内容やゴール設定が難しくなります。
「歩行ができないから筋力トレーニングや歩行練習」、「膝の可動域制限があるから可動域運動」といった短絡的なプログラムでは不十分です
その機能訓練やADL練習の結果、なにが達成できるのか、生活がどう変わるのか、足りない部分はどうサポートするかなど、広い視野をもってリハビリを進める必要があります。

●ライフスタイルのなかにゴールを見出せるかがポイント

前述したように、訪問リハビリでは機能障害やADL低下を治療対象とするだけでなく、その対象者さんの生活スタイルに沿った目標設定が必要になります。
たとえば、日中独居でデイサービスを利用している対象者さんで、「1人で安全に屋外へ移動する」ことをリハビリ目標に設定したとします。
その際に必要になる要素は、1人でベッドから起きて立ち上がる、玄関まで移動する、玄関の段差をおりてポーチに出るなど、複数の動作が組み合わさっています。
初期評価で対象者さんの運動機能や動作能力を評価し、一つひとつの動作ごとにアプローチしていく必要があります。
そのために必要となるのは、機能訓練なのか、家屋環境の整備なのか、福祉用具の導入なのか、ケースバイケースで対応しなければなりません。
「低下した機能を改善してもとのADLに戻す」という単純なゴールではなく、その方のライフスタイルや生活環境に応じたプログラムやゴール設定が大切です
訪問リハビリで働くセラピストには、適切な機能評価、生活環境の把握、情報収集能力(本人や家族のニーズ)など、非常に多くのスキルが求められるといえるでしょう。

利用者さんの具合が悪い、あなたならどうする?

本人の訴えだけでなく家族が感じた「違和感」も逃さずにアセスメントを行う

訪問リハビリでは、対象者さんの身体的な異常を発見した場合、その場での判断能力が問われます。
併存症に心不全をもっている対象者さんを例に、どのような評価や対応が望ましいのかを考えてみましょう。

●「なにかがおかしい」、少しの変化を見逃さないことが大切

ある日の訪問時、このような会話がありました。

  • 担当:こんにちは。特に調子はお変わりないですか?
  • 利用者:はい、特に変わりないです。
  • 家族:実は、ここ数日あんまり食欲もないし、動いたときにしんどそうなんです。本人は歳のせいだって言うんですけど。
  • 担当:血圧や酸素飽和度は正常ですね、まあ様子を見ておきましょうか。いつもの起き上がる練習をしましょう。

上記のようなやりとりがありましたが、その日のリハビリはなにごともなく終了しました。
しかし、それから数日後、その利用者さんが心不全の増悪で入院したという連絡が入りました。
担当セラピストとして、この入院を防ぐ方法はなかったのか、訪問時になにかできることはなかったのでしょうか。
情報収集、フィジカルアセスメントをしっかり行っていれば入院を防ぐことができたかもしれません。

●医師や看護師はいない、その場のリーダーはあなた

このケースの場合、心不全の併存症があるため、かかりつけ医から降圧薬や利尿薬などを処方されていましたが、前回の診察時に利尿薬を減量されていました。
そのため、体に水分が貯留して呼吸苦や食思不振などの心不全症状が出現しており、ご家族の「しんどそう、食欲がない」というワードが大きなヒントになっていました。
訪問時に確認しておくべきだった項目を以下に挙げてみます。

  • ◯受診歴とお薬手帳
  • ◯体重の増減と手足の浮腫
  • ◯呼吸音と心音
  • ◯労作時の呼吸苦と酸素飽和度
  • ◯起座呼吸の有無

循環器疾患や呼吸器疾患にかかわらず、一般的に医師が診察する際に行う行為や問診が重要になります。
「リハビリ専門職だから運動」という単純な役割ではなく、その現場でのリーダーとして
適切な対応が求められます。

その日のリハビリは中止して、早急にかかりつけ医を受診していれば、薬の調整だけで入院を回避できたかもしれません。

訪問リハビリはセラピストを成長させる

訪問リハビリでは、機能訓練やADL練習、環境の評価や福祉用具の知識、全身状態の管理など、セラピストには多くのスキルが求められます。
特に新卒で訪問リハビリに就職(配属)された場合、「なにをしていいかわからない」と悩む方もいるでしょう。
しかし、リハビリ専門職は対象者さんの生活を支えることが最終目標であり、訪問リハビリは医療と介護が連携した集大成の場ともいえます。
学ぶべきことが多く大変ですが、訪問リハビリでの経験は必ずセラピストを成長させてくれるでしょう。

  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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