実は安価で訓練場面で取り入れやすい!輪投げを使った作業療法
輪投げは子どもの遊び道具のひとつですが、実は安価で購入しやすく、訓練のバリエーションを広げるのに最適な道具なのです。
今回はOG Wellnessで取り扱う商品を用いて、実際に病院や施設などの訓練での輪投げの取り入れ方をご紹介します。
輪投げを使ったリハビリ、対象になるのはどんな患者さん?
- 1)バランス練習に大活躍、急性期~回復期病院に入院する脳卒中後遺症などの患者さん
- 2)高齢者施設やデイサービスでも利用できる、認知症などの高齢の患者さん
- 3)発達障害、重症心身障害などの小児の患者さん
輪投げのバリエーションと特徴
輪投げのバリエーションと特徴を以下の表にまとめました。
種類、品番、価格 | 写真 | 特徴 |
---|---|---|
輪投げ(6 色1 組) 品番 M16664 ¥14,800 |
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・安価で取り入れやすい。 ・1本ずつ使えるので、ポールを置く位置を変えることでバランス訓練の難易度を段階付けしやすい。 |
ジョイント式輪投げ 品番 M14133 ¥30,000 |
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・支柱の高さが異なるので、上肢機能訓練やバランス訓練の難易度を段階付けしやすい。 ・1本ずつ使ってもよし、ベースを連結してゲームの的にして使ってもよし、と使い勝手が良い。 |
輪投げビンゴ 品番M16629 ¥12,000 |
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・数が書いてあるので、ゲーム感覚で取り入れやすい。 ・得点を計算しやすく、認知症の訓練にも適している。 |
実際の訓練場面での取り入れ方
1)麻痺の回復、正しい運動パターンの学習を促す
上肢機能訓練でリーチ動作を行い、麻痺側上肢の動き(主に近位部)やそれに伴う体幹の動きを引き出せます。
輪投げはポールに対して輪が大きいので微細なコントロールは必要なく、運動時に代償動作の出現を抑制しやすいです。
また、輪を把持するのに巧緻的な動きは必要としないため、手指に麻痺が残存していても持ちやすく、上肢の運動に利用しやすいという利点があります。
症状 | 訓練方法(座位で実施) | 運動時のポイント、段階付け | 効果 |
---|---|---|---|
麻痺が重度 | 両手を組んで輪をはさんで持ち、前方や側方に置いたポールに入れる。 | ・麻痺側上肢をセラピストが介助し、上肢挙上時の代償動作(肩甲帯の後方突出・挙上や肘の屈曲など)の出現を抑制する。 ・麻痺の改善に合わせ介助量を徐々に減らし、自動運動を引き出す。 ・ポールの位置や高さを変えると、肩の屈曲・外転の範囲を調整できる。 |
・麻痺の回復を促し、正しい運動パターンの学習をする。 ・上肢運動に伴う体幹の動きも引き出せる。 |
麻痺が中等度~比較的軽度 | 麻痺手で輪を持ち、前方や側方に置いたポールに入れる。 | ||
ベッド上に座り、体の左右に輪とポールを置く。 麻痺手で輪をとり、背中で輪を持ち替え、ポールに入れる。 |
・肩の伸展、肘の屈曲、前腕の回外の動きを取り入れることで、分離運動を促す。 ・運動速度を速めると難易度が上がるが、代償動作の出現に注意が必要。 |
・この動きができると、服の着脱や、入浴時の洗体などがスムーズになる。 |
2)バランス能力の向上を促す
バランス訓練を行う場合、体に対してどの位置にポールを置くかで、獲得できるバランス能力も変わってきます。
症状 | 訓練方法(座位立位とも可、投げる手は非麻痺側でも可) | 難易度の段階付け | 効果 |
---|---|---|---|
前後方向にふらつく | 前方にポールを置き、直接輪を入れるor輪を投げ入れる。 | ・ポールの位置を遠くする。 ・両足の開き方を左右から前後に変え、支持基底面を狭くする。 |
・座位では、ベッド上端座位での更衣動作の安定性向上につながる。 ・立位では、歩行動作の安定性向上につながる。 |
左右方向にふらつく | 体の左右に輪とポールを分けて置き、輪をポールに入れる。 | ・輪とポールの位置を体から遠くすることで、より体幹回旋の動きを引き出す。 | ・体を回旋するときのバランスが安定すると、移乗動作の安定性向上につながる。 |
上下方向にふらつく | ベッド上に置いた輪をとり、上方に提示したポールに入れる。 | ・下方へのふらつきが減ってきたら、足元に輪を置く。 | ・体を下方にかがめた状態から体を起こしたときのバランスが安定すると、靴の着脱、排泄でのズボンの上げ下げなどの安定性向上につながる。 |
これらの動きを通して、
- (1)動きに合わせた姿勢調節を引き出し、バランスをとるという感覚をつかむ
- (2)予期しないバランスの乱れに、迅速に反応できる筋力の向上
を目指します。
患者さんの苦手とする運動方向を重点的に強化しつつ、転倒に気を付けながら、少しずつリーチ距離をのばしていきます。
バランス能力を鍛えることで、歩行や移乗、更衣や排泄などの日常生活での動きがよりスムーズになります。
3)更衣訓練で取り入れる
服を着る際には、袖や裾に腕や足を的確に通さないといけません。
片麻痺の患者さんが麻痺側下肢をズボンに通すとき、脚を組んで行うこともあります。
座位バランスが不良だと、動作時に転倒するリスクもあるため、事前に動作練習を行うことはとても大切です。
しかし、片麻痺があったり、失調症状があったりすると、形状が変わりやすい布に体を通すことは容易ではありません。
着ている最中に服がひっかかってしまい、手間取ることもあります。
そのため、形状が変わらずひっかかりにくい輪に腕や足を通す練習は、更衣訓練の事前練習に最適です。
更衣訓練の難易度の段階付けとして、(1)輪投げの輪に体を通す練習(2)セラバンドを輪の形にして体を通す練習(3)実際の服を使っての練習 と変化させられます。
4)レクリエーションで取り入れる
輪投げはレクリエーションとしても利用できます。
他者と場を共有することで、コミュニケーションのきっかけにもなります。
特にボードに数が書いてあれば、入った本数を競い合うゲームとして取り入れられます。
ポールに輪を入れようと狙いを定めることで、自然と前方へのバランス反応を引き出せ、手と目の協調性も養えます。
さらに、点数を自分で数えてもらうと頭の体操にもなり、認知機能の維持に効果的です。
ゲームに参加し勝敗に対して高揚感や喜びを感じることは、精神機能面の賦活にもつながります。
輪投げは、幅広く訓練に取り入れられる便利さが魅力
種類、使用する個数やその配置方法などを変えることで、患者さんの年齢、疾患を問わず幅広く訓練に取り入れられ、非常に便利な輪投げ。
使い方次第でさまざまな効果を生み出します。
なかには「輪投げは子どもっぽいから使いたくない」と、輪投げに消極的な高齢の患者さんもいらっしゃいます。
「遠い距離でも投げ入れられた」「高い位置のポールにもリーチできた」などと、輪投げは動作の改善の過程がわかりやすいのも魅力です。
その訓練目的や効果を説明すると、訓練の中に取り入れやすくなります。
ぜひ、輪投げを積極的に訓練に取り入れてみてください。
参考:
輪投げ(6色1組)(2021年6月20日引用)
ジョイント式輪投げ(2021年6月20日引用)
輪投げビンゴ(2021年6月20日引用)
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執筆者
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作業療法士資格取得後、回復期病院や療養病院に勤務しました。結婚・出産を機に福祉の視点も学びたいと思い、社会福祉士資格を取得しました。
作業療法士としての知識が、在宅で介護をされる方や福祉施設等で働く方、健康に関心がある方のお役に立てればと思い、ライターを始めました。
現在は作業療法士として小児分野の施設で働きつつ、在宅でのライティングを行っています。医療・福祉の視点や知識を活かし、わかりやすく、かつ生活に役立つ記事を作成できるよう、心掛けております。
保有資格:作業療法士、社会福祉士