10年介護士直伝!全身清拭のコツ~寝たきり高齢者の方編~
老々介護をされている方はもちろん、若いご家族でも、寝たきりの方の全身清拭は負担が大きく、やり方によっては腰などを痛めてしまい、介護を続けることが難しくなる場合もあります。
また、力まかせの方法では無理な体位変換(向きを変える)を行うことになり、介護を受ける方にも余計な負担をかけてしまう可能性があります。
寝たきりの方の全身清拭は、決して容易なことではありませんが、ちょっとしたコツと注意すべきポイントさえ押さえておけば、お互いの負担を減らすことができます。
そこで今回は、実際に介護現場で行われている「寝たきり高齢者の方の全身清拭のコツ」をご紹介していきます。
全身清拭の重要性
寝たきりといっても、身体機能レベルやコミュニケーションがどれくらいとれるかによって、介助する内容はそれぞれ異なります。
主に寝たきりの方は介助なしでの入浴が難しく、汗をかいてもご自分で拭きとるといった動作も難しい状況にあります。
そんなときでも、寝たままで身体の清潔を保つことができるのが、全身清拭です。
全身清拭の際には、コミュニケーションをとりながら進めていくことが理想です。
会話などができる方は比較的スムーズに行うことができますが、意思疎通が困難な方の場合は協力を得ることが難しいため、一方的な介護になりやすく介助者の負担も大きくなります。
〇全身清拭のメリット
どんな方にとっても、体を清潔に保つことには多くのメリットがあります。
身体的な面では皮膚の血流をよくしたり、さまざまな感染予防につなげることもできます。オムツを使用されている場合には、ムレによって起こるオムツかぶれを防止し、床ずれ(褥瘡)などの皮膚トラブルも早期に見つけることができます。
また、入浴にくらべて体力の消耗が少なく、体がすっきりすることでリラクゼーション効果が得られるなど、精神的にも良い影響を及ぼしてくれます。
このように全身清拭にはメリットが多く、寝たきりの方にとっては欠かせないケアの一つといえるでしょう。
全身清拭への理解
介護を行うのは、ご家族や介護スタッフなどその立場はさまざまですが、いずれにしても「サポートを提供する側」です。
しかし、全身清拭をしてもらう方は「サポートを受ける側」であり、提供する側と受ける側ではその立場や考え方、気の使い方などがまったく違ってきます。
サポートを提供する側は、清拭によって身体を清潔に保ち、リラックスもできるといった効果を考えながら行いますが、サポートを受ける側からすると、全身清拭に抵抗をもつ方も少なくないため、必ずしも積極的に応じているとは限りません。
〇全身清拭に抵抗を持っている方への配慮のポイント
抵抗を感じる一番の理由として、羞恥心が挙げられます。これは性別や年齢に関係なく感じるもので、「他人には触られたくない」「家族だからこそ恥ずかしいし気が引ける」という思いは常にあるものです。
また、全身清拭が大変な行為だと理解している方は、申し訳ない、世話をかけてしまうなどマイナスに考えてしまう傾向があります。
全身清拭を行う際は、こうした精神面への配慮がとても大切になるのです。
清拭に限らず、サポートを受ける側の立場や気持ちを考えることは、より良い介護につながっていきます。そのため、介護スタッフは普段から声かけなどを行い、なるべく多くのコミュニケーションをとって信頼関係を築くことに重点を置いています。
全身清拭が楽になるポイント
全身清拭が必要な方は、寝たきり状態の方がほとんどです。
若い方でも骨折などで、一時的に入浴できないという場合もありますが、ここでは寝たきりの高齢者の方にしぼって、全身清拭のポイントを挙げてみたいと思います。
〇全身清拭は短時間で、手早く優しく丁寧に
高齢者の方への全身清拭は、体力を消耗させてしまうことも多く、気持ちが良いはずの全身清拭が逆に負担となり、疲労感を与えてしまう場合があります。
そのため、できるだけスムーズに手早く行うことがポイントになりますが、皮膚トラブルが起きている可能性もあるので注意が必要です。
オムツがあたっている箇所や、オムツカバーの端などで皮膚がかぶれていたり、寝返りが難しい方の場合は床ずれ(褥瘡)ができていることもあります。
高齢者の方の皮膚はとてもデリケートで、少しの摩擦や衝撃でも皮膚がめくれてしまったり出血をするなど、予期せぬ皮膚トラブルを招いてしまうことがあります。
全身清拭の際はゴシゴシとこすらずに、優しく丁寧に行うことも忘れないようにしましょう。
〇声をかけながら行うと気分が楽になります
全身清拭を行う上で、なによりも大切なのが「声かけ」です。
清拭に抵抗がある方でも、優しく話しかけることで緊張がほぐれ、気分が楽になることもあります。コミュニケーションをとることが難しくなっている方でも、必ず声かけをしながら行うことが大切です。
体の状態を確認しつつ、どこを拭いてほしいか、痛みはないか、気持ちいいですか?などと声を掛けていれば、介護を受けている方も自分の意思を伝えやすくなります。
たとえ意思疎通ができない場合でも、肌に触れる温度や感触、そして介護をしている人のあたたかい言葉は、しっかりと伝わっているものです。
〇クッションやバスタオルがもう一人の介護者になる
寝たきりの方のなかには、さまざまな関節が硬くなる「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」という状態になっていることがあります。
その場合、動かしたり伸ばしたりといった運動機能が極端に制限されるため、介護者がひとりで清拭を行うのは非常に困難になります。
たとえば背中を清拭するときは、要介護者の体の向きを横向き(側臥位)にしますが、介護者がひとりの場合、横向きを保つために片手で支えなければならず、介護者はもちろん、介護を受ける人にとっても大きな負担になることがあります。
在宅介護ではひとりで行う場合も多く、常に協力を求められる環境にある方は少ないといえます。
そんなときは、大きめのクッションやバスタオルを上手に活用しましょう。
ちょうど良い大きさに丸めたものを、介護を受ける方の腰のあたりにおき、寄りかかってもらうようにします。
こうすることでご本人の負担を軽減することができ、また支えていなくても体位が保てるので、介護者は両手を使って清拭を行うことができます。
〇拘縮(こうしゅく)のある場合は楽な姿勢に合わせた清拭を
体の向きを変えるために無理に身体を動かすと、介護される方に苦痛を感じさせてしまうことがあります。
そんなときは丁寧に訴えを聞き、表情を確認することで、無理のない姿勢を見つけることができます。
その際にも、柔らかいクッションやバスタオルなどをいくつか用意しておくと、楽な姿勢を保ちやすくなります。
バスタオルは丸めることで自由に大きさを調整でき、体の隙間に挟みやすく支えにもなります。
クッションも同じように利用することができるので、無理のない姿勢を見つけるにはとても便利なアイテムといえます。
全身清拭を始める前に知っておきたいこと
ご家族の方が全身清拭をされる場合は、「大変」というイメージが強く、だんだんと全身清拭をすることが億くうになってしまうことがあります。
〇ポイントは簡単!準備をしっかりと
全身清拭が億くうにならないための大切なポイントは「準備」です。全身清拭を始めるとその場から離れることが難しくなりますので、必要なものはあらかじめベッドサイドに用意しておきましょう。
そうすることで、スムーズに全身清拭を終わらせることができます。
在宅介護でも施設介護でも、プロの介護士がいとも簡単に全身清拭を行っているように見えるのは、準備をしっかりと行っているからです。
床頭台などをベッド周りに配置して、そこにバスタオルやクッションなどを置いておきましょう。スムーズに行えるようになれば、全身清拭がそれほど苦にならなくなります。
〇ベットの高さで介護が10倍楽になる
寝たきりの方は、ベッドを使用していることが多いかと思います。介護用ベッドの場合は、高さが介護者の腰のあたりにくるようにベッドを調節しましょう。
中腰などの無理な体勢をとらないように行えば、負担がかかりにくくなります。介護士も、ベッドの高さをこまめに変えながら介護を行っています。安定した姿勢で行う介護は、介護を受ける方にも安心感を与えてくれます。
とはいっても、在宅介護の場合では介護用ベッドを使用していない方や、フロアタイプなどの高さがないベッドを使用されていることもあります。
介護を受ける方が低い位置にいらっしゃる場合は、介護者の片膝をベッドに軽くついて行うと腰への負担が減り、手先に力も入りやすくなります。
小さなことですが、介護者の負担を軽減させる効果は大きいので介護士も実践しています。
こうしたわずかな動きが介護を楽に行うためのコツになります。
〇使わなくてもタオルは多めに
全身清拭には複数枚のタオルが必要になります。
毎回洗いに行っていると、その間に要介護者の体が冷えてしまう可能性があるので、あらかじめよく絞ったタオル数枚を、温かい状態で手元に用意しておくと良いでしょう。専用の保温バッグなどがあればさらに便利です。
全身清拭の手順
では実際に、介護の現場で行われている全身清拭の手順に沿ってご説明します。
まず、バスタオルやクッションなどの必要な物は近くにまとめておきます。
1.部屋を暖める
空調を暖かめに設定しておきます。
2.清拭タオルの温度をチェック
初めに介護者が自分の腕の内側などにタオルをあて、熱すぎないかを確認してから使用しましょう。
自分では適温と思っていても、寝たきりの高齢者の方は皮膚が弱く刺激を受けやすいので注意しましょう。
3.脱衣は拭く箇所ごと、なるべく寒さを感じさせない
服を脱がすときは上半身、下半身などに分けて行います。拭いていく順は上から下が基本です。
上向きの状態で顔→首→腕→手→脇→胸→腹部→足。
横向きの状態で後頭部→背中→腰→お尻→陰部の順で拭いていきます。
上向きの状態(仰臥位)で身体の前面を中心に拭き、体を横に向けて背面を拭いていきます。
このとき、寝返りをうつように身体の向きを変えて行います。
清拭を行うときには、それぞれの部位で皮膚の状態を確認しながら丁寧に優しく拭きましょう。
決して強くこすらないように注意してください。
赤みや傷などが見つかれば、早めに処置をすることで症状の悪化を防ぐことができます。清拭の際は簡単で良いので、確認する癖をつけておくことをおすすめします。
皮膚の薄い場所や陰部などは特にデリケートですので、タオルだけではなくガーゼなどの柔らかい素材のものを用意しておくと良いでしょう。
拭いた部分は冷えやすいのでバスタオルで覆うなどして、寒気を感じさせないように配慮しましょう。
4.服を着せかえます
順番通り行うと、清拭が終わるのは身体が横向きの状態になります。
着ていた衣服を取り除き、シーツやタオルなどのシワを素早く伸ばして、新しく着る衣服を広げます。
そのあとは寝返りをうつように、身体をゆっくりと上向きの状態に戻していきます。
こうすることで、広げた衣服の上に無理なく身体を着地させることができます。
足までしっかり仰向けになったことを確認したら、はじめに腕を通しましょう。
ズボンの着用も、横向きの状態のときにある程度はいておくことができれば、寝返りの際にお尻まであげることができます。
同時に行うことが困難な場合は、上向きの状態になってから太ももまでズボンを通し、軽く寝返りをするように、腰を左右交互に浮かせることで着用してもらうことができます。
5.お部屋の温度は落ち着くまで暖かめに
介護をする側は常に動いているため、清拭を終える頃には身体がポカポカと温まり、室温が高くなったように感じます。
つい窓を開けたくなりますが、寝たきりの方は逆に寒く感じやすいので、着衣後に身体が落ち着くまでは、空調をはじめ暖かい環境をキープしておきましょう。
介護士からの豆知識
全身清拭について簡単にできるコツをご説明してきましたが、さらにここで、負担の軽減に役立つ「介護士の豆知識」を4つお伝えいたします。
1.いつでもできる準備を
「まずは準備をすることが大切」とお伝えしましたが、清拭が終わったあとも次回のための準備として、使用する小物類はまとめて保管しておきましょう。
ありふれたことのようですが、そのつど一から道具をそろえるのは、案外手間に感じるものです。
また、必要なものをまとめておく習慣をつけておくと、足りないものが一目瞭然でわかるようになります。
タオルなども数枚常備しておくと、急に清拭が必要になったときでも慌てずに行うことができます。
このような準備は、「対応方法がある」という安心感にもつながりますので、初めての介護
などで不安になっているご家族にも、心配ごとがひとつ減り、心のゆとりにもつながります。
まさに介護は備えあれば憂いなしといえます。
2.体に痛みがある方のひと工夫
肩や腰を支えることで痛みを感じる方であれば、身体の下にバスタオルなどを一枚敷いておき、包むように引き寄せることで痛みを緩和することができます。
ただし、このときに腕や足がバラバラではうまく身体を引き寄せることができないので、腕は胸のまえにそろえ、足は軽く膝を曲げた状態で横向きにすると、とても身体がコンパクトになり、介護する方も余計な力を使わずに、寝返りを誘導することができます。
体位変換にはいろいろな方法がありますが、大切なのは介護を受ける方に「苦痛な状態
を我慢させない」ことです。
痛みはないか、無理のない姿勢ではないかを常に確認し、クッションやタオルを使って
痛みの解消を試みることが重要です。
挟み込んだクッションは、挟む位置をときどき変えてあげることで、クッションによる痛みを
防止できます。
介護に正解はありませんので、介護を受ける方はもちろん、提供する方にとっても最適な
工夫ができればよいのです。
3.体の向きを簡単に変えるコツは 『押すより引き寄せる』
身体の向きを変えるポイントは、押すのではなく「引き寄せる」ということです。
背中を押して横向きにしようとすると、介護者の負担が大きい割にあまり動かすことができず、介護される方にも苦痛を与えてしまいます。
体の向きを変えるときは、向かせたい方向に介護者が移動し、要介護者の身体を自分の方に引き寄せるように寝返りをさせます。
その際に介護者も腕だけで引き寄せようとせず、腰を落とし自身の体重移動を利用すると、とても楽に行うことができます。
また、介護を受ける方の身体をねじってしまうと痛みが生じてしまうので、身体の軸(体幹)となる肩や腰を支えるようにゆっくりと引き寄せましょう。
肩と腰を同時に引き寄せることで、身体のねじりが生じずに寝返りをすることができます。
4.手の届きずらいところは部分浴
動かしにくい関節部のシワの間まで、しっかりと清潔にしてあげたいと感じる方も多いかと思います。気になる箇所があるときには、部分浴がおすすめです。
洗面器を置き、ぬるめのお湯を少しずつかけて、洗い流すようなイメージで汚れを取りましょう。
部分浴のあとは、乾いたタオルでしっかりと水分をふきとり乾燥させます。
足浴のように簡単なひと手間で、さっぱりした気分になれるので、介護を受ける方にも人気の方法です。
注意点は、部分浴のお湯でシーツをぬらさないように行うことです。
洗面器の下にビニールと新聞紙、またはタオルを敷いておくなどの工夫が必要です。
部分浴は全身清拭が終了したあとか、後日行うようにしましょう。
曲がったままの関節の皮膚は、汗をかくことも多いので汚れがたまりやすい場所です。
一度できれいにしようとは思わずに、はじめは少しずつ汚れを落としていきます。
汚れが完全に落とせなくても、少しずつ回数を重ねていくうちに汚れがふやけてきれいになっていきます。
まとめ
全身清拭はとても大切なケアです。身体の清潔を保つことはもちろん、寝たきり状態の
方にとっては、貴重なリラックスタイムであることも多いのです。
全身清拭は定期的に行うことが理想ですが、まめにやらなくてはいけないということはありません。
まずは協力者と一緒に、少しずつ無理なく行うことから始めてみましょう。
「生活の質」というのは、誰にとっても大切なものです。
特にベッド上という限られた空間のなかで日々を過ごす寝たきりの方には、いかに快適に
日常生活を送ってもらうかが、とても重要な課題になります。
そうした課題をクリアするためには、常に安定した介護を行う必要があり、介護を受ける
側だけでなく、提供する側にとっても負担が少ない方法を選択することが欠かせません。
お伝えしてきた全身清拭の手順は、事前の準備や清拭中の声かけなど、介護を受ける
方を思いやりながら行うことが必須ですが、介護という長い道のりをともに歩く介護提供
者自身にも、思いやりは必要です。
お互いが負担を感じることのない全身清拭を行えるよう、ご参考にしていただけたらと思
います。