骨粗鬆症患者をもっと来院させたい整形外科クリニックが取るべき手段
超高齢社会は整形外科領域の疾患を増やすので、どの整形外科クリニックも患者があふれていることと思います。
他科のクリニックには患者集めに苦労しているところもありますが、整形外科クリニックはその心配は少ないでしょう。
しかし「新型のMRIを導入したい」「リハビリ設備を刷新したい」といった希望を持つ整形外科クリニック院長は、やはり1人でも患者を増やしたいところではないでしょうか。
そこで提案したいのが、骨粗鬆症患者の増患対策です。
「患者への骨粗鬆症啓蒙は昔からやっている」と言わないでください。
「いつのまにか骨折」という言葉の広がりとともに、最近再び高齢女性を中心に関心を集めているテーマなのです。
クリニック独自の骨粗鬆症キャンペーンを打ってみてはいかがでしょうか。
目次
10年後の患者を確保するために
なぜ骨粗鬆症を増患の対象疾患として選ぶのかというと、この病気の発症リスクが60代から急激に高まるからです。
ただ、60代の女性患者を増やすことは2次目標とします。
ここでの1次目標は50代女性の増患です。
整形外科クリニックから50代女性に向かって「10年後に骨粗鬆症にならないようにしましょう」と呼びかけるのです。
これにより10年後の患者を確保することができます。
そしてもちろん、50代女性への注意喚起は60代以上の患者にも届きますので、2次目標である60代以上女性患者の獲得も同時に達成できるというわけです。
「いつのまにか骨折」という言葉を浸透させる
骨粗鬆症による脆弱性骨折のことを「いつのまにか骨折」と呼んだのは、アメリカの製薬メーカーの日本法人「日本イーライリリー株式会社」とされています。
同社のテレビCMで一気にこの「いつのまにか骨折」というフレーズが浸透しました。
肝臓のことを「沈黙の臓器」と呼んだり、腸内細菌のことを「善玉菌、悪玉菌」や「腸内フローラ(お花畑)」と呼んだりすると、人々の健康意識が一気に高まります。
「いつのまにか骨折」という言葉にも、それらと同じぐらいの力があります。
是非、整形外科クリニックの院長も、患者に向かってこの言葉を使ってみてください。
資料
「日本イーライリリー株式会社」
「いつのまにか骨折って?」(日本イーライリリー株式会社)
「骨折のドミノ現象」はインパクトがある
「いつのまにか骨折」という言葉によって、自院の患者に骨粗鬆症への危機意識が浸透したら、次は「骨折のドミノ現象」を引き起こさないための啓発活動に取り組んでください。
一般の患者は、「加齢や骨密度の減少によって骨粗鬆症が起き、そのため骨折が発生する」と考えています。
そこでクリニックとしては、骨粗鬆症で用心しなければならないのは加齢や骨密度の低下だけでなく、むしろ「骨折のドミノ現象のほうが恐い」ことをお知らせしてください。
クリニックの患者が、骨折した場所の心配だけでなく、全身の骨が弱っていることや、1カ所の骨折は2カ所目3カ所目の骨折の合図にすぎないことを理解すれば、治療や予防への意識が高まります。
自院の患者にこのムーブメントを起こすことができたら、患者のメリットが拡大し、患者満足度も向上するでしょう。
資料
「骨折の連鎖(骨折のドミノ現象)」(日本整形外科学会)
キャンペーンにしてしまう
「いつのまにか骨折」にしても「骨折のドミノ現象」にしても、自院の患者にどのように浸透させたらいいでしょうか。
どのようなアプローチをすれば、患者や患者予備軍に危機意識を持ってもらえるでしょうか。
キャンペーンには期間がある
そのためには、自院のスタッフ全員を巻き込んだ、骨粗鬆症キャンペーンを実施することが効果的です。
キャンペーンというと、自動車メーカーやビール会社が行っている派手なCMや高価なプレゼントを思い浮かべるかもしれませんが、もちろんそんなことはクリニックでは行いません。
キャンペーンは民間企業だけでなく、実は行政機関が得意とする手法なのです。
行政機関のキャンペーンは、地味ながら長い時間をかけて取り組むので、一度浸透してしまえばキャンペーンが終わっても効果は薄れません。
整形外科クリニックの骨粗鬆症キャンペーンでは、行政型を応用しましょう。
キャンペーンの規模は、自院できる範囲で構いません。それでも十分効果があります。
キャンペーンは永続的に続けるものではなく、期間を区切って取り組む事業です。
整形外科クリニックであれば、1年くらいが適当でしょう。
院内でプチ講演会
骨粗鬆症キャンペーンでは、まずはクリニック内のロビーで院長によるプチ講演会を開きましょう。
休診の日に患者をクリニックに招待し、院長が1間程度お話するだけです。
最初は2~3人しか集まらないかもしれませんが、気にしないでください。
継続しているうちに、数十人は集まるようになります。
院長が話す内容としては「骨量の経年変化」や「背骨の骨折有病率」「身長低下」などがあります。
開催頻度は、キャンペーン当初は毎月行いましょう。患者に浸透したら、2か月に1度、3か月に1度に減らしても大丈夫です。
検査の簡単さをしっかり伝える
キャンペーンでは、「骨粗鬆症の検査は簡単です」ということをしっかり伝えてください。
もちろん院長のプチ講演会のテーマにしてもいいのですが、検査についてはもっとしっかりお伝えしてください。
脊椎X線撮影、二重X線呼吸法(DXA法)、RA法、椎体圧迫骨折の判定方法など、自院で行っている検査について、患者の理解を助ける情報をどんどん提供していってください。
検査のPR活動は院長が行う必要はなく、看護師や放射線技師に協力してもらいましょう
また、自院で行っていなくても、近隣の整形外科専門の病院で行っている検査についてPRすると、患者は「このクリニックとあの大病院はしっかり連携している」という認識を持ってもらえます。
クリニックの患者の離反原因のひとつに、大規模病院への「憧れ」があります。
高齢患者ほど「大きな病院にかかりたい」と考えています。
患者に、自院が大規模病院と太いパイプでつながっていることを理解してもらえれば、離反を防ぐことができます。
ケアマネは自院の営業パーソン
整形外科クリニックの増患対策では、ケアマネとの連携が効果的です。
ケアマネとは、介護サービスを利用している高齢者を支援する介護保険制度上の職員で、介護支援専門員(ケアマネージャー)のことです。
ケアマネとのコミュニケーションを苦手にするクリニック院長は少なくないのですが、しかしケアマネの評価を勝ち取ると、ケアマネが自院の営業パーソンになってくれます。
介護施設でプチ講演会を開く
優秀なケアマネは、自分が担当する介護高齢者だけでなく、介護施設の関係者からも信頼されています。
そこで、ケアマネとコミュニケーションが取れるようになったら、ぜひケアマネを院内のプチ講演会に招き、骨粗鬆症キャンペーンを行っていることを知ってもらいましょう。
ケアマネのつてで介護施設でプチ講演会を開催できるかもしれません。
ケアマネとの連携は、単に自院の営業活動のためだけに行うわけではありません。
整形外科クリニックの院長が介護施設に出向き、入居者たちの前で話しをすれば、それだけで立派な社会貢献になります。
介護施設で話すテーマは、入居者の関心があるものがいいので、「健康寿命」や「転倒予防」などはいかがでしょうか。
管理栄養士は貴院の営業パーソン
ケアマネに次いで、整形外科クリニックの営業パーソンになってもらいたいのは、介護施設や病院に勤める管理栄養士です。
管理栄養士は介護高齢者や入院患者の食事に深く関わっています。癒しが少ない入院患者や介護高齢者にとって、食事は大きな楽しみです。
つまり管理栄養士は、介護高齢者たちに喜びをプレゼンとしているのです。
医療系管理栄養士を自院に招き「骨といえば食事」のプチ講演会を開いてもらう
骨粗鬆症と食の関係では、カルシウムやタンパク質の摂取が重要なテーマになります。
医療系の管理栄養士との接点を持つことができたら、自院のプチ講演会の講師になってもらいましょう。
食事の話はどの年代の女性にも受けがいいので、プチ講演会への参加者も喜ぶことでしょう。
「難しい話をすると患者は離れていく」という誤解
骨粗鬆症キャンペーンに限らず、自院の広報活動で注意していただきたいのは、「難しい話をすると患者は離れていく」という説は間違っている、ということです。
医師による市民向け講演や、医療機関の広報活動では、極力簡単な話をしようとしますが、それでは患者の心をとらえることはできないでしょう。
病気を学びたい患者や患者予備軍は、難しい話こそ聞きたいのです。
エビデンスは高齢患者にも通用する
医師や医療機関がなぜ患者や市民に対して簡単な話しかしないかというと、「患者や市民に病気や治療の難しい話をしても理解してもらえない」と考えているからでしょう。
しかし、医師や医療機関が「してはならないこと」は「専門用語だけで解説すること」です。
最新の医療トピックスや薬の機序といった難しい話を、極力専門用語を使わず話すと、聴衆は耳を傾けてくれます。
これは医療機関が発行する広報誌やチラシも同じです。
医療機関の広報誌で「患者さんと交流しました」「地域の清掃活動にクリニックの全スタッフが参加しました」といった記事を見かけますが、患者はあまり興味を示していないのが実情です。
それよりも、しっかりとエビデンスを示した記事を、中学生が理解できるレベルにまで噛み砕いた文章で書いたほうが、患者に喜ばれます。
まとめ~高齢女性は新しい知識を知りたがっています
自院で取り組む骨粗鬆症キャンペーンでも、ありきたりのことを伝えるのではなく、整形外科クリニックの院長が学会で仕入れた最新の話題や、医学雑誌で取り上げられていた記事を患者に紹介するようにしてください。
例えばクリニックでのプチ講演会では、話し終えたときに参加した患者から「きょうの話は少し難しかった」と言われるくらいがちょうどよいのです。
特に高齢女性は知識の獲得に意欲的ですので、彼女たちが知らなかったことを教えてあげてください。